「十二支咏」原文と“hiroto的”解釈


はじめに

 「十二支咏」は「十干体象」とセットで『淵海子平』や『星平会海』に収められています。
 「十干体象」の方はいろいろと解説書が出てまして、例えば、『四柱推命十干秘解』(香草社刊という解説書が出ています。もちろん私も持っていて、非常に勉強になりました。ちなみに、この本には「命詩群芳譜」の訳が載っていて、この方が私には面白かったです。ただし、厚さの割にはちょっと高いですね。
 で、今回は「十二支咏」ですが、「十干体象」に比べると注目度が低いように感じます。この詩はもっと研究すべきかもしれません。
 比較的原文に忠実に訳したつもりですが、一部意訳というか私なりの訳となっているところもあります。




子宮詩

月支子水占魁名、溪澗汪洋不尽清、
天道陽回行土旺、人間水暖寄金生。
若逢午破応無定、縦遇卯刑還有情、
柱内申辰来合局,即成江海発濤声。
 月支に子水があるときは占魁という。小川から大海まで清らかで尽きることがない。
 丙があり土が旺ずる行運では、水を暖め金を生ずる。
 午破(冲)にあえば作用がなくなるが、卯の刑にあっても子としての作用は依然としてある。
 命式に申と辰があれば合局となり、川や海となって波の音を発する。

 ここでは水にちなんだ言葉、すなわち「溪澗汪洋」とか「江海」とか出てきますが、いずれも壬水のことを指すと思われます。
 2行目の「人間」とは「現世」のことでありますが、人間としても意味は通じます。
 4行目は申子辰の合局の場合に壬があれば、壬水は非常に強くなるという意味でしょう。深読みすれば、方局よりも三合の方が強いと言っているのかもしれません。


丑宮詩

隆冬建丑怯冰霜、誰識天時転二陽、
暖土誠能生萬物、寒金難道只深蔵。
刑冲戌未非無用、類聚鶏蛇信有方、
若在日時多水木、直須行入巽離郷。
 月支に丑は季節は冬であり、水が多い(寒すぎる)命式をおそれる。丑は冬至から陽に転じて二つ目の支である。
 暖められたでがあれば、万物を生じる。寒いままでは、丑には金を蔵しているがその作用は出にくい。
 戌未の刑冲は丑に強く作用する。酉と巳があれば局となり金としての作用が強くなる。
 日時柱に水木が多いときは、(辰)巳午の行運に行くのがよい。

 丑月は春に近いわけですが、冬の土用であり「暖土」すなわち丙火が必要と言っています。丙火がなければ丁火でもいいでしょう。
 「類聚鶏蛇信有方」の意味が正確にはわからないのですが、ひとまずは上の訳としておきます。


寅宮詩


艮宮之木建於春、気聚三陽火在寅、
志合蛇猴三貴客、類同卯未一家人。
超凡入聖惟逢午、破禄傷提独慮申、
四柱火多嫌火地、従来燥木不南奔。

 寅月は春であり、陽に転じてからすでに3ヶ月で、火の気が寅に集まる。
 巳申の合とあえば三貴客といい、木火土を蔵することから、卯未と同じようなものである。
 非凡で聖人といわれる人は午とあうものである。破産したり傷を負ったりするのはただ申が来るのを心配する。
 四柱に火が多ければ、行運に火運が来るのを嫌う。そもそも寅には水がなく燥木であって、南にいくことはよくない。

 2行目ですが、寅巳申は支刑であり、必ずしも三貴客といえるかどうかはわかりません。
 その後の句も、上のように訳しましたが、あまり自信がありません。
 次に、午とは会で火の作用が極端に強くなることを言っています。これは必ずしも戌を必要とはしていないようです。
 申は冲となって(剋でもありますし刑でもあります)寅の作用をなくすため、寅が喜神の場合には申を恐れます。


卯宮詩

卯木繁華稟気深、仲春難道不嫌金、
庚辛疊見愁申酉、亥子重来忌癸壬。
禍見六冲応落葉、喜逢三合便成林、
若帰時日秋金重、更向西行患不禁。
 卯木は花が盛りで草が伸びようとする気が深い。仲春ではあるが、金の剋を嫌がらないわけではない。
 庚申、辛酉をおそれ、癸亥、壬子が来るのを忌む。
 酉と冲すれば木も枯れてしまうが、亥未があれば三合となり林となる。
 日時に金が多いのはよくなく、さらに西方運に行けば心配事が起こる。

