「十干体象」原文とhiroto流解釈


はじめに

 「十干体象」は『淵海子平』『星平会海』に収められています。酔醒子の作と言われますがほんとかどうかはよくわかりません。
 「十干体象」は重要なテキストですので、原文と解釈を掲げます。『命理正宗』にも「十干体象」はありますが、『星平会海』の方をとりあげています。なお、この3つの書の間でも原文に違いがあります。
 浅学菲才の輩ではありますが、多くの書を参考にしつつも、あくまで独自の解釈を掲げました。必ずしも他の研究者の訳とは一致しない部分もありますが、そのつもりでご覧ください。そのため、原文を掲げるわけですけど。




甲木詩

甲木天干作首排、原無枝葉與根荄、
欲存天地千年久、直向沙泥万丈埋。
斫就棟梁金得用、化成灰炭火為災、
蠢然塊物無機事、一任春秋自往来。
 甲木は天干の初めの干であり、旬首の干である。もともと枝葉や根がない状態なわけだが、そこから天地千年の長きにわたって生存しようとするなら、まっすぐ深く砂泥に埋まるのがよい。
 斧で断ち切れば柱や梁になって使うことができる。灰や炭にするような火は災いとなる。
 庚金で切られた甲はただの材木となり無機的なものであるが、一たび春秋を堪えれば自ずから往来する。

 甲は他の影響を受けにくい干の強さになろうとすれば、土支に深く通根するのがよいということで、それは辰か未になるわけですが、沙泥といずれも”さんずい”がついていますから、水のある辰の方がよい、と言っているのでしょう。
 三行目は、甲木に庚金がなければ有用の人材にはならないが、強すぎる丁火では、甲は弱くなり丁がさらに強くなるということでしょう。ただしこれは土や水の弱い甲の場合に限ります。
 「ひとたび春秋に任ずれば自ら往来す」という文は正確な意味がよくわかりませんが、強い甲は性質を変えつつも一年中大丈夫というふうに解釈しています。滴天髄にある、「千古に植え立つ」とか「春に金を容れず、秋に土を容れず」と同じようなことだと思っています。なお、任ずるには堪えるという意味があります。


乙木詩

乙木根荄種得深、只宜陽地不宜陰、
漂浮最怕多逢水、刻斫何当苦用金。
南去火炎災不浅、西行土重禍猶侵、
棟梁不是連根木、弁別工夫好用心。
 乙木というのは根や種が深くあるのがよく、ただし明るいところがよく暗いところはよくない。
 水が多すぎると漂浮ということで最もよくなく、刻み切るにはどうして金を使って苦労するのか。
 南方運で火(丙でも丁でも)が強すぎるのは災いとなり、西方運で土が重い場合にもやはり災いとなる。
 甲木と乙木は同じ木でも全然性質が違うので、同じように取り扱わずに、よく注意するのがよい。

 乙木は根も葉もある草木のイメージです。陽地とは明るいところですが、ここでは陽支のことで、寅と辰がそれにあたりますが、陽を明るいととらえるなら、火があるということで未も候補に入れた方がいいかもしれません。いずれにせよ、亥と卯はやや落ちるということになります。もちろん陰干なので乙木の地支に寅や辰が来ることはありえませんが。
 二行目は、乙は水、とくに壬の多すぎをきらい、金の剋を使って弱めることは苦労する、ということです。
 四行目の棟梁とは甲木で連根木とは乙木のことです。
 まとめると、乙木は強すぎる四行(火水金土)に逢えば、非常に影響を受けて弱くなるということになります。


丙火詩


丙火明明一太陽、原従正大立綱常、
洪光不独窺千里、巨焔猶能遍八荒。
出世肯為浮木子、伝生不作湿泥嬢、
江湖死水安能剋、惟怕成林木作殃。

 丙火は明々とした一つの太陽で、その光はもともと正大で万物の根本をなすものである。
 あまねく光が一つでなければ遠くまで届き、大きな焔は広範囲にわたって荒廃させる。
 天干にあれば浮木の害を救うことができるが、地支にあっても水の多い土を生じることはできない。
 壬水は雨のような水ではなく死水であるため、丙を剋すことができないが、ただ甲が強すぎる場合はかえって影になって、丙のよさが出ずかえって害になる。

