北海道へは3回。九州へは2回。本州の中は、それなりにウロウロ。
でも、四国には行ったことがない。
理由は、それだけだろうか。
四万十川が見たい。讃岐うどんが食べたい。
こじつければ、理由はたくさんあるのだろうが、どうでもいい。
ゴールデンウィーク、どこかに行きたかった。
行ってみて、今回のツーリングほど、
人との出会いが嬉しかった旅はなかったと感じた。


いつもそうであるように、今回のツーリングも予定はあらかじめ細かに決めている。特に四国は初めての場所なので、だいたいのコースを決め、帰りのフェリーと泊まる場所はあらかじめ予約した。すべてビジネスホテル。だいたい一泊5000円くらいで泊まれる。キャンプも嫌ではないが、荷物が多くなるし、食事も自分で何とかしなくてはいけなくなるので、今回は、きっぱり諦め、できるだけ安いビジホを選んだ。
今年の連休は、30日と6日、7日を休めば、11連休が可能になる嬉しいゴールデンウィークだ。しかし、さすがに月末の30日は、休めない。会社の経理の締め日となる日なので、何をする出もないが、一応の責任者である自分が、休んでバイクに乗っているのは、気が引けるのだ。だから休みは、5月1日から。しかし、帰りのフェリーを調べたら、5月4日は便がなく、5月5日の帰り便となる。到着は5月6日夕方。まあ、6日は休ませてもらおう。せっかくの連休なのだから、とあまりいいわけにならない理由で、月初めは休むことにした。5月1日から6日まで、5泊6日の四国ツーが決まったのだ。
【スケジュール】
5月1日(土) 東京出発。一気に淡路島まで走る。目的地へは、早く着くのがいい。
5月2日(日) 高松泊。ここに泊まらないと、讃岐うどんが食べられない。
5月3日(月) 松山泊。坊ちゃんのふるさと。道後温泉。見なきゃね。
5月4日(火) 高知・中村泊。四万十川の河口の街。今回のメインイベント。
5月5日(水) 高知からフェリー。フェリーは、深夜2時発。
5月6日(木) 川崎着。5時45分予定。

思わぬ待ち伏せ、嬉しいね。1日目 東京〜淡路島・洲本
1日目は全行程の中でも最も距離を走る日となる。東京から淡路島の洲本まで。ここにようやく取れたビジネスホテル「カサグランデホテル」があるはず。ともかくここまで一日で行ければ、翌日には四国には簡単に入れる。淡路・神戸大震災の震源の地でもあるので、なんとなく行って、見たかった。別にそれがどうと言うことはないのだけれど、あの地割れした淡路島の様子が見られることも期待はいないのだけど、そんなことがあった場所を、実際に走ってみたいと思っていた。それで、淡路島からはいるコースを選んだのだ。
ここまで、自宅からは621H。九州に行ったとき倉敷まで一日で700Hほど走ったことがあるし、北海道に行ったときは、函館まで800Hを走っている。だから今回の距離はそんなに苦痛を感じなかった。まあ、夕方には着けるだろう。ぼちぼち行けばいいやと、そんな感じである。実際、家を出たのが8時半頃。昼までに上郷に着けば、後は自然に淡路島だろうと考えていた。出発前、不良中年の仲間の一人ともこさんが、名古屋あたりのSAでお会いしましょうと言ってくれていた。ふふふ、嬉しいなと言った感じで楽しみにしていたのだけど、ともこさんの都合が悪くなってしまった。この日は、特に何の当てもなくただ一人で走り続けるつもりでいた。それが普通のことだから、それでいいと思っていた。
