RPGリプレイ小説

『ナイトメア・バスターズ』

第5話(最終話)  スワン・ソング



プレイヤーズ・キャラクター紹介
 
  • 瀬賀 亜梨沙(せが・ありさ)
    紅一点、聖カミニート女学院高等部3年。18才。GM
    の趣味のおかげで、今回とってもオイシイ(?)役どこ
    ろであった。
     
     
  • アンディ・ノーマン
    アメリカからの留学生。本名メロディ。実は男装の麗人
    面疽。『紀田・サーガ』最後の謎を見事に解き明かす。
     
  • 知場 法久(ちば・のりひさ)
    東江戸川大学(通称「ヒガ大」)雑学部雑学科3年。2
    2才。突撃な人面疽。
     
  • 石見 信介(いわみ・しんすけ)
    ヒガ大雑学部雑学科3年。21才。日本刀をこよなく愛
    する人面疽。でもおいしいセリフだけは忘れなかった。
     
     
    ノン・プレイヤー・キャラクター
     
  • 紀田 順一(きだ・じゅんいち)
    ヒガ大雑学部雑学科助教授。32才。前回、知場と石見
    を守って壮絶な死を遂げたかと思われたが…?
    「『白鳥は悲しからずや空の青水の青にも染まずただよ
    う』…教師にとって最高の幸福は後を託すに足る生徒を
    得ることだという。ならば、私の短い人生は成功だった
    といえよう。しかし、だ。まだまだ教えとかなきゃなら
    ん事は多い。最終講義を始める!!」
     
  • 紀田 順一(きだ・じゅんいち)
    ヒガ大雑学部雑学科4年。22才。チョークを自在に操
    り、夢魔と戦う戦士。孤独癖あり。
    「…ごめん」
     


      第1章 依頼
     
     あの恐るべき事件から、やがて二週間が過ぎようとし
    ていた。
     首謀者と思われる平井太郎教授は、行方不明となって
    いた。また、配下の学生たちのうち、五人の変死体が、
    都内各所で発見されたことは、ニュースでも報道されて
    いた。
     ただ、彼らの死因については何も報道されず、無論、
    石見たち四人の活動についても、一般の人々は何一つ知
    らされていなかった。ICAの要請もあって、その件に
    関しては完璧な報道管制が敷かれていた。
     平井の住まいからは、手掛りになりそうな資料は何一
    つ発見されなかった。ただ一つ、今回の事件の首謀者が
    平井であることを示すかもしれない書き置きは見つかっ
    た。
     
    『いよいよ、ラグナレク計画を遂行する時が来た。各大
    学のバスター組織はほぼ壊滅した。後は落ちこぼれのヒ
    ガ大のバスターが残るのみだが、あれは計画を遂行しな
    がらでも、武田たちだけで充分片がつくだろう。万に一
    つ、武田たちが失敗しても、大した問題ではない。要は
    「逆衛星」を満たすエネルギーさえ手に入ればよいのだ。
    そのエネルギーが無能な一般大衆どものものであろうと
    武田たちのものであろうと、それは大きな問題ではない。
    そしてエネルギーが満たされた時、私は夢と現、二つの
    世界を束ねる王となるのだ』
     
     一方、石見たちは、何をすることも出来ず、ただジリ
    ジリとした日を過ごしていた。何をしようにも、挑むべ
    き相手の居場所すらまるでつかめず、仮につかめたとし
    ても、彼らだけの力でそれを倒すことは不可能であろう
    と思われた。ただ今は、わずかな希望…今もどこかで紀
    田助教授が戦っているであろう事を信じ、少しでも力を
    蓄えることだけが、彼らに出来る全てだった。
     その希望も、消えるのは時間の問題かと思われた葬儀
    の前日、意外な依頼人が現われた。
     いや、依頼人ではなく、正確には依頼人の代理人がで
    ある。
     代理人は、『ピグマリオ』事件の時に顔を合わせたこ
    とのある、ヒガ大の総合図書館の館長、藤本氏である。
     藤本氏は語った。
    「…私と紀田君とは、ブック・ハンティングの世界での
    よきライバルでした。時には敵対し、時には協力して、
    共にブック・ハンティングに血道をあげていたものです。
    そんなわけで、彼が私の所に来た時も、最初はてっきり
    その話だと思ったのですが…彼は、自分に万一の事があ
    ったら、自分の葬儀の前日に、あなたたちにこれを渡し
    てくれ、と言って、これを私に預けて行ったのです」
     紀田助教授の葬儀は、助教授自身の遺言により、満月
    を迎えるその日に行なわれることとなっていた。その日
    は、『ラグナレク』事件…つまり、前回の新月の日から
    ちょうど十五日目に当たっている。
     藤本氏が持ってきたものは、石見たちそれぞれに宛て
    た紀田助教授の手紙と、白紙になった『ピグマリオの書』
    だった。
     石見たちは複雑な思いで、手紙の封を切った。石見が
    声に出して読み上げる。
     
    『どうした? 私が死んだからって泣いてたりしてるん
    じゃないか? 石見などは笑ってるかもしれんな。いや、
    すまん。ふざけてる場合じゃなかったな。
     君たちがこれを読んでいる時点で、私は生きていない。
    藤本にそう頼んでおいたからな。そして、今の私にはそ
    れがどんな形かはわからないが、その時は、巨大な悪意
    が爆発した後の筈だ。また多分、その悪の行方がわから
    ず、君達は悩んでるはずだ。
     君たちはナイトメアバスターだ。依頼さえあれば戦い
    にいってくれる。そう信じている。
     私、東江戸川大学雑学部助教授、紀田順一が君たちに
    依頼する。
     
