四柱推命の実占 ~ 難解な命式


はじめに

 ここでは、私が結論は出しているものの、看るのが難しいと感じているもの、あるいは先師との意見の違う命式を挙げています。構成としては、先師の命式の解釈をあげて、自分はどう考えるかを述べています。それによって、皆さん自身でどちらが「適当か」を判断していただければいいかと思います。
 占いは最終的な目標は当たるか当たらないかなので(否、転ばぬ先の杖という役割は依然としてあります)、「適当か」という表現は、少なくとも「占う」という目的からすれば適当ではないでしょう。しかし、私は議論のネタを提供できれば、それでいいと思っています。ちょっと話が堅くなりすぎましたか(苦笑)。
 もちろん、難解な命式はこれだけではありません。実際のところ、私は、実占で紹介している例の半分ぐらいは判断に迷っているのです。
 また新たな発見があれば、すでに挙げた例でも内容を適宜変更していくつもりです。

- 内 容 -



例1 宋子文

 宋子文の命式についてみてみましょう。富貴の命とされていますが、難解とされている命式です。
 宋子文は、中国国民党政府の政治家です。1915年にハーバード大学卒業、1925年から広東国民政府財政部長などを歴任し、1945年行政院長となります。1949年に職を辞してフランスに渡り、1950年にアメリカに移住します。1971年に死亡。いわゆる宋家三姉妹の兄弟で、靄齢、慶齢は姉、美齢は妹にあたります。
 なお下記の生年月日は徐楽吾によっています。


1894年12月4日卯時生 男命

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【"hiroto"的審査】
 五行強弱:木土金水火
 食神格  喜神:金土  忌神:火木水
 乙庚干合、卯辰東方



【各師の意見】
 宋子文の命については、先人たちがいろいろと意見を述べていますので、簡単に紹介したいと思います。それだけ難解というか意見が分かれる命式だということです。

 ○徐楽吾師の意見
 (1)財ははっきりとあるが官は明らかでない。
 (2)庚辰は魁罡で自旺であるから財官に堪える。
 (3)食神が強いが財が洩らし官を傷つけることはない。
 (4)乙庚の合で財星は我につく。
 (5)財旺暗生官で配合は中和であり必ず貴となる。

 ○尤達人師の意見
 (1)金水傷官生財である。
 (2)甲己の合土が庚乙の合金を生ずる。
 (3)年支の午は官清印生、気勢豪雄である。
 (4)早年に火土があってよい。
 (5)中年も東方土金で富貴を兼ねる。
 (6)晩年も水火既済で巨富となる。

 ○鐘義明師の意見
 (1)庚金は病月の生まれで弱い。
 (2)辰に坐し午に官印相生を得る。
    (午の蔵干に火土がある)
 (3)財星が多くて強いが従財ではない。
 (4)財多身弱で印を用とする。
 (5)印は財に破れるため良心意識は淡白。敗國喪徳之倫である。
 (6)徐大師は宋家が強いときの占いでありあえて真実は語らなかった。

 ○李銘城師の意見
 (1)甲木偏財格とする。
 (2)午中の丁火正官が乙木正財を洩らすので喜神。
 (3)己土は乙木によって剋制されない。
 (4)この命式は乙木があることによって富貴といえる。
 (5)滴天髄のいう「局全君子之風、用顕多能之象」に当たる。

 以上は各師の意見です。参考にしてください。  次に他の実占のように、"hiroto"的判断を述べます。

【命式】
 庚金日主は冬生まれですから季節的には弱いですし、根もありませんから弱い日主です。木は2干あって亥卯辰の根があります。しかも日主との合もありますから、極めて影響力の強い五行といえます。己土は辰に通根しています。水がその次で火が最も弱いといえます。
 財が強いのですが、印もそれなりに強いので、従財格にはなりません。一応格局は、月支蔵干の壬をとって食神格としますが、透干していませんので、影響力の強い財格ととるのは、それはそれでいいと思います。
 すると、普通であれば、日主を強める土金を喜神、日主を弱める火木水を忌神ととることになります。基本はそれでいいと思いますが、ここに調候という視点が加わることで、少し喜忌が変わります。

