袋田の滝は、日本三大名滝のひとつに数えられる滝だそうで、
ほんまかいなと言う気もする。
観光案内によると、水が涸れるときもあるそうで
多少の不安はあったけれど、出掛けてみることにした。
平成12年9月3日(日)

今回のツーリングは、袋田の滝。別に滝が見たくて出掛けた訳じゃなく、今年の夏は結局夏休みが一日も取れなかったので、せめてという想いで走らせた。
それにしても酷い夏だった。というより6月からは毎日が地獄のように辛かった。詳しいことはここではどうしても書けないけれど、責任の重さに毎日潰されそうになって、それでもギリギリまで頑張って生きてきた、そんな感じ。こんな経験滅多にできないし、他の人にはしてもらいたくもない。社としてももう二度と起こってもらいたくない事件だと思う。そのド真ん中に位置しちゃった訳だから、そりゃあもう、辛いなんてもんじゃない。他のいろいろな人にかかる迷惑も申し訳ないし、だからこそ逃げ出すわけにも行かない。この3ヶ月間「逃げない、負けない、諦めない」を何度も呟いて生きてきた、そんな感じ。

忘れようとしても、たぶん一生忘れられない出来事だろうから、せめて大好きなバイクに乗って、気分をガラッと変えてみたかったのです。だから、行き先はどこでもいい。ただあんまり過激なところは避けて、できるだけのんびりしている方がいいな、と思って作ったコースです。
●コースは入念に。調べ尽くしたルートです。
先日会社まで、バイクで出掛けたとき、GPSに会社の場所を入れて走ってみたのです。何度も走っているので、方向も距離も知らなくても良い。でも面白いからやってみた。するとどうでしょう。凄い正確なのです。なんでも米軍の妨害電波がなくなったとか。5メートルくらいの誤差しかでない。ウエイポイントで入れておいた交差点など、交差点のど真ん中でゼロメートルになる。嬉しくなって、今回のツーリングは、結構細かくウエイポイントを入れようと、ルートを入念に作ったのでした。袋田の滝に行くなら、那珂ICまで常磐道で行って、そのまま帰ってくるルートが東京からはたぶん一番でしょう。でもそれじゃつまんない。行きは、東北道の矢板ICで降りて、西から袋田に近づくことにしました。たぶんこのルートにもふたつあって、西那須ICまで行っちゃって、三島、大田原、大豆田から唐松峠、佐貫、仲野を抜け、北から袋田に入るルートと、今回のルートの矢板ICから鹿子畑、馬頭、境明神峠、大子を通って袋田のルート。北からのルートは20キロくらい長くなるので、まあ手始めに短いルートにしたのです。入力したウエイポイントは、だいたい20箇所くらい。結局細かすぎたと反省することになるのですが、極めて正確に方向を示してくれました。まず、絶対に道を間違えない。交差点では、次のウエイポイントの方向を必ず指しているので、こっちとすぐ分かる。方向があっていることは、距離がどんどん縮まっていくので自信を持って進める。簡単ではあるけど、地図上に自分の位置が示され、次のウエイポイントの位置も記されるので、ほんとに自信を持ってアクセルが開けられるのです。その分回りの景色を楽しめるし、バイクに乗っている喜びを噛みしめることもできる。一人でもGPSと一緒に旅しているようで、結構寂しくない。いろいろ良いことがあるのです。決まったコースは嫌だと言う声も聞こえるけど、まあいろいろな楽しみ方のひとつと思ってください。
●GPSいろいろ。
実際にどのようにGPSを使うのかを書いてみましょう。
私が使っているのは、言わずと知れたGARMIN社製のGPS3+という機種。インターネットを通じて「まっぷさん」という所で買ったもの。この機種は、地図がある程度表示できる。別売りの地図データCDを買ってPCを使ってアップロードしておくと、まあまあ笑っちゃえるような地図が出る。それでも、高速道路、主な国道、鉄道、川は大概表示されるから偉い偉いと言った感じ。
進んだカーナビみたいに道順なんかは教えてくれない。何もしなければ、自分がいまいる位置を表示するだけ。それではGPSなんて使わなくたっていい。ウエイポイント、つまり途中のポイントの緯度経度を入力して置いて、それを組み合わせてルートを作る。するとどうでしょう、今いる地点から次のポイントまでの距離、時間、方向を常時示してくれるのです。ただ道は真っ直ぐじゃないから、次のポイントまでの道がくねくねしていると、GPSはいろんなことを表示する。さっきまで20キロ20分だったのが、急に55キロ1時間40分なんて表示に変わる。すべてがリアルタイムだから、こうなってしまう。こんなことも面白い。
あらかじめ入力しているウエイポイントの緯度経度は、会社に転がっていたリブレットにMapFanを入れてあり、これで緯度経度を調べる。これは結構面倒だけど、旅を10倍楽しむためには、我慢の作業。地図を詳しく調べるので、勉強にもなる。発見もある。でも、誰かもっと楽になる方法を知っていたら教えてください。
取り付けは、下の写真のような感じ。売っている側は禁じているけど、自転車用のホルダーをそのまま使っている。ハンドルなので振動が直接来るのが玉に瑕。