 2行目ですが、金を恐れるのは当然として、水は木を生じるのですが水の強すぎは良くないというわけです。
 ただし、3行目にあるように、地支に木が多くあれば、金の剋を恐れません。


辰宮詩

辰当三月水泥温、長養堪培万木根、
雖是甲衰乙餘気、縦然入墓癸還魂。
直須一鑰能開庫、若遇三冲即破門、
水木重逢西北運、只愁原土不能存。
 辰は3月にあたり、水をもった土支である。木、水、土の根となり、木(甲)にとってはよい支であるといえる。
 辰は甲の衰、乙の余気であり、壬にとっては墓、癸にとっては還魂(養のこと)である。
 ただ一つのカギがあれば庫を開くことができるが、もし三冲(丑未戌、刑を含む)が隣りあえば辰の作用を失う。
 水土が強くても西北運に行けば、辰の土の作用は失ってしまう。

 2行目は単に十二運を並べただけのようですが、辰は水木の根となることができ、十二運的には弱くても根となるため役に立つ支であると言っていると思います。
 3行目の一つのカギとは戌のことで、いわゆる冲開のことを言っていますが、土支が多いと土が強くなり水や木の作用が減じられます。


巳宮詩

巳当初夏火増光、造化流行正六陽、
失令庚金生頼母、得時戊土禄隨娘。
三形傳送翻無害、一撞登明便有傷、
行到東南生髮地、燒天烈火豈尋常。
 巳月は初夏であり、火は光を増す。巳は命式や行運にとってもまさに太陽である。
 庚金は失令であるが生を受けるのに印を頼み、時を得た戊土は禄を得るのに娘を伴う。  申とは刑の関係であるが合であり害はない。亥と隣り合えば冲され傷つけられる。
 東南の行運に行けば、火が強すぎてかえって害をなす。

 2行目がわかりにくいのですが、おそらく次のような意味です。「庚金にとっては、夏で弱い季節であるが、巳は庚金の長生であり、蔵干に土もあり金を生ずるので、庚金が弱くなるわけではなく、戊土にとっては、建禄であり、また土の余気もあるが、金をもつので洩らされて土の作用は強すぎることはない。」
 3行目の伝送とは申のことであり、登明とは亥のことです。


午宮詩

午月炎炎火正升、六陽気続一陰生、
庚金失位身無用、己土帰垣禄有成。
申子齊来能戦剋、戌寅同見越光明、
東南正是身強地、西北休囚已喪形。
 午は5月でまさに炎天下であるが、丙に続いて一陰が生ずる。
 庚金は巳月とはちがって弱くなり、己土は建禄であり通根するため強くなる。
 申子がくれば戦剋が激しく、戌寅が一緒にあれば火が非常に強くなる。
 東南の行運では全く身強であるが、西北運では休囚であり、すでに形を失う。

 午月は火が強いのですが、夏至を過ぎれば陰に転じるということを言っていると思います。
 あとは訳の通りで意味はわかると思います。


未宮詩

未月陰深火漸衰、蔵官蔵印不蔵財、
近無亥卯形難変、遠帯刑冲庫亦開。
無火怕行金水去、多寒偏愛丙丁来、
用神喜忌当分曉、莫把圭璋作石猜。
 未は陰であり、火は徐々に弱くなる。官(土に対する木のこと)と印を蔵干としてもち、財は蔵していない。
 卯や亥が近くになければ作用は変わらないし、遠くに刑冲があっても庫はまた開く。
 火がなければ金水運に行くのを恐れるし、寒(水)が多ければ丙丁が来るのを欲する。
 用神喜忌はよく見極めなければならない。玉器を単なる石と勘違いしないように。

 2行目は亥卯が隣合わなければ木局は成立しにくく、丑があれば隣り合わなくても冲開の作用はあるという意味でしょう。
 圭璋とは玉器(宝石)のことですが、比喩的に富貴の命を指すものと思います。それだけ未月生まれを看るのは難しいということでしょうか。