【判断】
 上で「調候という視点が加わることで少し喜忌が変わります」と書きました。調候や古典に記載されていることを引用しながら、私の判断を述べたいと思います。
 『造化元鑰』によれば「庚日主亥月生まれは火を喜ぶ」とあります。すなわち冬の金ですが、俗にいう「金寒水冷」であり、また冬の木は凍木となり木としての働きを失います。ですから、金を壊さない程度の官殺(すなわち火)は喜神といえます。そうすると、かろうじて午中に火があるので貴命の資格あり、といえるとは思いますが、午だけだとちょっと弱い感じです。ただ行運に丙火が巡ってくれば、明らかな解凍の作用がでます。
 ところが、古書には「大貴は財を用いて官を用いず」とあったり、「財は暗に官を生ず」といわれたりしています。すなわち、貴命というのは官だけでなく、財の場合もあるということです。
 『三命通会』の庚辰日の己卯時をみてみますと、「年月に木気通じ及び倚托有る者は貴」とあります。木気とは財であり、倚托とは頼るものですから印比劫のことです。また己は印であり、さらに印比劫があるというものは財多印旺身強は貴命であると言っているわけです。
 さらに『金不換骨髄歌断』の庚日亥月生まれには「庚金十月は日干衰え、有土相逢は亦妙哉。順運必然逆運より強、中年惟だ厄災あるを恐れる」とあります。(私の抄訳を参照してください)有土相逢とは土が日主を生じていることですから、まさにこの命式のとおりです。行運はまさに順運であり、この歌のとおりとなっています。
 以上の3書をみてみると、この命式は貴命であると判断することができます。この3書は古典と目される本ですから、宋子文の命式を想定して書かれているわけではありません。そして難解どころではなく、はっきり貴命だと判断できる命式です。しかしながら、古典の文章をすべて記憶するのはどだい無理な話です。こういう例を積み重ねて覚えていくしかないでしょうね。
 行運をもう少し細かくみますと、初年に丙丁運が来ます。これは幼年少年時代の頭脳のよさを示しています。印が喜神で強いのでなおさらです。丑運戊運と喜神運が続きます。寅運は亥を合して弱めるので喜神運、卯運は忌神運で財を強めますのでよくありませんが、幸いこの時期は流年に申酉戌と西方年運が巡ってきており、身強となりますのでさほど悪くはありませんでした。むしろ財強身強で金回りがよかったといえるでしょう。
 51歳から辛運に入りますが、辛は庚金を助ける作用はなく己土の印の作用を奪う、いわゆる「劫財奪印」の作用となります。したがって、この時期に職を辞して海外に行きます。そしてこのころ日本は敗戦となるわけですが。
 77歳は未運辛亥年です。亥未は亥卯未の会局をなし財を極端に強め、辛はいわゆる奪印で庚は弱まります。その前の癸運で亡くなってもおかしくはなかったと思いますが、火土の流年であったためかろうじて大丈夫だったということでしょうか。
 なお、庚辰日生まれは魁罡格となります。庚辰日生まれといえば、前台湾総統の陳水扁もそうです。


例2 某女命

 某女性の命式をとりあげます。『鵲橋命理3』では第三十三講婚姻幸福の命の練習問題として取り上げられているのですが、私には難問でした。その理由については後述します。
 この本によるとこの女性は乙巳大運で結婚し、夫は良い人であった。甲辰運は順調であったが、癸卯運1974年甲寅年に病気で夫を喪ったとあります。それ以降も生活は順調であるが、唯一夫を喪ったことがうらまれるとあります。

『鵲橋命理3』

1922年9月4日辰時生 女命

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大運は原文を10年としているが、"hiroto的"計算で満8年とした。


【"hiroto的"審査】
 五行強弱:金木水土火
 正官格  喜神:木水  忌神:土金火
 乙庚干合、申亥害、申戌金方




【朱鵲橋師の回答】
 (1)官印財がみな強いが、身弱である。
 (2)身弱であるから印比劫を喜び、食傷財を忌む。
 (3)印が透干しているので、官殺は喜神である。
 (4)官は日主と合しており、夫婦の情は深い。婚姻に関しては全く宜しい。
 (5)しかし大運は不順である。丙午年は当婚の年だが、食傷年で恋愛に不利。
    丙午の結婚は避けた方がよい。
 (6)乙巳大運は官印相生であり結婚によい。
 (7)癸卯運は、癸が戊と合、卯が戌と合で傷つけ、成化する(ので悪い)。
 (8)これにより、この命式では食傷が最も悪い。
 (9)この命式では財が通関になっており、重要である。
 (10)甲寅年は劫財が財を剋して、食傷が夫星を剋することになる。

