Tateyokology SPIEGEL編

Tateyokology


4.「赤ちょうちん」で飲ミニケーション

仕事を引き摺って入ると「タテ社会」、旧友を誘って飲むと「ヨコ社会」。




●「タテ社会」の延長戦をする人がいる
赤提灯には居酒屋
と書かれていること
が多い
Red Lantern
「赤ちょうちん」とはご存じの通り居酒屋や大衆酒場の俗称です。客に酒を安く提供する「赤ちょうちん」は庶民の憩いの場であり、日本独自の文化になっています。ビジネスの潤滑場としても情報の交換や親睦が行われ、「飲ミニケーション」という言葉が生まれました。日が暮れると、店先に吊された赤い提灯に誘われて、様々な人間関係のグループが集まります。

ピラミッド組織の『タテ社会』にどっぷり浸かった人は、仕事以外の世界でも「ヨコ」の物を「タテ」にしなければ落ち着かないようです。カラオケの苦手な人が飲み屋で上役に付き合っていました。他の客がカラオケを歌っていたのですが、その人は無視していたところ、「他人でも歌い終ったら拍手ぐらいするものだ」と同席の上役から強く説教されたというのです。その人は「飲み屋の中でまで指図するとは、会社の上下関係とは何なのか」と考え込み、会話が途切れてしまったそうです。

仕事を引き摺り『タテ社会』の延長として「赤ちょうちん」の世界へ入ると、こんなことがよく起きます。その人はおそらく、いつもの仕事のときとは違う打ち解けた上司を期待しすぎて、会社にいるときと変わらない上役の言葉が仕事上の命令のように聞こえてしまったのでしょう。また、上役の人は常識のつもりで彼にちょっと説教したのでしょうが、真面目な性格の部下に対しての気配りが少し足りなかったのかも知れません。この二人の人間関係にとって、「赤ちょうちん」の場は『ヨコ社会』にならなかったのです。


●「タテ長社会」と「ヨコ長社会」
社会人類学者の中根千枝氏は、社会集団を構成する人間関係をその結びつき方で「タテ」と「ヨコ」に分類しています。「タテ」とは身分、地位などにはっきりした差があり同列に置かれない関係で、「ヨコ」は同じ資格や職種など同質性のある関係としています。例えば、家族では親子の関係が「タテ」で、兄弟姉妹の関係が「ヨコ」になります。会社組織では上役と部下の関係が「タテ」、同僚関係が「ヨコ」です。
家族のタテヨコ人間関係
Family Human Relations
『タテ社会』には命令系統や組織の運営がスムーズに流れるための序列があり、集団は互いにそれを意識することで統率されています。そこでは少なからず目に見えない圧力があって緊張感が伴い、上下関係への気配りも必要になります。それに対して『ヨコ社会』では、年齢や身分を越えて異なる系列の人と序列を意識せず対等に付き合えます。

会社のタテヨコ人間関係
Company Human Relations
実際の『タテ社会』と『ヨコ社会』はそれぞれ単独で機能することは少なく、状況に応じたタテヨコ比でバランスしています。上役と部下の「タテ」の人間関係は、会社を離れた場での生活意識への理解や互いの信頼関係があってこそ仕事がうまく進むわけです。「ヨコ」の関係である異業種交流会や利害関係のないサークルでも組織上の序列があり、それらのリーダーに従わなければ運営が成り立ちません。これらは、タテヨコ比の偏り方によって『タテ長社会』と『ヨコ長社会』と表現できます。


●同僚と楽しく飲めますか?
「ヨコ」の関係といわれる同僚と「赤ちょうちん」で飲む場合はどうでしょう。一日の仕事が終わった後には精神的な開放感があり、親しい仕事仲間と過ごす時間はさらにリラックスできます。情報交換と近況報告を立前のテーマにして飲みながら、上役の性格分析やスポーツの勝敗を肴にする話は実に楽しいものです。

しかし、少なからず仕事上での利害関係や派閥意識があるために、アルコールの血中濃度が「タテ」と「ヨコ」の変曲点に達すると、いままで隠れていた「タテ」の意識が顔を出してきます。相手の立場への意識が薄れてきて、自分の意見の優位さを互いに主張し始めます。普段の仲が良いほど感情論で対立することが多くなります。この頃になると前頭葉がマヒしてくるのでしょうか、大抵は上役への愚痴や社会批判で終わります。

普段親しく付き合う同僚であっても、同じ職場という限られた枠内での「ヨコ」の関係は、入社年度の違いや仕事上の能力差による暗黙の序列意識があるために、完全な『ヨコ社会』の人間関係は期待できません。「タテ組織」では状況によって人間関係のタテヨコ比が変化するのです。同僚と楽しく飲みたいときは、タテヨコ比が逆転しないうちに引き揚げないと、ストレスを解消するどころか逆に蓄積してしまいます。

やはり、「赤ちょうちん」で気持ちよく飲むには『ヨコ社会』に徹する方がいいのです。「タテ組織」の人たちは互いの気配りを忘れると誤解を生みやすく、職場の飲み会では『ヨコ長社会』の雰囲気をつくることが幹事の役目になります。でも、上役は相変わらず『タテ社会』の延長戦として説教や自慢話をしたがり、部下はアルコールの力を借りて上役を必死になって持ち上げようとしています。『タテ社会』の人間関係を「ヨコ長」の比率にするのは容易ではありません。



●「赤ちょうちん」を「ヨコ社会」にする
居酒屋で異業種交流をする人たちがいます。この世界では様々な職業の客が集まり、隣席の人に声をかければ一見さんでも『ヨコ社会』に参加できるのです。彼らは「ヨコ長」の付き合いの最適なタテヨコ比を心得ていて、会社の同僚のように態度が急変することはなく、感情の歪みが翌日に残ることもありません。共通の話題が見つかると、また一段と話が盛り上がります。馴染みの飲み屋ではストレス解消と情報交換が同時にできて、公私共に役立つことが多いものです。

学生時代の仲間を久しぶりに誘い出して、飲み語るのはうれしいものです。25年ぶりの再会であっても、当時の雰囲気に戻るにはそれほど時間がかかりません。「赤ちょうちん」の場がタイムトラベルを演出してくれるからです。青春を楽しみ悩んで過ごした共通の体験は最高の肴になり、想い出話に花が咲きます。幼馴染みや旧友同士には純粋な「ヨコ」の人間関係があり、長期記憶されていた『ヨコ社会』の意識が復活します。近ごろ「ヨコ」の付き合いが少なくなったと嘆く人は、昔の同級生に電話をしてみてはどうでしょうか。

ストレスが蓄積する『タテ社会』の中で働く人たちは、今夜も「赤ちょうちん」を訪れて束の間の安らぎを求めます。店先に吊された赤い提灯の光波長には、彼らの自律神経を刺激して精神と身体のバランスを元に戻し、明日のエネルギーを充電してくれる不思議なパワーがあるのです。でもアルコールの度が過ぎて帰ると、家庭のタテヨコ比が逆転してしまいますから、ほどほどに。




updated : January 1, 2003
released : October 7, 1996

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