出発はいつも少し緊張する。家から東名は近いので、走り初めて気持ちが落ち着く頃はもう高速道路の上にいる。走るのに少し慣れて、気持ちを静めて、さあ、行くぞと自分に言いきかせる。やはり5日間も走り続けるとなると、途中のことがいろいろと不安にはなる。なにしろ一人だから、転けて怪我しても助けてくれる人はいない。バイクが故障しても、自分の力じゃ直せない。道に迷ったり、バイクを盗まれたりなど、悪いことを考えるときりがない。でも、そんな不安を振り払って、今走ることに集中する。バイクで走っていると、あれこれ考えないので、こんな不安も吹き飛んでしまう。長距離だから、あまり無理もしない。渋滞のすり抜けも最小限、低速ですり抜ける。コンスタントに走り続けることが長距離間コツで、いくら飛ばして走っても、休む回数や時間が長くなれば、コツコツ走っている方が結局速く着くのだ。高速で追い抜いていったバイクとSAで何度も出会う。あまり時間は変わらない。リスク低く走った方が当然安全、しかも疲れない。オヤジの走り方で、コツコツ走っていると、静岡、浜名湖を通り過ぎ、今回は名古屋までがいやに早いと思った。「ああ、もう名古屋だ」と、なんだかあっけないくらいに簡単に着いた気がした。名古屋を過ぎると、京都、大阪はすぐ近いと思う。予定通りに上郷で昼飯を食べて、午後もゆっくりと、かなりの余裕を持っていた。
携帯電話を何となく見ると、あれれ、
同じ番号で何度も着信が入っている。ともこさんかなと思った。予定が変わったのかな、と留守番を聞くと、なんと九州・福岡の内田さんだ。
「あー、植野さん、今日私も淡路なんですよ。連絡ください。」早速電話する。残念ながら留守番電話。
「植野です。私は淡路の洲本に泊まります。7時くらいには着けると思います。晩飯でもご一緒しましょう。」と伝言を入れる。そして、トイレに駆け込んで、いざ、と言う瞬間、携帯の音楽がなった。慌ててもう一度、しまい込み、ファスナーも開けたままで、携帯に出た。
「内田です。今日淡路なんです。洲本温泉に泊まっています。」
「分かりました。つついたら連絡取り合いましょう。7時頃には連絡ます。」
うーーん、嬉しいなあ。MLで自分のスケジュールを流しておいたので、そのスケジュールに会わせてくれる人がいる。内田さんも、どうせなら淡路にするか、と予定していただけたのだと思う。こういうのが思いがけず、嬉しい。着いてからの楽しみが増えた。よし行くぞと言う気持ちがまたリフレッシュされて、午後も快調に距離を稼いだ。
東名・名神と走って、淡路島に渡るためには一度神戸の街中を高速道路で抜けなくてはならない。何だかよく分からない道なのだが、カーナビが実に丁寧に案内してくれる。少し走ってはお金を払い、また走ってはお金を払う。一度で済ませてくれよと思いながらも、最後にとてつもなく大きなインターチェンジを通る。いよいよ「明石海峡大橋(パールブリッジ)」だ。トンネルを抜けるとすぐに橋になる。

この橋は、凄い。ともかくでかい。吊り橋をつっている「主塔」の高さが297.2m。横浜のランドマークタワーとほぼ同じ高さ。橋の全長が3,911m、つまり4kmもあるのだ。「主塔」がふたつ立っていて、その間の距離(スパン)が1,991m、世界一だそうだ。しかも海面からは、65mの高さ。ともかく渡ってみるとその規模の大きさに度肝を抜かれてしまう。すごい、すごいと思って渡っていてもなかなか橋が終わらない。下は、遙か遠くに水面がある。よくぞ、ここまでのものを人間は作ったなーと本当に感動してしまう。淡路・神戸大震災でもビクともしなくて本当に良かった。この橋を渡れただけでも、ここまで来た甲斐があったと思う。それくらいたいしたものだと感じたのだ。
橋を渡ると洲本までは30kmほど。クルマも驚くほど減って、ほとんど独走できる。快適で広い高速。一日の終わりに気分が爽快になる。「後少しで到着だ」と思うと、不思議に寂しくもなる。大変だろうなあ、と感じていたことが、無事に終わるり何事もないことがいいのだけど、それはそれで、楽しみがひとつ減ったような気がするのかも知れない。
宿は、高速を降りて10分ほど。国道沿いにあるので、すぐに分かる。「カサグランデホテル」何だか怪しい名前だけど、ちっとも怪しくない普通のビジネスホテルだ。建物の裏が、駐車場になっていてバイクも楽々止められて安心。貧乏性のせいか、クルマとクルマの間の小さなスペースに遠慮がちに停めた。部屋は、意外に広く、シングルなのにベットは二つ。リビングのスペースも付いていて、広さと設備は、ちょっとしたスイート並だ。部屋に入るなり、ベットに大の字になり、内田さんに電話する。