【命式】
 五行の強さをみると、壬水は3支に通根しているので強いといえます。戊土は2支に通根しているのでやはりそれなりの強さがあります。
 さて問題は乙と庚の合です。季節は秋ですし申戌の方、戊や辰の印もありますからこの合は化することが考えられます。化干するとすれば化金格となり、従旺格の扱いになりますから、金土が喜神、火木水が忌神となります。
 しかしこれは迷うところです。というのは乙木が庚金の合を受けて金化してしまうかという点です。普通は乙庚の合は乙が弱くなるため金化しやすいと考えられます。この命式の場合、乙は亥辰に通根、亥は木の長生に坐しているので決して弱くはありません。乙木は庚金に引きずられず単なる干合と考えられなくもありません。ここは術者によって意見の分かれるところでしょう。この場合は木水が喜神、金土火が忌神となります。もっとも調候的には丙火が喜神となります。命式中の戊土は壬水による乙木の漂浮の害を防いでいる役割も果たしており、単純に悪いとは言い切れません。
 この命式の難しいところは、化すると考えるかどうかという点と、戊土や壬水の喜忌が必ずしも五行の喜忌と一致しない点にあると思います。

【判断】
 朱鵲橋師は化金格とは考えていないことは明らかです。私も化金するには乙木が強すぎると思うので、単なる干合だと考えます。
 官殺は喜神であるという言い回しは、理解はできますが、あまりよくない言い方だと思います。官殺は忌神なのですが、合による結びつきがあり、また官殺に堪えられるだけの日主の強さがあるので、官殺の悪さは極端には出てきません。夫婦の情は深いというのはその通りでしょう。
 一方、(10)の説明は何ともわかりません。甲寅年は劫財の年で財星を傷めるというのはわかります。月運に火運が巡ってきたときには、土が金を生じる作用、また火を洩らす作用が弱くなっているために夫星を剋することになるというのでしょうが、私は丙火は調候喜神であるし、丁火は壬水を合去するため庚金を剋すことはないと思います。甲寅年の庚金が弱くなる理由は別にあると判断します。
 以下は"hiroto的"判断です。
 28歳(原文では数えなので30歳)から乙巳運ですが、乙運は木運で喜神ですが、巳運は亥を冲して忌神です。もっとも申と合ですから解冲するので、冲の凶作用は減じられます。金の根となりますが、火も蔵しているためさほど強い根とはなりません。
 甲辰運は当然喜神運です。次の癸運ですが、癸が戊を合去して財が官を生ずる作用がなくなります。こうなると正官庚は極端に弱くなります。また壬印が直接乙を生じます。年運は甲寅で、甲は乙木を強め、寅は申を冲しますので、ますます庚金は弱くなります。もちろん寅と亥は合するので、冲の作用は減じられますが、それにしても攻守逆転というか、日主乙が非常に強くなり、逆に庚正官は極端に弱くなりますから、夫の方が健康を害し亡くなるということになったと判断されます。
 ただ、本人は強くなるのですから本人自体はとくに健康面とかで悪くなるわけではありません。財がなくなるので、経済的に少し苦しくなる可能性はありますが、癸の大運を過ぎますと戊財が戻ってきて、喜神運が続きますので、それ以降も生活は悪くなかったわけです。
 どこかにも書きましたが、財で官を支える命式では財が弱くなると官も失うということがあります。官は職業であり、女性にとっては夫です。


例3 張国栄

 寿夭編の例6にも挙げていますが、ここで再チャレンジです。
 張国栄(レスリー・チャン)は、香港出身の歌手、映画俳優で、ファンは世界中にいます。1977年に芸能界にデビュー。その後やや売れない時期もありましたが、1987年の「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」などの映画に主演するころから、その地位を不動のものにします。しかし、2003年にホテルから飛び降り自殺します。なお、独身でバイセクシュアルのうわさもありました。(本人が冗談で言ったことがそのまま信じられたのかもしれません)