●写真左 ハンドルにホルダーを取り付け、GPSはそこにカチャッと止まる。結構しっかり付いているので、よっぽどのオフロードでない限り大丈夫だと思う。ただ振動が伝わりやすく、高速では時々電源が落ちてしまう。これは電池の接触不良が原因らしく、電池ケースの中で電池が踊るのがいけないらしい。対策としては、電池ケースの中のスプリングをグイグイ引っ張って置くくらい。後はケースのふたの締め方でずいぶん違うような来もする。電池を少し太らせるといいとも何かに書いてあった。でも面倒で、これは却下。
●写真右 何と言うことはないX4の後ろ姿。撮ったので、載せました。ごめん。

GPSは、ウエイポイントに近づくと、「近づいたぞ」と警告が表示される。そして、段々と地図の縮尺を拡大してくれて、より分かり易い表示となる。そこにメッセージを書いておけば、右に曲がるのか、左に曲がるのかも分かってしまう。まあ、結構誤差があったとしても10メートル以内だと思う。5メートルくらいの誤差であれば、入力の誤差でもあるから、どうしょうもない。だいたい5メートルの誤差であれば、大した問題にはならないはずだ。もう目の前に見えている距離だ。間違えようもない。交差点は、100%特定できる。いくつか重なった交差点でも、大丈夫。5メートルの中にいくつもの交差点はない。後は慣れることである。
ウエイポイントを通り過ぎると、次のウエイポイントを自動的に示す。地図も自動的に縮小され、次のウエイポイントが地図の中に入ってくる。これを繰り返してツーリングをして行くわけだ。一番良いことは、ちゃんと予定が立って、行き当たりばったりのツーリングにならないこと。ソロでもグループでもあらかじめ決められたコースでのツーリングとなって、目的が共有できる。一緒に行っていて、どこに行くのかも、どこを走っているのかも知らないと言うのは、ちょいと悲しい。GPSを持つことでかなり計画的になる。これがまず、いいと思う。
そして、常に後どのくらいかが分かるので、嫌になったり、不安になったりしない。高速道路で、時々「どこどこまであと何キロ」という表示が、長距離を走る励みになる、あれと同じ。その分その瞬間が楽しめるのです。
そうそうそれは、プログラムを組むのに似ている。自分で組んだプログラムが、ちゃんと動くのかを、自分で走って確かめる、そんな気分に似ている。それが結構嬉しい。そんな気分が分かってくれる人もいると思うけど。
●そうそう、袋田の滝だった。
そんな風にして、向かった袋田。行きは大泉から外環で東北道へ。去年は酷い目にあった入口だから、今回は間違えようがない。この日はめちゃくちゃに風の強い日で、油断していると飛ばされそうになる。まあ、260キロのバイクだから、バイク自体は安定している。問題は人間の方、つまり自分。横風が吹くと頭が持って行かれる。結構恐い。こんな時の処し方は、教習所でも、ホンダのレインボーでも教えてくれない。セロでツーリングに行ったときも凄い風の時はあったのだけれど、スピードが全然違う。走りながらどうすればいいのか考えた。顎を引いてみた。これがいい。そうか、自分は走りながら顎が上がっていたんだ、とその時初めて分かった。すべてのスポーツの基本は、まず顎を引くことだ、と聞いたことがある。これがそれなのでした。
川口JCに着く頃、ガソリンがないこと、お腹が痛くなってきたことで、人生はすべてが順調なんてことはあり得ないんだなぁ、とつくづく感じながら高坂にたどり着いて、トイレにかけ込み、スタンドに走り込み、さあ、もう何も問題はないだロー、と強気で出発したのでした。
宇都宮を過ぎる頃から、強かった風も嘘のように治まり、空は青空、走っていれば暑いのも気にならない。もうごきげん状態で走り続けていたのです。走っているときは、実はあまりいろいろなことは考えないし、考えることもできないのだけど、単純になった頭は、物事を凄く単純に考えて、今まで気が付かなかったことを教えてくれたりする。この三ヶ月間のことも、悪くてずるい奴もいるけど、正直で真面目な奴の方が沢山いるんだから、その人達のために人を悪く想っちゃいけないなとか、自分の責任です、ごめんなさいと頭を下げるのは簡単だけど、下げた後にやらなきゃならないことがいっぱいあって、それが本当の責任なんだろうなとか、ぼんやりと考えていると、結局は、嫌なことは風の中に溶け込んで、消えていくような想いなのでした。
矢板ICからの道は全くの初めて。でもGPSのおかげでがんがん走る。細かく入れたウエイポイントが次々と現れる。5キロおきくらいの間隔だから、さすがにこれは無駄。次のポイントの大まかな方向が知れる程度の入れ方を勉強しようなどと考えながらの走行でした。のどかな道をのんびり走る。大人のツーリングってのはこういうもんだ、という見本にしたいくらい。それでも1時間もかからず大子に到着。ここは、温泉地で、結構な観光地。大子大橋なんてのがあるはずで、さぞや情緒ある橋かと想って、そこで記念写真をと考えていたものの、行ってみればただの橋。なーんだで通り過ぎてしまいました。大子を過ぎれば袋田までは10分程度。すぐ着いてしまいます。おまけにこのあたりでは袋田の滝は唯一の名所らしく、とても分かり易い道案内がいっぱいある。いやが上にも着いてしまう。驚いたことに、すごい観光客。駐車場も立派、おみやげ屋も立派。もっと寂れた滝を想像していた期待は、まず近ずくだけで裏切られたのでした。