「植野です。今着きました。そちら淡路島観光ホテルでしょ。そちらに行きますよ。タクシーで15分くらいって言ってたから。」
「いえいえ、こっちは居酒屋はないんです。そちらの回りの方があるって。私がそっちに行きますよ。」
そんなわけで、内田さんが来てくれることになった。
そういえば、このホテルの1階は居酒屋やスナックが入っている。近くには焼き肉屋や、回転寿司もある。このあたりが繁華街なのだろう。7時頃と約束し、革パンを脱ぎ捨て、急いでシャワーを浴び、軽装になって待つ。自動販売機でビールを買い、風呂上がりの気分でゴクゴク。これが美味い。体中に染み渡る。表に出て、ホテルの玄関で内田さんを待っていると、タンデムのX4が入ってきた。
「駐車場は、裏にあるよ。」と声を掛けたら、
「予約してないんです。空いてるかどうか・・・」と不安気だけど明るい声。後ろに乗っていた女性がフロントに聞きに行っているらしい。神戸から来ていて、淡路島一周をしようと言うことらしい。女性が戻ってくると、その様子を見て「ダメらしいな」と苦笑いを浮かべている。やはり満員で、次を当たるという。何だか微笑ましい二人で、「気を付けてねー」と送り出した。
すると携帯が鳴って、内田さんだろうと出てみると、なんと同じく不良中年の仲間の沼津のNabeさん。横浜のhatoさんと四国を目指すことは知っていたけど、予定がない放浪ツーだと言っていた。
「植野ちゃん、いまどこーー。淡路ーーー?」
「そう、淡路だよーー。Nabeさんは?」
「俺たちも淡路ーー。フェリーで渡ったとこで、疲れてキャンプ張っちゃった。もう飲んでんだーー。」とのこと。内田さんのことを話し、だいたいの場所を説明する。明日の朝寄るから待っててとのこと。こりゃまた嬉しい知らせだ。
程なく内田さんも到着して、すぐ近くの居酒屋に入った。東京の人間と、九州福岡の人間が、淡路島で会っている。何とも不思議。そして、二人だけの宴会が始まった。

内田さんとは、2年前の不良中年「九州オフ」で始めで出会った。内田さんが幹事で、鹿児島の確か霧島温泉で催された。九州の仲間は勿論、関西からも、関東からもメンバーが集まり、40人ほどになった記憶がある。なかなか豪華なホテルを、格安の料金で仕切っていただき、贅沢な思いをしたことを覚えている。そのオフの前、内田さんにメールで、「自分は寝ると大きな音を出す習性があって、同室の方にご迷惑をかけるのでご配慮のほどを・・」みたいなメールを送り、その結果、一室3名の部屋割りで、やはり寝ると音を出す習性の鹿児島の怪傑赤まむしさんと、内田さん本人が同室となったのでした。夜中にうるさいと分かっていて、自分を同室にする気持ちがとても嬉しくて、同時に凄い人だなあ、と思い、すぐに大好きな人になったのでした。内田さんは、YAMAHAのTDM850に乗っている。その他にも、トライアンフも持っている。しかもその他に四輪でロードスターも持っている。黄色いヘルメットがとても印象的な根っからのバイク・クルマ好きの方だ。それでいて心はとてもナイーブだ。私のような無礼で、おおざっぱな人間は、好きではないだろうと思うのだが、不思議に気が合う気がする。今回も、突然の電話で、驚いたのは私で、そっか内田さんは私のこと忘れていなかったんだと、何だかウキウキした。でも考えてみれば、お会いしたのは2年前の「九州オフ」だけ。たった一度だけなのに一度だけだという気がしない。ML(メーリングリスト)で時々書き込みを読んだり、内田さんのHPに伺ったりで、なんとなく日頃から付き合っている気がする。だから、会えば「やあ、こんにちわーー」となるのである。
