疾病の見方
命の占術というのは、四柱推命に限らず、本人の生理、心理的な性向を見るのが基本ですから、疾病はまさに命の占術の得意とするところであります。
四柱推命は中国の占術ですから、その疾病の見方は、当然中国の伝統的な医学(いわゆる漢方)に依っています。したがって、漢方(中医)を知らなければ、ほんとは四柱推命で疾病を見てはいけないのかもしれません。
もとより、私は漢方医ではありませんので、専門的な部分はわかりませんし、医者でもありませんから、病気自体についてもよくわかりません。しかし、四柱推命の知識はありますし、四柱推命や大六壬で病気の実占も行ったこともあり、中医についてどのくらいのことを知っておけばとりあえず占えるかは何となくわかりますので、ここにとりあげる次第です。
もちろん、病気の治療はあくまで医者の仕事であり、占師の仕事ではありません。占師はあくまで病気の予測までで、それを避ける方法、あるいは治療する方法を伝えるのは、病気の専門家(医者なり薬剤師なり)の領域であります。
1.漢方的知識
ここでは、漢方に関する知識をざっと概括的にみます。ここでこのようなことを紹介する理由は、四柱推命の疾病占は中医によるところが大きいからです。以下は、このページでの必須知識ではありませんが、四柱推命の疾病占を深く研究していくには、どうしても中医の知識は必要です。そのとっかかりとして、この章で、ごく浅いですが、基礎知識を挙げています。
詳しくは中医の専門書やウェブサイトを参照してください。
(1)気、血、津液
まずは気、血、津液(しんえき)についてです。
気というのは、具体的な物質に置き換えるのは難しいのですが、生命、エネルギーを生み出す、あるいは伝達する物質という理解でいいでしょう。普通にいわれる気と違うのは、中医においては、抽象的なものではなく、あくまで物質であると考えているところです。例えば、空気も気の一つですし、筋肉の運動をつかさどるATPも気の物質の一つと考えてよいでしょう。またそのATPに指令を与える神経伝達物質も気の一つと捉えてもいいかもしれません。
血は、血液とほぼ同様と考えていいでしょう。正確には違いますが、ここでは詳述は控えます。
津液は、身体にしみわたっている水分の総称です。細胞液もそうですし、涙や汗なども含みます。
(2)五臓六腑
五臓六腑といっしょくたにして言われることが多いのですが、五臓と六腑は働きを異にします。
五臓というのは、気、血、津液を代謝、貯蔵する部位や作用を指します。六腑というのは摂取物を消化、運搬し、気、血、津液を生み、あるいは排泄する部位や作用です。
具体的には、五臓は肝、心、脾、肺、腎であり、六腑は胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦です。このうち三焦については、具体的な臓器がありませんが、五臓と残り五腑との気血津液のやりとりを統轄しているとされています。
(3)陰陽
陰陽の概念は、中医ではやや難しい概念です。おおざっぱにいえば、身体の上の方にあるのが陽で下にある方が陰、気に関わる臓器が陽で血や津液に関わる臓器が陰、熱症になりやすい場合が陽で寒症になりやすいのが陰、木火が陽で金水が陰、などという分類ができますが、これらの分類はおおざっぱすぎて説明としては不十分です。とりあえず、そういうものだという程度で勘弁してください。
(4)実虚
これもいろいろな言われ方をしますが、基本的には機能が十分に働いている場合を実、機能が弱くなっている状態が虚と理解してください。したがって十分に健康な人は実ですし、やせてたよりない感じの人は健康でも虚とします。
病気の場合は、病気の原因(邪気)が働いて表に出ている場合を実証、病気の原因はさほどでもなくむしろ人体の機能が低下することで病気となっている場合を虚証といいます。
(5)六気
風、暑、熱、湿、燥、寒を六気といいます。