     私の夢に潜ってくれ。
     
     たぶん、君達は私がいつも君達に実戦を強いるのみで
    自ら夢に潜ることを避けていたのに気付いていたろう。
    ずいぶん勝手な教師に見えたと思う。
     今だから言えるが、私にはあと1回しか夢に潜る力が
    ないのだ。
     昔、恩師の平井太郎教授や仲間達と共に戦っていた頃
    の事件で、私は眠る能力を奪われてしまったのだ。あと
    残っているのは、最後の眠り……死しかない。
     今、夢の世界には巨大な悪しき意志が現われ、拡がっ
    てきている。どうもその根は日本にあるらしい。既に他
    の大学のバスター達にも犠牲者が続出している。決戦の
    時が近づいているのだろう。
     その敵の正体はわからない。頼りの筈の平井先生も音
    信不通なままだ。もしかして先生もやられてしまったの
    か。いや、あの人に限ってそんなことはない。
     もし敵が判明したら、私はそいつの夢に飛び込むつも
    りだ。そいつがこれ以上夢の世界を蹂躙するのを止める。
     ただ、多分、その敵は私の力だけでは倒すことは無理
    だろう。強力な武器がいる。先のICA世界会議でその
    製法、使用法を入手してきた。どれも、非常に存在力が
    強く、現実と夢の世界の間を自由に持ち運べるアイテム
    だ。それらは、
     ・数百年を経た、ただし何も書かれていない魔道書
     ・聞く者を絶対に眠らせる呪文
     ・生死を超える程のエネルギーを持つ弾丸
     ・一発必中の魔弓ないし魔銃
     魔道書と呪文は、いいな。あとの二つは、難しいが、
    必ず手に入れてくれ。
     
     これらが揃ったら、私の夢に入ってくれ。私の夢から
    敵の夢に道をつないでおく。そして4つのアイテムを私
    の元へ届けてほしい。
     夢の入口は、わからない。たぶん私の死体の枕元で眠
    るだけでは駄目だと思う。
     敵はたぶん、どこか本拠地で呪法を行ない、その場所
    ごと裏返しの世界に転移しているはずだ。この世界では
    その場所は消滅しているが、その近くにその影を映す鏡
    か何かが残されているはずだ。そこが入口になると思う。
     
     書きたい事はたくさんある。厳しくしすぎたのをあや
    まりたくもある。しかし、必ずあちらで会えると思うか
    ら、これで筆を置くことにしよう。
     さよならはいわない。待っている。
     
       石見信介殿
     
                      紀田順一  』
     
     石見が読み終わると、藤本氏は再び口を開いた。
    「…私には、いわゆる『バスター』の能力はありません。
    しかし、紀田君が何と戦い、何に耐えていたかは知って
    いるつもりです。手紙では軽そうに書いてありますが、
    紀田くんがその苦しみと戦う様は、見ているこちらが辛
    くなるほどでした。しかしそう言うと彼は、『約束だか
    らな』…と微笑むのでした。
     それが何の意味なのか、私にも解りませんが、紀田君
    の友として、私からも頼みます。紀田君の願いをかなえ
    てやって下さい!」
     もとより、四人に断わる気はない。
     四つのアイテムは、偶然にも既に全て揃っている。
    『ピグマリオの書』、『タンタロス』事件の時の催眠テ
    ープ、『ゴルディアス』事件で手に入れたイノチグサの
    種、そして武田の持っていた一発必中のフルート。
     そして、今や敵の正体も判っている。平井太郎だ。そ
    してその本拠は、消えた時計台。
     だが、それを映す鏡とは一体…
    「三四郎池デナイデスカ?」
    「アンディ、冴えてる!」
     はやる石見たち。だがその前に、研究室へ戻って、
    『タンタロス』事件の時の催眠テープを取ってこなくて
    はならない。
     テープはすぐに見つかった。だが…
    「夜にはまだ間があるわ。もう少し、先生の事調べまし
    ょ」
     亜梨沙は研究室の中を調べ回る。
     アンディはついでに、昔撮られた寝顔写真のネガを探
    したが、よほど巧妙に隠されているらしく、出てこない。
     ガラガラガラガラ!
     知場が本棚を一つ、ひっくり返してしまった。
    「あーあ…これじゃあ、これ以上ここを調べる余裕ない
    ぞ。片付けるだけで日が暮れる」
     石見があきらめたように呟く。
     だが、亜梨沙はなおもこだわった。
    「お願い!今度は先生のマンションに行こ?」
     なぜそうまで亜梨沙が助教授の過去にこだわるのか、
    疑問は感じながらも、三人は亜梨沙につきあうことにす
    る。
     亜梨沙は何かに憑かれたように探し続ける。
     日記は…ない。
     アルバム…見つからない。
     住所録…
    「あった!」
     それは、石見たちが助教授の葬儀の連絡をする時にも
    使った、助教授の手書きの住所録だった。だがその中に、
    電話番号だけを残して消された名前があることを、遂に
    亜梨沙が発見したのだ。名前は『駿河』となっている。
    「消されてる所が気になるな…掛けてみるか」
     石見が代表して電話を掛ける。
     ややあって、初老の婦人のの声が出た。
    『はい、駿河でございます』
    「あ、私、東江戸川大学の紀田助教授の教え子で石見と
    申しますが…」
