日本では生時不明のまま占うことが一般的なせいか(私はそれを三柱推命と読んでいますが)、生時を推測する方法については、入門書はおろか、専門書にもあまり書かれていません。
台湾ではどうかというと、生時(それどころか生年月日も)がわからない人もいるようにもかかわらず、かなりの人が生時までわかります(本人は知らなくても親は知っていることが多いのでしょう)。それは、生まれてすぐに占師のところで、本人(赤ん坊)の運勢を占ってもらう人が多いせいなのでしょう。ですから、台湾では時柱が欠けた命式をほとんど見ません。
ところが、最近は阿部泰山師の著作が台湾や韓国で翻訳されて研究されているせいか、三柱で見る本も海外でもごくたまに見かけます。しかし、それは日本の影響であって元々の子平ではありません。もちろん八字とは言えませんね。
実は、何人かの方から、「生時を推測する方法はありませんか?」と尋ねられてます。ここでは、古典の引用から最近の著作、さらに自分の考えも交えて、生時を推測する方法について考えてみたいと思います。もっともあまりまとまったものにはなりませんでしたが、参考までということで。
出産日、時間については、俗説がいろいろあるようで、ネットで調べても結構な資料が見られます。ちょっと調べただけでも、
(1)月齢が満月の前後に生まれやすい
(2)満潮の時間に生まれやすい
(3)気圧が変化する(低い)ときに生まれやすい
(4)朝方に生まれやすい
などが見つかりました。まあ昨今は帝王切開や陣痛促進剤を使われることが多いので(調べていないがそれぞれ10%ぐらいは使われるらしい)、統計的な差は出にくいかもしれません。
余談ですが、帝王切開は台湾では30~40%ぐらい行われています。これは、母胎の健康状態というよりは、むしろ剖腹選日の影響があるためだと思います。剖腹選日とは、子供の運勢をよくするために、占術を使って出産日を決めるものです。剖腹とは端的にいえば帝王切開。この選日にはいろいろな占術が使われます。(紫微斗数か四柱推命が多いと思います)
さて、先にあげた俗説のうち、(2)と(4)は完全に誤りであることが知られています。
とある方から、朝方生まれやすいという傾向はあるのではないかという指摘がありました。その論拠とされたのは厚生労働省の人口動態統計特殊報告です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo-4/syussyo3-7.html
なお、上のHPは平成13年度ですが、最新の統計は平成22年度に出ています。これ(平成13年度版)をみますと、病院や診療所のデータは別として、助産所や自宅のデータは朝方に生まれる傾向が高いことが読み取れます。
ただ、統計学的に(カイ2乗検定を使って)このデータを解析すると、必ずしも朝方に生まれるとはいえないという結果が得られます。その考え方は、サイコロがいかさまかどうかを検証するのと同じです。すなわち、明らかに出生時間に差があるかどうか(サイコロの目の出方が等しいかと同じ考え)を判定するのですが、1時間ごとのデータを解析した結果は有意に差があるとはいえない、という結論になりました。しかし、統計をやや細工する(例えば6時間ごとにまとめるというようにデータを作り変える)と、5%水準ではだめでも10%水準では有意差がある、という結論に達しました。つまり、病院自宅の出生時間のデータには偏りがあるといえるということです。
ちょっと気になるのは病院診療所の休日のデータは比較的フラットで、昼前に若干高くなるように見えることです。このピークは、助産所や自宅のデータと少し違います。私にはこの点がややひっかかります。助産所、自宅のデータにも何らかの人為的な原因がひそんでいるかもしれないという疑問がいまひとつぬぐいされません。
ところが、私の1500超(今は5千例ほどありますが分析はしていません)の命式データを時間ごとに分類すると、5%水準でも偏りがあることがわかりました。そのピークは卯刻~午刻の間にあり、逆に未刻は極端に少なくなっています。その後は漸進的に丑刻まで下降ということで、ちょうど助産所、自宅のデータと病院、診療所の休日のデータを足したようなカーブとなっています。なお、私の命式データの大半は台湾、中国の人であり、現代よりも1950年以前の人の方が多いです。現代ほど医療が発達していない方が、むしろ午前中に生まれる傾向が強まるとも考えられるわけです。
以上から、朝方に生まれやすいのが完全に間違いとはいえないという気がしてきました。これは専門家の判断にゆだねたいと思います。
なお、「完全に誤り」と断定したのは私ではなく、確かある産婦人科のHPだったと思うのですが、このHPのアドレスが今となってはわかりません。
以上の点をご指摘いただいたT氏には、この場をかりて再度感謝申し上げたいと思います。
(1)については、あるという研究者とないという研究者がいます。(3)はしっかりとした統計資料は見当たりませんでしたが、多くの産婦人科の医師や看護婦が経験していること(台風の通過前後に生まれやすいとか)のようで、またいくつかの病院単位では統計をとってみたところ、漠然とではあるが傾向があることが言われています。ただし、数学的な厳密性には欠けているので、その統計だけでは何ともいえません。