風というのは動であり運ぶものです。また他の気を運んだり奪ったりする作用があります。
暑は炎天下のイメージです。気や津液を消耗します。多くは湿を伴います。
熱は火です。暑さよりもさらに強いイメージで、気や津液を消耗し、血を亢進させます。陰陽調節を壊す作用もあります。多くは燥です。
湿は水分を溜め込むイメージで、その水が重く汚いイメージとなります。陽気を損壊するとされます。
燥は乾燥で潤いがない状態です。水分を溜め込めないというべきか。津液を傷つけます。
寒は冷えです。また気や血の流れが滞るということもあります。筋肉が縮こまるという作用もあります。
(6)七情
七情とは、七つの感情の状態であり、喜、怒、思、憂、悲、恐、驚です。この七つの感情による刺激が、臓腑に影響するとします。七情と五臓の関係ですが、喜は心、怒は肝、思は脾、憂悲は肺、恐驚は腎に作用するとされます。
2.五行、干支と臓腑
五行説においては、森羅万象を五行に当てはめています。当然五臓も五行に配当されており、四柱推命ではその考え方を用います。それを簡単に表にしてみます。
五行と臓腑というタイトルですが、臓腑以外も表にしています。
木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
肝 | 心 | 脾 | 肺 | 腎 |
胆嚢 | 小腸 | 胃 | 大腸 | 膀胱 |
風 | 暑熱 | 湿 | 燥 | 寒 |
怒 | 喜 | 思 | 悲憂 | 恐驚 |
目 | 舌 | 口 | 鼻 | 耳 |
筋 | 脈 | 肌肉 | 皮毛 | 骨、脳 |
代謝機能 神経系統 | 循環機能 | 消化機能 | 呼吸機能 | 泌尿機能 分泌系統 |
さらに干支の配当を表にしますと、次のようになります。ただし、この配当にはいろいろな考えがあるようで、本によって違いますが、とりあえず適宜取捨選択して載せています。
甲 | 乙 | 丙 | 丁 | 戊 | 己 | 庚 | 辛 | 壬 | 癸 |
胆嚢 | 肝臓 | 小腸 | 心臓 | 胃 | 脾臓 | 大腸 | 肺 | 膀胱 | 腎臓 |
頭部 | 目 | 肩 | 胸 | 腋 | 腹部 | 臍 | 大腿 | 脛 | 足先 |
手 | 指 | 喉、歯 | 舌 | 肌 | 口 | 肋膜 | 鼻、歯 | 子宮 | 耳 |
子 | 丑 | 寅 | 卯 | 辰 | 巳 | 午 | 未 | 申 | 酉 | 戌 | 亥 |
膀胱 | 脾 | 胆 | 肝 | 胸 | 面部 | 目 | 胃 | 大腸 | 小腸 | 命門 | 腎臓 |
水道 | 胞絡 | 毛髪 | 指 | 皮膚 | 喉、歯 | 頭部 | 横隔 | 経絡 | 精血 | 腿 | 頭部 |
耳部 | 子宮 | 手足 | ・ | 肩 | 肛門 | 精神 | 脊椎 | 肺 | ・ | 足 | 陰嚢 |
3.体質と命式
ここでは、体質と命式についての考え方の“さわり”について説明しましょう。人間の身体は四柱推命でわかるほど単純ではありません。ですから、ここでの話はあくまで“さわり”であって、これですべてではありません。
漢方でいわれる体質の分類には、陰陽、実虚、寒熱があります。日本漢方ではこれらの分類なのですが、六気のところで紹介したように、燥湿という分類もまた重要だとする人もいます。
この陰陽、実虚、寒熱、燥湿はどういうふうに身体に表れるでしょうか。おおざっぱには、次のように表れるとされます。
陽:実、熱、燥の体質になりやすい。外向的。陽気。
陰:虚、寒、湿の体質になりやすい。内向的。陰気。
実:がっちりとした体格で、食欲旺盛。かぜをひきにくい。便秘ぎみ。
虚:きゃしゃな体格で、食が細い。かぜをひきやすい。下痢ぎみ。
寒:寒がり。尿が近い。冷え性。貧血ぎみ。
熱:暑がり。尿の頻度が低い。手足が暑い。血の気が多い。
燥:皮膚が乾燥している。尿量が多い。便秘ぎみ。寝汗をかく。