『古今七政五余析義』

1956年9月12日巳時生 男命

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【"hiroto"的審査】
 五行強弱:火水木金、土はなし
 偏印格  喜神:金水  忌神:木火土
 丁壬干合、巳午火方、申酉金方



【郭中豪師の意見】
 『古今七政五余析義』は七政の本なのでここの意見は七政の判断です。四柱推命の参考にはなりません。あしからず。
 (1)命宮卯で、神経過敏、挫折は多いが、個人の力量で努力する。
 (2)命主火星は亥にあり、孤辰。婚姻は不利。
 (3)官禄宮が午にあり芸能界で発展する。
 (4)男女宮命主火星に対して、主星の木星が生ずるため、ファンが多い。
 (5)1998年は大限午宮で弔客を見る。母を亡くす。
 (6)2003年、大限午は血光の災。その他も死限の徴候が多い。

【命式】
 壬日主の酉月生まれですから季節的には強い日主です。財が最も強く、次は日主水、乙木と続き、地支では金が強く、土は最も弱いです。格局は月支蔵干をとれば偏印格としますが、財帛格と考えてもいいでしょう。喜神は金水、忌神は土木火となります。
 さて、寿夭編の例6においては「この命式の良さがよくわかりません」と簡単に書きましたが、この辺をもう少し追究してみます。
 まず日主壬は申に通根しており、また金の生を受けています。したがって十分強い水です。乙木は壬を洩らすはずですが、壬は丁との合で乙木にかかわっていられません。(この比喩が適当かどうかはひとまず置いといて)財の作用を直接的に受けます。貴命というよりは富命でしょう。ただし、前にも挙げましたが、財があまりに強い場合は富よりも大貴命とされますから、この命も大化けする可能性を秘めてはいます。
 印によって日主が強い命式の場合は、財が印を抑えて日主を弱めるのがよく、また財が強いのは比劫で財を抑えるのがよいとされます。この命式の場合どちらもあてはまりますから財印ともによいといえます。これはこの命の強みです。
 壬午日は禄馬同郷格と言われ、日主が強ければ、財官食傷を喜びます。私はこういう格は見なくていいとは思いますが、一応参考にしますと、行運は第二運から北方運に入り、地支の火を弱めて相対的に日主が強くなります。ですから、年運しだいで発達する可能性がぐっと高くなります。しかし、亥運にしろ子運にしろ、時支や日支と冲となるので、家庭的にはあまりよくないでしょう。
 日支胎については、増永氏の「新推命学」によれば、末子多く父親と縁薄い、総じて女性的で、気が変わりやすい。多趣味、多角的な才能。己の職業にまい進すれば晩年は成功する、女性に甘く誘惑されやすい、などとあります。何となく当たっているような。
 乙丙丁といえば、神殺に詳しい人はすぐに三奇というでしょうが、この場合は壬が間に入っているので成立しません。しかし三奇がそろうというのは結構着目してもいいのかもしれません。
 さらに神殺をみてみますと、酉は咸池桃花であり沐浴です。また日支午は月支からみた桃花となります。なんとなくセックスアピールがあり、女性にもてる命式です。また財との合ですから、なおさらそういうことがいえます。財が強いのでファンを大事にするはずです。