     石見があいさつすると、婦人は途端に懐かしそうな声
    を上げた。
    『まあ、あの時の学生さんの…そう、大学の先生におな
    りでしたか…』
    「失礼ですが、助教授の学生時代のお知り合いですか?」
    『ええ、あの人と平井先生たちには、娘の飛鳥が大変お
    世話になりました。特に、紀田さんには感謝しているん
    です。飛鳥が亡くなった今も』
    「!…娘さんというのは…」
     婦人の話を、バスターとしての知識を元にした推理を
    交えて整理すると、こうだった。
     今から十年前、駿河家の娘・飛鳥が、夢魔に憑かれ、
    平井や紀田たち当時のヒガ大のバスターたちがそれを救
    った。正気に戻ってからの飛鳥は、時折変なことを口走
    る以外はごく普通に戻った。その後、紀田と飛鳥は平た
    く言えばいいムードだったらしく、親としては淡い期待
    を抱いていたらしい。ところが、一ヵ月後、飛鳥が行方
    不明になり…
    「行方不明?亡くなったのでは?」
    『…もう、あきらめております』
     最後に、紀田助教授の他にいたバスターたち(とはも
    ちろん言わなかったが)の名前を聞き出して礼を言うと、
    石見は電話を置いた。
     当時のバスターは、平井、紀田の他に三人。すぐに住
    所録でその名を調べ、そちらにも電話を掛けてみる。
     二つは応答がなく、一つは母親らしい人が出た。だが…
    「!亡くなられた…?失礼ですが、死因は一体…」
     母親は言いたがらない。直感で解る。石見は電話を切
    った。
    「発狂死か…」
     飛鳥に憑いていた夢魔は余程強力だったらしい。おそ
    らく、他の二人も…
     時間を取り過ぎた。既に陽は沈み、十四夜の月が煌々
    と街を照らしている。
    「時間切れだ…行こう、亜梨沙ちゃん。もう、いいだろ
    う?」
     石見の言葉に、亜梨沙は少し迷ったが、やがて小さく
    頷いた。
     西荒川大の時計台跡は、土台だけ除いて何も残ってい
    なかった。残留妖気も見つからない。
    「やはり三四郎池か」
     果たして、三四郎池には、あたかも時計台が、今も元
    の位置にそのまま立っているかのごとく、きれいに映し
    出されている。しかも、平井の部屋に当たる窓には煌々
    と灯りがともっている。
     石を放り込んだり、石見にツボを突いてもらって知場
    が眠ってみたりしたが、何も起こらない。
     いきなり、石見が後ろの草むらに向かって木刀を構え
    た。
    「…どうした?」
    「今、そこで何かが動く音がした…!」
     亜梨沙が草むらにヨーヨーを叩き込む。
     ガサッ!何者かが逃げていく。
    「逃がすかっ!」
     追う石見。アンディと亜梨沙が続く。知場は一人、池
    を反対に回って挟み討ちにすることにした。
     ズルッ。
    「OUCH!」
    「キャッ!」
    「ん?」
     石見の後ろでアンディと亜梨沙がコケたような音がし
    た。が、石見が振り返ると二人の姿は、ない。
     滑った跡は、池の中へ。
    「ボチャーン…とは、言わなかったよな…おーい知場あ、
    とにかく急いでこっちこーい!」
     回り込んだ知場は、相手をとうとう石見のいるあたり
    に追い詰めた。
     月灯りに見えるその顔は…!
    「ああっ!忘れようとしても思い出せないその顔は!」
    「その顔は!?」
    「思い出せないっ!」
    「(コケッ!)諸尾だよ、諸尾!ほらあ、『ピグマリオ』
    の事件の時にいたでしょ?ぼくが『ピグマリオの書』の
    存在を冴河に教えなければ、あの事件は起こらなかった
    …」
    「解っててやってるんだよ!それよりてめえ、今面白い
    事を言ったな。おまえが『ピグマリオの書』の事を冴河
    に教えなければ…とか何とか。正直に吐いてもらおうか。
    なぜこんなとこにいる!」
     まんまと石見の口車(?)に乗って、自分のした事を
    しゃべってしまった諸尾は、開き直る。
    「ふん、お前たちなんかに、平井先生の邪魔はさせない
    ぞ!あの池は、今夢の世界への入口になっている。あの
    灯りの点いた窓あたりに飛び込めば、すぐに先生の所に
    行けるだろう。だが、お前たちの仲間は全然見当違いの
    所におっこちたからな。夢の世界で迷子になるがいい」
    「ほーお、そうかそうか…石見、ちょっと向こう向いて
    てくれ」
     肩をすくめて、石見は背を向けた。
     どかばきぼぐべこぐしゃ。
    「おーお、見事に失神しとる…ま、念には念を入れて…」
     とどめに眠りのツボを石見が突いて、葵に電話を掛け
    る。
    「葵さん?石見です。平井の部下の残りの一人をとっ捕
    まえましたんで、西荒川大の三四郎池に来て下さい」
    『えっ?どういう事?それにあんたたち、明日は紀田先
    生のお葬式だっていうのに、どこで油売ってんのよ!』
     石見は大きなため息を一つつき、言った。
    「紀田先生を手伝いに行かなきゃならないんですよ」
    『えっ?何それ、どういう事なのよ!ちゃんと説明…』
     ガチャン。
    「…行くぜ、知場」
    「おう」
     二人はアンディと亜梨沙が滑ったあたりから、池へ飛
    び込んだ。
     水には波紋一つ立たず、後にはただ静寂と、時計台の
    影だけが残っていた。
     


