夜子時問題


 夜子時については、近世の推命家はほとんど採用しているように見受けられます。ここではその問題を取り上げたいと思います。まずは夜子時の説明から。




『子平粋言』 「夜子時」(抜粋)

年與年之間、以立春為分界、故交入立春節、即為今年之正月。日與日之間、以子正為分界、子正之前、猶是昨日、名夜子時、子正之後、方是今日子時。
暦法十二時、毎時分為初四刻正四刻、共八刻、毎刻十五分。夜子時者、子初四刻也。(中略)
今郵電計時、均以二十四小時為一日、以夜半零分為一日之起点、至二十四時足為一日之移点、其分配法與暦法相合此排列四柱所必須注意者。


 年と年の間は立春が境であり、故に立春を過ぎると、今年の正月とするのである。日と日の間は子の正時(0時)が境である。子の正時の前はまだ昨日であって、この時間を夜子時と名づける。子の正時のあとは今日の子時となる。
 暦法十二時は、毎時は初四刻と正四刻の計八刻で成り立っている。毎刻は十五分である。夜子時とは、子の初四刻である。(23時から0時)
 現在の時間制度では、24時間を等しく分けて一日としており、夜中の0時を一日の起点としている。24時は一日の移り変わる点であり、この分配法は暦法に合っている。この時間の命式の立て方には十分注意を必要とする。
 あえて説明の要はないと思いますが、23時~24時(0時)は昨日、0時から1時は今日とするということであります。すなわち、一つの日干支に対して時柱の種類は13種類あるということになります。



『八字命批範例』 「排時柱」(抜粋)

八字命理把一日区分為十二個時辰、毎一個時辰管両小時、十二個時辰、共計二十四小時。推算時柱地支之方法如下、零時前後各一小時為子時、上午一時至三時為丑時、・・・(中略)
命理学上之日、是以子時為始、以亥時為終、即是由子時為始、以亥時為終、即是由子時至亥時為一日。

 四柱推命では一日を十二個の時辰(時支)に区分し、一つの時辰は2時間で、12個の時辰ということは計24時間となる。時柱の地支を推算する方法は以下のとおり。零時前後1時間を子時とし、午前1時から3時を丑時、・・・
 命理学の一日というのは、子時を始めとなし亥時を終わりとする。すなわち、子時より始まって亥時で終わる、すなわちこれは子時より亥時までを一日とするのである。
 最後の文はやけにくどいですが、要するに一日は23時から翌23時までと言っています。



『命理探源』 「論時刻及夜子時與子時正不同」(抜粋)

古越沈義方塗山星平大成云、余初不明一夜字、詢諸監中友人始知、子正者、今日之早、非昨日之晩也。夜子者、今日之夜、非今日之早也。観十二肖陰陽可知。牛兎羊鶏猪属陰、其蹄爪双偶、蛇陰甚不見足、虎龍馬猿犬属陽、其蹄爪単奇、独鼠前両双脚属陰四爪、後両双脚属陽五爪、故夜子時属陰而子時正属陽。如康煕辛未年十二月十七夜子時立春、十七亥時末刻、尚未立春、若不知此、必差訛一年矣。(中略)
又按三才発秘云、夜子時為日尾者、陰極之義也。正子時為日首者陽起之機也。此説最為明白。

 古越の沈義方塗山の『星平大成』はいう、私は初めは夜の字が明らかでなかったが、いろいろと友人たちに尋ねてまわって始めて知ったのは、子正は今日の早い時間で、昨日の晩ではない。夜子とは今日の夜であって、今日の早い時間ではないと。十二支の動物をみると、陰陽がわかる。牛兎羊鶏猪は陰に属し、それらのひづめや爪は偶数である。蛇は陰の極みで足がない。虎龍馬猿犬は陽に属しそのひづめや爪は奇数である。ただ鼠だけが前が四本の爪、後ろが五本の爪で、故に夜子時は陰に属し、子時は正に陽に属するのである。もし康煕辛未年十二月十七日の夜子時は立春であり、十七日亥時の最後まではまだ立春にはなっていない。これを知らなければ一年間違うことになる。
 また『三才発秘』は云う、夜子時は日尾とし、陰の極みの意味である。正子時は日首として、陽の起きるときである。この説が最も明白である。
 調べてみると、ネズミの足の指は前が4本後ろが5本だそうですが、ウサギは逆に前が5本後ろが4本だそうです。
 そもそも十二支に動物は当てはめられていますが、十二支はもともと動物から発生したわけではありませんから、この説明はナンセンスです。



『高等気学陰陽同会法』 「地域時間帯」(抜粋)