私も、かなりの数の命式例はもっていますが、そのときの気象条件を調べるのが大変なので、果たしてほんとに傾向があるのかは調べていません。また、帝王切開や陣痛促進剤を使っているかどうかなどはわかりませんから、厳密性に欠ける調査となるので、まあ、労多くして益少なしでしょう。このあたりのことは産科医師や統計学者に任せることにしましょう。
ということで、科学的(?)な生時推測のアプローチは棚上げとして、以降は占術を使った出産時間すなわち生時推測法について述べることにしましょう。
本論に入る前に、もうひとつ話題を。
それは定時法と不定時法です。占術の本には経度による時刻の修正、均時差、ものによっては真太陽時とか視黄経の問題をとりあげていますが、時法について論じているのは、手元にある本では、高島正龍師の本だけです。ここでは生時を論ずる前にその話をしたいと思います。
時法について論じているウェブサイトは多いので、詳細はそれを参照してもらうとして、ここで簡単にいうと、定時法とは現代のように時計を基準としている時刻の決め方であり、不定時法というのは、とくに日本の江戸時代以前のように、日の出日の入り(正確に言えば日の出や日の入りではなく、明るくあるいは暗くなり始めた時刻)を基準として時刻を決めている方法です。日の出日の入り基準ですから、季節や場所によって時刻が異なり、しかも1刻の時間の長さも変わってきます。
さて、どちらを採用するかについて、高島正龍師は不定時法を採用すべきだとしています。高島正龍師は気学の雑占において、理論と実践の結果、不定時法の採用を決めています。雑占の場合不定時法を使う術者は結構いるようです。
では、はたして四柱推命ではどうなのでしょうか。
私は四柱推命で不定時法を使った時柱の決め方を寡聞にして知りません。中国では早くから定時法であり(ただし民間では不定時法を使っていたこともあるらしい)、不定時法についての認識は、はなからなかったのではないかと思います。日本においては、少なくとも戦国時代や江戸時代においては不定時法が使われており、また日本の占術は戦国、江戸時代を起源とするものが多く(とくに雑占)「不定時法を使うべし」というふうになっているのではないかと思います。
代表的なところで、「星平会海」を見てみましょう。
これは実際に検証したことはないので、事実かどうかはわかりませんが、声とか性格とか、あるいは父を知らないとかは、まず当てはまらないと思います。
寝方と旋毛ですが、これは人に確認したわけではないのでわかりません。私の家族については、おおむね当てはまっています。ただし、母数が少なすぎるので普遍的に当てはまるのかどうかはわかりません。
ここにある方法は、概して信頼できる方法とはいえないでしょう。寝方とか頭のてっぺん(旋毛?)とかはみなさんで研究してみてください。
なお、「三命通会」の「論小児」ではもっと詳しく書いてあるのですが、長くなるので、今回は省略します。
とくに補足することはないかと思いますが、過去に起こった事件などで生時をある程度推測することは可能だ、しかし限界がある、と陽史明師は述べています。私は師の意見にほぼ賛成です。それにさらに、朝生まれたのか夜生まれたのかなどの情報があれば、生時の推測はより正確になってきます。
いまどきは母子手帳に時刻まで記入されるので、生時はわかるようになってきましたが、医師の方も記入を後でしたりして、若干時刻がずれることがあります。また、正確な生時がわからなくとも、親に尋ねることで、朝だったか夜だったかぐらいはわかるもので、そういう情報と生涯における事件とを組み合わせることで、かなり正確な生時を得ることは可能だと、私は思います。
次にその例をあげてみましょう。
潘東光師の質問は、おそらくは子午の冲を意識したものでしょう。その説明は本文にもあるとおり、子午が冲すれば、日支の財は力なく、月干丁はまるで弱くなってしまいます。これだけでも十分判断できるところです。
この例のように、ある程度生時がしぼりこまれていれば、12もしくは13種類も検討する必要はなく、判断しやすくなります。
この例については、私はすぐには首肯できません。その理由ですが、父親や子女の判断は本人の命式からは難しいというのが四柱推命の術者の大方の意見で、父親や子女だけで決めるのは無理があるだろうと考えるためです。また、兄弟の数も命式では判断できないというのが大勢ですので、2の論拠も疑問を感じるものです。
この場合も、前の例と同様、2つにしぼられているのですから、その2つの命式の差に着目してよりふさわしい方をとればいいでしょう。2つの命式の主な違いは次の点です。
1.卯時生まれの方が正官が強い。
2.辰時生まれは戌と冲する。
3.辰時生まれの方が印が強い。
この命式の基調としては、日主と印が強い命で、官は基本的に弱いといえます。すなわち、喜神は官と財であり、その他は忌神です。すると卯時生まれの方が辰時生まれよりはよさそうです。このよさは相対的なものですが、官が弱いということは、本文にあるように昇進には不適です。
さて、母親の亡くなった庚寅年はどうでしょうか。大運は癸で喜神ですが、庚は乙を合して取り去り寅は火の根となりますから、忌神の印がますます強くなります。忌神の印が強いとは母親との縁が薄くなるわけです。この縁の薄さは辰時生まれの方が強く作用します。
