「五行生剋賦」原文と訳


はじめに

 五行生剋賦は『淵海子平』の中に収められている賦で、非常に短いものです。しかし中身は結構重要で、秘伝とまでは言えないものの、初心者向けの本にはあまり書かれていない五行関係について述べています。実占上、この賦はその通りです。
 ただ、五行関係の基本は基本として理解した上での応用ですから、そこは注意しなければなりません。


「五行生剋賦」




大哉干支,生物之始,本乎天地,万象宗焉。
有陰陽変化之機,時候浅深之用。故金木水火土無正形,生剋制化,理取不一。假如死木,偏宜活水滋濡。譬若頑金,最喜紅煙鍛煉。太陽火,忌林木為仇。棟梁材,求斧金為友。火隔水不能熔金。金沈水豈能剋木。活木忌埋根之鐵。死金嫌蓋項之泥。
 干支は地上のものの始めであり、なんと偉大なものであろうか。天地というものは、すべてのものの中心であり、なんと根本的なものであろうか。
 陰陽には変化の機というものがあり、時候には深浅の用というものがある。故に金木水火土には(正しい)形というものがなく、生剋制化については、その理論を固定的に考えてはならない。例えば死木には偏に活水で湿らせるのがよい。たとえば頑金(硬い金)は火で鍛錬するのを最も喜ぶ。太陽の火は林木を忌み仇となる。棟梁の材は斧金を求めて友とする。火が水で隔てられれば金を熔かすことはできない。金が水に沈めばどうして木を剋すことができようか。生きた木は根の埋まった鉄を忌む。死んだ金は泥に埋まってしまうのを嫌う。

 単純な五行関係では割り切れない関係があるということです。逆にこれらにとらわれすぎてもいけません。五行的な関係を固定的に考えてはいけないということが、この「生剋賦」の骨子であります。
 上の文章の構成からすれば、「假如死木,偏宜活水滋濡。」の部分は少し周りと違います。「假如死木,喜歓見金而為用。」というような文だと調和するのですが。



甲乙欲成一塊,須加穿鑿之功。壬癸能達五湖,蓋有並流之性。樗木不禁利斧。真珠最怕明爐。弱柳喬松,時分衰旺。寸金尺鐵,気用剛柔。隴頭之土,少木難疏。爐内之金,湿泥反蔽。雨露安滋朽木。城牆不産真金。剣戟成功,遇火郷而反壊。城牆積就,至木地而愁剋。癸丙春生,不雨不晴之象。乙丁冬産,非寒非暑之天。極鋒抱水之金,最鈍離爐之鐵。甲乙遇金強,魂帰西兌。庚辛逢火旺,気散南離。
 甲乙は一つの塊になりたがり、そのときは鑿やきりで加工するのがよい。壬癸は五湖に達して、あわせて流れる性質がある。にわうるしの木にはとがった斧は禁物である。真珠は火のあかあかとした炉を最もいやがる。弱い柳となるか高い松となるかは、季節の衰旺による。わずかの金か棒状の鉄かは、その気の剛柔による。畝の土は、木が少ない場合は通ずることは難しい。炉内の金に湿った泥があればかえって蔽いとなる。雨露はどうして朽ちた木に滋養を与えるだろうか。城壁の土は真金を生まない。剣戟が功をなせば、火の郷にいけば反って壊れる。城壁を積んでも、木地に至れば剋を愁う。癸丙が春に生まれれば、雨降らず晴れずのかたちである。乙丁が冬に生まれれば、寒からず熱からずの気候である。水を持つ極めて鋭い矛となる金は、最も鈍い離炉の鉄である。甲乙が強い金にあえば、魂は西に帰る。庚辛が火に旺じるのに逢えば、気は南に散じる。

 前節の内容をうけて、相剋の作用の重要性と相生の作用がない場合について述べています。そのことをビジュアルに表現しています。必ずしも五行でまとまった見方をするだけではなく、陽干と陰干との作用の別についても述べています。