 日の区分は子の刻から始まり亥の刻で終わる。後述するが、子の刻を午後11時から翌日午前1時までとして、0時前を前日の子の刻とし、0時以降を翌日の子の刻、などと子の刻を区分している流派(主に京都方面の四柱推命家の一部)もあるが、およそ意味のないことである。子の刻に始まって亥の刻に終わる。これが一日である。
 著者はたいへんユニークな気学を展開している高島正龍師です。師はこのあと、不定時法を展開して、干支や九星を使う占術には不定時法を使うべきだと主張しています。
 なお、京都方面の~、というのは阿部泰山の流派を指すものと思いますが、上にもありますように、別に阿部泰山だけでなく、それ以前から中国、台湾でも夜子時は多く採用されており、そのことを知らなかったのでしょう。今のように海外の本が簡単に手に入る時代ではなかったのでやむを得なかったかもしれませんが。
 とはいえ、この本には気学のみならず、東洋占術の秘伝的なことが散りばめられていて、この本では(薄い本ですが)いろいろと勉強させてもらいました。



『滴天髄Summery』 「夜子時説」(抜粋)

採用「夜子時」観点者、主張其準確度高。並認為対於子時生人之論命、会與実際不符之原因、乃是不採用夜子時故。(以下原文略)

 「夜子時」を採用している術者は、それを採用することで当たる確率が高くなると主張している。また、子時生まれの命を論じるときに、実際と会わなく原因は、夜子時を採用していないためだと考えている。
 この著者は韓国で有名な李修です。私は中国語の翻訳を持っているのですが、原文は韓国語ですからここでは省略して、以下訳文のみつけます。
 もとより、もし「夜子時」を採用して当たる確率が高くなるのであれば、それは「夜子時」が正しい答案であることの証明となる。ただしとても残念なのだが、筆者(李修)はいまだに非常に上手く巧みな推命術をみたことがみたことがなく、また「夜子時」を採用しなくても実際に合わないところがあるとは思わないのである。
 もっとも近代以前の古書に「夜子時」を採用した例はない。
 まとめると、生時の問題は非常に敏感な事項であるといえる。
 客人が生時がまちがった命式を出すことはありえる。ただし私は常に数人の推命家が、軽々しく客の命式の生時を修正することを見るのであるが、常にその人がほんとに四柱推命の知識について精通しているかどうかを疑う。
 ただ、否認できないのは、最近台湾および西欧の多くの推命家はまさに「夜子時」を採用しているのである。
 はっきりとは書いてませんが、李修師は夜子時に懐疑的のようです。



夜子時採用・不採用一覧

 いろいろな本(私の蔵書)で夜子時を採用しているかどうか調べてみました。(順不同)
 時間の取り方を明示していない場合は、占例をみて夜子時があるかどうかをみています。
 なお、古書や古典(「淵海子平」等)には、夜子時はありませんから、それらは除きます。すなわち近世以降の書というか作者のみを分類しています。

○夜子時採用
『子平粋言』『命理探源』『命理通鑑』『八字応用学宝典』『鵲橋命理』『四柱推命学入門』『当代八字実務篇』『現代破訳滴天髄』『泰山流四柱推命学入門』『四柱推命理論』『活盤奇門遁甲精義』

○夜子時不採用
『五術講義秘笈』『八字命批範例』『八字批論選集』『命学大辞淵』『星命術語宝鑑』『高等気学陰陽同会法』『大六壬預測学』『「四柱推命活用秘儀』

○態度未定
『滴天髄Summery』

 六壬や星宗の本もみましたが、六壬の場合は時の遁干はまず使いませんし、星宗も日干支を重視してませんから、はっきりとは書かれていません。
 これをみると、最近の日本の研究者の間では夜子時採用が主流のようです。




あとがき

 そもそも、夜子時についてとりあげるのは、私自身が夜子時(23時27分)生まれであるからです。正直にいうと、生まれたのが病院ではないので、時刻が正確だったかどうかの保証はありません。さらに時差(鹿児島の田舎なので標準時と約16分程度の時差がある)を考えると、子時だったかどうかは微妙なところですが、とりあえず夜子時になります。
 私の命式はあげませんが、夜子時だとすると、私にはどうも合わないので、私自身は夜子時には懐疑的で、最後に挙げた李修師の意見とほぼ同じです。最近は多くの術者が夜子時を採用して、それを時の遁干表としているのですが、夜子時について深く追求した書をみたことがありません。(紙数の関係か?)夜子時を採用した方が当たると言われますが、例をあげて検証している書はないように思います。
 もっとも夜子時生まれの人は4%ぐらいしかいないわけで、夜子時問題というのは、研究者にはいざしらず、一般の人にはあまり興味のあるテーマではないでしょうから、深く検証されることがなかったのでしょう。(4%程度の的中率の差など、術者の力量の差の中に埋没してしまう)
 ということで、ここではくどくどとは論じず、夜子時の問題の紹介だけにとどめておきます。
 しつこいようですが、古書には夜子時は出てきません。近世の推命家は古書の命式を例に引いて論じていますが、子時生まれの命式については夜子時かどうかを検討する必要があると考えます。すべての人が0時以降の生まれとは、確率的には考えられませんから。
 言いたいことは、そのあたりの検討が不十分なまま夜子時を採用しているように見受けられるということです。(じゃあお前がやれと突っ込まれるのがオチか)



   作成  2012年 7月 7日
   改訂  2017年 5月20日  HTML5への対応