 一行目では丙火は十干の中でもっとも強いということを暗に言っていると思います。
 二行目は丙は天干に2つ以上あっては強すぎ、命式を乾燥、荒廃させるということです。旱魃のイメージですね。
 三行目の伝生とはよくわかりませんが、出世に対応することばですから、おそらくは地支にあるということだと思います。つまり、丙は天干にないとあまり意味がないということになりますか。
 江湖とは壬水で、林とは甲が複数あることですが、この場合は単に甲木が強いことを指しているのでしょう。
 一般に剋は悪く生がいいように言われますが、こと丙にとっては壬は全く影響がなく(程度問題ではあるのですが)かえって必要な干であり、甲木は丙火を生ずることはあまりなく、多すぎるとかえって害になるというわけですから、これらは五行的には割り切れない関係です。


丁火詩

丁火其形一燭灯、太陽相見奪光明、
得時能鋳千金鉄、失令難熔一寸金。
雖少乾柴尤可引、縦多湿木不能生、
其間衰旺当分暁、旺比一炉衰一檠。
 丁火は一本のろうそくの火のようなもので、太陽すなわち丙火があるとその光は奪われてしまう。
 夏生まれ(あるいは地支に火が多い?)の場合は千金の鉄すなわち庚金を剋すことができるが、秋冬生まれではわずかな庚金でも熔かすことはできない。
 水に生じられていない乾いた甲木は丁を強めることができるが、いくら木が多くても水が多い場合は、木は丁火を生じることができない。
 この間の衰旺の理論はよくわきまえておかなければならない。丁火が多く強い場合には一つの戊土がよいが、弱い場合には丁火でも助けになる。

 二行目にあるように丁は季節的に強くなければいけません。
 最後の「旺比は一炉、衰は一檠」というのは難しいですが、『四柱推命十干秘解』には、丁火が強い場合は戊土で洩らすのがよく、弱い場合は甲木(水のない)を用いるのがよいとあります。しかし「檠」とは燭台、灯火のことです。また甲木については三行目にすでに書いてあるわけで、よって上のような訳にしました。


戊土詩

戊土城墻堤岸同、振江河海要根重、
柱中帯合形還壮、日下乗虚勢必崩。
力薄不勝金漏洩、成功安用木疎通、
平生最愛東南健、身旺東南健失中。
 戊土は城壁や堤防のようなもので、激しい江河海を押さえるには根が重い必要がある。
 命式中に合があっても形はまだ強いが、地支に通根していない日干ではその勢いは失われる。
 力がなければ金の漏洩に負けてしまう。功を成すには、木の剋を用いるべきではない。
 通常は東南、つまり辰巳の支があって強くなるのが最もよが、身旺の場合には辰巳がよくない。

 強い壬を制するには戊は多く通根していなければならないということです。また通根してさえいれば、合であっても癸自体弱い干ですから戊が弱められることはあまりありません。戊にとっては、通根というのが非常に重要なポイントだといっているわけです。
 しかしながら甲戊の関係はあまりいい関係ではないので、甲木用神の場合は成功しても苦労することが多いものです。
 最後の二句はそのまま解釈すればいいでしょう。なお、巳を入れるべきかどうかは異論があります。


己土詩

己土田園属四維、坤深能為万物基、
水金旺処身還弱、火土功成局最奇。
失令豈能埋剣戟、得時方課用鎡基、
漫誇印旺兼多合、不遇刑冲総不宜。
 己土は田園の土であり東西南北いずれにも属し、己が強ければ万物の大本となりえる。
 水や金が強く己が弱い場合には、火や土(印や比劫)があって、局(会や方合)などあれば最も良い。
 月令を得ていなければ庚金を埋めることはないし、時を得れば庚金のよさが発揮される。
 印や比劫で己が強すぎたり、合が多かったりする場合には、刑や冲がなければ総じていい命式にならない。

 「四維に属する」というのは、季節の変わり目には土用になるということでしょうか。
 鎡基というのは、古代の農具で鋤のようなものです。つまり金属が土の役に立つという意味になります。ただ、この「時を得る」が己なのか庚なのかがいまいちはっきりしません。文の流れからは己だとは思いますが。
 最後の行では強すぎる己土は他干に悪い影響を与えると言っていますが、己土はなかなか解釈の難しい干であります。


