私たちはなぜ共同声明を呼びかけるのか





 1.事実関係について−私たちの主張の根拠

 01. 私たちが襲撃を組織的・計画的なものと判断した根拠

 7月16日午後7時15分頃、佐藤氏が自らの企画に出演するため、「ロフトプラスワン」の入っているビルの前まで歩いて来たところ、路上に分散して立っていた約10人の男たちが、叫び声を挙げて一斉に佐藤氏に襲い掛かりました。そしてビルの地下室に引きずり込むと、無言で殴る蹴るの暴行を加えたのです。
 この時、その前から現場にいた来店客の玄田生氏は、人を呼ぶためにロフトの方へ向かおうとしたのですが、彼らの一人に羽交い締めにされ、さらに口を塞がれました。しかし他の男たちの中から「そいつは関係ない」という声が飛び、その男がひるむと、玄田氏はその隙に大声を出して人を呼びました。聞きつけた大勢の人々がロフトから出てくるのに気付くと、男たちは素早く逃走しました。わずか数分のことです。

 襲撃者たちは全員、軍手を着用していました。指紋を残さず、拳を痛めないための用意と思われます。また、この日の6時前後に、ビルの管理人が地下室の奧にある駐車場で「プロレスラーのような体つきをした男」をはじめ数人の見知らぬ男たちを目撃しています。

 二度目の襲撃は、4時間後の11時半頃。ロフトでのトークに出演中の佐藤氏に対して、二人が壇上に上がって暴行を加え、もう一人が店の出口に立って逃走路を確保していました。こうした連携によって、取り押さえようとする来店客らに暴行を働きつつ、店外への逃走に成功しています。この行動もまた、実に素早いものでした。

 この二回の襲撃の状況については、店員や来店客らの証言、写真、ビデオなどによってハッキリと確かめられています。

 この日の暴力の唐突さ、確かさは、これが偶発的な、個人間のケンカなどではなく、疑うべくもなく周到に用意された組織的かつ計画的な襲撃であることを示しています。

 02. 私たちが襲撃者たちを「ブント」活動家であると判断した根拠

 一回目の襲撃に巻き込まれた玄田生氏は、実はその直前まで襲撃者の一人と立ち話をしていました。その男G氏は、玄田氏の10数年来の知人だったのです。G氏が10年前からの「ブント」メンバーで、現在はその幹部であることを、玄田氏は知っていました。G氏が8日の荒−鈴木対談の際に、佐藤氏と激しくやりとりをしていたのを見ている玄田氏は、この日、ビル前の路上で彼を見つけた時、彼が佐藤氏のその日の企画に参加し、討論するために来たのだと考え、しばらく雑談をかわしていたのです。

 その直後、G氏も含めた約10人の男たちが佐藤氏に襲い掛かった際、佐藤氏もまた、見覚えのある顔をその中に見つけています。10年前、佐藤氏自身が「ブント」メンバーだった頃に、彼の「同僚」であったM氏です。彼もやはり現在は幹部となっています。
 G氏とM氏以外にも、襲撃者たちの中には、8日に佐藤氏に詰め寄っていた顔が、散見されました。

 トーク出演中に起きた二回目の襲撃の実行者の素性は判っていません。しかし、佐藤氏が「ブント」と直接には無関係なその日のテーマ(北朝鮮問題)についてトークを進めている間はまったく発言せず、佐藤氏がその日はじめて「ブント」批判を口にした途端、「てめえまだそんなこと言ってんのか」と言いながら暴行に及んだことは確かです。

 そして翌日、一回目の襲撃に巻き込まれた来店客の玄田氏のところに、G氏から電話がかかってきました。この時G氏は襲撃について「佐藤がブントを中傷するビラをまいたのがムカついたからやった」「(襲撃は)組織としてやったとも言えるし個人としてやったとも言える」「佐藤がああいう言動を続けるなら、俺たちはこれからも黙っちゃいない」などと話しています。

 私たちは、こうした事実から、襲撃が、幹部を含む「ブント」活動家によって行われたと判断しました。G氏・M氏はともに十数年来の「ブント」の活動家であり、組織の中枢を担っていると言ってよいほどの幹部であると思われます。

 ところで、そうした立場にある人々が「ブント」批判に対して、用意周到な襲撃で応えたということは、決して当事者の個人的な事柄として済ますことは出来ません。靖国神社の閣僚参拝のように、公人と私人を使い分けるといったことが通用するものではないでしょう。この襲撃に対して、組織としての「ブント」と、これを主宰する荒岱介氏には、政治的責任が当然あると私たちは考えています。そのことは、襲撃への荒氏の関与が立証されようがされまいが、変わるものではありません。

 しかし今回の声明の主旨は「ブント」を糾弾することではなく、あくまでも、いかなる組織によるものであれ、このような襲撃は許されない、ということにあるので、私たちはあえて、声明文においてそうした非難を荒氏と「ブント」に向けることは避けることにしました。


2.私たちはなぜ共同声明を呼びかけるのか

 01.「佐藤はファシストだから仕方がない」か

 皆さんに呼びかける上で公正を期すために、私たちは、事件の発端となった佐藤氏自作のビラを、資料として同封しました。(佐藤氏が7月8日にロフトプラスワンのイベントでまいたビラ)

