大六壬はもともと卜占、すなわちある事件がどう変化していくかを見る占いですが、その中には風水法もあります。
ご存知のように、風水にはいろいろな流派があります。その中でも玄空派や三元派が、まあ主流といえるでしょう。それらは家宅の方位を使うわけですが、六壬の家宅占はそれらとは異なります。六壬の家宅占の基本は、事件、事象の推移の見方と同じで、占時を使うものです。ただ、その事象とか事件が家宅であるというだけにすぎません。ですから、他の陽宅風水とは違ったもので、家をみなくても占えます。
もちろん家をみてその方位を使って六壬課式を立てて占う方法もあります。この方法については別に解説しょうと思います。
ここでは占時を使った家宅占の基本を紹介することにします。
課式の立て方は、一般の六壬と全く同じです。適当な占機をとって課式盤を立てます。例えば、
①占いを相談されたときの時間
②家を見に行ったときの時間
③入居したときの時間
④その他のきっかけ
の時間を採って、課式を立てます。
普通の風水では立向坐山で盤を作りますが、六壬でみるときは、家を見なくても課式が立てられるのがいいところでしょう。ただし、同じ家でも時間が違うと課式盤が異なるということになり、その点は悪い、というか理解しにくいところです。
得られた課式を具体的な方位に置き換える場合には、天地盤を使うことになります。
なお、別の課式の立て方もあるのですが、ここではあくまで基本ということで、占時を使った方法で話を進めましょう。(私独自の方法を考え中。アイディアはあるのですがいまだまとまりません)
タイトルに書きましたが、六壬家宅占の基本中の基本は、日干を住んでいる人、特に世帯主、日支を家、とすることです。それらの表象はそれぞれ一課、三課とします。
日干が日支を剋するのは吉、日支が日干を剋するのは凶、という古歌もありますが、そうすると占った日の干支だけで決まりますので、六壬課式を出す意味がありません。日干支相互の関係ではなく、一課と日支、三課と日干、および発用と日干支の関係をみるのがよいでしょう。
吉凶については、古書にはいろいろと、またくどくどと書いてありますが、基本は干支、一三課の強弱、三伝との関係、十二天将の吉凶、象意、各種神殺から推測します。
引越しの場合については、特別な見方があり、日上神(すなわち一課)を旧宅、支上神(すなわち三課)を新宅とします。日上神が日干を剋すれば旧宅に問題あり、支上神が日支を剋すれば新宅に問題ありとして、とくに後者の場合は引越ししても長くは住めないとされます。
引越しの日取りの選び方については、後日、六壬択日法で解説したいと思います。
吉凶の見方を羅列するよりは、例を数多く挙げてコツを体得してもらった方が早いと思います。以下に、古書から現代までの例を挙げて説明します。ただし、課断については、原書の考え方に加え、私の考え方も入れてあることを、あらかじめお断りしておきます。
初伝 | 甲 | 子 | 白虎 | : | 白虎 | 青龍 | 太陰 | 太常 |
中伝 | 丙 | 寅 | 玄武 | 子 | 戌 | 卯 | 丑 | |
末伝 | 戊 | 辰 | 天后 | 戌 | 申 | 丑 | 壬 |
この家(アパート)を判断すると、日干は日上神、支上神から剋を受けており、住人には決していい影響をあたえません。発用は子で日干を助けますが、白虎凶神がついていますから、病気や怪我などが心配されます。
丑には土行で太常がついており、太常は日常生活や飲食を示すので、病気は胃腸関係が考えられます。
アパート自体についていえば、支上神には青龍がついていますが、空亡なので作りは贅沢ですが、あまり高いものではないでしょう。あるいは青龍を財とすれば、財が空亡なので、貧乏は免れません。
また辰戌の冲があり、青龍と天后がついていますから、夫婦不和の象がみてとれます。
これらは三課で起きており、さらに発用が四課ですから、これらの凶事は家が原因と考えられます。
では、どこが悪いと推測されるでしょうか。発用が子で白虎で、これは戌に坐していますから、西北西方がまず怪しいと判断します。また、三課の戌青龍も日干を剋しており、これは申に坐しています。すなわち西南西の方です。この方位は日本では裏鬼門と呼ばれる方位です。これらの方角および対冲の方角(すなわち東南東、東北東)に何らかの原因があると思われます。あとは現地で確認した方がいいでしょう。
事実、この家族がこの家に引っ越してからというものは、夫婦の不仲、妻に婦人病、子供は常に胃腸炎に悩まされている、とのことです。
子供の病気はどこに表れているでしょうか。この課式において、二課に卯があり、卯は子孫です。これは子と刑であり、やはり子供も病気がちになると判断できるでしょう。私の経験からは、子卯の刑は胃腸に不調がきやすいのですが、まさにピッタリ当てはまります。
初伝 | 辛 | 酉 | 太陰 | : | 螣蛇 | 貴人 | 螣蛇 | 貴人 |
中伝 | 己 | 未 | 貴人 | 午 | 未 | 午 | 未 | |
末伝 | 己 | 未 | 貴人 | 未 | 申 | 未 | 庚 |
日干庚は一課三課に生じられており、貴人ですから、悪いことはなさそうですが、二課四課は螣蛇で日干は剋され、しかも未との合ですから、何か驚くことがありそうです。そもそも八専課というのは、吉凶ともに続けて起きることが多いものですから、何か驚くことがあれば、それが続くとみます。
