「花咲くチェリー」〜紀伊國屋サザンシアター〜 '04.5.12 (Wed)
  (Update '04.6.6)


画像=12K
地人会 第94回公演 文学座協力
 紀伊國屋書店提携

 俳優・北村和夫の代表作。
 渾身の演技の中から人間の悲哀が−
 八千草薫をあらたに迎え、坂口芳貞の演出で。
 (公演チラシより)
 作:ロバート・ボルト 訳:木村光一 演出:坂口芳貞
 出演
 北村和夫 八千草薫 松熊信義 加納朋之
 古川悦史 高橋礼恵 鬼頭典子

 *公演は既に終了('04.5.12〜23)

 *関連記事はこちら
 ('04.5.17付け朝日新聞夕刊)

たまには仕事帰りに生身の役者の舞台も良いと思いこの作品に。
お目当ては八千草薫さんです。
もはや古典と思えるTVドラマの名作「岸辺のアルバム」はじめ、 上品なお母さん役がピッタリの女優さんですね。 会場の決して広くないロビーにはお花がたくさん届いていました。 フジテレビ、博報堂、アデランス、赤井英和さん、etc.。

北村和夫さんの初演は1965年だそうで、代表作と言われています。
北村氏演ずるチェリーの奥さんが八千草さん、二人の子供と とりあえず平和な暮らしが続いているのですが、 しだいに崩壊を始めるというのは「岸辺のアルバム」を思い出すストーリーです。

実に哀しい男のオハナシではあります。
生保会社をクビになっても妻に言い出せず、出勤している振りをする。
酒が好きで、酔うと同じことをクドクドと繰り返す。
故郷に林檎園を持つことを夢見て、架空の契約をちらつかせては 苗木屋の営業マンとの会話でひたすら夢を語る。
あげくの果てには妻の財布から2ポンド盗んでしまう。
しかも盗んだ罪を息子におしつけてしまう。
事情を知った妻は「この家を売れば林檎園を持てるんですって」と 不動産屋と話しを進めようとすると、今度はあわてて「かつての 同僚が昇進して、お得意さんの多い地域の代理店をやらせてもらえる」と さんざんグチを言っていた会社と縁を続けようとする。

何と優柔不断で、不甲斐ない夫を持った妻なのでしょう。
八千草さん、とっても可哀想(汗)。ついには家を出て行ってしまいます。
チェリー氏は酒に酔いながら、相も変わらず林檎園の夢を語りながら、
もう誰もいなくなった我が家の居間に倒れて動かなくなってしまうのでした。
他にも子供たちのエピソードとか、八千草さんと苗木屋との心の交流とか、
ふくらみがあるお話しなのですが、 やはり心に届くのはチェリー氏の哀しさです。
表面的には(働いていれば?)父親として合格ライン上にいたのかもしれません。 夢を持つ気持ちや、優柔不断なところは誰にもある要素かもしれません。
それでも「私っていったいどんな存在なのか」と思う妻の気持ちも 痛いほど分かります。時には娘のような可愛らしさもある八千草さんが 演ずるからこそ、夫婦の悲しさも伝わってきました(役柄では45歳位)。

周りの役者の方々はみなさん演技がブレることなく、 持ち場を活き活きと演じていたように思います。
特に娘の友人のキャロル役・高橋礼恵さんは、セリフも明瞭で現代的で サッパリとして、娘もあこがれる存在という感じを上手く出していました。
ちなみに原作者のロバート・ボルト氏は、あの「アラビアのロレンス」や 「ドクトルジバゴ」の脚本も書いた方で、実生活もこの話しのように 紆余曲折の人生だったそうです。

入手できる割引券が初日の今夜だけだったのが惜しかったです。
ベテランの主役お二人ですが、しばしばセリフが流れていかない場面があり、
こちらがドキドキしてしまいました。
やはり舞台も終盤の方がより楽しめるのかもしれません。