渉害論集

■ はじめに

 課のとり方に渉害法がありますが、その渉害のとり方については諸説あります。そのために、三伝の取り方が本によってまちまちです。
 その方法はすでに”三伝の求め方”で述べてますが、いま一度ここで整理しようというのが、この論集の目的であります。
 しかし、あとがきを読んでもらえばわかりますが、これにこだわるのは、労多くして益少なしの感もないわけではありません。しかし、いろいろな考え方を知っておくのは、益少なしと言っても、少なくとも有害ではないでしょう。
 まずは、名著「大六壬探源」から紹介し、そのあと諸論を紹介します。


■ 論集


「大六壬探源 推演篇 三伝」(抜粋)

渉害者四課中有両三四箇下剋上、或両三四箇上剋下而與日幹陰陽或倶比、或倶不比。則各就所剋之処歴帰本位、上剋者以剋我多者為初伝、下剋者以我所剋多者為初伝。
如以酉金論、逢巳火午火及巳下寄宮之丙火未下寄宮之丁火、皆剋我者也。逢寅木卯木及寅下寄宮之甲木辰下寄宮之乙木、皆我所剋者也。択其剋多者而用之、其中末亦同上例。是名渉害。
如渉害浅深相等、則取地盤上当寅申巳亥四孟者為初伝是名見機。
如無当四孟者、則取地盤上当子午卯酉四仲者為初伝是名察微。
如又無当四仲而孟神又相等者、惟戊辰日一課。取干上子為初伝。是名綴瑕。
(中略)
仮如正月甲辰日亥将卯時、第一課戌甲、甲木剋戊土是下剋上、戌到本位歴有八路、渉卯木為一重害、渉辰之寄宮乙木為二重害、連同甲木寅木共四重害。第三課子辰、辰土剋子水是下剋上、子到本位亦歴有八路、渉辰土為一重害、渉巳之寄宮戊土為二重害、渉未土為三重害、連同未之寄宮己土為四重害、渉戌土為五重外較之日上実多一重、此為渉害之深者、故取子為初伝。

 渉害とは四課のうち二つ以上の下剋上、あるいは二つ以上の上剋下がある場合で、しかもそれらがすべて日干と陰陽が同じであるか、すべて陰陽が違うかの場合である。この場合はまず、それぞれの剋の十二支から本位に帰る道すがらで、上剋の場合は我を剋するものが多いものを初伝とし、下剋の場合は我が剋するものが多いものを初伝とする。

 この部分の上剋と下剋は逆なのではないかというのが私の考えです。”三伝の見方”を参照ください。ただし、次の例でこの書ではどう考えていたかがわかります。

 例えば酉金についていえば、巳火午火および巳の寄宮である丙火、および未の寄宮である丁火はみな日干を剋するものである。また、寅木卯木および寅の寄宮である甲木、辰の寄宮である乙木はみな日干が剋するものである。その剋が多いものを選んでそれを発用とする。中伝末伝はすでに述べたものと同じようにとる。これを渉害と名づける。
 もし渉害の深さが同じ場合は、地盤の上が四孟(寅申巳亥)にあたるものを初伝とし、これを見機という。
 もし四孟がなければ、地盤の上が四仲(子午卯酉)にあたるものを初伝とし、これを察微という。
 以上に該当しないのは、ただ戊辰日一課だけなので、この場合は干上神の子を初伝とし、これを綴瑕という。
 例えば正月甲辰日で亥将卯時の場合、第一課は戌甲となり、甲木は戌土を剋すので下剋上である。戌は本位から八路ある。卯木が一つ、辰の寄宮である乙木が二つであり、甲木寅木をあわせて四つとなる。第三課は子辰となり、辰土が子水を剋すので下剋上である。子は本位から八路ある。辰土が一つ、巳の寄宮である戊土が二つ、未土が三つ、未の寄宮である己土が四つ、戌土が五つで、日上と比べると一つ多い。これを渉害が深い方とし、それで子を初伝とする。

 例の場合を表にすると、次のようになります。
 第一課の場合

--------------本位
------------

 第三課の場合

---------------本位
------------

 賊の数は第三課の方が多いですから、子の方が渉害が深いということになります。




「六壬大法 起例」(抜粋)

渉害多與少、孟仲戊上来

張耀文、佐藤六龍和訳
 「渉害」の多い方をとり、「賊」があれば「賊」の多い方、「賊」がなければ、「剋」の多い方をとります。
 もしも「渉害」の多さまで同じで、とても決められない場合は、「長生」の上にある十二支をとり、「長生」がなければ、「帝旺」の上にある十二支をとります。もしここまできてまた条件がぜんぜん同じで決められないときは、必ず「戊日」になっていますから、「戊」の上にある十二支(つまり干上神)をとります。