      第2章 過去
     
     一方、一足先に夢世界に紛れ込んだ亜梨沙とアンディ
    は、奇妙な光景を見ていた。
     紀田と平井、その他に二人のバスターたちが、餓鬼と
    戦っている。ただ、平井も紀田も、亜梨沙たちが知って
    いるのに比べて若い。
     亜梨沙はとっさに、餓鬼に向かってヨーヨーを投げた。
     スカッ!ヨーヨーは何の抵抗もなく餓鬼の身体を通り
    過ぎ、手元に戻ってくる。
     名前の解らない二人のバスターたちはそれぞれに得意
    の武器を作り出し、餓鬼に向かって行く。紀田もチョー
    クを作ろうとしているらしいが、やがて情けなく叫び声
    を上げる。
    「先生、エネルギーが足りません!」
     すると、平井がしょうがないな、と言いたげな顔で言
    った。
    「順一は初めてだからな、仕方あるまい。チャージして
    やる」
     そう言って、平井は紀田の肩に手を触れる。すると、
    紀田の顔にみるみる精気が甦り、その手にはチョークが
    握られていた。
     紀田はそのチョークを餓鬼に向かって投げる。そして
    平井も、手に持ったステッキの先からビームを発射して
    餓鬼を攻撃する。
     やがて餓鬼は全て倒れる…
     場面が変わり始めた頃、石見と知場が追いついてきた。
     四人の目の前に現われたのは、三匹の夢魔と対峙する
    紀田たちの姿だった。しかもメンバーが一人増えている。
    だが、今度は夢魔たちが先制攻撃をかけていた。
     亜梨沙は夢魔に対して攻撃をかけてみるが、やはりヨ
    ーヨーは空しく通り抜けるばかり。それではと石見は、
    紀田の身体に触れてみる。
     石見は白い光に包まれた紀田を感じた。暖かい。触れ
    る事が出来るのだ。
    「いったん脱出だ!」
     教授の声で、次々と夢から抜けていくバスターたち。
    だが、紀田は一人残って戦おうとする。それを見て、舌
    打ちしながらも残る平井。
     さっきの場面よりは成長しているらしく、紀田は楽に
    チョークを作って夢魔に投げつけた。だが、それと同時
    に夢魔の攻撃を受けて傷を負う。
    「アッ」
     思わず紀田に駆け寄り、傷口に手を触れる亜梨沙。
    『助けてあげたい』
     亜梨沙が思った途端、亜梨沙のエネルギーがスッと抜
    け、亜梨沙は少しよろけた。
     紀田の傷が回復している。
     紀田は力を取り戻し、再び夢魔に挑んでいく。やがて、
    夢魔たちは全滅した。
    「なあるほど、直接の援護は無理だが、精神エネルギー
    で援護するのはOKってわけだな」
     知場がニヤリと笑う。
     続いて現われた場面は、向こうに大蜘蛛が見えている。
    『ラグナレク』事件で相手にしたのとは比較にならない
    巨大さだ。
     だが、バスターたちは蜘蛛と戦おうとはしていない。
    平井が言う。
    「…この患者は、精神ではなく肉体を、既に手の施しよ
    うがないほど蝕まれている。もってせいぜい後十日…そ
    んな人を助けるために、我々が傷つくよりは…」
     その時、紀田が決然と反論した。
    「その十日の生命に、一体どれほどの価値があるとお思
    いなんです!ぼくは戦います!たとえ一人でも!」
     言い放って紀田は、巨大なチョークを作ろうとした。
    だが、また成長した紀田にも少し荷が重すぎたらしく、
    苦しい表情だ。
    「よし、今度は俺がやろう」
     知場が紀田にチャージする。途端に実体化する巨大チ
    ョーク。紀田は大蜘蛛に向けてそれを放った!…
     次の場面は、またも戦いの場面だった。
     敵はゾンビの姿をした邪悪な霊魂らしい。相当苦戦し
    ているようだ。紀田と平井を除く三人のバスターたちは、
    既に皆倒れている。
     紀田は善戦していた。さらに成長したらしく、今は七
    色のチョークを使いこなしている。真っ直ぐ飛んだり、
    カーブしたり、七色のチョークは千変万化の攻撃を見せ
    ている。
     遂にゾンビたちを全滅させた、と思ったその時、超巨
    大な融合体と化した夢魔が出現した。平井が言う。
    「いかん!あれは我々の手には負えん。いったん出直す
    ぞ!」
     だが、紀田はまたも言う事を聞かない。
    「ここまで攻め込んでいながら引き返したら、奴はまた
    エネルギーを食って、元の木阿弥になってしまいます。
    今、ここでとどめをささなければ!」
     紀田は、七色のチョークを天に向かって投げると同時
    に叫ぶ。
    「オーロラ・チョーク・アタック!」
     すると、天の彼方から、虹色に光り輝く超巨大16ト
    ンチョークが降ってくる。
     だが、その輪郭がぼやける。いくら成長していると言
    っても、これまでの戦いでエネルギーを使いすぎていた
    のだ。
    「Shit!」
     アンディが眉をしかめながらも紀田にチャージした。
