「五言独歩」 原文および訳と解説


はじめに

 「五言独歩」は誰が書いたものは残念ながら知りません。しかし、「四言独歩」とともに古来四柱推命の重要な詩賦の一つとして、『淵海子平』をはじめとして多くの原書に収録されています。
 今回はこの詩賦の和訳および簡単な解釈を試みます。私流に解釈してますので、誤訳、語釈もあるでしょう。原文も付しますので、みなさんなりに考えてもらえば、と思います。




「五言独歩」本文


有病方為貴、無傷不是奇、
格中如去病、財禄喜相随。
病があってはじめて貴となり、傷がない命式は素晴らしい命式ではない。格中の病を取り去り、財と官が相随うのがよい命式である。

 いわゆる病薬説であります。欠点のない命式は平凡であり、欠点があって行運でそれが取り除かれれば発福するというわけです。


寅卯多金丑、貧富高低走、
南地怕逢申、北方休見酉。
寅卯と申酉丑が多いのは、貧富、貴賎が大きく変わる。巳午は申を恐れ、亥子は酉を見れば落ち着く

 この部分の解釈はよくわからないのですが、相剋相生関係を述べているのだと思います。


建禄生提月、財官喜透天、
不宜身再旺、惟喜茂財源。
月支が建禄なのは、財官が透干するのを喜び、行運でさらに日主が強くなるのはよくない。ただ財源が盛んになるのを喜ぶのである。

 これは簡単に考えればいいと思います。財源とは財の地支で、財は官を生じますから、財官ともに強くなるわけです。


土厚多逢火、帰金旺遇秋、
冬天水木泛、名利総虚浮。
土が厚く火に逢う場合、金が旺じて秋生まれの場合、冬生まれで水が強く木が漂流するような場合は、名利は総じて虚ろなものである。

 この句は、晦火、埋金、浮木のことを指しているものと私は思います。


甲乙生居卯、金多反吉祥、
不宜重見殺、火地得衣糧。
甲乙が卯月に生まれるのは、金が多ければかえって吉祥であるが、七殺が多いのはよくない。地支に火があれば衣食を得る。

 これは甲乙木の特徴を述べたものだと思います。甲乙木が強い場合には金による剋が有効ですが、七殺が多いと甲乙木がかえって弱くなるということでしょう。また甲乙木が強い場合は火によって洩らされるのは良いです。


火忌西方酉、金沈怕水傷、
木神休見午、水到卯中傷。
土宿休行亥、臨官在巳宮、
南方根有旺、西北莫相逢。
火は西方酉を忌み、沈金は水によって傷つけられるのを恐れる。木神は午をみて弱くなり、水は卯にいたれば傷つく。
土は亥運では弱くなり、臨官は巳である。南方に行って通根すれば強くなり、西北運ではよくない。

 始めの2行は十二運の死にあたる地支は良くないということを言っているに過ぎないと思います。ここでいう水は子のことでしょう。
 土の場合は十二運の配当の考え方がいろいろありますが、土は休は亥、臨官は巳、旺は午、酉子は良くないとここでは言っています。これは火の十二運とは一致しませんが、火に近いということが言えるでしょう。


陰日朝陽格、無根月建辰、
西方還有貴、惟怕火来侵。
六陰朝陽格は、月令に旺じずあるいは地支に根がなければ、西方にいけば貴であり、火運にいくのを恐れる。

 六陰朝陽格とは、辛亥、辛丑、辛酉日で戊子時生まれの場合を指しますが、火運を忌みます。地支に根がない場合はとくに金を喜び火を忌みます。


乙木生居酉、莫逢金巳丑、
富貴坎離宮、貧窮申酉守。
乙日で酉月生まれは、さらに金や巳丑に逢ってはいけない。富貴は水と火にあり、申と酉では貧窮である。

 乙日酉月生まれは日主が弱いので金を忌みます。で、水は乙木を生じるのでいいと思いますが、火は金を抑えるといっても乙木を弱めますからよくありません。水火が富貴だというのは、秋生まれで水が強くなると乙木が冷えるので、火が必要ということでしょう。


有殺只論殺、無殺方論用、
只要去殺星、不怕提綱重。
七殺があればただ七殺を論じ、七殺がなければ用神を論ずる。七殺を取り去るのを要するが、月令に旺じるのは恐れない。

 この句は「五言独歩」では有名な句ですが、私の解釈の仕方が正しいのかどうかよくわかりません。
 「不怕提綱重」の部分は、素直によめば、七殺が天干になく単に月令に旺じているのは恐れない、と解釈できます。ただそうすると行運で巡ってきたときに大変です。そうではなく、従殺格になるのを恐れないというふうに解釈することもできます。また、日主が月令に旺じていれば七殺を恐れないとも考えられますが、少し無理があります。


