官民挙げ新薬開発

カルフォルニアのビアトリス・マクウィーンさん(82)は主治医から新薬の臨床試験への参加を持ちかけられた時、「最後のチャンスだ」と思った。何故なら、2000年夏に「命にかかわる深刻な大腸がん」と診断され、手術をしたが、肝臓の七ヶ所で転移が見つかり、直径6.5cmもの大病巣もあったからです。ところが臨床試験の過程でがんは次々に消滅し、現在は1cmのがんを1つ残すだけとなりました。春には大好きなゴルフを再開する予定です。投与されたのは血管新生阻害剤「アバスチン(Avastin)」です。ガンの増殖に必要な血管の発生を抑える次世代の抗がん剤で、バイオベンチャー(新興企業)として創業された「ジェネンテック(http://www.gene.com/gene/index.jsp)」社が開発したもので、今春米国での販売承認が見込まれています。日本でも臨床試験は今年から予定されていますが、発売まで少なくとも数年はかかるといわれています。

 抗がん剤の開発には、有効性や安全性を調べる数百人から千人規模の臨床試験が必要になります。米国のシステムは極めて先進的で、資金力が弱かったり、経験が浅かったりする企業が独力での臨床試験が難しい場合、米国立がん研究所」(NCI)が支援します。同社のグウェン・ファイフ副杜長は「アバスチンが日の目を見たのはNCIの臨床試験ネットワークのお陰」と語ります。 NCIは全米3300個所の医療機関が登録、3万人以上の患者が奉仕する世界最大の臨床試験ネットワークを統括しています。中核となる全米61のがんセンターと9つの多施設共同臨床試験グループに投じられる国費予算は、研究者の人件費など基盤研究費だけで年間計三億六千万ドル(約380億円)です。臨床に直結した研究を支援する厚生労働省のがん研究助成金(約18億円)などとはケタ違いです。

 現在、米国で開発中の抗がん剤は約400種類で、NCIが独自に臨床試験を行なうこともあります。製薬会杜の試験は販売収入の面から患者数の多いがんに偏りがちです。このためNCIが症例の少ないがんへの適応拡大や、他杜の製品との併用効果などを探っています。

 さらNCIには、ベンチャー企業などの基礎研究を抗がん剤開発につなぐため、動物実験まで代行する組織や、世界各地の海洋生物や植物を使った新薬研究組織もあります。セイヨウイチイの植物成分から発見し、民間企業に製造技術を提供して誕生した「タキソール(taxol)」は、今や婦人科がんなどに対し世界的に普及しています。

「研究費が膨大で商品化までのハードルが高い抗がん剤の開発は、企業努力だけでは難しい。画期的な治療法の開発をより早く進めるのが我々の役目」とNCI新規薬物療法開発課のケン・コバヤシ主任研究員は語ります。10年を超える歳月と一剤あたり平均九億ドル(約千憶円)の膨大な費用のかかる新薬開発だが、巨額の利益を生む可能性を秘めている。米国では製薬を一大産業と位置付けて、官民がスクラムを組んで進めています。それに対して大規模な臨床試験のネットワークがないため、経費が高騰し、臨床試験の届出数が十年前の三分の一にまで減っている日本では、新薬の開発の落ち込みが懸念されています。

【日本の臨床試験体制】

抗がん剤の臨床試験の2002年届出数は44件。営利を目的とした製薬会社が行なう試験だけでは、希少がんの適応拡大などが進みにくい。このため昨年から医師主導で企画、実施された試験のデータも承認申請に使えるようになったが、軌道に乗せるには国の指導力が欠かせない。

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