●チョロチョロの水。迫力はなかったけれど。
少し離れた駐車場にバイクを止めて、大きな看板に導かれて歩く。まるで浅草の仲店のような両側がおみやげ屋、休憩所の間を歩く。面白いのは店の名前。どの店も「滝」と言う字が付いている。「大滝屋」「元滝屋」「滝口屋」。うーん、新しく店を開くには、店の名前だけでも難しいぞ。左右で40軒から50軒。これはもう立派な観光地。こんなに有名な滝だとは思わなかった。客も後から後から続々と歩いてくる。ほとんどは家族連れ、友達同士のドライブ立ち寄り組。店を抜けると、出来たてと言った感じの急な階段。その迂回路のスロープ。お年寄りはスロープを、若いペアは階段を登る。私は当然、階段。登り切るとそこにはトンネル。

トンネルの右側に小屋があり、おばさんが数人、通る客に声をかける。「トンネル通行料1回100円」。トンネルを通らずに滝には行けそうにない。だったら見学料とすればいいのに、トンネル通行料だと言う。滝が100円の価値もないのかと可哀想になる。そう思ってはみたものの実際にトンネルに入るとなかなか立派なトンネルだった。これはこれで掘るのも大変だったし、お金も掛かっているだろう。一人100円でいつになったら元が取れるのだろう。おばさんの人件費だってある。今日は休日だからこれだけの人もいるけど、普段の日は人も少なかろう。おばさんもいないのだろうか。無料になっちゃうんだろうか。まあいいや、と考えるうちにトンネルの出口。そこは袋田の滝の真ん前。「うわー、近い」がまずの感想。目の前が滝。岩肌まで手が届きそう。すごい迫力である。

しかし、水はチョロチョロ。この季節は、水が少ないらしい。まあ、事前に調べたときは水が涸れているときもあるらしいので、水があるだけましだろう。実際には、春先が水が多いらしい。そして真冬は滝全体が凍って真っ白になって実に見事な風景らしい。トンネル手前のおばさんに100円払ったときにもらった「利用券」は、この冬の様子が写真になっている。そうか、ここは冬の名所なのだ。

●写真左上 トンネル入り口付近。どういう訳か観光客がゾロゾロ。みんな観光バスかマイカー。観光とはこうしたものなのかと、初めて気が付く。こんな事のために土日祭日がマイカーで渋滞するのである。不思議な国だと思う。
●写真右下 これが噂の「袋田の滝」。幻の画家、五十嵐文哉も描いた有名な滝。しかし時期が悪かった。 