居酒屋は、本当に地元の人ばかりで、サラリーマンが仕事を終えて飲んでいると言った庶民的な店だった。カウンターに並んで座り、美味しそうなものをお奨めで食べた。さすがに魚類は新鮮でどれを食べてもうまい。東京にいて、そこそこの店に行っていると、まあまあのものが出るので、こうして淡路島で食べてもそれほど新鮮な感じはしないのだが、値段を考えると驚いてしまう。東京の半額、1/3の値段じゃないか。そう思うと真剣に価値があるものだと思う。ちゃんと味わって食べようという気になる。内田さんも、うまいうまいと食べていた。食べながらいろいろな話をした。不良中年の仲間のこと、バイクのこと、九州のこと。話していても、本当に繊細な人だと思う。特に人間関係にはとても敏感で、九州の不良中年の仲間達についてもいろいろ考えているようだった。やはり東京などと違って福岡は狭い。だから無責任な人間関係が作れないし、作られるのが嫌そうだ。自分が完全に中心になるのも嫌だし、かといって中心になる人も見あたらない。このあたりが、内田さんの内田さんたる所以だと思う。MLでは、「中州の帝王」と呼ばれることもある。それはそれで嬉しい反面、実際に行っているのは、「安いスナックだけですよ」と正直なのだ。そんな話を聞きながら、私は、
「いいんですよ。内田さんの思う通りにやってくださいよ。それでいいんですよ。」と答えた。不良中年は、MLだけの集まりだ。何の規約も、制約も、約束もない。全てが大人の常識、良識で運営されている。参加したければ、参加し、辞めたければ、黙って辞めればいい。誰も後を追ったり、探したりはしないだろう。300人とか、400人とか言われている登録メンバーも、その全ての人を知ってはいないし、全ての人と仲良しでもない。いろいろな縁や、お互いの好みで、自然に関係が淘汰されてゆく。一人一人との距離が決まっていくのだ。だから、あまり全体を気にすることはない。少なくとも自分は、内田さんと気が合うと思っているし、チャンスがあれば、いつでも会いたいと思っている。今回は、まんまと待ち伏せされてしまったれど、次回はどこかで待ち伏せしようと狙っている。そんな人間関係が、限られて中ででも作れれば、それはすごくいいことだし、楽しいことだ。軍隊や会社ではないのだから、全体に忠誠を尽くす必要はない。うまく利用し合えればいいんじゃないか、みたいな話をした。途中から、二人とも結構飲み過ぎて、話も訳が分からなくなってしまったけど、こうして話せることが、楽しいし、嬉しい。だって、普段は東京と福岡で暮らしていて、仕事のつながりも、友達同士のつながりもない二人が、電話一本で淡路島で飲んでいるのだ。バイクじゃなければあり得ない話で、そんなことを実際にしている自分が、やはり嬉しいのだ。
しこたま食べて、しこたま飲んで、一日かけて淡路島で走ってきたことなどすっかり忘れて、気が付くともう11時くらい何っている。何度か同じく淡路島にキャンプしているNabeさん、hatoさんとも連絡を取り合って、明日のことを決める。8時にホテル前にともかく集合。それからどうするか考えることになった。ほとんど何も決まっていないに等しいが、酔った頭で考えられるのは、その程度なのだ。内田さんも、ともかく朝8時に集合するという。Nabeさん、hatoさんには初めてなので、挨拶だけでもしたいという。そんな約束をして、内田さんはタクシーで宿に戻った。「あーーー、楽しかった。」純粋にそんな気持ちだけが残った夜だった。

■2日目 讃岐うどんは美味かった。洲本〜高松