【判断】
 さて、行運をみてみます。
 1998年は42歳辛運戊寅年です。辛は丙を合して取り去りますので原則として喜神ですが、丙は壬と干関係がよい財ですので、全くの喜神ともいいきれません。流年支寅は申を冲し忌神です。申は印で喜神ですから、母を喪うということは推測できます。また戊は壬を抑えて、これによる精神的な打撃は大きかったものと想像されます。
 2003年47歳丑運癸未年で、自殺したのは4月1日ですから月運は乙卯となります。丑は金水を含み、また巳酉丑の金局となりますから喜神運といえます。また癸年運も水ですから原則として喜神と判断すべきでしょう。しかし未は巳午未の南方を形成し、これは火が強くなりすぎです。水火とも強くなり、交戦状態といえます。精神面は落ち着きません。月運は乙卯とも全くの忌神です。とくに卯は酉と合して根を取り去ります。大運丑と年運未の冲はたいしたことないと思うのですが、癸と丙の剋と合わせると一応変則天剋地冲となります。まあここまで考えなくていいと思いますが、冲剋が多いのは、成敗は別の問題として、精神的にはあまりいいことはありません。
 あと、この時期は水から木の転角期に近い時期であることは指摘しておいたほうがいいかもしれません。
 以上みてくると、この命式のよさは漠然とはみえてきます。少なくとも好命の部類とくに富命であることは間違いありません。さらに、財印強く女性にもてることなどを考えると芸能界で活躍というのもうなづけます。しかし、この命で世界的なスターになるとは私にはやはり判断がつきません。国内で結構売れる芸人というのならわかりますが…。


例4 腎臓病手術の例

『八字応用学宝典』

1949年1月16日亥時生 男命

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【"hiroto"的審査】
 五行強弱:土火木水金
 正官格  喜神:火木  忌神:土金水
 子丑合、丑午害、亥子丑水方



【陳天宝師の意見】
 (1)水が当令しており、非常に寒い命式である。
 (2)32歳庚申年大運辰、申子辰が水局をなし、腎臓病を発し手術となった。

【命式】
 丙日主の冬生まれですから季節的には弱いです。しかしながら午に坐しています。丙は地支に通根すれば寒すぎる害を緩和します。また子丑は、六合であり水としての作用は減じられています。この命式が非常に寒いとは思えません。
 土は戊己と2干あり、弱いながらも丑に通根しています。私は採用しないのですが、子丑は合して土に化するという人もいます。さらに丙火や午火によって生じられており、比較的強いといえるでしょう。乙木は亥に通根していますが、数としては1干1支で位置的に遠いです。したがって五行の強さは土火木水金の順で、金はほとんど命式中にありません。
 格局は正官格としますが、天干に出ていないのであまり意味はありません。内格で食傷が強いので、原則として火木を喜神として、土水金を忌神とします。

【判断】
 さて、この命式ではどうして腎臓病を発して手術となったかというところが問題です。腎臓は水行の五臓です。この命式では、水行は忌神で亥子丑で一応北方をなしており、強そうですが、子丑の合がありそれほど強いわけではありません。天干にも壬癸はないわけですし。
 ではなぜ辰運庚申年に腎臓病を発したのでしょうか。師の指摘のとおり、大運に辰、年運に申がきて、申子辰の会局が成立するのは確かで、これにより六合による縛りが外れます。また亥子丑の方もありますから、方も局もあり水は非常に強くなります。忌神の水が強くなるので、これだけでも腎臓病という判断はできます。しかし、私思うに庚がここに大きく関与していると思っています。
 庚はここでは乙木を取り去ります。化金はしません。すると、丙の作用は戊に作用して戊は強くなります。忌神の土水が強くなり、しかも水が傷を受ける立場ですから、なおさらです。
 水が多くなれば、膀胱や腎臓をやられるのはそうなのですが、土剋水(土水交戦)ならばなおのこと腎臓病となると考えます。そしてこの命式では水は忌神で強くなりますが、庚が乙を合したために土も極端に強くなり土水交戦となったものでしょう。さらに午が合や冲、刑に逢えば、命も失ったかもしれませんが、幸いにして手術で終わったものと思います。


例5 胃癌病逝の命

『鵲橋命理3』

1954年12月16日未時生 男命

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丙寅年(32歳)已常見胃病。丁卯年(33歳)証実胃癌。庚午年(36歳)刑冲畳畳如此厳重、終於辞世。



【"hiroto"的審査】
 五行強弱:火木水土、金はなし
 従旺格  喜神:木火(土)  忌神:金水
 子午冲、午未合


【訳文】
 丙寅年(32歳)すでに慢性の胃病。丁卯年(33歳)胃癌とわかった。庚午年(36歳)刑冲が多く厳しいためついには亡くなる。

【朱鵲橋師の分析】
 (1)正官が月令だが、午に挟まれており弱い。
 (2)丙を巳とみて、巳午未の火方となり、正官子を攻め、地支は動揺し弱い。
 (3)己卯大運は時柱の反吟である。
 (4)卯未は半会し、卯は子を刑する。非常によろしくない。
 (5)丁卯年は卯が未を半会し、喜神未は剋される。また喜神子は2つの卯に刑される。
 (6)庚午年は庚が乙と合し、午はさらに多く子を冲する。
 (7)その他も剋や刑が乱れる。
 (8)この命は未(土)と午(火)が喜神であり、土は胃、火は血で、いずれも傷つけられるためであることがわかる。