湿:身体が水っぽい。尿量が少ない。頻尿。下痢ぎみ。痰がよく出る。
少し補足すると、陰陽の概念は説明が難しいのでとばして、実虚というのはエネルギーの生成消費の程度、熱寒というのは熱量の生成消費の程度、燥湿というのは身体における水分の保持の程度、に基づく分類といえます。
では体質と命式の関係はどうでしょうか。それについてはっきりと書かれた本は、私の手元にはありませんが、いろいろな考えをもとに、私なりに整理してみると、“およそ”次のようになると思います。
陽:命式で陽干支が多いか強い
陰:命式で陽干支が少ない(つまり陰干支が多い)
実:日主、用神が強い(ただし従格を除く)
虚:日主、用神が弱い(同上)
寒:金水が多く火が弱い。
熱:火(木土)が多くて強い。
燥:命式中(とくに地支)に水が少ない
湿:命式中(同上)に水が多い
これらの体質分類と先の五行への臓腑の配当から疾病を推測するということになります。次にその方法です。
4.「滴天髄」の疾病論
疾病の見方については、古書では「滴天髄」が最もよく引用されます。まずはその原文をあげてみましょう。
【原文】
五行和者、一世無災。血気乱者、平生多疾。
忌神入五臓而病凶、客神遊六経而災小。
木不受水者血病、土不受火者気傷。
金水傷官、寒則冷嗽、熱則痰火。
火土印綬、熱則風痰、燥則皮痒。
論痰多木火、生毒鬱火金。
金水枯傷而腎経虚、水木不相勝而脾胃泄。
【和訳】
五行のバランスがとれていれば健康であり、血気(漢方での気と血のことだが、水火の意味ととる人もいる)の乱れる人は病気がちである。
命式中の忌神が働けばその部位が病気となり、行運で忌神が巡ってくるのは病気はまだ軽い。客神とは流年、流月干支の意味。
木が水の生を受けられなければ血の病で、土が火の生を受けられなければ気を痛める。
金水傷官は、寒体質の場合は冷嗽の症状が出て、熱体質の人は痰火の症状が出る。冷嗽の症状とはいわゆる鼻かぜの症状と同じ。痰火の症状とは乾咳、あえぎ、口の渇き、のどの腫れ、声のかすれ、痰に血が混じる等の症状である。
火土印綬は、熱体質の場合は風痰の症状が出て、燥体質の場合は皮膚が痒くなる。風痰の症状とはめまい、悪心、嘔吐、喉に痰がからむ感じ、ひきつけなど。
痰に関する症状は木火の不調和であり、毒鬱の症状は火金の不調和である。毒鬱の症状とは体表や手足に発生する腫れやこぶ、化膿等の症状である。
金水が枯れて傷つくのは腎経の効能が不足するために起こる症状、水木が強く土が弱い場合は脾臓、胃の不調による症状が出やすい。
(訳については、「現代破訳滴天髄」(鐘義明著)を主に参考にした)
短い文章ですが、真髄を言い尽くしているように思います。ポイントは、
@五行のバランスが必要であること
Aとくにその中でも水と火のバランスが重要であること
B命式中での忌神の作用をみること
にあります。従格や化格、一行得気格などは、五行的にはバランスが崩れた状態であり、成敗的にはよくても(富貴であっても)、身体的にはよくないことが多いです。
後半は五行のうちの二行のバランスの話になります。このあたりは、漢方医ではない私には、説明が手に余りますので省略します。
5.疾病の見方要訣
もう少し簡潔に書いてある書として、「八字命批範例」(盧清和著)の論健康の章から一部抜粋、翻訳します。
命式で日主が衰弱していても行運で日主を助ければ、だいたいは健康であり、疾病は少ない、あるいは軽い。日主が衰弱してさらに行運で日主を助けるようなことがないとか、財官食傷等が命式中にあって、行運でされに剋や洩があれば、だいたいは病気がちである。ただしその運が過ぎれば治る。
1.日主が旺じているか、日主が弱くても行運で助ければ、健康で疾病は少ない。
2.日主が弱く、また行運でも助けがなければ、あるいは日主と財官のバランスがとれていても、行運でそのバランスが崩れれば、病気は多く、あるいは重ければ死にいたる。
