「一行禅師天元賦」と称されていますが、一行禅師という人物がどういう人物なのかは知りません。
私の考えとは異なるところもあるのですが、適宜補足しながら訳してみたいと思います。
今回もテキストは『命理正宗』を採用しています。もっとも意外とこの賦を納めている本は少ないのですが。
喜神の印綬(正印)の話です。ただしここに書かれたほどの良さかどうかは、干関係によってはちょっと疑問です。干関係が良いのは甲癸、戊丁、辛戊で、乙壬、己丙、庚己、癸庚は書かれているほどではないように思います。また壬辛は壬よりも辛に良い作用があり、丙乙はあまり好作用はないのではないように思います。
「禄星」は正官として訳しました。官と印があるのは、いわゆる官印双全で、高位に昇るとされます。「綬」というのは官位を示す組み紐のことです。(おそらく行運で)冲や刑、剋を受けると官位を解かれるということでしょう。
ここでは七殺について述べています。
丙壬については、ここでは悪い関係のように書かれていますが、注に、丙火は太陽で壬水は江海であるから壬水は丙火を剋することができない、とあります。すなわち丙壬は他の七殺とは異なり、それほど悪い作用はないと言われます。
戊甲については、庚が救神となることをわざわざ書いています。この作用は覚えておくとよいでしょう。
「禄旺」は官が強い意味だとしました。官が強いわけですから、地支にあれば根となり、また天干にあれば官殺混合で日主を弱めるのでよくありません。
七殺はだいたい悪いとしていますが、作用が強く出るのであって悪いかどうかは喜忌によります。ただ、丙壬は干関係がよく、また庚丙はとくに冬はよいといえます。
ここでは食神について述べています。
食神については、喜忌はもちろんあるのですが、だいたい干関係が良くしかも強く洩らすのではなくマイルドな干関係です。ただし己辛は例外で干関係は基本的に悪いです。辛が喜神だとしても昇進するのに苦労したり忌神の行運が巡ってくるとあっというまに地位を失ったり、そういうことが起こりえる関係です。
丙戊の場合は、丙がある程度強ければ正官癸よりは七殺壬の方が成功します。
最後の句には食神が出てきませんが、例えば丙日主なら壬丙甲癸というような干の組み合わせを想定していると思います。地支にもよりますが、この組み合わせはいかにも出世しそうです。
ここでは傷官について述べています。
傷官というのは正官を傷めるものですから、昔は仕官や昇進の妨げになるということで嫌われていた変通星です。しかし今の世の中では個性を尊重しますので、必ずしも悪い変通星とはいえません。したがってここでは傷官を悪く書きすぎていると思うので、以下に傷官に対する私見を述べることにします。
甲日主で丁傷官は、甲を洩らす作用が大きいので日主を弱めます。財に堪えられない日主になる可能性があります。
乙日主で丙傷官は、ここで書かれてるほど悪いとは思われません。命式に水がない場合は財(土)があっても財を積むのは難しいかもしれません。
丙日主で己傷官は、丙火が弱い場合には己の洩らす作用が強く出ます。
丁日主で戊傷官は、壬正官が喜神の場合にそのよさを抑えるということです。傷残衰弱とは傷官見官の意味です。
戊日主で辛傷官は、辛が埋金になりやすいです。
己日主で庚傷官は、通常の五行関係です。
注によれば土金傷官は財を喜ぶとありますが、いわゆる土生金、金生水で五行が流通する関係となります。通関に近い作用といってもいいでしょう。財を用いる場合には戊辛の場合は壬、己庚の場合は癸がよいです。
庚日主の癸傷官は、通常の五行関係ですが、甲乙財を剋す作用を弱めます。これは甲乙が癸で湿木になりやすいからです。
辛日主の壬傷官は、干関係のよい傷官です。女性だと美人が多いとされます。注によると辛禄とは戊のようですが、戊は辛を強め壬を弱めますので、弱い辛にとっては吉神といえます。この文は「辛禄」に対して壬は良くなさそうに書いていますが、そんなことはなと思います。
壬日主の乙傷官は、普通の五行関係です。確かに忌神の場合は良くないとは思います。
癸日主の甲傷官は、普通の五行関係ですが、癸が強い場合甲が腐木となり悪作用が大きいです。
最後の「衰」や「敗」は十二運の衰や沐浴ではなく、単に正官を弱める物(すなわち傷官)という意味で使っているようです。
ここでは劫財について述べています。
劫財は一般的に悪いとされていますが、ここでは同じ五行で異なる干の強弱や作用について区別して書かれています。