【命式】
 丙日主で冬生まれですから、季節的には弱い日主です。しかし天干には比肩と印しかなく、地支も午未で構成されていますから、この命式では相対的に強い日主といえます。甲乙木は未に通根していますが、午未の合があって根としての作用は弱いです。
 なお、この命式では、地支が子午の冲、午未の合となっていますので、地支の通根の作用は弱くなります。こういう場合は行運の地支の影響を受けやすいです。
 命式で日主が強く官殺がありませんから従旺格ととります。すると喜神は火木で忌神は金水となります。土は微妙です。

【判断】
 従旺格というのは日主が強く安定した運勢を持つのが普通ですが、残念ながらこの従旺格はあまりよくありません。というのは、丙が強すぎて甲乙をかえって弱めてしまうからです。もちろん従旺格なので木は喜神には違いないのですが、印のよさは出てきません。こういう場合には地支に水、とくに辰土(湿土で木の根となる)があるといいのですが、わずかな水分である子も午に冲されて力がありません。したがって、この命は若くして亡くなる可能性の高い命です。
 さてこの命で何が難解かといえば、朱鵲橋師の分析にはとくに反論はありませんが、この命式が胃癌になると判断できるかどうかということです。この命式行運からは、木焚火烈は読み取れて、病気で亡くなる可能性が高いことはわかります。しかし、肝臓や神経の疾病、あるいは循環器系統の亢進による病気、例えば高血圧や脳出血などは予想がつくのですが、胃癌というのはなかなか思いつきません。しいていえば、行運で木が強くなり未土がやられるということですが、胃癌と判断することができるのはよほどの達人でありましょう。
 子未の相害(穿)は胃病を患いやすいとされますが、子は午に冲されており、子未の相害の影響はほとんどないと思います。


例6 胡漢民

『命理通鑑』

A1879年12月9日酉時生 男命

.5141312111
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『命理一得』

B1879年12月19日酉時生 男命

.5444342414
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あとの説明を容易にするため、上をA、下をBとしています。(生年月日前の記号)



【"hiroto"的審査 A】
 五行強弱:火土木水金
 七殺格  喜神:水土  忌神:木火(金)
 子卯刑




【"hiroto"的審査 B】
 五行強弱:火土水木金
 正官格  喜神:水土  忌神:木火(金)
 子卯刑



【各師の意見】
 ○尤達人師の意見
 (1)官星が当令しており、印を用神とする。
 (2)印を損なう財を忌む。
 (3)傷官が印地にあり、劫財は財郷におり、貴にして富ならず。
 (4)辛未庚運は財劫相停、革命事業に力を入れる。
 (5)午運は四冲で58歳丙子年さらに冲が重なり、急症にて死。
 (6)子は帝座で正に端門に対し、東西を分ける。格局堂皇。

 ○徐楽吾師の意見
 (1)解凍除寒の力がない。
 (2)尤達人師の(6)に同じ。
 (3)地支財官印三正をともに備える。
 (4)尤達人師の(3)に同じ。
 (5)午は丁己の根となるが、子と冲するので虚神である。
 (6)金水運では日干太弱、財官の任に堪えず、位あっても虚、志を得ない。

【命式】
 胡漢民は中華民国の政治家です。この政治家の生年月日が、上の両者では10日違いますが、Wikipediaでは1879年12月9日となっており、『命理通鑑』(すなわちA)の方になります。
 しかし、徐楽吾師の方の生年月日は『滴天髄補注』にも採用されており、しかもそれが広く引用されています。さてどちらが正しいのでしょうか?
 彼の事跡は、Wikipediaやさまざまなサイトを参照してください。
 A,Bとも日主が強いので、日主を弱める五行がよいでしょう。Aは丙日主が寅に通根しているため強く、丙が並透しているので、強すぎるぐらいです。ただし、地支には通根している支は寅しかなくまた季節も冬ですから従旺格というほど強くはありません。一方、Bは丙日主ですが、通根していないので全く強くありません。むしろ地支に水が多いため逆に行運によって水が強くなることもありえます。