3.命式において、一つの五行が強すぎたり弱すぎたりすれば、だいたいはその臓腑に病を生じる。しかし剋制盗洩の重さ軽さをよく研究して詳しく分析し、その後に疾病の判断をすれば、間違いは徐々に減ってくる。
最後の方は、やはり経験を積まなければだめだよ、と言うことでしょうか。
ともかく、この文章で、疾病の見方の基本がわかります。具体的にはどういう判断をするのか、後で実例を挙げて説明します。
6.古書にみえる疾病判断
以下は、古書に書かれている疾病判断を羅列したものです。適否の保証はできません。玉石混交、みなさんで研究してみてください。
・偏官が強すぎるのは怪我や眼疾、足が悪い。
・月柱に七殺、傷官などがあり、傷官運にいけば眼疾。
・七殺が多く身弱なのは、労病(結核)。
・偏印が食神を剋すのは、食道がん。
・偏印が多いのは、病気か災禍。
・木が金に傷つけられれば、筋骨の痛み。
・火が水の剋にあえば目が悪い。
・冬生まれで火がなければ冷え性。
・双子無瞳は火土がつよく癸水が枯れるとき。
・壬癸が土をみて弱いのは、下半身が弱る。
・傷官が多いのは、下半身や筋骨が傷つく。
・女性が年柱に傷官をもつのは産厄帯疾。
・財多身弱で財運に行くのは疾疫。
・天月二徳は病が少ない。
・食神が偏印にやられるのは産厄。
・金が火の冲剋を受ければ、酒色で病となる。
・弱い金が強い火にあえば、血疾。
・金水が枯れて傷をうけるのは、腎は必ず虚。
・金神が水にあうのは、貧寒帯疾の人。
・金が強い木に合うのは、筋骨を傷つける。
・金水の病は瘡毒。
・金水の病は腎経にでる。
・水木が強いのは、脾胃をいためる。
・甲木に火が多いのは、多くは精神病。
・火が水の剋を受ければ眼疾。
・火剋金は肺をいためる。
・丙丁が庚を剋せば、大腸の病。
・丙月で火が強いのは、聾唖中風。
・命式に火が多ければ、若くして膿血の災い。
・丁午が多く未があれば、頭瘡禿瘡。
・土剋水は腹蔵の病。
・土が虚で水が盛んなのは傷残。
・土支の刑は聾唖。
・土が強く火があれば、眼疾熱病。
・日主が旺じ財官が強ければ、手足の折傷
・日主が弱く食傷が多ければ、頭昏の病。
・七殺と偏印があれば、妻は多く子供は少ない、血気不調。
・亥子に巳午があれば眼疾。
・亥子が多いのは疝気。丙子、壬子時はよく当てはまる。
・卯酉の冲があるのは、堕胎で子を剋す。
・卯酉の冲があるのは、びっこをひく。
・寅申の年月冲があるのは聾唖。
(これは私の命式がそうですが、全然あてはまりません)
・刑冲合があるのは酒色で家を失うか病になる。
・刑が多いのは障害が残る。
・病が命式中にあれば病気がち、行運にあれば運が過ぎれば治る。
・羊刃劫財は疾病。
・羊刃が印にあうのは、貴でも病がある。
・羊刃が敗地にあるのは結核や金刃の災い。
・羊刃が多いのは産厄、月経過多、中年後冷え性。
7.実例による説明
実例によって説明しますので、例を通してコツをつかんでほしいと思います。
なお、ここであげた例題は手近にある本から、疾病が明らかになったものから適当に選んだものです。
例題1
1955年1月19日申時生 男命 (「八字応用学宝典」より)
時柱 | 日柱 | 月柱 | 年柱 |
印綬 | - | 正官 | 偏財 |
己 | 庚 | 丁 | 甲 |
卯 | 辰 | 丑 | 午 |
胎 | 養 | 墓 | 沐浴 |
- | 印綬 | 己 | 月令 |
五行の強さをみますと、土木火金の順に強く、水は天干にはなく地支の丑と辰にしかありません。ところが丑も辰も土支ですから、本来の水ではありません。五行のうち四行がある場合、残り一行が弱点となりやすいです。土が強くただでさえ弱い水を剋します。
辰運戊辰年34歳のときに腎臓移植をしています。もともと腎臓(水)が弱く、土が旺じたことにより腎臓に決定的なダメージを与えたものと思います。
例題2