    「義を見て為さざるは…」
     石見も何やら呟きながらチャージする。
     再び紀田に精気が甦り、虹色の16トンチョークは超
    巨大夢魔の上に落ちた。
     夢魔の絶叫が聞こえる。だが…
    『おのれ、人間の分際でこの私を倒すなどとは…呪われ
    よ!小賢しき人間よ!貴様はこれより、死という名の眠
    りにつく日まで、決して眠る事は出来ぬ。その日まであ
    がきもがき苦しみ抜いて、遂には狂い死ぬがよい!』
     紀田に向けて、無数の暗黒の矢が発射され、紀田の身
    体を貫いた。
     その時、夢魔の方から流れてきた黒い影のようなもの
    が、平井に囁きかけたのを、石見たちは見逃さなかった。
    『この全宇宙全ての知識が欲しくはないか…』
     これを聞いて、影にステッキを向けていた平井は、一
    瞬、躊躇する。
     その隙を突いて、影は平井の身体に…あるいは心に…
    侵入してしまった。
     夢魔の姿が崩れていく。
     その向こうに一瞬、少女の姿が見えた。どこか亜梨沙
    に面影が似ている。だが、その姿は夢魔と共に潰れ、消
    え失せてしまう。
     やがて、しばらくは呆然としていた平井だったが、我
    に返って夢から脱出して行き、黒い矢のダメージから少
    し立ち直った紀田も、倒れた三人のバスターたちを抱え
    るようにして夢から脱出していく。
     やがて夢空間がすこしずつ狭まっていく。
     どんどん、どんどん、どんどん…。
     やがて、夢空間の中には四人の居場所がなくなり、そ
    して…
     


      第3章 飛鳥
     
     亜梨沙は目を覚ました。
     そこは見たこともない寝室のベッドの上だった。
     あたりを見回すと、若い紀田、それに平井教授がいる。
    二人とも眠っているようだ。
     自分の姿を見る。見たこともないパジャマを着ている。
     何か、左腕、右胸の上、右腿にむずがゆいものを感じ
    た亜梨沙は、まず腕を見た。
    「げ!」
    「ハアーイ、亜梨沙」
     そこにいたのは…いや、あったのは、アンディの顔を
    した人面疽。
     慌てて他の二ヵ所を見る。右胸の上は石見、右腿は知
    場の人面疽だ。
     やがて平井が動き出す。慌てて亜梨沙は身づくろいを
    した。
     平井が紀田を助け起こして介抱しているうちに、見慣
    れない顔の中年女性が入ってくる。女性は亜梨沙に向か
    って心配気に話し掛ける。その声には聞き覚えがあった。
    三四郎池に入る前、確か電話で…
    「飛鳥ちゃん、大丈夫?」
     なんと、亜梨沙は十年前の駿河飛鳥になっていたのだ!
     あの時、飛鳥の魂は死んでしまったに違いない。そし
    て、どこでどう混線したのか、亜梨沙の心が代わりに飛
    鳥の肉体に入ってしまった…人面疽のオマケつきで…
     複雑な心境ながらも、亜梨沙は答える。
    「お母さん…」
     途端に母親の表情がパッと明るくなった。
    「ああ、飛鳥ちゃん!治ったのね?よかった!ホントに
    よかったわ!」
     亜梨沙の、いや飛鳥の身体を抱きしめる母親。だが、
    亜梨沙はさっき夢の中で呪いを受けた紀田の事が心配で
    ならない。
     やがて意識を回復した紀田は、しかし、軽い錯乱状態
    にあった。
    「彼は疲れているんです。申し訳ないが、隣の部屋で休
    ませてやってもらえませんか?」
     平井が紀田を隣の部屋へ連れて行った。しばらくドタ
    バタしていたが、やがて少し落ち着いたようだ。
    「お母さん、悪いけど疲れてるの。しばらく一人にして
    くれる?」
     亜梨沙は、母親を部屋から追い出した。母親が立ち去
    るのを見計らって、亜梨沙は三人に泣きそうな声で呼び
    かける。
    「石見さん知場さんアンディ、出てきて下さいよおー!」
     人面疽がモゾモゾと亜梨沙の右腕に集まる。
    「どーしよう?あたし、自信ないよ、飛鳥さんの身代わ
    りなんて…」
    「自信がないったって、やるしかないだろう。亜梨沙ち
    ゃん、動けるかい?」
     石見に言われて、亜梨沙は立ち上がろうとしてみたが、
    まるで身体に力が入らない。
    「ダメか…じゃあなおの事、このまま様子を見るしかな
    いな。……いけね!それより、俺たちが持ってきたモノ
    は?」
     慌てて亜梨沙はあたりを見回す。
     あった。枕元に、なぜか四つとも袋に入っている。
    「よかった…その四つがあれば何とかなる」
     だが、袋に入っていたのはそれだけではなかった。亜
    梨沙は一瞬迷いの色を見せたが、やがて決心したように
    それを取り出した。
    「…手紙?紀田先生からの?」
     亜梨沙は無言で頷き、三人に最後のページを見せた。
     亜梨沙への手紙は、石見たちが受け取ったものとは少
    し違っていた。追伸が添えられていたのだ。
     