申宮詩

申金剛健月支逢、水土長生在此宮、
巳午爐中成劍戟、子辰局裏得光鋒。
木多無水終能勝、土重埋金卻有凶、
欲識斯神何所似、温柔珠玉不相同。
 申は剛健で月支にあれば、水土の長生として水土を強める。
 巳午があれば炉中で金は剣や矛となり、子辰があれば水局であり、金はさらに光を増す。
 木が多く水(ここはテキストによっては火となっている)がなければ、木を剋すが、土が強ければ埋金となってかえって凶となる。
 申の性質が何であるかといえば、剛健であって、温柔な珠玉とは全く違った性質である。


 訳のとおりですが、総じて申は庚金に近い性質があるといえます。
 なお、五行十二運では土は火と同じとすることが多いのですが、古い四柱推命や七政占星においては土の十二運は水と同じとします。1行目はそういうことです。


酉宮詩

八月従魁已得名、羨他金白水流清、
火多東去愁寅卯、木旺南行怕丙丁。
柱見水泥応有用、運臨西北豈無情、
假能三合能堅鋭、不比頑金未煉成。
 八月で酉は従魁といわれる。金があり水が清ければ金は光を増す。
 火が多く木運に行けば寅卯を恐れる。木が強く火運にいけば丙丁を恐れる。
 辰があれば有用であり、西北運に臨めば金の作用が増す。
 三合があれば金は堅く鋭さをますといっても、庚金が精錬されていないものにも劣る。

 訳のとおりですが、酉は総じて辛金に近い性質があるといえます。すなわち酉は申と違って温柔と言っているわけです。
 1行目の後の句は辛金と壬水の関係のようです。
 3行目の水泥は丑ではなく辰でしょう。辰酉の合は金化すると古書にはあります。


戌宮詩

九月河魁性最剛、漫雲於此物收蔵、
洪爐巨火能成就、鈍鐵頑金賴主張。
海窟冲龍生雨露、山頭合虎動文章、
天羅雖是迷魂陣、火命逢之独有傷。
 九月戌は河魁といわれる。あまねく万物を収蔵する。
 広い土と大きな火がよく(金を)成す。金は火の鍛錬を受け鋭くなる。
 海中の洞窟は辰と冲して雨露が生じ、山頭は寅と合して文章を動かす。
 天羅は迷魂の陣というが、火命はこれにあえばただ傷つくだけである。

 戌宮詩はわかりにくく、私も正確に意味を把握している自信はないのですが、だいたい次のような意味でしょう。
 戌は火土金を蔵しており、辰を冲開して土の財である水の通根の作用を表し、寅と三合となれば火が強くなる。戌は火を蔵するといっても火の墓であり、火命は損なわれることがある。
 納音から、海窟とは壬戌、山頭とは甲戌のことではないかと思いますが、文章というのが判じかねています。


亥宮詩

登明之位水源深、雨雪生寒値六陰、
必待勝光方用土、不逢伝送浪多金。
五湖帰聚原成象、三合羈留正有心、
欲識乾坤和煖處、即従艮震巽離尋。
 亥は水を蔵干としてもち、雨雪は寒さを生じ、陰に転じて6番目となる。
 必ず午があったほうがよくさらに土があったほうがよい。申がなければ金を洩らすため金が弱くなる。
 亥はもともと湖であり蔵干は水であるが、三合では木局となり木が強くなる。
 寒すぎるので命式には陽の季節の支、すなわち丑寅卯辰巳午があったほうがよい。

 かなり意訳しましたので、上を読めばだいたいの意味はつかめると思います。
 亥は壬水と同じようなものですが、水が強すぎのを恐れ丙火や木局を喜ぶ、と考えればいいのではないでしょうか。




あとがき

 以上「十二支咏」でした。テキストは手元にある『淵海子平』を使っています。『命理正宗』にも挙げられてますが、若干違うところがあります。おそらく張楠が書き直したものと推測します。
 「十二支咏」は「十干体象」に比べると比較的わかりやすいと思います。また、いくつか重要な指摘があります。例えば、刑があっても必ずしもその支の作用が壊されるわけではないとか、同じ土でも湿土と燥土では違うとか。この辺は実際の命式をみるときに、そのよしあしの程度を測るのに役立ちます。命式例が増えていけばその辺の解説も出てくるでしょう。



   作成  2008年 8月 1日
   改訂  2017年 4月30日  HTML5への対応と若干の修正