前立腺検診のガイドライン

 国立がんセンターでは 検診従事者全般にむけて、前立腺検診のガイドラインを解説しています。専門的な用語を避け、一般にも理解できるような表現でまとめているので参考になると思います。

T.前立腺がんの特徴

 前立腺は、膀胱のとなりにあり、栗の実のような形をした臓器です。その働きは、精液の−部をつくることです。

 前立腺がんは高齢者に多く、50歳以下では少ないという特徴があります。前立腺がんという診断を受けるのは、約半数が70歳以上です。前立腺がんの進行は非常にゆっくりのため、それ自体が生命に影響を及ぼさない可能性があります。高齢者の約30%は前立腺がんをもっていても、実際には別の原因で死亡しています。

 

U.前立腺がん検診のリスク要因

 前立腺がんのリスク要因としては、人種、家族歴、食事などがあります。前立腺がんの羅患には人種差があり、黒人が最も高く、日本人は白人に比較しさらに低く、欧米に比べると、わが国の前立腺がん羅患は、約l2l3程度です。

1親等の家族に前立腺がんがある場合、前立腺がんのリスクは23倍になります。その他のリスクは、欧米型の脂肪の多い食事などがあげられますが、詳しいことはまだわかっていません。

 

V.前立腺がん検診の検査方法

lPSA検査

 PSA(前立腺特異抗原)検査は、血液による検査です。PSAは前立腺で作られるたんばく質で、健康な人では血液の中にはでてきません。がんや炎症などがある場合に血液中にでてきますが、必ずしもがんというわけではありません。

 通常は4ng/ml(血液1ミリリットル中に4ナノグラム)以上の場合、正常ではないと判断されます。この結果、再度PSA検査を行って値に変化がないかどうか確認したり、精密検査を行ったりします。

 PSAの値が高いほど、前立腺がんの可能性は高くなります。ただし、PSA値が4ng/ml より高いと判定を受けた約3/4何(75%)の人には、前立腺がんはありません。

2) 直腸診

 肛門から指を挿入して前立腺を触診する方法で、前立腺の大きさや硬さなどを調べます。

前立腺は肛門より約5cmの位置で、その表面は平滑です。前立腺表面が不整であったり、硬くなっていたり、左右不対称などは前立腺がんの存在を疑う異常所見です。

 

W.各種検査法の評価結果

 前立腺がん検診の有効性を評価するために、1985年から2006年までの英文562、和文624論文を対象とし、72論文を採用しました。これらに基づいて、各種検診方法別に市町村や職場で公共的に行うがん検診(対策型検診)と人間ドック等(任意型検診)に分けて推奨の程度を示しました。

1PSA検診

 PSA検査については、世界中で様々な研究が行われています。しかし、PSA検診による死亡率減少効果を示した研究はこれまで公表されていません。現在、米国とヨーロッパでは大規模な無作為化比較対照試験が行われており、その成果の公表が待たれています。

 これまで公表された無作為化比較対照試験のうち、ヨーロッパの無作為化比較対照試験に参加しているスウェーデンからの中間報告が1件あります。その中間報告では、5064歳の男性2万人を10年間追跡した結果、48.9%の進行がん罹患の有意な減少が報告されています。本中間報告は、PSA検診の有効性を示唆するものですが、最終結果である前立腺がんの死亡率が減少するか否かは不明です。

 この他にも、PSA検診の代表的な研究として、オーストリアチロル他方の時系列研究があります。この時系列研究では、1988年からチロル州にPSA検診が広く行われ、60歳以上の男性の約8剖が、少なくとも1PSA検診を受診しています。このチロル州と、検診があまり行われていないオーストリアの他の州を比較し、PSA検診の効果を肯定する論文と否定する論文が1件ずつ報告されています。

 これらの結果をまとめると、PSA検診については多くの研究はあるものの、死亡率減少効果について結果が一致しなかったため、死亡率減少効果に関する証拠は不十分と判断しました。ただし、上述の通り現在、重要な研究が進行中であるため、それらの研究の結果が明らかになり次第、ガイドラインの改訂を検討することにしています。

 一方、PSA検診は、過剰診断、精密検査(生検)の合併症、治療(手術や放射線療法など)の合併症の頻度が比較的高い、という報告があります。

 

2)直腸診

 直腸診による前立腺がん検診については、効果があるとする2件の研究(症例対照研究と時系列研究)と、効果がないとする3件の研究(症例対照研究)があります。これらの結果をまとめると、直腸診による前立腺がん検診の死亡率減少効果について結果が一致していませんでしたので、死亡率減少効果に関する証拠は不十分と判断しました。

 

X まとめ

 市町村や職場で公共的に行うがん検診(対策型検診)に限らず、人間ドック等(任意型検診)においても死亡率減少効果の証拠がある検診方法を採用することが重要です。加えて、対策型検診においては、不利益が許容範囲内であることが求められます。

 PSA検査を病気の疑いや治療の経過をみるために診療で用いるのと、健康な人を対象としたがん検診で用いるのとではその日的が異なります。PSA検査は診療として用いるには有用な検査ですが、がん検診として効果があるかどうかは不明です。従って、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現時点では不十分であるため、現在のところ集団を対象とした対策型検診としては勧められません。個人を対象とした任意型検診(人間ドック等)として行う場合には、受診者に対して、効果が不明であることと、過剰診断などの不利益について適切に説明する必要があります。

 直腸診も、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、集団を対象とした対策型検診としては勧められません。個人を対象とした任意型検診(人間ドック等)として行う場合には、受診者に対して、効果が不明であることと、過剰診断などの不利益について適切に説明する必要があります。

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