週刊『SPA!』 97年10月15日号より



 「夕刻のコペルニクス」 148 


新左翼・戦旗派がロフトプラスワンを襲撃した


 鈴木邦男 




 世の中を変えよう、良くしようという運動をしているはずなのに、「話し合い」には一切応じない人々がいる。新左翼の「党派」の人々だ。未だにゲリラ闘争を続け、内ゲバを繰り返している。早大、法政などのサークルから僕が呼ばれても、革マルや中核派が「鈴木を学内に入れたら殺す」と脅して中止させる。世界は変わり、ソ連は崩壊したというのに、自分たちの「革命」路線だけが正しいと思い込み、少しでも考えの違う人間とは話し合いも拒否する。

 ゴチゴチの党派ではない 

 ところが唯一、現役の党派の代表が僕と話し合ってもいいと名乗りを上げた。戦旗派の荒岱介(あらたいすけ)さんだ。これは画期的なことだ。荒さんの『左翼思想のパラダイム・チェンジ』(実践社刊)を読んだが、荒さんたちも「変わらなくては」と思っていたようだ。「唯一の前衛幻想をこえて」「テロリズムは労働者を覚醒させるか」と今までの新左翼運動に疑問を呈し、「ブント(戦旗派)はタバコをやめました」という。さらに内ゲバはやらないと宣言しているし、ゴチゴチの党派ではない。
 間に入って交渉してくれた人もいて、やっとのことで対談が実現した。7月8日の当日までは「ホントかよ」とこっちも半信半疑だった。荒さんたちにしても思い切った選択だし、勇気が要ったことだろう。「右翼と対談するとは何事か」「お前らも反革命だ」と他党派からさんざん罵倒されたという。
 だが、せっかく来てくれたゲストに対し、客の一部には「この機会に徹底的にやっつけてやろう」と手ぐすねひいて待ち構えていた人間がいた。かつて塩見孝也さん(元赤軍議長)をもビビらせた 「青狼会」佐藤悟志君たちだ。当日、激越なビラを参加者全員に配布した。僕もチラッと見たが、これは酷いと思った。長い文だが、例えばこんな見出しが躍っている。「荒岱介弾劾人民裁判に全ての活動家は結集せよ!」「搾取と抑圧を繰り返し続ける左翼霊感商法!荒用慰安所が『知的共同体』だと?笑わせるな!」「荒岱介は今までにダマシとった自分の名義にした全資産を福祉施設に贈呈しろ」「荒岱介は共産主義者だった過去と戦争責任を償うため、日米帝国主義に謝罪し、反共活動に邁進しろ」
 とても批判とはいえない。根拠のない誹謗中傷だ。「これはあもはや言論ではない」と荒さんたちが激怒するのも当然だ。しかし僕は必死になだめた。そしてトークを始めた。塩見孝也さんにオルグ(勧誘)されてブントに入った話。獄中での野村秋介さんとの話。早大闘争で僕らと殴り合った頃の話……と、トークは何とか平和的に進んだ。ところが質疑応答になるや、佐藤君たち一部の人間が荒さんに喰ってかかり、大声で怒鳴り、からんだ。会場は怒号と罵声で騒然となった。
「こいつらは自分で何もしないくせに、活動してる人間にケチをつけてるだけだ。荒さんも相手にするな」と言う人もいたが、現役活動家として荒さんはズルクなれない。まともに汚い論争に引きずり込まれた。「鈴木は建設的な話し合いをするというから来たのに佐藤をけしかけて糾弾集会にした。鈴木に騙された」と荒さんたちから怨まれた。荒さんは怒って帰った。僕のゲストとしてせっかく来てくれたのに、この仕打ちはないだろうと悔しくて涙が出た。荒さんたちに申し訳ないと思った。
 だが1週間後、その申し訳ない気持ちは吹き飛んだ。戦旗派の3、4人がロフトに来た佐藤君を襲い、さんざん殴って引き揚げたのだ。ロフトは警察を呼ぶ騒ぎになった。これを聞いて愕然とした。まだこんなことをしてるのか。これでは、やっぱり党派の連中はダメだ、と言われてしまう。暗澹たる気持ちになった。俺は無力だと思った。