今度の連休は、天気が崩れがちだと前々から言われていた。朝起きるとすぐに、部屋の小さな窓のカーテンを開けて、天気を確認する。ここで、窓が濡れているとガクッとくるのだが、大丈夫。晴天とは言えないが、ほんのりと青い空も覗いている。今日一日は持つだろうと言う感じ。昨夜は遅く、かなり飲んだので、辛い朝になってしまったが、雨じゃないことで、少し元気も出てきた。そうそう、8時に待ち合わせだ。グスグスしてはいられない。大急ぎで出発の準備をして、チェックアウトする。ホテルのすぐ前が、コンビニなので、そこでおにぎりとお茶でも買って朝食にしようと考えていたが、飲み過ぎのせいか食べる気がしない。外の冷たい空気の方がずっと美味しい。裏に停めてあったバイクをホテルの玄関に出し、高速の方角に停めた。今日は、高速で一気に四国に入るつもり。高松に宿がとってあるので、走る距離も短く150kmほど。昼は讃岐うどんでも食べ、のんびり市内でも見物しようと考えていた。国道からもよく見えるこの場所なら、Nabeさんもhatoさんも簡単に気付くに違いない。挨拶をしたらまた、別のルートになるのだろうと思っていた。程なく内田さんが到着。黄色のTDMに黄色のヘルメット。かなり決まっている。旅慣れた感じが自然に伝わる。そして、国道の遙か彼方からNabeさん、hatoさんがやって来るのが見える。信号の向こう側からこちらに気が付いて、もうニコニコしながら手を振っている。朝から、めっぽう明るい。

●写真左 揃った不良中年四国潜入組。左から内田さん、Nabeさん、hatoさん。バイクは内田さんの黄色い愛車。やたら派手な背景が気に入って撮った。オヤジには何だか似合う。
●写真右 何だか寝ぼけ顔。前日621キロの疲れが残っているのか?


4人が集合して、内田さんを紹介して、次の瞬間からもう仲間になっている。hatoさんが早速カメラを持ち出しパチパチ撮っている。本当にこの二人は、一昨日の午前1時に沼津を出発して、高速道路を使わず、一般道を夜通し走り、明け方にともこさんと会い、昨日の夕方淡路に渉り、キャンプしてきた二人なのだろうかと思うほど元気だ。元気だからバイク乗っているのか、バイクに乗っているから元気なのかよく分からないが、ともかく朝から輝いている。淡路島の朝の空に、4人の笑い声が響く。
内田さんは、高速で徳島を目指し、その後室戸岬から今日中に高知に入るという。全部走りきれば、250kmくらいの距離だろう。Nabeさん、hatoさんは決めてないという。「ともかく3日に高知に行く」だけが、予定なのだそうだ。まあ、高松方面に不良中年の仲間がいそうなのでそっちに向かうつもりのようだ。私が高松だと聞いて、一緒に行くと決めている。それもまたいい。そんな話がついて、内田さんは高速の入口の方角、右へ。我々は、一般道が四国へと続く左へ向かった。朝のほんの一瞬、Nabeさん、hatoさんは、内田さんにあった。でも今度会ったときは、「こないだはどーーも」と昔からの知り合いのようになるのだ。そして、気持ちも昔からの知り合いになっているのだ。
Nabeさん、hatoさんは、今回は一般道(下道)にこだわっている。高速なんか使わないし、できる限りキャンプなのだ。高知だけはビジネスホテルを予約したと言うが、後はどこに行くか、どこに泊まるかなど決めていない。それもまた気楽な旅で羨ましいが、自分にはできないと思う。ほとんどが一人旅で、予定がないとサボってしまう癖がある。心細くなると、理由をこじつけて途中で帰ってしまうかも知れない。なにしろ意気地がないのである。その点この二人は、全くの自由人だ。糸の切れた凧のように感じる。気の向くままに走り、気の向くままに泊まる。旅のスタイルはいろいろあっていいと思うが、正直言うといつかは自分もやってみたい旅のスタイルではある。Nabeさんを先頭に、hatoさん、私と続いて3台のバイクが走り始めた。さすがに二人のコンビネーションは、美しいぐらいにピタリと息が合っている。流れるように2台は走っていく。でも、私一人はどこかリズムが違う。流れに乗っていないと感じてしまう。それは、私が下手くそで、コーナーごとに遅れてしまうからだ。直線で、なんとか追いつく。コーナーで離れてしまう。そうか、みんなこんなに早くコーナーを曲がるんだと、いつも感じる思いが蘇る。