「五行元理消息賦」原文と訳


はじめに

 「五行元理消息賦」はほとんどの原書といわれる本に引用されており、古来重要視されていたのは間違いないでしょう。
 ここでは、「命理正宗」(袁尤校訂本)をテキストとして、その解説にしたがって訳を進めます。このテキストは「淵海子平」などの原文とは若干異なっています。


「五行元理消息賦」




詳其往聖、鑒以前賢、論生死全憑鬼谷,推消息端的徐公、陽生陰死,陽死陰生,循環逆順,変化見矣。
蓋陽木生亥死午,雖存亡易見、陽木跨馬若逢猪、則吉凶可知。艮生丙而遇鶏死,兌生丁而逢虎傷。戊蔵寅而西方没,己生酉而艮中亡。庚逢蛇而崢嶸,運見鼠亦難当。辛生子死在巽地,壬生申滅於震方。兔生癸水衣禄足,運行猴地見災殃。十干生死同断,造化依此詳推。
 昔の聖人や賢人の言ったことを詳しく追究し、生死の論はすべて鬼谷子に頼り、消息は端から徐子平から推し、陽生陰死、陽死陰生、循環逆順、変化を見る。
 およそ甲木は亥を長生として午を死とする。その存亡は見やすいが、甲午が亥に逢うとき、その吉凶は知るべきである。寅は丙の長生で酉は死である。丁の長生は酉で寅にあえば傷つく。戊は寅に蔵しているが、西方にはない。己は酉が長生であるが寅では死である。庚は巳にあえば高くそびえるが、運に子を見れば強いとは言い難い。辛の長生は子で死は巳である。壬の長生は申で卯が死である。卯は癸水の長生で衣禄は足りるが、運が申に行けば災いを見る。十干の生死の判断はこれによって詳しく推命せよ。

 私はこの陽生陰死の論は採用していないのですが、これが主流です。



又憑権刃双顕停均、位至侯王。
中途或喪或危、運扶官旺、平生為富為貴、身殺両停。
大貴者、用財而不用官。当権者、用殺而不用印。
印頼殺生。官因財旺。
食居先、殺居後、功名両全。
酉破卯、卯破午、財名双美。
享福五行帰禄。寿称八字相停。
 七殺と羊刃(劫財)が二つともあって強さが等しいのは、位は王侯に至る。
 日主が強すぎたり官が強すぎたりするのは生命が危なく、もとより富貴なのは、日主と殺が同じ程度に強い場合である。
 非常な貴命は、財を用いて官を用いない。ほんとに権力のある者は、殺を用いて印を用いない。
 印は殺の生に頼り、官は財の旺による。
 年月に食神があり、七殺が時にあるのは、功名ともに全し。
 酉が卯を冲し、卯と午の破があれば、財と名がともにある。
 五行の建禄があるのは福を受ける。命式中の五行が均衡しているのは長生きである。

 富貴の命は財生官殺であり、権威の命は殺印相生ということです。
 酉が卯を冲するというのは条件によってはわかりますが、卯が午と破の場合がよいというのは、解説を読んでも得心がいきません。実占で確認するしかないですが、あまり重視しなくてよいと考えます。
 帰禄とは時支に禄のあることと思いましたが、注によれば単に地支に建禄のある場合のようです。



晦火無光於稼穡。盗木絶気於丙丁。火虚有焔、金実無聲。水泛木浮者活木。土重金埋者陽金。水盛則危、火明則滅。陽金得煉太過、変革奔波。陰木帰垣失令、終為身弱。土重而掩火無光、逢木反為有用。水盛則漂木無定、若行土運方栄。
五行不可太甚、八字須得中和。
土止水流全福寿、土虚木盛必傷残。運会元辰、須当夭折。
 火が暗くなり光がないのは土が強い場合である。木は丙丁に洩らされて弱くなる。火が木によって強くなるのは虚である。金(庚)は火によって鍛錬されなければならないが、そうでなければ使えない。水があふれて木が浮くのは活木の場合である。土が重くて金が埋まるのは庚金の場合である。水が盛んであれば危うく、火が強ければすなわち滅する。庚金が火の鍛煉を受けすぎると性質が変わってしまう。乙木が月令に旺じていないと総じて弱いものである。土が多いのは火をおおって光がなくなるが、木にあえばかえって有用である。水が盛んなのは木が漂流して定めがなくなるが、もし土運に行けば栄える。
 五行は甚だしく強いのはよくなく、命式は必ず中和を得るのがよい。
 土が水の流れを止めれば福寿をまっとうし、土が弱く木が盛んなのは必ず傷が残る。行運と日干支がそうであれば、まさに夭折してしまう。