【判断】
 結論からいうと、私はAが正しいだろうと思います。
 判断材料の一つは、1936年丙子年56歳(数え58歳)に脳溢血で亡くなっていることです。Bの場合、大運を5年に分ける場合は庚運であり午運ではありません。午運は命式中の子を冲して丙火が強くなりすぎとなります。まして丙子年ですからなおさらです。循環器系統の病気の亢進が考えられ、これは脳溢血で死亡によく当てはまります。
 辛運や辛年においては、辛が丙と合しますが、Aの場合は合しても合去するのみで、二つある丙を一つ取り去るので喜神運としますが、Bの場合は水が強く化水することも考えられます。化水すれば強弱が逆転し、水が極端に強くなります。これは格が破られむしろ忌むべきであり、辛運では発達しないはずです。事跡をみると、40代後半に高い地位を得ています。ただ、私は化水せず単に合去とみますが。
 傷官喜神ですから、生まれはよくまた表現力にたけます。ただ比肩劫財が忌神で強いので、周囲とのあつれきは避けられないでしょう。事跡を見る限り、正官というよりも七殺の感じが強く、これは同じ子月でも比較的浅い生まれ(すなわち月令が壬)であると思います。
 あともいくつか理由がありますが、胡漢民はAの生年月日であろうと判断します。


例7 身旺無依の命

 この命式は私には判断は難しいです。結論から言えばよくわかりません。

『星命術語宝鑑』

1942年5月1日辰時生 男命

.423222122
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生於貧家、且無学。木旺為人誠実、做工糊口、孤貧命。



【"hiroto"的審査】
 五行強弱:木土水火、金はなし
 財帛格  喜神:土火  忌神:木金水
 


【訳文】
 貧家に生まれ無学である。木旺は性格が誠実であるが、食べるだけしか稼げず孤独で貧命である。

【張琦平師の意見】
 (1)時柱偏財で比肩があり破格である。
 (2)寅午が暗会して火を生じており、辰は晦くなっている。
 (3)喜神の財は比劫によって奪われる。
 (4)喜神は表に表れず身旺無依の命である。
 (5)性格は愚陋である。

【命式】
 甲木が2干あり地支にも辰寅と3支あって、さらに年干に壬水もありますので身強は間違いありません。従旺格になりそうですが、戊財も辰に通根して季節は土用ですから強いといえます。従旺格というには財が強すぎます。壬水は辰に通根しており結構強いといえます。

【判断】
 この命式だと身強財旺で富命と判断するのが普通だと思います。上に書きましたが、もし従旺格だとすれば財は忌神になりますが、その場合は貧乏に苦しむという感じではありません。ただし孤独にはなりやすいとは思います。
 確かに、甲木に比較すると戊財は弱い感じがします。比較の問題ですが。そして甲と寅は忌神で奪財なので貧命になるかもしれない、とは思います。しかし行運は火土運で財を助けますから、行運からみても富命だと判断してしまうでしょう。
 これは正直言って私にはわかりません。時柱が違うのではないかと疑いたくなります。仮に丁卯時だとすれば、財は月支だけとなり、財が弱くなりすぎますので、富命とはいえません。また己巳時だとすれば、己と甲が合して土化しそうです。そうなると土が強くなり、火土忌神となるので行運が悪く富命にはなりそうもありません。時柱が違えば割とすっきり説明ができますが、結局、この命が孤貧命になる理由は、今のところ私にはよくわかりません、という結論です。


例8 両神成象格?