さて、この占例の場合、夜中に電話がかかってきての相談です。したがって急ぎの電話でしょう。夜中に何かに驚いてあわてて電話してきたものです。驚くこととはなにか。官鬼で螣蛇といえば、これは怪異でしょう。悪夢かもしれません。午に乗じて庚日であれば怪しいことがおこる、と『大六壬占術』(中井瑛祐著)にもはっきり書いてあります。発用が太陰で酉で、これは火行の死です。死霊の類と考えられます。
ではどうすればいいか。引っ越せばいいのですが、八専ですからなかなか動きがとれません。幸い中伝末伝は貴人で、遁干は己土ですから、徳の高い術者によって解決される可能性があります。ただし、今年は午年ですから、今年いっぱいは難しく、未年になって解決されるものと思われます。
家宅占で螣蛇官鬼(蛇鬼といいます)が出てくると、霊の仕業かどうかはさておき、家の怪異であることが多いものです。
初伝 | 甲 | 子 | 天后 | : | 玄武 | 太陰 | 天后 | 貴人 |
中伝 | 亡 | 亥 | 太陰 | 戌 | 亥 | 子 | 丑 | |
末伝 | 亡 | 戌 | 玄武 | 亥 | 子 | 丑 | 甲 |
日干甲は干上神を剋し支上神から生じられています。干上神は貴人で財ですから、現在は貯蓄してきているのでしょう。しかし支上神は空亡であり、日干を生じるには力不足です。病気を思わせるような凶神はありませんし、二課発用の子が甲を生じているので、今のところ本人自体には問題はあまりなさそうです。
日支をみますと干上神から剋となります。また支上神も水行ですから、干上神から剋されることになります。太陰ですから、陰気な感じの家でしょう。したがって家自体はあまりよくありません。
二課は天后ですから妻だととりますと、干上神、地盤丑との合かつ剋を受けますから、多少何らかの不調が考えられます。子は水ですから腎臓はたまた生殖系統が若干悪い可能性があります。しかし干上神と合ということは、夫婦仲はむしろよく、また日干を生じますから、頼りになります。
末伝戌は財で空亡ですから、破財の恐れがあります。
以上を総合すると、家に問題があり、いずれは改修した方がいいでしょう。
この相談のあと、相談者は家を改修することにし、この著者の師に改修を相談、いくつかの指示を受けた後は、財産もたまり、新居を購入することができたそうです。夫婦には子供がありませんでしたが、新居購入の年に子供をもつこととなりました。
子供を持つかどうかについては、ちょっとこの課では私には判断できません。支上神が長生ですがこれが子供を意味するとは難しいと思います。
初伝 | 亡 | 丑 | 勾陳 | : | 勾陳 | 天空 | 天空 | 太常 |
中伝 | 癸 | 亥 | 朱雀 | 丑 | 卯 | 卯 | 巳 | |
末伝 | 辛 | 酉 | 貴人 | 卯 | 巳 | 巳 | 丁 |
このような判断はなかなか下せるものではありません。一つ一つは理由がありますが、このような判断が下せるのは、名人邵彦和だからなせる業です。
補足しますと、酉は下女で亥は厠です。酉は死であり亥は絶で、酉が亥に臨む形ですから、下女が厠で亡くなると判断したわけです。家の前の大木とは卯であり、それが天空ですから枯れていると判断します。卯は酉と冲で巳酉丑で金局をなし卯を剋します。また発用土を剋し、勾陳は土神で争いごとですから、騒ぎと判断します。
発用丑は子孫爻で、勾陳が土で、支上神から剋されますから、子供に胃腸病という判断ができます。
豚小屋というのは、亥が丑に臨むことから判断しています。卯、酉の数は六ですから、6年後と判断しています。
なお、保儀とは武官の総称であった保義のことでしょう。つまり実名ではありません。
なお次の実例は1年後の話だと思われます。
初伝 | 丁 | 巳 | 太常 | : | 青龍 | 天后 | 勾陳 | 太常 |
中伝 | 癸 | 亥 | 勾陳 | 戌 | 辰 | 亥 | 巳 | |
末伝 | 丁 | 巳 | 太常 | 辰 | 戌 | 巳 | 壬 |
結局、童さんは引越しして凶禍を免れたということです。その後はこの家は廃屋となりました。
以上で、大六壬の陽宅風水への応用を終わります。家宅占ばかりでしたが、同様に陰宅風水も可能です。
実例をみてわかったと思いますが、普通の家宅占というか家相とは全く違うことがわかるでしょう。実際にその家を見るのではなく、家を見ずにその人や周囲で何が起きているかを占うものです。したがって、風水というよりは事象鑑定というべきかもしれません。
したがって、実際に行われている改築とかは、六壬風水でなく、別の家相術を使うのが一般的のようです。およそ六壬の術者は、他の占術もマスターしているのが普通ですので、とりあえず六壬で見ても、実際の解決は、奇門遁甲や玄空占術などを使います。
ただし、六壬での修造法もあります。『大六壬玉藻金英』に載っている方法ですが、これには、特殊な課式を使うので、ここでは省略しました。そのうちに紹介することもあるでしょう。しかし実際この方法で改修したという実例を聞きませんので、果たして使えるのかは疑問ですが。
風水をマスターしたいならば、六壬を掘り下げるよりは他の占術で行った方が時間の無駄にはなりません。歴史も長く実例も豊富ですし、何よりも術者、研究者が多いですから。