1980年2月14日辰時生 女命 (「子平命学弁証」より)
時柱 | 日柱 | 月柱 | 年柱 |
印綬 | - | 傷官 | 正財 |
甲 | 丁 | 戊 | 庚 |
辰 | 巳 | 寅 | 申 |
養 | 建禄 | 長生 | 病 |
- | 印綬 | 甲 | 月令 |
五行の強さをみれば、日主丁火は巳に通根しています。甲木は季節に旺じて辰に根があります。ただし月柱は寅申の冲ですので、甲の根とはなりにくいです。戊土は辰に通根し火の生を受けます。庚金は申に坐して巳に通根していますが、申は冲を受けています。水は辰申にあるのみで天干にありません。したがって、この命式もまた四行がそろって水のない命式で、金水を喜ぶ命式で木火を忌みます。
寅申は冲、巳寅は刑であり、刑冲並見の形ですから、凶意があります。
さて、この命式は一般には吉とされる命式です。というのは、天干が時支から日支、日支から月支、月支から年支を生じている形で五行周流の形だからです。しかも丁は巳に坐しているため弱くありません。身強で五行周流というのは普通は貴命です。
しかし、こと体質に関していえば、火と水が最も重要です。その点でいうと、この命式では水が弱すぎです。確かに辰中に癸がありますが力不足です。
この命の場合は、生まれてまもなく高熱を出し、医者に見てもらうのが遅れて脳幹神経麻痺になり、知恵遅れとなった女児の命です。たしかに水が不足するということは脳の働きが弱いということであり、木に水が足りないということは頭や脳神経障害という判断はできなくはないのですが、私としては、いまひとつピンとこないところがあります。これが甲辰時ではなく乙巳時であれば、火が旺じ水がないので、もっとはっきり言えると思います。この命式の場合は辰時なので、いまいち納得がいかないのです。もっとも辰時だから夭折はしなかったといえるのかもしれません。
例題3
1930年10月22日卯時生 女命 (「星命術語宝鑑」より)
時柱 | 日柱 | 月柱 | 年柱 |
偏財 | - | 傷官 | 正官 |
己 | 乙 | 丙 | 庚 |
卯 | 巳 | 戌 | 午 |
帝旺 | 病 | 養 | 死 |
- | 正財 | 戊 | 月令 |
五行の強さをみますと、火が最も強く、あとは順に土木金の順で水は命式中に全然ありません。火の強さは他の五行から群を抜いており、火と水が極端にアンバランスです。喜忌をみれば、木水喜神で火土金を忌みます。
この命式で考えられるのは、水のないことから腎臓や生殖器の病、また性的にも弱く子供はできにくいでしょう。火が強いことから心臓疾患ですが、丙の隣に金がありますから、火剋金が強く、肺疾患、皮膚病なども考えられます。ともかく、火水のバランスが悪いので、一生病気がちです。短命でしょう。
40歳までは、木水運でしたが、40歳からは午運で火がさらに強くなります。43歳癸丑年に肺ガンとなり、44歳甲寅年に亡くなった、とありますが、おそらく肺ガンの原因はそれ以前からあったと思われます。甲寅は甲は喜神のはずですが、時干己と合して、この場合土化し木が埋まる形で日主が弱くなり、寅は三合で火局となり、火はますます盛んとなります。これでは庚金は持たず、肺を悪くして亡くなります。
筆者のあとがき
何度も言いますが、疾病の診断、治療というのは医者の仕事です。そのことを忘れてはいけません。このことをまずは強調しておきます。
ここでは、私の病占に対する考え方を述べます。
そもそも四柱推命に限らず、占術全般においては、まずは疾病と寿夭(寿命)が最も重要な項目です。生命、健康あっての富貴なのであって、まず富貴が先に来ることはありません。
今でこそ、医学の発達により寿命は延び、かなり重大な病気でも治療することが可能になりました。その昔の死の病の結核も死に至ることは少なくなりましたし、天然痘などの伝染病も克服してきました。さらについこの前まで死の病であった悪性腫瘍(ガン)も治癒率はグンと向上しています。しかし、そのようになったのはつい最近のことで、以前は病にかかること自体が死を意味することは少なくなかったのです。