そんなに遅く走っているつもりはないのだけど、やっぱり遅いのだ。いつもマイペースでしか走っていないので、鍛えられていないのだ。でも、怖いし、安全で行きたいから、遅れてもマイペースを守る。ただ、助かったのは、二人のペースは速いのだけど、途中で止まる回数も多い。きれいな風景があると止まり記念写真。大きな橋があると降りてふざけ合う。長い直線になるとカメラを取り出し、走りながらシャッターを切る。カメラを後ろに向けて、走っている私の姿を撮る。一人で先行して、途中で待ち、走ってくる姿を撮る。走っては撮り、撮っては走るのだ。だから時間の割には距離は稼げない。淡路島と四国を結ぶ「大鳴門橋」でも、止まってしまいそうな速度で左端を走る。橋から水眼を見物しているのだ。旅を本当に楽しんでいる。噛みしめるように一コマ一コマを記憶にとどめている。そんな感じさえする。橋を渡った後もどれほど止まっただろう。ともかく記念写真だけは、大量に撮ってもらえたのだ。

●写真左上 hataさんが「待っててー」と言って撮ってくれた写真。橋の上だけど、分からない。
●写真右上 実はこのレポのタイトルに使った写真のオリジナル。タイトルはずいぶん苦労して橋を強調し、hatoさんには消えてもらった。hatoさん、ごめん。
●写真下 実はNabeさんは、怖い顔してるけど、高所恐怖症。橋の上で見物していると、必ず落とされる恐怖を味わう。本気で震えてた。いい大人がやることか?


Nabeさんとは、今回会うのが4回目か5回目くらいだろう。「ほやオフ」「中尾オフ」「5周年」。何度も会っている。その度に、顔は怖いけどいいオヤジだと感じている。確か仙台で集まった「ほやオフ」では、いつものように酔っぱらってしまった私を、「ここで寝なさい」と空いていた布団まで連れて行ってくれたのがNabeさんだった。もう、訳が分からなくなっていたので、とてもありがたかった。酔って朦朧とした頭の中で、Nabeさんに申し訳ないと思っていた。明日の朝、謝って、お礼を言おうと固く決心して寝たのだ。翌朝、謝ったら、「いゃーあ、植野さんはその時が楽しけりゃいいと言う感じで、豪快で好きだよ」と言ってくれた。ありがたくて、大好きになってしまった。今回も、私が四国へ行くことを知っていて、どこかで会おうと私のスケジュールをメモしていてくれた。だからこうして会えて、一緒に走れるのだ。
hatoさんとは、何度も会っているけど、ゆっくり話せたことがない。集まるといつも必ず撮る集合写真には、私とhatoさんは、確かに写っている。でも、今日まであまり話ができなかったのだ。今回一緒に走れて、hatoさんの印象が一気に強くなった。何故、自らをデジカメオヤジと呼んでいるかもよく分かった。ともかく「人のいい、いい人」なのである。

途中で立ち寄ったガソリンスタンドで、Nabeさんが美味しい讃岐うどん屋を尋ねる。スタンドのおばさんは、なにやら困った様子。何処もうまいし、好みにもよるというのだ。だいたい讃岐うどんの食べ方は、食べ較べが基本らしい。なにしろ「ぶっかけ」一杯が300円から400円くらいだから、美味しいと言われるうどん屋をはしごするのだそうだ。一日5、6軒も回るという。だから、何処が美味しいなど、1軒に決めろというと困ってしまうのはよく分かる。その中でも、おばさん推薦の店を聞き出した。「権兵衛」という。スタンドからは15分ほど。しかも、目的地の途中である。Nabeさんは、朝飯を食べていないという私に気を遣って、早めに食事にしてくれるのだ。hatoさんも讃岐うどんと聞いて目を輝かしている。バイクをおなか一杯にした後は、3人のオヤジは教えられた讃岐うどん屋「権兵衛」を目指したのだ。