 一読して頂ければ判るように、このビラにはかなり「エグイ」表現が含まれており、「ブント」メンバーや支持者が腹を立てること自体は無理からぬところがあります。また、彼は自ら「ファシスト」(正確には「反天皇制右翼つまりファシスト」)と自称してすらいます。もっとも彼が自らのプロフィールで名乗っている聞き慣れない幾つもの組織の実態は、全て彼一人だけなのですが。

 しかし確かなことは、7月8日の夜、彼がこの自作のビラを持って、一人で「ロフトプラスワン」へやって来たのは、討論に参加するためだったということです。

 私たちは、佐藤氏の主張に賛同したから、襲撃者に抗議しているのではありません。開かれたコミュニケーションの場としての「ロフトプラスワン」において、自らの思想・表現を明らかにした個人にむけて、組織的・計画的暴力が行使された事実に対して怒りを覚えるのです。まして「黙らなければもう一度やる」といった意味の脅迫(前述)さえ加えられているのであれば、私たちは黙っているわけにはいきません。

 佐藤氏のビラの内容に、共感できないという人も、少なくないことでしょう。しかしそのことが、襲撃者を免罪したり、「どっちもどっちだ」という話で済ませる理由に、なるべきではありません。むしろ彼が「アカ嫌いのオタク」や「第三憲兵隊隊長」ではなく、高名な知識人か「業界」に名の通った活動家であれば、襲撃者たちの政治方針から考えて、襲撃はなかっただろうことが想像できる時、私たちの怒りはかえって増すのです。

 また、彼が10年前まで「ブント」の前身である「戦旗・共産主義者同盟」に身を置いていたという事実をもって、この襲撃の意味を何か「他人様の家庭の事情」のように矮小化させることは出来ません。開かれた場である「ロフトプラスワン」において、オープンな形でなされた個人の言動に対して、組織的暴力が行使されたということは、その事実だけで、充分に、私たちに関わってくることだと考えるべきなのです。

 02.「泣き寝入り」はもうたくさんだ

 ◯◯派と××派の内ゲバ、といった話をよく耳にします。しかし日常的には政治党派の暴力は、敵対党派よりもむしろ党派に属さない人々に向けられてきたのが現実です。
 たとえば特定党派の強い大学で、彼らの政治方針に合致しない集会やデモに参加したとか、党派を暗に批判する落書きをしたとかの理由で、学生が軟禁されたり、リンチを受けたり、骨を折られたりといったことは、90年代の現在でも実際に起きていることなのです。私たちの脳裏にはケガを負ったり、学校を去る他なかった友人たちの顔が、いくつも浮かんできます。

 そうした事実は、しかし公にされることすらなく、たいていは被害者が泣き寝入りする結果に終わっているのです。

 政治的な討論を行ったり、学校当局や日本政府を批判したりする前にまず、「人民を解放する」という政治党派による妨害、脅迫、暴力を突破しなくてはならないという状況が、どれだけ多くの人々を政治参加から遠ざけてきたことでしょうか。

 もうたくさんです。

 私たちは、テロ一般、暴力一般についてどう考えるのか、といった「高次元」な話をここでしたいとは思いません。しかし少なくとも、批判的言論を組織的暴力で潰す、といった「政治」のやり方を認めるべきではないと思うのです。個人の言論など、結局は組織の暴力の前には勝ち目がないのだ、泣き寝入りするしかないのだ、といった「教訓」を、私たちはロフトプラスワンでも、他のどこでも再生産したくないのです。
 どのような美しい左翼的言辞も、そうした暴挙を擁護するために使われるべきではありません。

  03.「襲撃者は損をする」という教訓をつくるために

 私たちの知る限りでは、政治党派のこうした暴力に対して、共同声明という形で世の中に公表し抗議するということは、前例がありません。
 私たちが、このような呼びかけを行うのは、まず、佐藤氏に対しての、これ以上の襲撃を許さないためです。出来るだけ多くの人が、そんなことは許さないぞ、という視線で襲撃者たちをにらんでいれば、それは防ぐことが出来ると考えています。

 もうひとつは、ロフトプラスワンにおいても、他のどこにおいても、そうしたやり方が通用しないのだ、むしろ多くの人々の抗議を受けることになるのだ、という教訓を、つくるためです。
 確かに、党派のこのような暴力行使を、肯定する雰囲気は、現在では殆どないと言ってよいでしょう。
 しかしその一方で、個々の襲撃やリンチについて、そのつど、人々が声を合わせて明確に抗議するといった、具体的な動きが起きてくることもありませんでした。そのことが結果として、被害者が泣き寝入りを強いられることを認め、さらにこの種の党派の暴力に、暗黙の了解を与えて延命させてきたのです。

 こうした歴史に終止符を打つ−この呼びかけにはそうした意味が込められています。

 出来るだけ多くの皆さんの賛同を訴えます。また襲撃の当事者たちと、直接・間接の縁をお持ちの方々は、こうした行為を二度と許さないということを彼らに表明してください。またミニコミや電子メディアなどでもこの問題を取り上げ、議論を広げてください。



1997年8月16日 


呼びかけ人 : 太田リョウ/鹿島拾市/玄田 生

他、襲撃を許さないロフトプラスワン常連客有志