'98夏 北京パソコン事情…のごく一部

 8月3日から3週間,短期留学の引率で北京師範大学に滞在してきました。私にとっては約1年半ぶりの北京で垣間見たパソコン事情をご紹介します。なお,当時のレートは1人民元=約18円です。
 まずは旧同僚を訪ねて,以前働いていた「北京日本学研究センター」というところに行きました。北京外国語大学内にあって,日本語教師の研修と日本学の研究者の養成を行っているところで,日本の国際交流基金が半年毎に数人の日本人教員を派遣しています。ここが,私が去る4年前には想像もできなかったくらい「現代化」していて,この10月にはLANを敷き終わり,いずれは日本の学術情報センターと専用回線で結ぼうかという勢いなので,びっくりしました。情報の出入りが管理され,FAXを持って行ったら空港でとりあげられた,なんていう話はほんの6,7年ほど前のことだし,ついこの間まで,インターネットにつなぐには公安の認可を得るために長い間待たされる,とか言っていた筈なのに,あまりの変化にこっちの意識が着いて行けません。
 中国国内のプロバイダーもいろいろあるらしく,6時間まで100元のだとか1分0.2元のだとか,メールだけでよければ1分0.03元のもあるとか,詳しい人は詳しいです。また,自分でつながなくても,たとえば師範大学の近所の本屋では,4台のパソコンを店内に置いていて,手書き原稿の清書代行,30分10元でのレンタルの他,メールを1件3元で送信してくれます。また,ホットメールの無料アドレスを10元の手数料で取ってくれるということでした。他にも書店にインターネットカフェ風の空間を設けるというのは,結構多いパターンでした。しかし,これではやはり,わざわざ出かけなければならないし,受信のほうはひとつのアドレスに来たものを複数の人が見て各自自分宛のものを捜すというやり方なので,問題なしとは言えないでしょう。今は自宅で「上網(ネットにつなぐ)」する人が多くなって来たと言うことです。
 少なくとも首都北京では,インターネットを通じてすぐにも世界と一緒になろうとしているような,すごい勢いを感じます。ところで,これだけたくさんのパソコンがあちこちで稼動しているということは,電力事情が大幅に改善されたということでもあります。以前は何の断りもなしに突然停電することがしょっちゅうで,ワープロを使っていて何度も泣きを見ましたが,今はほとんど停電しないし,する時は事前に通知があるのだそうです。
 次は「中国のシリコンバレー・中関村」。北京大学の近くで,もともと電子機器関係の会社が集まっていた通りだったのですが,「中関村電子商場」というのができていました。新旧2つあり,新のほうは某コンピューター館の4フロアをくっつけたようなただっ広いところ,旧のほうは建物は細長く,古くてうす暗いのですが,2階から地階までびっしり物が積み上がっています。以前は確か肉や野菜を売っていた場所だった筈なのですが,2階や地下まであった記憶はなく,さては隣の建物だったか,はっきりしなくなりました。各階2m四方くらいのブースがずらっと並んでいます。ラジオセンターを何本も並べた感じといったらよいでしょうか。それぞれがCPUだのメモリだのボードだのファンだのケースと工具セットだのケーブルだのハードデスクだのCD-ROMドライブだの,果てはネジ1本まで,得意のものを売っていて,無茶苦茶な賑わいでした。ほとんど訳のわからない私が行ってもなんだかわくわくする場所で,見る人が見れば宝の山なのではないでしょうか。ただし,値段は未詳。ちなみに,スピーカーやソフト一通りのついた完成品の値段は,IBMやNECの「奔騰(Pentium)U」搭載のもので2万元弱,AMD-K6など互換CPUのものが1万2〜3000元,中国国内ブランドの「方正」「聯想」などで8〜9000元くらいです。本屋にはwindowsやofficeのマニュアルの隣に,必ず組み立て解説書が数種類並んでいるので,薄々感じてはいましたが,どうも北京のほうが組み立てが盛んな気がします。なんといっても実利を追求する民族性ですし,これまでもあちこちからいろいろ拾い集めてきては,自転車を組み立てたり,テレビを作ってしまったりする人たちでしたから,同じ感覚で入っていけるのでしょう。
 ところで「中関村」で売っているようなものは多分大丈夫だと思うのですが,「児童センターにある20台のパソコンのCPUとメモリ,ハードディスクが抜き取られた」なんて記事が新聞に出ていたりするので,もっと危ない場所もあるのかも知れません。
 危ないと言えば「中関村」界隈では,「CD-ROM,CD-ROM」とか「軟件(ソフト),軟件」と耳元で囁く人たちがいて,これは言わずと知れた「盗版(海賊版)」の売り込みです。北京大学のある先生が案内してくれたので行ってみたら,まさしく闇の世界,路地をくねくねと入った奥に掘立て小屋が並んでいて,その中で商売が行われています。買ったらすぐに鞄にしまって人に見られないようにしなさい,内容が違っていたらすぐ取り替えに来なさい,などと言われて,なんとも怪しげな雰囲気です。もちろん当局は躍起になって取り締まりをしていますが,正規版が6〜70元なのに対して,その何枚分もの内容で15元なのですから,どうしようもありません。
 さて,ここまで来た以上,今後パソコン使用が伸びることはあっても,後退することはなさそうです。大切なのは情報の流れが自由であること。今の政治体制が続くにしても,この自由化への動きは誰にも止められないと信じています。(中国語学科 加藤晴子記)

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