そのため、占術において、病占は最も深く研究されてきた分野のひとつなのです。(病気で死ぬようなことがなければ、占術においてこれほど病占は発達しなかっただろうということ)これは洋の東西を問わず、占術全般にいえることです。
中国占術の場合、陰陽五行説が一つの柱となっており、この考え方をもとに、医学も占術も発達してきましたから、共通する部分が多いのは当然です。昔は、中国の庶民を診る医者のレベルは決して高くなく、医者よりも占術家の方が医学に詳しかったことも珍しくなかったでしょう。医者と占い師を掛け持ちしていた人も結構いたのではないでしょうか。ですから、臨床経験豊富な占術家も当然いたでしょうから、占術における病占も医学の発展とともに進んでいったのではないかと想像しています。
しかし、現代においては、医学は術から学問となり、細分化、専門化されて、その進歩はめざましいものがあります。演繹的、帰納的な分析が行われ、科学(工学も含む)としての地位を確立しています。
一方、占術はもちろん科学にはなりえませんし、また占術家は医者の免許を持たない限り、医療行為ができません。よって、占術における疾病占のレベルは、現代医学のレベルからはるかに遅れることとなっています。(鐘義明氏も現代の占術家の医学的知識の低さを嘆いています)ですから、疾病については、占術家が云々するより、医者に診てもらった方が、はるかに良いのは自明のことです。
では、今回、私が四柱推命による疾病の見方を紹介したのはなぜか。それは、現代の医学ではまだ四柱推命に及ばないことがあるからです。そしてそれは、将来の予測という問題です。
最近、コマーシャルの影響でしょうか、未病という言葉をよくみかけます。これは中医の概念ですが、てっとりばやく言えば、その人の体質傾向から将来の病気を推測し、それを未然に防ぐ手立てを講じることです。もちろん現代医学においても、予防医学の重要性が語られ、体質や遺伝的素因などを事前に把握しようという研究が進められています。遺伝子の解析などはその最たるものでしょう。その人がどんな体質傾向をもっているかは、医学(西洋医学でも中医でも)でも十分把握できることです。
しかし、それがいつ発症、または発病して、場合によってはいつ亡くなるのかは、西洋医学ではもちろん、中医でもわかるものではありません。診断して当てられる名医もいるでしょうが、それは医学的なものではなく、その医者の“勘”でしょう。(ガンの余命など、私の知る限りでは、医者の言うことはあまりあてにならない)
占術の主目的は将来予測ですから、これは現代医学に勝る部分です。病気になりやすい時期またその原因があらかじめわかるということは、人生を送るのにかなり有利なことだと私は考えます。
例えば、例題3で挙げた命式ですが、これは傷官見官で、いずれ夫婦仲が悪くなることがわかります。肺ガンになったのは、そのストレスが強く作用していると思われます。もしあらかじめそれがわかっていれば、夫婦仲が悪くなっても、ストレスはだいぶ軽減されるはずです。(ああやっぱり、と思うだけで全然違うはず)また、火が強くなりすぎることがわかっていれば、暑熱を避け、水分を補給することでも、肺への負担は大幅に軽減されたかもしれないのです。
こういう対処の仕方こそ、四柱推命の使い方なのだと思います。病気になってからの治療は医学の方がいいのであって、病気になってから占い師の扉をノックするのは、(だいたいにおいては)間違いでしょう。
話は違いますが、霊的な病気(いわゆる霊障、私は存在を否定しません)も、占い師ではなく霊能者に相談するべきです。占い師には勘のいい人が多いですが、霊能がある人はごくわずかでしょう。もちろん私は占い師でも霊能者でもありません。