店は国道沿いで、目印のインターチェンジもすぐに分かり、先導のNabeさんの注意深い走りのおかげですぐに発見できた。ちょうど店のおやじさんが「やってます」の看板を国道の目立つところに掛けているところだった。開店早々というわけだ。ガランとした店に入ると、まだお客さんは数組。何を食べているかと覗くと、なにやらでかい器に入ったうどんをタレに浸けて食べている。店の女の子に「何が美味しいの」と聞くと「みなさん。釜揚げをお食べになります」という。そうなれば、釜揚げしかない。値段を見ると300円。大盛り400円。だったらおなかも空いているし、「大盛りください」ということになった。Nabeさんは、釜揚げ普通プラスとろろうどん、hatoさんは、釜揚げプラスぶっかけ。怖いもの知らずの3人は、値段の安さに気をよくしてか、後のことも考えず、気前良く注文したのでした。
さあ、うどんが出てきて驚いた。たかが400円とタカをくくっていたのだが、私の大盛りの量たるや、軽く3人分はありそう。お風呂の桶のような器に、茹でたてのうどんがぎっしり詰まって、湯気を立てている。その割には汁は、少ない。食べるにつれて薄まっていったら、最後の一本になる頃はお湯になっちゃうぞ、という恐怖が走った。「お代わりできるのかなぁ」など、しなくてもいい心配までしている。一口目、うどんが噛み切れない。歯も顎も、たかがうどんと舐めてかかったのが間違いだった。普通のうどんのつもりで、軽く噛み砕こうとしたのが、本場讃岐うどんを知らない者の浅はかさだった。ともかく腰がある。堅いのではなく、重いのだ。歯ごたえがずっしりしている。味も淡泊な中に、ほのかに、これがうどんだぞという香りが漂う。うまい。全然違う食べ物だ。「これが、讃岐うどんか」という素朴な感動が、湯気の中から湧いてきたのである。実は、讃岐うどんを本場讃岐勤勉で食べるのは、これが2度目だ。1度目は何年か前に出張で高松に来たとき、飛行場で食べた。飛行場の讃岐うどんは最低だと地元の人は言うらしい。しかし私にはめちゃめちゃ美味しかった記憶がある。記憶はあるのだが、何がどのように美味しかったのかは、すっかり忘れている。「美味しい」という記憶だけが残っていて、他の記憶がない。元来、人間はそれほど記憶力に優れた生き物ではない気もする。讃岐うどんの味、香り、歯ごたえなど全てを鮮明に、いつでもそのままを思い出せるほど記憶していたら、もう一度食べる必要などないのだ。どんなに高価で、美味しい鮪のオオトロだって、食べた記憶がそのまま残っていて、再現できれば、もう一度食べたくなることも、第一食べる必要がなくなるはずだ。「美味しかった」という言葉だけが残って、その感覚はすっかり忘れてしまうので、また食べたくなるのだろう。記憶が確かでないことの方が、何度も感動を味わえて幸せなのである。しかもこれは、食べ物に限ったことではなく、全ての感覚に共通する。美しい風景も、きれいな音楽も「感動した」という言葉は残るものの、その感動自体は記憶から少しずつ減退していく。だから、また見たり、聞いたりすると感動するのだ。一度食べて「美味しいと」思った讃岐うどんも、おいしさの記憶が薄れたおかげで、また楽しめたというわけだ。

●写真左 食べ終って外に出たら行列ができていた。そんなに有名な店だっのだと改めて思った。
●写真右 駐車場でお話しした大阪のまるこさん。何でもバイクに乗っている方で、思わずお話ししたくなったそうだ。

無事讃岐うどんも食べ終わり、さてどうしようかと言うことになった。相変わらずNabeさん、hatoさんは行く先を決めていない。私の方は、まあ高松に宿があるので、そちらに向かうだけだ。Nabeさんが、なるべく山道を通って高松方面に向かうと言い出した。hatoさんもそれに賛成。私は、なるべく早く高松に着きたい気持ちなので、その場で別れることになった。高速のインターもすぐ近くなので、私は高速へ、二人はそのまま国道を進む。あまりベタベタしていないこんな感じも気持ちいい。気分良く別れて、やってきた道をほんの少し戻り、高速に乗ったのだ。