甲乙若逢申、殺印暗相生、
木旺金逢旺、冠袍必掛身。
離火怕重逢、北方反有功、
雖然宜見水、猶恐対提沖。
八月官星旺、甲逢秋気深、
財官兼有助、名利自然亨。
曲直生正月、庚辛干上逢、
南離推富貴、坎地卻為凶。
甲乙生三月、庚辛戍未存、
丑宮壬癸位、何慮見無根。
木茂宜金火、身衰鬼作関、
時分西與北、軽重弁東南。
甲乙が申にあえば、殺印が暗に相生し、木旺じて金が旺ずる運にいけば、高位にのぼる。
地支に火が多いのをおそれる。そのとき北方運にいけば功がある。しかし水をみるのがよいといっても、やはり月支を冲するのをおそれる。
八月酉月生まれでは官星が旺じ、甲は秋の深いときである。財官が両方あれば、名利は自ずからあがる。
甲乙日で寅月に生まれ、庚辛が透干するのは、南方火運にいけば富貴となり、北方水運に行くのはかえって凶である。
甲乙日で辰月に生まれるのは、庚辛戌未があったり、地支に丑や壬癸が透干したりしても、どうして根がないことを心配する必要があろうか。
木が茂るのは金火がよく、弱ければ官殺を恐れる。金水と木火はその作用をよく見極める必要がある。

 この部分の句は甲乙日生まれのことを言っていると思います。
 「殺印暗相生」とは申中に金水があり、金が水を生じることを指します。冠袍とは礼服のことです。
 「離火怕重逢」とは、甲乙日巳午月生まれで火が多い場合のことを指すものと思います。その場合には水に逢うのを喜ぶが、亥や子は月支と冲となるのでよくない、という意味でしょう。ま、これは命式によります。


時上胞胎格、月逢印綬通、
殺官行運助、職位列三公。
時上胞胎格は、月に印綬があって、行運で官殺の助があれば、高い位につく。

 胞胎格というのは、庚寅日、甲申日生まれのことをいいますが、ここでの時上胞胎格というのは時支に死絶運が来ることを指すようです。すなわち日主が弱いときには、月に印綬があって官殺運にいけば、官印双全となり、高位に昇るというわけです。


二子不沖午、二寅不沖申、
二午不沖子、二申不沖寅。
子が二つであれば午を冲しない、寅が二つあれば申を冲しない、午が二つあれば子を冲しない、申が二つあれば寅を冲しない。

 ここでの組合せは、子午子、寅申寅、午子午、申寅申ということになりますが、この場合は子午や寅申の冲は成立しないというわけです。辰戌丑未の土支どうしの冲や巳亥、卯酉の冲は入っていません。土支が入らない理由はわかりますが、巳亥、卯酉の冲がない理由がよくわかりません。が、子午はまさに水剋火であり、寅申は火水の長生支ですから、火剋水というのは強い牽引関係にあるということなのかもしれません。


得一分三格、財官印綬同、
運中逢剋破、一命喪黄泉。
雑気財官印綬格は、行運で剋や破に逢えば、一命を失うことになる。

 得一分三格とは、雑気格と解釈しました。破というのはいわゆる破ではなく、冲や刑のことでしょう。


進気死不死、退気生不生、
終年無発旺、猶恐少年刑。
進気は死にあっても死なず、退気は生にあっても生きない。一生のうちに発旺する運がなければ、若いうちに刑に逢うのを恐れる。

 進気とは月支が旺相の場合、退気は月支が休囚死の場合のことです。進気のときは日主が強いので死絶運を恐れませんし、退気の場合は長生だけではいまひとつ強さに欠けます。
 次の句の解釈は正しいかどうかわかりません。「已発過未発過之説」に通じるものだと解釈しています。(「命理一得 寿元」の項参照)刑に逢うというのは死絶運に逢うということでしょう。


時上偏財格、干頭忌比肩、
月生身主旺、貴気福重深。
時上偏財格は、比肩が透干するのを忌む。月が日主を生じて日主が旺じれば、貴命であり福禄は厚い。

 時上偏財格とは時柱に偏財がある命式ですが、他干支に偏財が多数あるのは時上偏財格とはしません。


運行十載数、上下五年分、
先看流年歳、深知来往旬。
大運というのは一運十年で、上下を五年に分ける。まずは流年干支をみて、大運あるいは命式との作用を深くみる。

 上下というのは干と支に分けて見るという解釈が一般的です。ただし、これは間違いであるという術者の方が多いようです。
 次の句については、これは私の考えですが、旬とはいわゆる六旬ではなく、大運のことかあるいは(命式の)季節のことだと思います。


時上一位貴、蔵在支中是、
日主要剛強、名利方有気。
時上一位貴格は、七殺が時支蔵干中にあるものをとり、日主が強ければ、名利はまさにあがる。

 この場合、時柱以外に七殺があって強ければ貴格とはならないと『淵海子平』にあります。




あとがき

 「五言独歩」の訳は以上です。「四言独歩」に比較するとずいぶん短く、かつまとめの文がないので、おそらくは途中や後半の一部は伝わるうちに失われたものでしょう。また順序も少しおかしいので、散逸したものを適当に集めて紹介したものだと考えられます。
 あくまで私の推測ですが、前半からは日主の五行別月別に解説された部分の大半、後半は格局について書かれた部分の半分ぐらいが失われたものと思われます。その部分を知りたいものです。




   作成 :  2008年5月19日
   改訂 :  2017年9月2日  内容修正およびHTML5への対応

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