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MOMENT TO MOMENT
ある焼き鳥店への郷愁
2006年9月23日17時58分 吉祥寺

メディアから流れる地域情報にたまらない郷愁を感じ、わざわざ遠出して目的地を訪れてしまう生き物は人間だけである。 ノスタルジアという過去の記憶に絡んだ想いに浸ることのできる人間は正に感性豊かな動物だが、実は風に乗って運ばれてくる微かなフェロモンを感じ取り、妖しげな鳴き声を発しながら路地裏をさまよう猫たちと大して変わりがないのかも知れない。 交通機関を自ら利用できる人間の行動範囲は広く、脳の原始分野を刺激されるとつい足を向けてしまう。 これは単なる好奇心ではなく帰巣本能に近い気がする。

吉祥寺にある有名な焼き鳥店が木造建物の老朽化を理由に、築53年の店舗を建て替えるというのだ。 新聞記事やインターネットで全国的に紹介され、壊される前に食べてみたい、飲んでみたいと大勢の客が押し寄せ、店の周りを囲んだ。 焼き鳥のもうもうとした煙が店内から溢れ道路にまで流れてくる。 猛烈な煙が鼻の粘膜を刺激し、行列する客にまで胃液の分泌を促す。 この煙の匂い分子が風に乗って遠方まで届き、客を誘い込むのだろうか。 人間の嗅覚はそれほどの感度はないが、列に並んでいると本気でそう思えてくる。

煙と油と時間の成分で染め上がったカウンター席に座り、グラスを傾けながらほろ酔い気分で串を食らう。 焼き鳥の匂いと酎ハイのアルコールが生活パターンに染み込んだ常連客と、単なる物見遊山・冷やかし半分で訪れた一見客とでは、消えゆくものを惜しむ想いはスキーマが異なる。 しかし、人それぞれの頭の中にあるノスタルジアを懐かしむ基本心理は同じである。 現代メディアの情報はいささか過多ではあるが、たまにはそれに乗せられて足を運び、本物を体験することは実に面白い。 焼き鳥店の宣伝効果は抜群だった。



data
camera : Minolta alpha-7
lens : TAMRON SP AF
         28-75mm F2.8
exposure : F2.8 , 1/15 sec.
film sensitivity : ISO 100

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updated : May 6, 2007
released : January 3, 2007

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