    『PS 亜梨沙、学生でもない君に危険な仕事を押し付
    けてしまったのはただ一つの心残りだ。普通なら断わる
    所をつい許してしまったのは、きみの面影がある女性を
    思い出させたからだ。あの時、飛鳥がいたおかげで、私
    は不眠に耐えられず死に逃避することを思いとどまる勇
    気を得た。今度もまた君の笑顔を見て死に飛び込む勇気
    を持てたのかもしれない。』
     
    「I see…ソレデ亜梨沙、紀田先生ノ昔ノ事、アン
    ナイッショケンメイ調ベタデスネ」
     アンディは納得したように呟いた。
    「…気になって仕方がなかったの。飛鳥って女性が、先
    生にとってどんな女性だったのか…だって、あたし…」
     亜梨沙の言葉を遮って、石見は言った。
    「ともかく、問題はこれからだ。十年後の世界では今頃
    …というのも変だけど、紀田先生は戦っているはずだし、
    俺たちはそれを助けに行かなきゃならない。今は一ヵ月
    後を待つしかないな」
     奇妙な共同生活が始まった。
     食事などはいいとしても、母親に身体を拭いてもらう
    時など、人面疽たちは体中を逃げ回らなくてはならない
    のだから一苦労である。
     だが、そんな毎日を送っていても、亜梨沙の気にかか
    るのは紀田の事ばかりだった。
     あれ以来、紀田は飛鳥の隣の部屋で休んでいるのだが、
    やはり全く眠れないらしい。
     三日ほど経った晩の事。
     亜梨沙がそろそろ眠ろうかと思っている頃に、突然、
    紀田が飛鳥の部屋に入ってきたのだった。
     亜梨沙は思わず身を固くした。
     紀田の表情には、明らかな憔悴の色があった。そして
    それは、三日前よりもはるかにひどくなっていた。
     紀田は亜梨沙の…いや、飛鳥の顔を見ると、絞り出す
    ように言った。
    「飛鳥ちゃん…眠れないんだ…この苦しみから逃れるた
    めなら…ぼくは…」
     紀田は、亜梨沙の枕元に置いてあった薬のビンを鷲づ
    かみにすると、それをあおろうとした。薬は、飛鳥が暴
    れた時に使われていた強力な鎮静剤で、スプーン一杯飲
    めば大抵の人間は眠り込んでしまう。もし、それを一気
    に全部飲んだりしたら…!
     亜梨沙は必死で紀田にしがみついた。
    「やめて、やめてください!」
     紀田は、飛鳥の身体を気遣ったためか、それほど激し
    く抵抗しなかった。だが、悲しげに飛鳥を見つめ、言っ
    た。
    「死なせてくれ…頼む」
     亜梨沙は必死の思いで紀田に訴えた。
    「お願い…死なないで下さい…死んだら…私が悲しいで
    す。私の知ってる紀田さんは、そんなに弱い人じゃない
    はずです」
     胸がつまって言葉が出なくなってしまう亜梨沙。背中
    に隠れていた人面疽石見が、亜梨沙の肩口に寄って囁く。
    「しっかりして、亜梨沙ちゃん!いいか、俺がこれから
    言う通りに言うんだ…」
     亜梨沙は必死に涙をこらえ、言葉を絞り出した。
    「…眠れない辛さがどれほどのものか…私には解りませ
    ん。でも、あなたはそれに負けるような人じゃないはず
    です」
     紀田はさらに悲しげな表情になった。
    「ぼくもそう思っていた…自分は強いと…自惚れていた。
    夢魔たちを倒し、人々を救えるほどに強いと…だが、ぼ
    くはその力を奪われてしまった。もう戦うことが出来な
    い。もし万が一、君が再び夢魔に襲われても、ぼくには
    君を救う力はないんだ」
    「じゃあ、じゃあ跡継ぎを育てればいいじゃないですか!
    あなたの持っている、夢魔に対する知識や戦いの技術を、
    他の人たちに教えて、夢魔と戦える人をもっともっと増
    やして…そうすれば、たとえあなた自身が戦えなくても
    …いいえ、それだって立派な戦いじゃないですか!」
     亜梨沙の、そして三人の必死の思いが通じたのか、紀
    田の表情が少し和らいだ。
    「…そうか…そういう戦い方もあるのか…」
     紀田はうつろな目で、しばらく考えていた。しかしや
    がて、その目がほんの少し光を取り戻した。
    「判ったよ、飛鳥ちゃん。今日死ぬのはやめよう。それ
    にひょっとすると、今夜は眠れるかも知れないしね」
     そう言って、紀田は隣の部屋に帰って行った。ひとま
    ず、亜梨沙たちはホッと胸をなで降ろした。
     翌日、平井教授がある薬を持って現われた。
    「これは切断剤と言ってな、私の知り合いが開発した新
    薬なんだが、意識を一瞬だけ強制的に『切断』してしま
    う薬なんだ。試してみたまえ。根本的な解決にはならん
    かも知れんが、それでも少しは症状を改善することが出
    来るかも知れん」
     平井に勧められるままに、紀田が薬を飲む。
     瞬間、目を閉じた後の紀田の表情から、憔悴の色がや
    や薄らいだようだった。
     それ以後、薬の効果と飛鳥=亜梨沙の励ましで、紀田
    の精神は徐々にではあるが回復に向かっていた。また、
    ずっと寝たきりで衰え切っていた飛鳥の身体も、回復の
    兆しを見せ始めていた。
     それと同時に、亜梨沙=飛鳥と紀田の仲は、急速に接
    近して行った。
     ただ、気掛りなのは一ヵ月後のこと。その時、飛鳥=
    亜梨沙の身に何が起こるのか、全く判らないのだ。それ
    が、亜梨沙には不安でたまらなかった。
     それでも、幸せな日々が幾日か続いた。そして2週間
    ほどが経ち、亜梨沙も飛鳥としての生活に慣れた頃のこ
    と。
     紀田がいつものように飛鳥のもとを訪れた。元気に満
    ちた紀田の様子を見て、亜梨沙=飛鳥は思わず呟いた。
    「よかった…」
    「えっ?何が?」
    「紀田せ…紀田さんが、元気になってくれて」
     紀田は苦笑する。
    「それはぼくのセリフだよ。飛鳥ちゃんの方こそ、元気
    になってくれて良かった。…感謝してるんだ、飛鳥ちゃ
    んには。君がいなかったら、多分ぼくは今、こうして生
    きてはいなかったろう」
    「そんな…」
     亜梨沙=飛鳥の不安そうな顔を見て、紀田は慌てて付
    け加えた。
    「もちろん、今は死ぬ気なんてさらさらないよ。光が見
    えたからね、君のおかげで」
    「光?」
    「希望の光さ。君の言った通りにしようと思うんだ。大
    学に残って、もっと勉強して…その上で、才能のある者
    たちを見つけ出し、彼らにぼくのバスターとしての技術
    と知識を教え、夢魔と戦える一人前のバスターに育て上
    げる。これからの残りの一生を、ぼくはそれに費やすつ
    もりだ」
     熱心に語る紀田を、亜梨沙は泣きたいほどの嬉しさを
    噛みしめながら見つめた。
     ふと、紀田の言葉が途切れる。
     見つめていた亜梨沙=飛鳥の視線と、紀田の視線がぶ
    つかり合う。
     沈黙。
     亜梨沙=飛鳥の心臓の鼓動が、激しさを増す。
     鼓動の音が、紀田に聞こえているのではないかと、亜
    梨沙は気になった。
     紀田の両手が、飛鳥=亜梨沙の肩におずおずと伸びて
    くる。
     その手が肩に触れた時、思わず亜梨沙=飛鳥はピクリ
    と震えた。一瞬、紀田はためらったようだった。だが、
    飛鳥=亜梨沙が身を固くしたままで、しかしそれ以上抵
    抗を示さないのを見定めると、肩に置いた手にゆっくり
    と力を込め、静かに飛鳥=亜梨沙の身体を引き寄せた。
     既に亜梨沙は、自分の意志では動けなくなっていた。
    ただ、まぶたを閉じる。
     それでも、紀田の息づかいが接近してくる気配は感じ
    られて、亜梨沙はさらに身を固くした。
     喉がからからに干上がっていた。
     身体の震えがどうしても止まらないのが、ひどく恥か
    しい気がした。
     二人の息づかいが、途切れる。
     永遠にも似た一瞬間、時は止まった。
     再び流れ出すのを、時は少しためらった。
     二つの小さなため息が洩れて初めて、時はその務めを
    思い出したようだった。
     沈黙。
    「…ごめん」
     先に沈黙を破ったのは、紀田の方だった。
    「…どうして、謝るんですか?」
    「…あ、いや…」
     三度目の沈黙は、少し長かった。
    「紀田さん」
    「あ、いや、ごめん」
     そう言うと、紀田はそのまま帰って行ってしまった。
     
     
     
     それから二、三日、紀田の現われない日が続いた。亜
    梨沙の心が不安に潰れそうになった頃、亜梨沙がふと窓
    から表を見ていると、玄関の前に立っている紀田の姿が
    目に入った。しかしなぜか、紀田はすぐに入って来よう
    とする様子がなく、何かためらっているようだった。亜
    梨沙は声を掛けた。
    「紀田さん!」
     ハッと見上げた紀田は、一瞬戸惑ったが、やがて意を
    決したように玄関をくぐった。
     部屋に入ってきた紀田を迎えると、亜梨沙はすぐに聞
    いた。
    「紀田さん、ケガとかなさったんじゃ?」
    「え?あ、いや、別にそういうわけじゃ…」
     口ごもる紀田。
    「それじゃ、なぜ…?」
     亜梨沙は、わざと不満そうな口調でさらに聞いた。す
    ると、紀田は慌てて言った。
    「その…実は、君に嫌われたんじゃないかと思って…」
     亜梨沙=飛鳥は、あっけにとられた。
    「どうして?そんなこと、あるわけないじゃないですか」
     
     
     