土燥火炎,金無所頼。木浮水泛,火不能生。三夏熔金,安制堅剛之木。三冬湿土,難堤泛濫之波。 軽塵撮土,終非活木之基。廃鐵銷金,豈能滋流之木。木盛能令金自缺。土虚反被水相欺。火無木則終其光。木無火則晦其質。乙木秋生,腐朽摧枯之易也。庚金冬死,沈沙墜海豈難乎。凝霜之草,豈用逢金。出土之金,不能勝木,火未焔而先煙。水既往而猶湿。大抵水寒不流、木寒不発、土寒不生、火寒不烈、金寒不熔,皆非天地之正気也。
 土燥火炎は金の頼るところはない。木浮水泛では火は生じない。三夏熔金ではどうして堅い木を制することができるだろうか。三冬湿土では、水の氾濫の波を防ぐ堤となるのは難しい。軽い塵のような土では結局木の基礎とはならない。錆びた鉄や金ではどうして木を使われるようにすることができるだろうか。木盛んで月令に旺ならば金は欠けてしまう。土が弱ければかえって水に欺かれる。火に木が無ければ結局光は続かない。木に火がなければその性質は暗いものとなる。乙木が秋に生まれれば、腐り朽ちて枯れてしまうのは容易である。庚金は冬は死に、河や海に落ちて沈むのは簡単である。霜で凍りついた草では金を用いることはできない。土から出たばかりの金では木に勝つことはできず、火はいまだに炎とならずただ煙だけである。水はすでに流れてもなお湿っている。だいたい水が寒ければ流れず、木が寒ければ芽を出さず、土が寒ければ何も生ぜず、火が寒ければ激しさはなく、金が寒ければ熔けない。皆これは天地の正しい気ではない。

 さらに寒暖燥湿(火水)のことについて、やはりビジュアル的に述べています。



然万物初生未成,成久則滅。其超凡入聖之機,脱死回生之妙,不旬而成、不形而化。固用不如固本,花繁豈若根深。且如北金恋水而沈形。南木飛灰而脱体。東水旺木以枯源。西土実金而虚己。火因土晦皆太過。五行貴在中和,以理求之,慎勿苟言,掬盡寒潭須見底。
 しかして万物が初めて生まれれば成らず、成って久しければすなわち滅ぶ。その凡庸さから聖なる状態へ入るタイミング、死を脱し生に戻るの玄妙さは、季節にあわなくても成るし、形がなくても化する。用だけを固めるのは本を固めるのに及ばないというのは、花が茂っても根が深くないようなものである。また北の金が水を恋しがるのは沈む形である。南の木は灰となって体を脱する。東の水は木旺であれば、その源が枯れる。西の土は金を生じるには力不足。火は土によって暗くなるのは土が強すぎるためである。
 五行は中和をたっとぶ。この理論を追求するのに、寒潭(冷たく深い淵)の水をすくい取って底を見ることができるなどといやしくも言ってはならない。

 ちょっと意味がわかりにくいですが、つまりは季節に旺じる旺じない、通根するしない等の条件で五行の作用は異なるということ、さらに生じられる方の五行が強く、生ずる方の五行が弱ければ相生の作用はなく、生じる方の五行はさらに弱くなる、ということでしょう。
 終わりの文は、五行の中和、生剋制化の理論は、ちっとやそっとではわかりませんよ、と言っているのでしょうが、そう言われると理解しようという気が萎えてしまいますね。



あとがき

 この賦は、要するに単純な五行関係では割り切れないことを言っています。また、剋は悪く、生は良い、ということではなく、生剋制化が適切に作用することが重要であるということも言っています。
 それはむしろ当然で、相剋関係は官殺、財の関係ですから、この働きが適切なら富貴となりますし、相生関係は印、食傷ですから、この働きが適切なら助力を受け才能を発揮するということになります。つまり、この賦では、同じ変通星でも良い悪いがある、というようなことを述べているともいえるでしょう。
 似たような内容は、『造化元鑰』の始めの部分、五行論のところで述べられています。というよりも、この賦を発展させたのが、『造化元鑰』であり『窮通宝鑑』であるといえるかもしれません。



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改訂 2020年 7月23日  HTML5への対応、一部見直し