同上解説
 「渉害」のなかで「賊剋」の多いほうが初伝です。この段階で決まらなければ「孟仲」によって決めます。ここで決まらなければ、「干上神」を「初伝」とします。

 原文訳は上にあげたので省略。

 張耀文師は透派の掌門ですから、この訳や解説が透派の考え方といっていいでしょう。和訳によれば、渉害では賊を優先するとあり、解説では賊剋の多い方をとるとあります。この日本語訳はわざとぼかしているような感じがします。
 私が最初にこの本を読んだときは、解説の方の考え方をとって賊剋にかかわらず多い方と理解していましたが…。




「易学象数論 巻六六壬 渉害」(抜粋)

四課中有二三四課為上剋下剋而與日或倶比或倶不比則看渉害視地盤孟仲季。寅申巳亥為孟深子午卯酉為仲浅辰戌丑未為季尤浅。取深者為用若倶深則剛日用日干上辰柔日用日支上辰。
仮如己巳日功曹加未四課寅己、酉寅、子巳、未子、皆上剋下、寅己子巳為陽比酉寅未子為陰比己陰日不用陽比而両陰比則視下之寅為孟子為仲故取酉寅為初伝辰酉為再伝亥辰為三伝。
仮如戊辰日功曹加未時四課子戊、未子、亥辰、午亥、三下剋上戊陽日除亥辰陰比不用子戊午亥倶陽比而地盤又倶孟深子戊日干上辰剛日故用為初伝。

 四課中に二三四課が上剋または下剋である場合は、日と陰陽が同じか違うかをみて、さらに渉害というのは地盤が孟仲季の順にとる。寅申巳亥は孟といい深いとする。子午卯酉は仲といい浅いとする。辰戌丑未は季といい最も浅いとする。深いものを発用として、もしともに深いのであれば陽日であれば日干の上神を発用とし、陰日であれば日支の上神を発用とする。
 例えば己巳日で未が加わる場合の四課は、寅己、酉寅、子巳、未子、となりみな上が下を剋す。寅己子巳は陽であり、酉寅未子は陰比であって、己は陰日であり陽比はとらず陰比をとる。さらに地盤をみると、寅は孟であり、子は仲であるから、酉寅を初伝とし、辰酉をさらに導き出して三伝とする。
 また例えば戊辰日で未が加わる場合の四課は、子戊、未子、亥辰、午亥、となり三つが下剋上となり、陽日なので陰である亥辰を除くと、子戊、午亥が残りともに陽である。さらに地盤もいずれも孟である。この場合は戊日は剛日(陽)なので日干上神をとり、子を初伝とする。

 ここではいわゆる渉害の深さについては論じられていません。すなわち陰陽が同じ場合は、すぐに地盤の孟仲をとるというルールを採用しています。ここがこれまでの論と大きく違うところです。中井瑛祐の「大六壬占術」もこの取り方を採用しています。
 ちなみに、己巳日の場合の渉害の深さを見てみますと、二課の場合は、

-------------本家
-------

 四課の場合は、

-----------本家
-------

 この場合上剋下ですから、剋の数の多い方をとると初伝は酉になります。賊剋合計の数においても酉が多いですから、やはり初伝は酉ということになります。この例においては、渉害の深さと孟仲が一致していますから、問題とはなりませんでした。




「大六壬大全 巻六 渉害課」(抜粋)

凡課有二上剋下或二下剋上、與今日倶比倶不比、則以渉地盤帰本家、受剋深処為用為渉害課。渉者度也。害者剋也。若五行属土、則以土為深浅、如亥加丑土前行歴辰戌未己戊土五位五重帰本家、亥位不論孟仲季比用、止取渉度害剋位之最深者。故名渉害、占者凡事艱難、必有稽遅、然歴尽風霜、而後得純坎之体、乃苦尽甘来之象也。

 およそ課に二つの上剋下あるいは下剋上があり、日と陰陽が同じまたは違う場合は、地盤をへて本家に帰るものをもって、剋を受けるものが最も多い場合を発用とし、渉害課という。渉とは渡るということである。害とは剋のことである。もし五行が土であれば、土の深浅をもってみる。もし亥が丑土に加わっていれば、丑を先にたどっていくと、辰戌未己戊の5つをへて本家にもどる。亥が孟仲季や比用を論ぜず、渡っていく間に剋を受ける最も深いものをとる。よって渉害というのである。占う者はおよそ事は困難があり、必ずつなぎとめられたり遅かったりして、そして風霜を経ることになるのである。さらに易でいう坎卦にあたり、苦労を尽くして報われる象にあたる。

 「大六壬大全」では、剋とか賊とかを区別していません。しかし、例の場合は亥丑であり、丑が剋であるとして、土のみをとっています。すなわちこの場合は賊のみをとっていることになります。よって上剋、下剋を区別していることがわかります。
亥丑の場合をみてみると、

------------------本家
----------

 ここで注意すべきは、丑を入れると賊は六つになりますが、本文中では丑を入れていません。ここは議論のあるところで、この場合は丑の寄宮が癸だから問題になりませんが、寄宮が同じ五行の場合は数が変わることになります。




「注解大六壬占験指南 占法基礎 渉害」(抜粋)