四国の高速は綺麗な上に、空いている。しかも景色がいい。気持ちよく飛ばして、高松に近づく。使っているカーナビのソフトが、そろそろ3年経つためか、いつの間にか山の中を走っている。最近できた道路は、対応できないのは当たり前だ。ナビは困った様子で、リルートを繰り返すが、そのうち諦めてしまう。「もう、知らない。勝手に走れよ」と言う感じになる。まあ、高速を走っている間は、道に迷うことはない。問題は、降りてからどっちに行けばいいのかが分からないのだが、おそらく高速の出口では、正しい道に合流するはずで、そこからまたルート案内が始まるだろう。カーナビは、一度使い始めると、これがなくては走るのが怖くなる。道に迷ったり、正しい道がどうか不安なまま走るのも旅のおもしろさだが、でも、誰もそれを望んでやっているわけではないだろう。カーナビを使った旅が、私の標準になって、とこへ行くのもナビ頼りだが、いまさら元に戻る気はない。旅の無駄が少しでも減って、その分他のことを十分に楽しめると思う。電話番号でビジネスホテルを登録しておけば、どんなに複雑なときでもほぼ10メートル圏内に誘導してくれる。とくに街に入ってからの道案内は、優れていると思う。旅館を探してグルグルが全くなくなった。すぐに到着でき、ゆっくり休めるというわけだ。
さて、高松は「パレス高松」というビジネスホテルを予約してあったが、その受付の女性が全く事務的なのだ。
「バイクどこに停めればいいですか。」と聞くと、停めるところはないと言うのだ。そんなこと言ってもバイクで来ているのだから、どこかに停めなきゃなんないでしょ、と言っても、全く対応してくれないのだ。
「クルマなら、有料駐車場をご紹介できるんですが、バイクは分かりません。」の一点張り。全く話が進まない。
「だって、バイクで来ると予約の時に伝えてあるはずだよ。分からないじゃなくて、誰かに聞けよ。」といささか怒って言うと、ようやく電話を取り上げ、誰かに電話し始めた。頭を冷やそうと表に出て待っていると、
「すみませんでした。植野様、クルマでいらっしゃることになっていて、駐車場が用意してありました。」よっしゃーー、当然だぞ。
「その入口の隅に停めてください。」ちょっと待て、ここかよーー。駐車場じゃないじゃん。ちゃんと駐車場に止めさせろよ、と思ったが、何だか狭い駐車場で、縦に3台くらい停めている。出せなくなったら面倒だ。ここでいいや。でも、駐車場がなくてもここなら最初から停められるぞ。ムカムカは、止まらない。
ようやく部屋に入り、自動販売機のビールを浴びるように飲んで、ムカムカも少しおさまった。「街をブラブラして、感じのいい居酒屋でも探そう。」気を取り直して、楽な服装に着替え、ホテルを飛び出した。ホテルにあった「グルメクーポン」という地図を見ると、どうやら兵庫町商店街のアーケード周辺が繁華街らしい。歩いても5分ほど。フラフラ歩き始めた。アーケードはなかなか大規模で、うどん屋ばかりが目に付く。こんなにたくさんあっても繁盛しているのだから、高松の人はよっぽどうどんを食べるのだろう。これだけ食べる人がいるから、美味しくもなるのだろう。いやいや、すごい。アーケードはどこまでも続いて、丸亀町通りにも入ってみる。部分部分がそれぞれに役割を持っている。つまり、新宿と秋葉原と原宿と青山が全部ひとつのアーケードに集まっているのだ。便利そうだけど、なんだかバレバレで恥ずかしい気もする。横道に入ると飲食街になる。どこかよさそうなところは・・・と探すのだが、あいにくの日曜日。かなり休みが多い。地図にある店は、ほとんど全滅。ウロウロしていると「中村」という店が目に入った。「まあ、いいか」と言うわけで、入ってみると小綺麗で、いい感じ。3000円のコースとビール、焼酎のお湯割りを飲んで、お腹がいっぱいになったら、眠くなってきた。明日もあることだし、今日は早めに寝るか、と心を決めて、ホテルに戻った後は、夢の中だった。