実際、この滝の「トンネル利用券」には、冬の凍結した滝が描かれている。人間の大きさと比べれば、なかなかの迫力だ。今度は冬に来ようなどと考えたものの、まあ、来ないだろうなー。だいたい滝が見たくて来たんではなく、走りたかった目的地をここにしただけなのだ。おそらくここに来ている人のほとんどがそうなのだろう。おばさん連中がバスで来るのも、おばさん同志話がしたいため、家族で来るのも、どこでもいいからどこかにつれていったという事実を作るため、恋人同士なんざ、車に乗っていたいがための理由でしかない。でなきゃ、チョロチョロの滝なんかに来るわけがない。まあ、それでいいんでしょう。楽しむってきっとそう言うことなのだから。
そんなそこはかとない人生観を感じながら、滝を後にする。暑かったので、缶ジュースを一本飲んだだけ。何とかの水とかいう味も香りもない飲み物。それでも120円。すべてまあいいでしょう。楽しみに来ているのだから。
帰りは、ひたすら南へ。那珂インターまでのほとんど一直線。山間の心地よい道から、ポツリポツリと建物が増え始め、観光のマイカーから、忙しそうな商業車が増え始め、トラックが走り出し、建物もびっしりと並ぶようになる。その変化は、それだけでも面白い。人口密度の変化である。山から平地に降りてくると、どこでもそんな風景だ。身体が徐々に都会になってしまうのが分かる。
那珂インターからは、渋滞もないまま水戸、土浦を過ぎて一気に都心へ。今日は快適な一日で終わるのかと思ったら、なんと、柏付近から、雨。冗談だろ。と言いたい。さっきまで晴れていたじゃないか。止めてくれよ、である。これは気のせいだ、すぐに止むぞ、とレインコートには着替えずそのまま疾走。願いが通じたのか、三郷付近ではまた太陽が顔を出す。ホッとしたのもつかの間、三郷を右に折れて、外環には行ったとたん、こんどはその太陽にいじめられる。沈む夕日が、全くの進行方向。その眩しさたるや、ヘッドライトを目の前10センチで付けられているよう。直前のクルマをまともに見れないのである。東西に走る道の宿命なのだろうか、太陽には文句は言えないが、相当危険である。特にサンバイザーなど付いていないバイクはもろに照らされ、防ぐ方法がない。オンロードのヘルメットには、つばが付いていないので、ヘルメットでは防げない。ほんの10センチでもつばがあればずいぶん違う。何故付けないのだろう。そう言えば白バイのヘルメットには付いているぞ。ハーレー乗りも付けているな。こんな事があるからなのだ。それはそれで実用的で、確かにレースには必要ないから、その流れをまともに受けているロードバイクのヘルメットにはつばがないのだ。でもなぜモトクロスには、つばがいるのだ。ましてスタジアムのモトクロスなんていらないじゃないか。パリダカだったら分かるけど、ふつうのモトクロスレースで、顔が焼けたら困るって事はないだろう。それぞれのファッシヨンなのだから仕方ないのだろう。私が文句を言っても何にもならないのだ。とは言っても、白バイヘルメットやハーレー乗りヘルメットは嫌だぞ。まぶしさに耐えなきゃならないのだろうか。「眩しさにぃー、負けたぁー、いいえ世間に負けたぁー」なのである。
そして、出発をした練馬に到着。高速の出口はいつものように渋滞。よっぽどのことがない限り、大型バイクの貫禄を重要視して、コセコセとすり抜けはしない。でもここは別である。そんなことしてたら10分、20分と言う単位で遅くなる。ギリギリの隙間を縫って進む。「あれ、また雨だ。」ご丁寧な旅の締めくくりである。雨の神様は、どうしても私に挨拶したいらしい。私に惚れているのである。絶対、女性の神様なのだ。柏付近の雨よりずっと強い。都心の混雑、暗くなり始め、しかも雨。これも試練なのだ。もう最後、あと30分もかからない。レインコート無しである。環8は絶対渋滞するので環7から行く。中村橋を右。突き当たりまで言って左。突き当たると環7と言う道筋。雨でなければ、らくらくコース。環7は、渋滞とは言え、ズルズル進む。荻窪、方南町、高井戸、甲州街道を横切って、羽根木から裏道。ここまでくれば、もう家も同然。無事帰り着いて、バイクを車庫に納めているときに気が付いた。「ああ、雨が止んだ」。今日のツーリングの終わりである。