渉害一課之起法、不論渉害帰本家多少而定、而是直接先孟後仲取用、方為正確、此為古法原委、徐道符「大六壬心鏡」、邵彦和「六壬断案」、凌福之「畢法賦」、陳公獻「大六壬指南」、郭御青「大六壬大全」、劉赤江「六壬粋言」等々壬書数十種、実際上均用此法。
「黄帝金匱玉衡経」是目前所見最早的壬書之一、書中之「金匱章」載;「第四経曰;日辰陰陽中有両比者、以其始入渉害深者為用、是所謂察其微、見其機者。言起季仲為微、在孟為機、機者憂深、微者憂浅、為易過也。」由此可知、深浅之含義、並不是以剋多者為深、剋少者為浅。而以加孟上者、為憂深、為機。加仲季上者、為憂浅、為微。先取孟上神為用、為見機、無孟上神、則取仲上神為用、為察微。此為渉害之本意。後世諸家、以上神暦帰本家看受剋或所剋多少、以受剋或所剋多者為用、已非古法之原委。

 渉害課の発用の取り方のひとつが、本家に帰るときの渉害の多少を見ずに、直接孟を先、仲を後として発用を取る方法があるが、これが正確であり、古法のもともとの取り方である。徐道符「大六壬心鏡」、邵彦和「六壬断案」、凌福之「畢法賦」、陳公獻「大六壬指南」、郭御青「大六壬大全」、劉赤江「六壬粋言」等々、六壬の書は数十種あり、実際は同じようにこの方法をとっている。
 「黄帝金匱玉衡経」が現在のところ最も早い六壬の書であろうが、書中の「金匱章」には、「第四経に曰く、日辰の陰陽が同じ場合は、まずその渉害の深いものを発用とする。これはいわゆるその微を察し、その機を見るというものである。これはいわば季仲から起こすのを微といい、孟をみるのを機という。機は憂いが深く、微は憂いが浅い。簡単すぎるとする。」これによってわかることは、深浅の意味は、剋が多いのを深いとか、剋が少ないのを浅いと言っているわけではない。すなわち孟上を加える場合は、憂いが深く、機とすると言っているのである。仲季上を加えるのは、憂いが浅く、微とするわけである。先に孟上神を取って発用とするのを見機とし、孟上神がなければ、すなわち仲上神を発用とするが、それを察微という。これが渉害の本意である。後世の諸家は本家に帰るときに剋を受けるあるいは剋するものの多少で、剋を受けるまたは剋する者を発用としているが、これはすでに古法のもともとの取り方ではない。

 陳剣師は、古法こそ絶対、という立場です。これはこれで尊重すべき意見です。ただ、「大六壬大全」は上でも述べたとおり、渉害の多少をみているはずですが…。



各書の渉害課の違い

 いろいろな本で渉害法がどう違うかを表にしてみました。なお初伝だけを比較しています。(一部返吟課も入っています)


日干支丁卯戊辰庚午庚午癸酉庚辰甲申己丑庚寅辛卯甲午
干上神
大六壬大全鈐
大六壬探源
六壬占卜講義
大六壬占術
干支六壬大法

日干支甲辰甲辰甲辰己酉乙卯乙卯癸未己卯戊戌己亥癸卯
干上神
大六壬大全鈐
大六壬探源
六壬占卜講義
大六壬占術
干支六壬大法

 その他の書を区分すると次のようになっています。(一覧表のあるもののみ)

  「大六壬大全鈐」派 :
   「大六壬予測学」「六壬鑰」「六壬尋源」「六壬正断」「六壬神断極秘伝」
  「大六壬探源」派 :
   「六壬易知」「六壬演課断三伝」「選挙予測之研究」

 渉害法による違いは、22課あることがわかります。このうち「大六壬占術」だけは、賊剋の多少で初伝を決めるという方法について述べてません。よって「大六壬占術」は首尾一貫していると言えます。ところが、あとの書には渉害法の解説がありますが、「占卜講義」は三伝の取り方には、どうも渉害法を使っていないようで、単に「大六壬大全鈐」(古今図書集成に収録)の引き写しという感じがします。
 私思うに、渉害法をきちんと取り入れて、早見表にして公刊したのは「大六壬探源」が最初ではないかと思います。


■ あとがき

 以上、渉害について論をあげてみました。
 渉害法のとり方で初伝が別れる場合というのは、よくよく調べてみると、720課のうちの22課あることがわかりました。すると3%ぐらいですから、比較的低いといえるでしょう。
 ですから、渉害課の覚え方としては、先孟後仲でいいのかもしれません。渉害課の計算はめんどくさいですし、古法ではそれで占っているわけですから。それで確率3%ぐらいならよしとするのもありでしょう。まあ、少し乱暴な考え方ですけど。
 なぜ、渉害という考え方が生まれたかについては、私も研究していませんので知りません。興味のある方はいろいろと調べてみてください。少なくとも「大六壬探源」以降の書の多くは、いわゆる渉害の多少でみるようです。




作成 2008年 5月19日
改訂 2021年 1月16日  HTML5への対応