結論としては、辰時の方がより近いように思いますが、まだ十分ではありません。庚戌年に結婚というのがうまく説明できないためです。一応辛運ですから、丙と合するのですが、これは化水して財に変わるわけではなく、あくまで忌神の印を取り去る作用しかありません。庚戌年の前年は己酉年で、酉は辰と合して解冲しますから、結婚の機会が到来するという説明は可能ですが、これは卯時生まれも同じことです。もう少し材料が欲しい感じがします。
私が集めた命式から、同日異時同性の命式を挙げて、その差を検討してみます。これによって、生時の違いが運にどう影響を与えるかをみて、生時推測の一助にしようとするものです。ただ、残念なことに性別が違うものは結構あるのですが、意外と同性のものは見つからなくて、すぐにみつかったのは次の2例のみです。資料不足で申し訳ないです。(同一時刻の例もあるにはあります)
丙 | 乙 | 壬 | 丁 | : | 58 | 48 | 38 | 28 |
戌 | 巳 | 子 | 巳 | 丙 | 丁 | 戊 | 己 | |
- | - | 癸 | - | 午 | 未 | 申 | 酉 |
戊 | 乙 | 壬 | 丁 | : | 58 | 48 | 38 | 28 |
寅 | 巳 | 子 | 巳 | 丙 | 丁 | 戊 | 己 | |
- | - | 癸 | - | 午 | 未 | 申 | 酉 |
(あ)(い)ともに年月干が干合していますが、化木はしません。(あ)の方は身弱で印の助けはなく傷官が非常に強く時支に戌があるので従児格といってよいでしょう。(い)の方は日主が時支に通根しており、財が貼身しているので実質上財格といえるでしょうか。(分類上は印綬格だが壬に力なし)
(あ)は従児格ですから食傷と財を喜神とします。(い)は日主が強い財格ですから、財を喜神とします。冬生まれの乙ですから、調候的には丙があるのがよく、丙は専旺喜神であり調候喜神でもあるので、(あ)の方がずっとよい命式といえます。(い)は財のよさのみに依存しているところがあり、財を傷つけられると大変です。
さて48歳以降は、大運が火干で地支は子水を合、冲しますから、火が強すぎることになります。いわゆる火炎土燥の命に近くなるわけですが、それでも(あ)の方は食傷が喜神ですから、苦労はするが報われる形です。(い)は癸が戊と合することで財が傷つけられ、その上火が強すぎるのですから、日主は焼き尽くされてしまい、身体を壊して死亡することとなったわけです。
丙 | 壬 | 戊 | 丙 | : | 34 | 24 | 14 | 4 |
午 | 午 | 戌 | 子 | 壬 | 辛 | 庚 | 己 | |
- | - | 癸 | - | 寅 | 丑 | 子 | 亥 |
庚 | 壬 | 戊 | 丙 | : | 34 | 24 | 14 | 4 |
戌 | 午 | 戌 | 子 | 壬 | 辛 | 庚 | 己 | |
- | - | 癸 | - | 寅 | 丑 | 子 | 亥 |
両方とも七殺格ですが、(う)は財が非常に強く、(え)は印が日主を支えている形になっています。五行のバランスからいえば、(う)は悪く(え)の方がよいといえます。 7歳といえば、壬午年で年干支と天剋地冲です。また、大運己ですから壬を傷めるため、極端に壬が弱くなったため失明に到ったと思います。(え)の場合は庚印の助があったゆえにそこまではいかなかったと思います。(もちろんいい年はなかったはず)
さてその後ですが、北方運、印運となりますから、(う)(え)ともに喜神運です。七殺が強く、印が喜神ということは、頭がよいということです。とくに(え)の文章のうまさはそのせいでしょう。
この二人の差は財の強さと、運の高低差です。(う)は悪いときは悪いのですが、ひとたび発福すれば、非常によくなります。とくに財が強いので、日主が強くなれば、発財は人並みではありません。まさに病あって奇となす、という命式でしょう。(え)の方はバランスがいいぶん、極端に悪くもならないのですが、極端によくなるということもありません。七殺、印が強いので、官僚というのはよい選択ですし、正官でなくて七殺というところはとくに警察という職業は向いているものと思います。
生時推測法ということで書くつもりでしたが、結局同一日生まれで時間が違うとどうなるかという話になってしまいました。しかし、この方法こそが、現在行われている四柱推命による生時推測法なのです。
読まれてきて、皆さんどう思われたかわかりません。時柱でこうも違うものかと思う人もいるでしょうし、三柱で十分だと思った人もいるでしょう。また、サンプル数があまりに少ないとのご批判もあるでしょう。しかし、なかなか同一日異時刻という人はいないもので、さらに命式集めが必要だと思っています。
ところで、生時推測のポイントをいくつか述べると、結婚、体質、病気、本人の考え方では推測しやすく、親、兄弟など他人の事項から推測するのは難しいと思います。したがって、生時を推測するときは、本人(多くの場合自分だと思いますが)自身をよく掘り下げる必要があります。
もっともそんなに掘り下げたら、占いなんか必要なくなってしまうでしょうけどね(苦笑)。