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読書の記


読んだ本のことを記しておきます。折に触れ加えていきます。

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◆米本 実著『楽しい電子楽器―自作のススメ』 オーム社、2008

私はなんとハンダ付け歴30年です。「子供の科学」に載っていた電子工作は好きだったし、イーケイジャパン(旧・カホ無線)のキットをパフォーマンスに使うこともある。しかし今も電気・電子機器の仕組みはわからず、ただ組み立てるだけです。
そんな私にとって憧れの電気人間とも工作超人ともいうべき米本実さんの本が出ました。

副題は自作のススメですが、まず音や電気とは何か、という解説、電気と音の関係、さらにシンセサイザの歴史が続きます。五線譜も数式もあまり出てこないので、私のような素人でも逃げないでついて行けます(波形の図は多いが)。
歴史的な電子楽器の原理が図示してあり、MIDIやMAXにまで触れる一方で、古いゲーム機の音の特徴にも言及し、また「音を聴くこと」の項が設けてある。電気だけを好むのではない、音楽家としての著者の姿勢や好みがわかります(「4分33秒」まで出てくる!)。さらに、実際に電気・電子楽器を作っている人々のインタビューまで載っているのもネットワークがある音楽家ならでは。

そして工作の章では、ハンダ付けの仕方を習得するついでに後々まで使えるケーブルを作る。そして徐々に機械らしいものへと順を追って製作できる、親切な構成となっています。しかしここで不思議なのは、部品の数が増えても、あえて空中配線という困難で不安定な手法をとり続けていること(特にICは基板に差したほうが楽なはず)。

これにも関連して、読み終わって「欲を言えば…」と思ったのは次の2点です。

まず、せっかくここまで教えたのだから、もう少し進んで、それこそ基板を使ってもう少し複雑なものを製作してもいいではないですか。電気的解説も入れて。入門を果たした准初心者が、もう少し欲を出した時のために、次を用意して欲しい(推測するに、そういう通常手法の本はいくらでも出ているので、独自性を出したと同時に他書に敬意を払って譲っているのでしょう)。

もう一つは、著者の実際に使用している、
「つまみやスイッチのいっぱい着いた肩掛け型楽器」
「PCを使わずマウスの動きを音に変換する楽器」
「リモコンの赤外線を音にして聞く機器」
などの仕組みを、コラム程度にでも解説していただきたかった。一度演奏を見たら/聴いたら忘れられない、本当に魅力的な楽器なのですから(これも、自作を多く出すのを遠慮したのかなあ。声は大きいが控えめな人だ)。

ということで、米本さん、すぐにでも続編が欲しくなりました、上記2点を含めてぜひ書いてください。待っている工作好き、音楽好きな少年は(万年少年も)たぶん大勢いますよ。

追記:猫やウインカーを出している車(の車種!)の写真など、内容以外にも著者のかわいらしい(すみません、こんな言い方で)こだわりも散見できて楽しい。 (2009年1月12日)


同書に従い製作した楽器「ヨネミン」。携帯電話サイズ。
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◆昭和40年会著『昭和40年会の東京案内』 赤々舎、2008

昭和40年会とは、「オレたちは昭和40年にうまれた。それだけだ。」という6人で、美術や音響とかの活動をしている人々。いいですね、この定義。会田誠、有馬純寿、大岩オスカール、小沢剛、パルコキノシタ、松蔭浩之(会長)。

回り持ちで短い記事が67本も入ったお得な東京案内がどんなのか気になって読み始めると、
「いいマツキヨとそうじゃないマツキヨ、いいドン・キホーテと悪いドン・キホーテの見分け方」
「新宿駅地下のBERGはビールがうまい」
という感じで、何を言いたいのかこの本は、と思うがとりあえず先へ進むと、
「ハチ公前で待ち合わせのフリをして他人を観察」
あたりからそれぞれの視点が見えはじめ、
食べて飲むことばかり書く人の、それを真剣に書く理由も、まず買い物について書いた人がなぜそこから始めたのかもわかってくる(わかったつもりでこじつける)。