 五行関係の説明です。相生だから良いとか相剋だから悪いとか単純にはいえないということです。
 浮木とは陰陽とは関係ないと注にあります。また活木というのは注では乙木を指しているようです。一般に浮木とは、木が通根しておらず壬が強く土の制がない場合をいいます。
 一般的に、水や火が強すぎると他の五行の場合より害が大きいものです。



木盛多仁。土薄寡信。水旺居垣須有智。金堅主義卻能為。金水聡明而好色。水土混雜必多愚。遐齡得于中和、夭折喪於偏枯。
 木が盛んなのは仁多く、土が薄いのは信少ない。水が月令にあれば知があり、金が堅いのは主に義でよく物事を成し遂げる。金水は聡明だが好色。水土が混雑すれば必ず多くは愚。中和を得れば長寿であり、五行が偏るのは夭折する。




辰戌剋制並沖、必犯刑名。子卯相刑門戸、全無礼徳。
棄印就財明偏正。棄財就殺論剛柔。
傷官無財難恃、雖巧必貧。食神制殺逢梟、不貧則夭。
男多羊刃必重婚。女犯傷官須再嫁。
貧賎者、皆因旺処遭刑。孤寡者、只為財神被劫。
 辰戌の剋制および冲は必ず刑名を犯す。子卯の相は門戸を刑し、全く礼徳がない。
 印を捨てて財につくのは偏正を明らかにし、財を捨て殺につくのは剛柔を論じる必要がある。
 傷官で財がなく頼り難いのは、器用だが貧乏である。食神が殺を制して偏印に逢うのは、貧乏でなければ夭折する。
 男で羊刃(劫財)が多いのは必ず何度か結婚し、女が傷官を犯すのは必ず再び嫁ぐことになる。

 辰戌は天羅地網といわれ刑罰や訴訟の象があるとされますが、必ずしも悪い場合ばかりではありません。ただ陽土であり作用が強めではあります。
 「棄印就財」について、注によれば、正印が月令のときは財は悪く、偏印の場合は財を喜ぶとします。また、陰干の場合は殺につくのがよく、陽干の場合には財の方がいいということです。
 あとは五行関係を考えればわかるでしょう。



去殺留官方論福、去官留殺有威権。
逢傷官反得夫星、乃財命有気。遇梟神而喪子息、定因福薄無嗣。
二戌沖辰禍不浅。
両干不雜名利齊。
丙子辛卯相逢、荒淫滾浪。子午卯酉全備、酒色昏迷。

 去殺留官はまさに福と論じ、去官留殺は権威あるとする。
 傷官にあって夫星があるのは、財命に気がある場合がある。偏印に逢えば子息を喪い、福薄く子供はいない。
 二つの戌が辰を冲するのは災いが深い。
 両干不雑(年柱と日柱、月柱と時柱が同じ場合)は名利ともにあがる。
 丙子と辛卯が逢うのは、荒淫で身を亡ぼす。子午卯酉がすべてあるのは酒色に迷う。

 傷官あって夫星あるというのは、注によれば例えば戊日主で寅月生まれの場合です。寅を官星としますが、寅中に土があって、傷官は辛であり、辛は水を生じますから、財命有気というわけです。なお、私は原則として寅中に土があるとは考えていません。
 女命で陰干日主ならば子供の性別については傷官を男子、食神を女子としますが、食傷が偏印に逢うのはよくないということです。偏印は別名倒食です。
 丙子と辛卯は天干は合で地支は刑です。子午卯酉は仲支であり沐浴桃花になる支です。



天干殺顕、無制者賎。地支財伏、暗生者奇。
因財致禍、羊刃與歳運並臨。
貪食乖疑、命用梟神因有病。
日時相逢卯酉、始生必主遷移。平生敬信神祇、造化因逢戌亥。
陰剋陰、陽剋陽、財神有用。
官多化殺、太旺傾危。殺多無殺、反為無害。
財多逢財、運逢化殺生災。
印多無印、運忌比劫旺地。
八字得局失垣、平生不遇。四柱帰垣得局、早歳軒昂。
 天干に七殺があって制がないのは賎である。地支に財があって、暗に生ずるのは奇である。
 財によって災いになるのは、羊刃と歳運があわせて来たときである。
 食を貪り疑をわかれる(歳運七殺のことか?)のは、偏印があればまさに災いとなる。
 日時に卯酉の冲があるのは引越や転職多い。ふだんから信仰深いのは(日時に)戌亥が並んであるときである。
 陰が陰を剋し、陽が陽を剋すときの財は有用である。
 官多いのは殺となり、強すぎるのは危ない。七殺が多いのは殺とはみずに、却って害はない。
 財が多くてさらに財に逢うのは、運が化殺に逢い災いを生ずる。
 印が多いのは印とならず、比劫の旺地に行くのを忌む。
 八字が局を得て月令を失うのは不遇である。命式の月令が局となるのは、早いうちから発達する。

