ミュージカルとしては珍しいフランス原産、劇団四季としても初のフランスものだそうです。
あの「レ・ミゼラブル」も元はフランスでの上演ですが、やはりロンドン発というイメージ。
「一人の平凡な役人の男が、ある日何の前触れもなしに突然壁を抜ける力を身につけて・・・」
というちょっと荒唐無稽なハナシですが、福岡での初演が大ヒットし、
その「抜ける」ところに興味があり、行ってまいりました。
JR浜松町駅から徒歩数分、当劇団自前の劇場が「春」と「秋」とふたつ並んでいます。
開演前や幕間に軽く飲食できるスペースもちゃんとしており、オシャレな感じにあふれてます。
劇場内、演劇にはちょうど良いと思われる大きさで、ステージは奥行き・高さも十分で、
色々なタイプの演劇にマッチしそうで、設計は良く練られていると思います。
さて、その内容でありますが、パリの街の雰囲気満載で(行ったことはないですが)、
どちらかと言えば地味な作りですね。全てが楽曲で構成されています。
作曲はあのミッシェル・ルグラン。自分としては懐かしの映画音楽の巨匠のイメージ。
「シェルブールの雨傘」が代表的ですが、私にはまず「おもいでの夏(Summer of 42)」の
美しい旋律が蘇ってまいります。
ステージ前の両端のスペースに楽器を並べ、演奏者は3人というトリオでの伴奏。
ソフトなサウンドが軽い感じで、それもこのミュージカルらしさと言えるでしょう。
「壁抜けパワー」を身に付けた主人公は、性格が変わったように、宝石などの盗みを続け
庶民に分け与えるという「義賊」と化してしまい、大衆のヒーローとなりながら、
恋もしちゃって、さあその結末は??というストーリー。
パリでヒットした理由に、権力への抵抗という歴史的背景や国民性があると言われてますが、
そのあたり日本語化では触れてはいても主題とはなっておらず、もっぱらラブストーリーと
思えば、何も難しいことは考えず、気楽に楽しめればそれで十分な作品でしょう。
それで本題。確かに、ちゃんと、壁を抜けるのでした。視覚的にネ。
これはもうアイデアひとつで、「壁抜け」を見せるのに色々なパターンがあるんですね〜。
そのあたりの工夫が可笑しいです。
顔や手足の「抜き方」は、壁のこちらから突っ込むと、反対側から別のヒトのを出すという方法。
レース状のカーテン越しに照明のあて方で、ソッと出て来る感じを出している場面も。
かと思えば、ジッパーを開けて、そのまま通り抜けてみせたりとか。
結局、この主人公の恋は成就するのですが、この「壁抜け」の能力は恋をすれば消えてしまう
もので、二人は最後は壁に閉じ込められてオシマイとなるわけです。
「平凡な人生、普通が一番素敵」ということなのですね。
このあたりがチョッピリ切なくも、皮肉とも取れるようなオハナシとなっているんです。
主役の石丸幹ニさん以外に知っている役者はいませんでしたが、歌はみなさんさすがでした。
特にミュージカルファン、劇団四季のファンではありませんが、やはり生身の人間が演ずる
演劇空間は面白く、表現の可能性も限りないモノだと感心した夜ではございました。
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