庚金詩

庚金頑鈍性偏剛、火制功成怕火郷、
夏産東南過鍛錬、秋生西北亦光芒。
水深反見他相剋、木旺能分我自傷、
戊己干支重遇土、不逢冲破即埋蔵。
 庚金は固くその性質は極めて剛で、火で制することができるが、火が強すぎて行運に火がくるのはよくない。
 夏生まれで東南の行運にいくと庚を鍛錬しすぎて弱めるが、秋生まれで西北の行運に行くのは輝きを増す。
 水が強いのは反って他に相剋されて庚金が弱くなり、木が強すぎるのは木を分けることができずにかえって自分を傷つける。
 土が強くさらに土があると、冲や破に逢わなければ、埋金となってやはり弱くなる。

 一行目の火とは丁火のことで、丙ではありません。
 あとは訳のとおりですが、まとめると、月令に旺じていなければなかなか庚は強くならず、どの干にあっても弱くなってしまうということになります。また逆に月令に旺じていれば、金水があるとさらに強くなります。


辛金詩

辛金珠玉性通霊、最愛陽和沙水清、
成就不労炎火鍛、資扶偏愛湿泥生。
木多火旺宜西北、水冷金寒要丙丁、
坐禄通根身旺地、何愁厚土没其形。
 辛金は珠玉であって神秘的なものである。辛金が最も好むのは、強すぎない丙、戊、壬で、辛が壊されないことである。
 火によって鍛錬する必要はなく、強めるにはひとえに湿泥がよい。
 木が多く火が強い場合には、地支に金水があるのがよく、金水が強い(秋)冬生まれでは丙丁の解寒の作用が必要である。
 日干支が辛酉の場合で、さらに通根したり行運で強められたりすると、土が多くてもその形を失う心配はない。

 訳に示すとおりで、とくに解説の必要はないでしょう。
 なお、二行目の「湿泥」とは『』戊土と壬水というよりは丑辰のことだと思います。


壬水詩

壬水汪洋併百川、漫流天下総無辺、
干支多聚成漂蕩、火土重逢涸本源。
養性結胎須未午、長生帰禄属乾坤、
身強原自無財禄、西北行程厄少年。
 壬水というのは大海であって、多くの川が集まったもので、流れはあまねく広大で限りがない。
 干や支が多く集まると、何の干でも漂流してしまうし、火や土が多くあれば元の水源が涸れてしまう。
 養は未、胎は午、長生は申、建禄は亥である。
 身強でもともと財(火)や禄(土)がなく、若くして西北の行運に行けば災いが多い。

 一行目は漠然としていてよくわかりませんが、おそらく壬水は水によって生じられて弱められることはなく、いずれの五行十干にも影響を与えるということでしょう。また、二行目では壬水は強すぎても弱すぎても害になることを示唆しています。
 三行目はよくわからないのですが、訳以上の意味がありそうです。例えば「結胎」とは仙道で使われる用語です。私にはよくわかりませんが。


癸水詩

癸水応非雨露麼、根通亥子即江河、
柱中坤坎身還弱、局有財官不尚多。
申子辰全成上格、午寅戌備要中和、
仮饒火土生深夏、西北行程豈大過。
 癸水は雨露のようなものである。亥と子に通根すれば壬のような振る舞いをする。
 申と子では癸はまだ弱いままで、申子辰と局をなせば財官が多すぎるということはない。
 すなわち、申子辰がそろえば良い命式になる。午寅戌と火局を成す場合は中和を要する。
 例えば、火土が強く未月生まれであっても、行運が西北に巡れば、癸水に大過はない。

 訳のとおりでとくに説明の必要はないかと思います。
 癸水は陰干の中でも弱い干でありますが、月令に旺じれば強くなります。
 一行目と二行目を合わせて考えると、癸水の場合、方局(亥子丑)では強くなりすぎ、三合(申子辰)の方が良いと言っているような感じです。




あとがき

 「十干体象」の原文および私流解釈をあげました。
 短い詩文ですが、よく読むと、それぞれの十干関係とか強弱の見方などがわかります。まとめはつけてませんが、自分でよく読んでまとめてみることをお勧めします。ちなみに、私のノートには抄訳とそれから得られるポイントを箇条書きにまとめています。
 十干については、この詩と「滴天髄」の「天干論」を併せて読むとより勉強になると思います。
 また、重要な古典を読むと、ところどころに干支の関係や強弱などが、さらっと書かれていることがあります。ほんとは、そういう詩をよく読み、メモをとって整理すればいいのでしょうが、いつも中途挫折して、全然まとまりません。まあ気長にやりましょう。
 皆さんの勉強の足しになりましたでしょうか?



   作成  2008年 8月 1日
   改訂  2017年 4月23日  HTML5への対応と若干の修正