     そして、再び幸せな日々がしばらく続いた。
    が、無情にもタイムリミットは刻々と近づき、一ヵ月後
    を明後日に控えた二十八日目に現われた紀田は、大きな
    花束を抱えていた。
    「ホントは、何かもっと気のきいたプレゼントを持って
    来ようと思ったんだけど、思いつかなくって…月並みに
    なっちゃったけど」
     本当に申し訳なさそうに言う紀田に向かって、亜梨沙
    =飛鳥は強く首を横に振った。
    「そんなことないです!とってもきれい…ありがとう」
     亜梨沙=飛鳥がそう言って微笑むと、紀田もホッとし
    たような笑みを浮かべた。
    「よかった…気に入ってもらえて」
     いつものように話がはずみ、ふと気づくと、
    紀田の瞳が亜梨沙=飛鳥の瞳を見つめて、黙り込んでい
    る。
    「素晴らしいことだと思います」
     今度は亜梨沙=飛鳥が、沈黙を破った。
    「えっ?」
    「この間のお話…たくさんのバスターを育てるっていう」
    「ああ…ありがとう。それで、できれば…」
     言いかけて、紀田は口ごもった。
    「?」
    「…一緒に、手伝ってくれないかな?ずっと」
     瞬間、亜梨沙の頭の中は混乱した。
     いや、それは自分に対する嘘だった。紀田の言ってい
    る言葉の意味を、亜梨沙は間違いなく即座に理解してい
    た。ただ、気持ちを落ち着かせるゆとりが欲しかっただ
    けなのだ。
     亜梨沙は悩んだ。恐らく、わずか数秒の間に、これま
    での人生(高々十八年と少しとは言え)の中でこれほど
    悩んだ事はない、というくらい、悩み抜いた。
     だが、不安そうに自分を見つめる紀田の顔を見た瞬間、
    答えは意識とは無関係に、口を突いて出てしまっていた。
    「…はい」
     それを聞いた途端、紀田の表情はパッと明るくなった。
    「よかったあ!正直言って、断られたらどうしようって、
    すごく不安だったんだ。これから二、三日は来られない
    けど、今度来る時は、指輪、持ってくるよ」
     まるで子供のように喜ぶ紀田の姿を見ると、亜梨沙は
    なおさら真実を告げられなくなってしまうのだった。
     
     
     
     遂に一ヵ月が過ぎた。
     その日、飛鳥=亜梨沙は、やっと一人で部屋を出る事
    が出来るようになった。
    『でも…何が起こるかは解らないけれど、今日で多分、
    あたしはここからいなくなる』
     亜梨沙は手紙を書くことにした。
     
    『紀田さんへ。私はたぶん、今日で消えるでしょう。で
    も悲しまないで下さい。私には…いいえ、私たちには、
    やらなくてはならない事があるのです。
     いつかきっと、あなたを慕って集まってくる人たちが
    います。その人たちと共に戦って下さい。決して負けな
    いで下さい。そして、決して死なないで下さい。
     十年後、それがどんな形なのか今は言えませんけれど、
    あなたの身近な所から巨大な悪意が爆発します。
     『逆衛星の法』に注意して下さい。
     あなたと、あなたの仲間の勝利を、信じています。
     さよならは言いません。
                        飛鳥  』
     
     そこへ、ここ二日ほど姿を見せなかった紀田から電話
    が入った。
    「海岸まで来てくれ」
     母親には「散歩に行ってくる」とだけ言って、飛鳥=
    亜梨沙は家を出た。四人で悩んだ末、手紙は素直にポス
    トに入れて行くことにした。
     海岸に出ると、べっとりと粘りつくような潮風が、飛
    鳥=亜梨沙の髪を苛めた。だが、亜梨沙はそんなことに
    構っていられるような心境ではなかった。紀田に会った
    ら、何て言えばいいんだろう…?
     やがて待ち合わせの場所に、紀田の姿が見えた。
     声を掛けようとした瞬間。
     肩にチクリと痛みが走り、飛鳥=亜梨沙は動けなくな
    ってしまった。そのまま、砂浜に倒れる。
     起き上がることはおろか、うつ伏せに倒れたまま背後
    を見ることも出来ない亜梨沙の耳に、声が聞こえた。
     声の主は…平井教授!
    「…私は人間の夢というものの正体を確かめてみたい。
    そのためには、夢魔に冒された人間の脳を調べるのが一
    番だ。お嬢さん、すまないが知識のために犠牲になって
    もらうよ」
    『罠だったんだ…!こいつが既に闇に飲まれていたのを
    忘れていた…』
     石見はおのれのうかつさを悔んだが、後の祭りだった。
     平井はなおも続ける。
    「…君の出した手紙、読ませてもらったよ。興味深い内
    容だが、少しまずいな。まあ、このまま破り捨ててもい
    いんだが、それではあまりに君が可哀相だしねえ。順一
    には、一部を削って渡しておくよ。安心したまえ」
     失敗だった。手紙は飛鳥が消えた事を、あたかも飛鳥
    が自分の意志でしたことのように見せ、平井の犯罪を隠
    す絶好の道具として使われてしまうだろう。
     やがて、飛鳥の腕に注射器の針が打ち込まれ、そして…
     
     
     
     
     