随所で脱力しながらも、随所で硬派な本でした。娯楽的案内ではないし、いわゆる名所もあまり出てこない。都市、高齢化、ホームレス、食、などに対して2005から2008年現在、それらの専門家でない人がどう考えるか。彼らが「芸術」していることや、その作風など知らなくてもいいのです。だんだんと著者達が見えてくる。そういう昭和40年会案内なのでした。「昭和40年にうまれた。それだけ」で十分なのでしたね。芸術している人は単に変な人、外れた人だと思っている方には、お勧め。そんなことないです、いや、そんなことばっかりではないです。

惹きこまれました。まず一気に読んで、気になるところへちょっと戻る、そういう読み方。でも最後のあたりで少しだけ、まとめ風の記述があるのは余分かな。書きっぱなしの方が「それだけ」らしくてよかった。

ところで私は昭和41年うまれで東京在住、路地を見かけると入ってみたくなる変な人なのでした。(2009年1月12日)

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◆川津幸子著『100文字レシピ』 新潮文庫、2003、『100文字レシピ おかわり。』 新潮文庫、2008

特に食通でもなく料理が趣味でもない私、調理の基礎もあやしいので、簡単においしい(ついでに安い)ものが家でできれば最高だと思っている。
なので、「やさしい」料理の本でも、レシピが例えば食材12種、工程6段階で書かれていたとすると(手順の写真も含めA5で1頁とか)、見るだけで作るのが面倒になってしまう。
この本ではなんと全角100文字以内でレシピが(材料・分量も含めて!)書かれているので、写真に惹かれて「ちょっと」やってみようか思った時にためらわず取りかかれる(材料があれば)。
しかも手抜き料理と思えない出来上がり。
規定の字数外で補足説明や体験的エピソードも書かれているので、主役のレシピの方がまるでコラムのように見えるくらいだ。著者は調理法の簡略化に加え、おそらく字数に挑戦することが悦びにまでなっているようで、たとえば「香菜をのせる。」と書いてちょうど100字となるところを、「香菜を。」でとめたりする。
もはや実用書と言う枠に収まらない文章作法があるというべきではないか。(2008年11月16日)

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◆吉見昭一著『森の妖精−キノコ栽培の父・森本彦三郎』 偕成社、1979

森本彦三郎氏(1886-1949)は、アメリカに渡り、マッシュルーム(シャンピニオン)の栽培法を独自に開発(当地では秘密だったため)して帰国し、日本で初めて「西洋松茸」として広めた人。その後もさまざまなキノコを研究、栽培法を普及させました。それまでの日本では、キノコを大量に一年を通して作ることはできなかったようです。
この本は少年向け(中学生くらいが対象か。ルビ多し)の伝記。外国で苦労して勉強して、国内初の事業を起こした人の話ですから、
「厳しい状況に負けず努力した」「妻の献身的な協力」「手を取り合って成功を喜んだ」などの場面はもちろん出てきます。
しかし本文の大部分はキノコ栽培の方法、設備、その開発と改良に当てられており、その詳しさには驚きます。たとえば
「マッシュルームの畝式栽培」
「同・種菌の種類」
「同・栽培舎の設計」
「エノキのおがくず栽培」
「フクロタケのわら栽培」
などが適した栽培条件とともに図解されており、成長過程もよくわかる丁寧さ。これであなたもキノコ農園ができる(?)。
伝記の棚に不似合いなキノコ啓蒙書といえますが、少年少女に何を訴えたかったのか。その意図は著者も亡くなってしまったようなので確認できません。書名の「森の妖精」も本文には出てこないのが不思議*。ともあれ食欲の(キノコの?)秋にふさわしい 内容ではありました。

*次の代に受け継がれた森本養菌園の看板には「森の妖精・きのこ」という文字があったそうです(というレポートが、きのこ専門誌「きのこる。」vol.5で読めます。(記・2008年10月25日)
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