 「因財致禍」の部分は、古書では禍ではなく富となっています。ここでは『命理正宗』の方にあわせました。私思うに、この歳運を羊刃ととるか財ととるかで富となるか禍となるかは変わると思います。財が富というのはわかると思いますが、財が忌神で凶意が強い場合は財産を失うというよりも疾病や事故、悪ければ死亡することがあり、まさに禍といえます。
 「乖疑」という意味がよくわかりませんが、注によると歳運七殺のようです。
 卯酉というのは東西であり、日月の出入りするところだというのですが、ちょっと理解不能。乾というのは天門と呼ばれ、冬至の太陽の位置であり、易卦の始まる場所でありますが、信仰心と結びつくかは疑問。ただ他の古書にもあるので、実占的には当たるのかもしれません。
 注によれば「化殺」とは財がまた財に逢うことを言っているようです。すなわち財が強すぎで七殺のように日主を弱めるということのようです。



木逢類象、栄貴高遷。命用梟神、富家営造。
財官倶敗者死。食神逢梟者亡。
帰禄有財而獲福、無財帰禄必須貧。
太歳忌逢戦闘。羊刃不喜刑沖。
 木が類象に逢うのは、栄貴で高い地位にのぼる。命が偏印を用神とするのは、富家となる。
 財官がともに弱いなら死に、食神が偏印に逢うのは亡くなります。
 帰禄格で財があれば福を得るが、財がなければ貧である。
 太歳は戦闘に逢うのを忌む。羊刃は刑冲に逢うのを喜ばず。

 「類象」とは、方や会局のことです。
 「戦闘」とは日犯歳君のこととあります。すなわち日干が流年干を剋して傷めることですが、日犯歳君になる場合というのは限られていると思います。すなわち流年干が財で力にならない場合ですが、そう多くはないと思います。



豈知遇正官卻無俸禄。蓋禄逢七殺乃有聲名。
不従不化、淹留仕路之人。得化得従、顕達功名之士。
化成禄旺者生。化成禄絶者死。
処僧道之首、用殺反輕。受憲台之職、偏官得地。
生地相逢、壮年不禄。時帰敗絶、老寿無終。
財逢旺地人多富。官遇長生命必栄。
丁生酉境、丙辛遇之絶嗣。
財臨殺地、父死而不帰家。
若能観覧、熟読詳玩、貴賎萬無一失矣。
 どうして正官に知遇を得ればかえって無俸禄になろうか。およそ禄が七殺にあえばすなわち名声がある。
 従せず化もしないのは、いまだ人に使われる人であり、化を得て従を得る人は功名が顕れる人物である。
 禄旺の運に行く人は発達し、禄絶の運に行く人は傷つく。
 僧道の職業に付く人は、殺が喜神でも軽い場合である。上官の職を受けるのは、偏官が地を得る場合である。
 強いものがさらに強い運に行くと、壮年はめぐまれない。時柱が敗絶であるのは、晩年はいいことがない。
 命式に財があって財が旺ずる地(食傷のこと)に行けば多くは富となる。官が長生にあえば必ず栄える。
 丁酉時に生まれたとき、丙辛にあえば子ができない。
 財が殺地に臨むのは、父は死に家に帰らない。
 これらの説をよく読んで自分のものにすれば、貴賎の判断には万に一つの間違いもなくなるだろう。

 「丁酉~」の説明ですが、丁酉時ということは辛日で、丁偏官は男性にとっては子に当たります。もし丙があれば化水して丁を剋するので子ができないというわけです。
 次の「財臨殺地」については、例えば庚日甲申時のような場合、甲偏財は甲の七殺である申に坐しています。偏財は父親を示しますから、このような判断になるわけです。



あとがき

 ”はじめに”でも述べたようにここでは「命理正宗」をテキストとしています。理由は注がついていてわかりやすいことです。「淵海子平」などに載っているテキストは、これよりもやや分量が多いです。おそらく張楠が不要な部分は削除したものと思います。しかし捨てるには惜しい文もあり、そちらも参照してもらえるとありがたいです。
 さて、この賦は他の賦より比較的わかりやすいと思います。が、この賦の文を機械的に適用するのではなく、そこにある五行変通の考え方をものにすることが大事だと思います。私自身、個別の論に対しては、賛成しかねるところもあります。しかし、例えば「去殺留官方論福、去官留殺有威権」という文をみると、正官と七殺のニュアンスの違いがわかります。こういうところをきちんと読み取ることで、「貴賎萬無一失矣」となると本文でも言っています。



作成 2008年 8月 3日
改訂 2020年 7月12日  HTML5への対応、一部見直し