 この命式はとある人から相談を受けたものです。いろいろこじつけたのですが、結局のところよくわかりません。


某女命

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【"hiroto"的審査】
 五行強弱:金水木土火
 建禄格  喜神:水火  忌神:土金(木)
 申子辰水局



【命式】
 まず難しいのは金と水のどちらが強いかということです。当初は金かなと思っていたのですが、①申子辰の三合水局がある、②壬は金の生を受ける、③庚は巳火の剋を受ける、ということから壬の方が強いような気がします。一方、金が強い理由もあって、①天干に庚辛が透干している、②季節に旺じている、③巳申に通根している、④水は木に洩らされている、などの理由から、金の方が強いということがいえないこともありません。
 地支が三合水局なので従児格が考えられます。従児格は一般の従格と異なり、日主の強さはあまり関係なく、財があれば従児格が成立するということがいわれます。(「滴天髄 順局論」参照)しかし、いくら従児格は日主の強さを気にしないといっても、日主が最も強いかもしれない命式では、従児格とはいえないでしょう。多くの術者が従児格の条件として日主が弱いことをあげています。
 で、私は最初、内格である食神生財格であると考えました。過去の運から判断すると土印が忌神なのはまず間違いなく、そうすると壬甲はいずれも喜神で、とくに食神生財ですから富命と判断することができます。
 しかし実際には、多少富であったのは午運と己運で、あとは富であることはなかったとなると、午運はともかく、己運は甲財を合するので、食神生財格では財を失ったり父親を亡くしたりするはずです。もし、この女命に四柱推命が適用できるならば、この命式を食神生財であるというのは間違いだと考えねばなりません。(なお四柱推命が全く当てはまらない人はいます)
 そこで考えられるのが、両神成象格です。この格については認めない術者が多いのですが、『命理約言』には「両神成象とは、八字五行の二つの強さが同じ場合で、金水が半ばで火土がこれに混じることなく・・・」とあります。さらに、『命理約言』の「両神成象賦」には「金水がともに二干二支で金水運はよく火土運は悪い」とあります。この命式は二干二支ずつではなく、また巳火は辰土がありますので、両神成象格とはいえないのかもしれませんが、この命式は金水二行均停であり、私はこの格に準ずると考えます。
 では、この格の喜忌はどうなのかといえば、金水喜神、土火忌神ということは明示してありますが、木行すなわち財については喜忌の明示はありません。両神成象は二気双清、純粋不雑がよいとありますので、木は無い方がよい、と言っているようではあります。ただ作用をみると、木は金を分け水を洩らす作用で両行ともに弱めるため、やや閑神的だという気はします。すなわち、ないにこしたことはないが、あってもなくてもよい、というようなところでしょうか?

【判断】
 上のように両神成象と考えると、己運で甲が合去されたときにやや富であったというのは、苦しいながらも説明はつきます。
 なお、相生関係の二行が強い場合というのは、日主と食傷の他に、日主と印の場合もあります。この場合についても、通常の従旺格や従強格(従勢格)では説明できないときに両親成象格と見た方がよい場合があることを思い出しました。『命理約言』の作者(陳素庵?)もそういう場合に遭遇したのかもしれません。
 実は、私にはもうひとつ考えがあり(こっちの方が正解かもしれませんが)、それは、形の上では食神生財にみえるが、甲は真の財ではなくまた真の食神生財ではない、という考えです。真の財ではないとはどういうことかといえば、甲は水が多いときは庚金の剋を受けない、すなわち甲木は(ある程度)燥木でなければならないということです。また、真の食神生財ではないというのは、強すぎる壬は甲を浮木にしてしまい生ずることにならない、ということです。
 つまりは、甲木はこの命式では財本来の役割を果たしておらず、財が漂流している状況であるとするものです。そう考えると己で合去するのは悪くはないかもしれません。戊だと壬は抑えますが、庚を強め甲を弱めますから、単純に忌神といえます。
 己運がこれまでの人生の中で一番幸福な時期であったとあり、それを尊重した結果、上のような考えを提示しました。ただ、私としてはあまり納得できる判断ではなく、何と言うか、無理筋というか後付けというかこじつけというか、そういう感じを持っています。
 どだい四柱推命ですべてを説明しようとするのは不可能であり、不遜であると言うべきか。あるいは、四柱推命を超える何か、風水とか宗教とか心霊とか、そういうのが作用しているのかもしれません。
 今後も同様の命式を見ると、やはり従児格とか食傷生財と判断してしまいそうです。



作成 2009年 6月 8日  
改訂 2020年 9月18日  HTML5への対応、一部見直し