塔の透視図
音もなく、
バーが動きはじめる。
白髪の男が夢の話をしている。

夢を見させているのはだれか。
だれもが知っていて、
だれにもわからないもの。
どこにでもあって、
どこにも見つけられないもの。

店の明かりがまたたき、
季節はずれの蟋蟀(コオロギ)が
ふるえた。

だれもがいつか見た夢のつづきを考え、
夢見管理人のことを考えた。

「夢見管理人も夢を見るのだろうか」

バーが街を半周する時刻。

 

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