甲乙は、甲が乙を助け、乙は甲を弱める関係です。
丙丁は、丙が丁を助け、丁は丙があると丁の作用が隠れます。
戊己は、助けるという関係よりも多いか少ないかが問題です。土が多すぎるのはどの干に対してもいい作用はありません。土は身体では消化器官をつかさどります。
庚辛は、干関係はお互いよくありません。辛は庚の助をうけますが、それよりは地支の庚(すなわち申)がいいということでしょう。また申には壬も含まれるので淘洗の作用があります。
壬癸は、壬が癸を強め癸は壬にあまり作用はありません。
「壬内蔵丁」とは干合のことを指すと思います。丁が壬を干合すれば癸は壬の助を受けなくなるので弱くなります。
最後の句はわかりにくいと思いますが、その意味は、陽干の方が剋の害は大きく、陰干の方は洩らされる害の方が大きいということです。
劫財は、だいたいは陽干が陰干の助けになり、陰干は陽干の助けになりません。
ここでは正官について述べています。
正官は陰陽の違う剋関係であり、干合の組み合わせです。通常夫婦関係を指します。
乙庚については「兄弟同郷」といっていますが、夫婦ではなく兄弟のような関係だと言いたかったのかもしれません。
ここでは、正官はだいたいにおいてよいと書かれていますが、例外的に壬己は悪い関係であるとしています。いわゆる己土濁壬ですが、これは私も同意見です。
陰干が陽干を正官とするのは、陽が強く陰が弱いという順当な関係といえます。それを「成器」と言ったものでしょう。逆に陰干が正官となるのは、弱い陰が強い陽を剋すことになり、剋関係とは逆になります。よって剋よりも合や化の意味が強く出るということなのだろうと思います。
前項の正官に続いて、ここでは「化合」について述べています。
甲己の合は化土で陰干にひきずられます。乙庚の合は化金で陽干にひきずられることになります。この二つは化する五行にひきずられる場合ですが、陰干にひきずられる場合には家庭、陽干にひきずられる場合は外部の組織にひきずられる傾向があります。
丙辛は化水で水は智を示す五行です。丁壬は化木で木は仁を示す五行です。これは化する五行の性質を有するということを言っています。
戊癸は化火して、戊は癸の正官、火は癸の財、また火は戊の印で、三才すなわち財官印そろうということでしょう。
また最後の2行は、陰日主が陽干の合の場合は陽が正官、陽日主が陰干の合を得る場合には正財ということを言っています。
ここでは偏印について述べています。偏印は梟、倒食とも呼ばれ、正印とは異なり凶を含む傾向にあります。
乙が癸に剋されるとは少し変ですが、偏印は倒食で凶意があるということなのでしょう。
丙は強い干ですが、甲が多い場合は光が届かずあまりよくありません。
乙は丁の印ですが、その作用は明らかではありません。あまり印の作用はなく凶意を含むという人もいます。
庚辛に対する戊己の作用については、前者は埋金、後者は汚玉といわれることです。
壬癸に対する庚辛は普通の五行関係でいいと思いますが、水が強すぎるのは凶意が出ます。
ここでは財について、正偏をあまり分けずに述べています。
ただし戊己だけは偏財についてだけ述べています。理由はよくわかりません。
庚辛には寅卯とありますが、ここで地支の話をするのは唐突なので、甲乙のことを意味していると考えます。
害というのが仮に剋だとすれば、偏財は吉で七殺は凶ということでしょうか。
「以直而言之、消詳為可矣」という部分は訳を変えました。「漢語網」サイトによると、「消詳」は推測するとか詳しくみるとか、あるいは引き延ばすというような意味があるようです。今まで知りませんでした。
解釈をかなりはしょっていますが、「十干体象」に書かれた以上に十干の特質を示しているところもあります。また干関係に着目しているので、「十干体象」よりもよほどわかりやすいところもあります。
原文を注意深く読むと、単に干関係を示しているわけではありません。ところどころに解説はほどこしていますが、干ではなく支との関係も述べています。また細かに解釈していない部分で、実は天干ではなく地支との関係を指していると思われるところもあります。「郷」と書かれている部分は、だいたいは行運の地支を指しています。(それだけではないですが)
実はこの賦の重要性に気づいたのは2005年頃です。「十干体象」と並べて、干ごとに解説すればもっとわかりやすかったかもしれません。