小特集:『緯度0大作戦』

っと言う訳で、先日久方振りに「緯度0大作戦」を観たおおしまは、ちょっとこの作品について取り上げてみたいな、なんどと思ってしまったわけです。まぁ、なんか非常に思い付きな企画ですけど、気にしない、気にしない。特技監督円谷英二の名を冠する、東宝SF最後の輝き、結構語りたい事はある濃ゆい作品である事と、いっぺんにイラストが量産できないお家の事情(トホホ)でもって、何回か連載でつれづれなお話をしたいと思います。では、スタート。

第1回:α号

 まずはこの映画の主役とも言える万能潜水艦、α(アルファー)号。1805年6月21日の進水だそうです。ただ、映画でも描かれてましたけど、出撃の度に船体を改修してるみたいなんで、当初からこの形態だったかは疑問ですね。終盤では遂に飛行能力さえ身につけます。全長100m、全幅19.5mというとんでもない大きさ。

 個人的には艦尾のデザインが直線的過ぎてもうちょっとなんか欲しいなって感じですが、艦首から艦橋にかけての処理は凄い好きです。この有無を言わせぬ未来感覚は、東宝未来メカの中でもピカイチの洗練度。ちなみにデザインは、渡辺明氏退社後の東宝特殊美術をしょって立ってた井上泰幸氏(現アルファ企画社長)のご担当らしいです。井上氏はメーサー殺獣光線車(サンダ対ガイラ)のデザイナーとしても有名ですね。

 撮影用のモデルは大、中、小3種類位作られたそうですが、最大のモデルは全長6メートル以上の巨大な物。円谷英二氏存命中の特撮モデルは、驚く程巨大な物が平気で製作されてますがこれもデカい。モデルは画面でもアップになると質感が分かりますが、木製です。特撮スナップに内部構造の見えてるものがありますが、窓のついてる部分から上甲板が取り外せる様な構造になってた様です。恐らく木製の骨組みに航空ベニア(表面が滑らかで薄いベニア板。グライダー等航空機の機体にも用いられる耐水性に優れた素材。)等を張って形成されているんじゃないかな?

 製作に当っては、船体の微妙なラインを伝えるべく、船体各部の断面形状まで指定した素晴らしい製作図面が製図されてますが、この図面の描き方って、実際の船舶図面の製図方法とそっくりな気がします。なお、当初の名称はΩ(オメガ)号でしたが、時計のオメガからクレームが付く事を恐れてα号になった経緯があります。

 α号は後にテレビアニメ「ふしぎの海のナディア」(1990)で登場した万能潜水艦ノーチラス号のモデルともなったそうで、確かエピソード中でも艦内で進水日を記したプレートを見つけるシーンが描かれてました(個人的にはMJ号の方が似てると、今でも思ってますが)。

 そんな訳で、次回に続く…


第2回:黒鮫号

 α号の次と言えば、やはり宿敵、黒鮫(くろざめ)号をおいて他にはありません。全長117m、全幅31.6mと、α号よりさらに一回り大きいという超巨大潜水艦。直線を主体にしたα号とは対照的に、曲線でまとめられた優雅なスタイリングは、特撮映画に未来型潜水艦数あれど、その船体の美しさでもって、ベストワンにランクされるであろうデザイン的な完成度を誇ります。逃亡を図った岡田博士を捉えるべく、洋上の豪華客船の前に浮上するシーンなど、どこか海賊船を彷彿とさせるイメージが素敵です。緯度0ファンも、黒鮫号の方が好きって人の方が多い気がしますね。

 黒鮫号もα号同様、全長5m以上ある、巨大なモデルが製作されてます。全体が微妙な曲線に包まれた様な形態は、さぞかし製作が大変だったのではないかと思われます。こちらは魚雷、熱源探知ミサイル、通常火薬装填の主砲、レーザー砲と完全武装。主砲周りの細かなディテールが、流麗なボディと絶妙のコントラストを見せますが、この部分も合成怪獣グリフォンが襲いかかるシーンの為に、またまた巨大な部分モデルが製作されてます。

 デザインはどうやら井上氏とは別の方が担当されてた様なんですが、資料不足で良く分かりません。リアル指向の特撮メカが到達した、一つの頂点とも言えるメカニックですね。

 っという事で、更に次回へ続く。


第3回:ドクター・マリク

 登場人物も濃ゆいゾ「緯度0」!まずはシーザー・ロメロ氏演ずる悪の天才科学者、マリク。正にマッド・サイエンティストの鏡ともいうべきキャラクターで、もう楽しませてくれます。

 チョイチョイと黒鮫号を建造し、音楽を奏でるが如き流麗さで合成獣を生み出す現代の魔法使いであります。富田耕生氏の吹替えもピッタンコで、このキャラ好きだわ(いやはや…)。夢中になると他の事が全部ぶっ飛んじゃうアーティスティックな性格もラブリーです。

 映画の中でも凄い存在感ですが、演じるロメロ氏は何とテレビシリーズの「バットマン」(あのアダム・ウェスト氏主演のファンキーな奴ですね。日本では広川太一郎氏の吹替えとロイ・ジェームス氏のナレーションで大ヒット!)で、バットマンの宿敵、ジョーカーを演じた俳優さんです。なるほどあの堂に入った悪役ぶりもうなづけます。

 余談ですが、ロメロ氏、ティム・バートン版バットマンはお気に召さなかった様で、「暗くて退屈な映画で、あれは“バットマン”ではない」というコメントが残ってます。1907年2月15日生まれのキューバ系アメリカ人。残念ながら1994年1月2日に86歳でお亡くなりになられてます。緯度0の続編が頓挫した事が非常に残念。


・インデックスへ戻る