臨床腫瘍医:主治医は薬の専門家

アメリカのシカゴの中心街にあるノースウェスタン大学病院で臨床腫瘍医の大山医師(36)は外科医、放射線医らと激論を戦わせていた。患者は80歳代の大腸がんの男性で、肺に転移が見つかり、もはや手立てはないとされていた。「高齢だが体力がある。がんの進行は遅く、手術はで治る可能性がある」という大山医師に「取りきれる場所か?」と外科医が口を開いた。2週間の討議で患者は手術を受け、がんを除去しきって退院した。臨床腫瘍医はがんの薬物治療(化学療法)の専門家で、部位別ではなく総合的にがんを診る主治医として治療方針に中心的な役割を果たす。「臨床腫瘍医がいることで手術に専念できる」と外科のマ−ク・タラマンティ医長が語る。米国では抗がん剤の開発が進んだ1970年代、臨床腫瘍の専門医制度が確立した。抗がん剤は正常な細胞も傷つけ、使いすぎると命取りになる一方で、少なくとも副作用に苦しむだけとなる。臨床腫瘍医は最新の「標準治療法」である適切な量と種類の抗がん剤を頭に叩き込んで治療にあたる。

臨床腫瘍医になるためには、一般内科を含め6年間の研修が必要だ。大山医師は医学部を卒業後、聖路加国際病院の内科に勤務したが、本格的な臨床腫瘍医を志して渡米、研修をやり直し、乳がん、大腸がん、肺がん、腎臓がんなどあらゆるがんの治療にあたった。副作用の出方は個人差があり、診察と検査を繰り返しながら慎重に処方する。米国では抗がん剤投与は外来での点滴や錠剤の服用が中心で、患者は具合が悪くなると、24時間何処からでも医師のポケットベルに直接連絡してくる。「毒でも薬でもある抗がん剤で、治療効果をだすには教科書に無い厳しい手順があり、それを現場で学んだ」と大山医師。米国の強みはこうして育った臨床腫瘍医の約半数が開業して、地域医療を担っていることだ。カリフォルニア州で開業して10年になるヘッド医師は「標準治療法は数年前とがらりと変わっている。日々追いつくのが大変」と語る。

日本でのがん治療は伝統的に外科医が担当し、抗がん剤治療は副次的な使用が少なくない。米国には厳しい試験を通った臨床腫瘍医が9000人いる。認定制発足準備中の日本では多症例を診た医師が数百人に過ぎず、標準治療も守られないケースがある。3年目の7月、肺がん治療薬イレッサが世界に先駆けて日本で承認されたが、直後から肺炎による副作用死が問題になった。米国も遅れて承認したが、副作用死はまれにしか起きていない。日本での副作用死の頻度は医療機関によって差があり、抗がん剤の知識の不十分な医師まで処方したとも指摘されている。日米のがん治療を体験した大山医師は「日本にも米国並みの医療を実践する医師もいるが、あくまで個人の努力に支えられているのが現状。米国には誰もが質の高い医療を提供できる制度がある」と話す。新年度から始まる第三次対がん十か年総合戦略では、抗がん剤治療を専門に行う「臨床腫瘍医の育成」が盛り込まれた。その動きは米国より30年遅れている。

【日本の臨床腫瘍医】

2002年「日本臨床腫瘍学会(http://jsmo.umin.jp/index.html)」(理事長・西条長宏国立がんセンター中央病院薬物療法部長)が発足。2006年度の臨床腫瘍医(臨床内科医)の認定開始に向け、指導医や研修施設の準備を進めている。条件は3年以上のがん治療の臨床研修と認定施設での2年以上の臨床研修など。年間100人を認定する予定。

核酸の基礎知識を得たい方はここをクリック

ホームページに戻る