      第4章 最終決戦
     
     四人が意識を取り戻した時、そこは再び夢の中だった。
    まるで砂漠のような…
    「…平井の野郎、頭蓋骨カチ割って、脳みそぐっちゃん
    ぐっちゃんにしてくれる!」
     知場はよほど頭に来たらしく、猛烈にいきまいている。
    「おい、あれは何だ?」
     空に浮かんでいる裏返しの月。その月に向かって、ま
    るでピラミッドのような石の建造物がそびえ立っている。
    その頂部は、今にも月に届きそうな高さだ。石を積み重
    ねている人の姿もある。服はみんなボロボロのようだが、
    遠すぎて表情までは見えない。
    「ここじゃラチがあかない。行ってみよう」
     四人が近づいて見てみると、人々は皆疲れ切った表情
    をしていたが、何かを目指してピラミッドを作っている
    様子である。
     人々の中に、石見は知人の顔を見つけ、呼びかけた。
    土田というその男は、最初は誰なのか解らないらしく、
    うつろな表情だったが、やがてわずかに反応が見えた。
    「石見君か…君もあのパニックでやられたのかい?」
    「いえ、そうじゃないんですが…それより教えて下さい。
    なぜあなた方はこんな物を作ってるんです?誰かに命令
    されたんですか?」
     土田は首を横に振った。
    「いや、命令されたわけじゃない。だが、あの人が…」
    「あの人って、どんな人です?」
    「品のいい老紳士といった感じの人だ。学者の様にも見
    えたな。ぼくたちがここに来てすぐに、あの人は現われ
    た。そして、ここから抜け出す方法を教えてくれたんだ。
     ここは地獄だよ。死んでも、また同じこの場所に生き
    返ってしまう。抜け出せないんだ。
     でもそれも、もうすぐ終わる。あのピラミッドが、月
    まで届いた時、ぼくたちはここを脱出できる」
    『うそだ!』
     叫び出したい気持ちを、四人は必死に抑えた。怒りが
    ふつふつと湧き上がった。
     働いている人の中には年端もいかない子供までいる。
    大人たちに混じって、必死に石を運んでいるのだ。そん
    な少年の一人が、力つきたように倒れた。
    「…みず…おみずがほしい…」
     即座に知場は水の入った水筒を『製作』して、倒れた
    少年に与えた。少年はそれを飲むと元気を取り戻し…ま
    た石を運び始めた。
     土田から少し離れた所で、石見たちは小声で相談した。
    「完全にだまされてるわ、この人たち」
    「平井の野郎、あんな子供まで…絶対に許せねえ!なん
    とかこの人たちを助けようぜ」
    「しかし、ストレートにホントの事言っても、信用して
    もらえるかどうか…」
     考えた末に、亜梨沙が急に土田の方へ向かって言った。
    「実はあたしたち、あなたたちがあったその先生の手伝
    いをしに来たんです。あたしたちと先生がやれば、あな
    たたちが辛い思いをしなくても、あなたたちを助けるこ
    とが出来ます。だから、もう働くのをやめていいんです」
     土田は、問いかけるような眼差しで石見を見た。素早
    く石見も話を合わせる。
    「彼女が言ってるのはホントです。ぼくたちが先生を探
    してくるまで、みんな休んでて下さい」
     土田はどうやら納得したらしく、言った。
    「それじゃあ、あっちの方に芦原幸次郎さんがいるから、
    同じ事を言ってくれないか」
    「芦原幸次郎って、アクション俳優の?そう言えば、あ
    の人も『ラグナレク』事件の犠牲者だったっけ」
     四人が言われた方を探すと、きりっとした顔の中年の
    男が、あれこれと指示を出しているのが目に入った。芦
    原だ。
    「いるんだよな、あーゆーやつ…」
    「シッ!聞こえるとまずい」
     何食わぬ顔で近づくと、芦原はこちらに気づいた。
    「何だ、君たちは?」
     亜梨沙は土田に言ったのと同じセリフを繰り返した。
    その間、石見たちは芦原の表情を読んだ。苦い表情だ。
    『ダメか?』
     だが、芦原はあっけなく納得した。
     ひょっとすると、亜梨沙の必死な想いが、芦原の無意
    識に働きかけたのかも知れない。
     芦原の指示で、人々は作業をやめた。だが、その表情
    には不安の色がまだ残っている。
     再び土田を探すと、土田の表情は他の人々に比べると、
    やや落ち着いていた。知り合いである石見の言葉なので、
    他の人よりはそれを信じられるのだろう。
    「土田さん、つかぬ事を聞きますが、ぼくたちとその先
    生の他に、男の人が来ませんでしたか?30才くらいの」
    「さあ、他には人は来なかったけど…」
    「じゃあ、最近あった事で、他に何か気づいたことはな
    いですか?」
    「ああ、そう言えば…いつだか忘れたけど、流れ星が落
    ちたよ」
    「流れ星?」
    「そう…真っ白な流れ星だった。流れ星は、君たちの先
    生が初めて現われた時と同じ、東の方角に落ちたんだ。
    そうそう、その頃からだ、先生が姿を見せなくなったの
    は」
     四人は目を見合わせ、頷き合った。
    『間違いない、紀田先生だ!紀田先生が、平井を食い止
    めてるんだ』
     土田に別れを告げ、四人は流れ星の落ちたという方角
    に向かって進むことにした。
    「その前に…いつ戦いになるか解らないしな」
     石見と亜梨沙は精神を集中し、おのおの武器を作った。
    石見の手にはおなじみタケミカヅチが、そして亜梨沙の
    手にもこれまたおなじみヨーヨーが握られる。
     一時間?二時間?夢の中の事だ。それは解らない。だ
    が歩いていると、風景が変わった。
     三つの扉がある。
    「おい、これは…!」
     石見と知場は、初めて紀田に会った日の前の晩、この
    構図を夢に見ていた。これは、紀田が目をつけた学生の
    夢に送りこんでいた、ナイトメア・バスターとしての適
    正テストだったのだ。
     突然、空から声が響く。
    『来てくれたな、お前たち。今お前たちがいるのは、平
    井の内世界だ。平井は完璧な防備の陰に潜んで、魔王と
    して転生すべく時を待っている。私は既にその居場所を
    突き止め、今、平井と向き合っている。だが、今の私の
    力では平井を倒すことは出来ない。攻撃を防ぐのが精一
    杯だ。早く四つのアイテムを届けてくれ。この場所の感
    覚的位置は、既に伝えた。ただ、平井もその事に気づい
    ている。おそらく、お前たちがここに来るのを妨害する
    ために、別の思念を送っているだろう。惑わされるな。
    お前たちのこれまでの戦いの記憶が、その道を深層心理
    を具現化したヴィジョンとして指し示しているはずだ』
     石見たちは三つの扉を見た。三つの扉には、それぞれ
    何かのヴィジョンが浮き出している。
     一つは、五芒星から六芒星、…九芒星へと目まぐるし
    く変化し続けている。
     一つは、新月から満月、そして再び新月へと、満ち欠
    けを繰り返している。
     そしてもう一つは…
    「三平方の定理…?」
     アンディが指を弾いて叫んだ。
    ぴたごらす デスネ!」
    「な、なんだあ?ピタゴラスがどーした?」
    「モウ一度ヨーク考エテ下サイ。
    ぐまりお』 ノ
    んたろす』 ノ
    るでぃあす』ノ
    ぐなれく』 ノ
     コレマデノ事件ハ全テ、ぴたごらすニ通ジテイマス。
    ツマリ…」
     知場が遮った。
    「よおーしっ、解ったあっ! つまり正解は……こいつ
    だっ!」
     思い切り三平方の定理の扉を引き開ける。
     見たことのない廊下に、四人は立っていた。
    「ここは…ひょっとして時計台の中か!」
     廊下は一本道で、突き当たりの右側に扉が一つあった。
    『平井研究室』と書いてある。
     扉の中から、強烈な闘気が伝わってくる…!
     知場は一升ビンを作って構えると、叫んだ。
    「石見!」
    「おう!」
     知場と石見は、同時に扉を蹴り飛ばした。扉は吹っ飛
    ぶように、あっけなく開いた。そして、その向こうにい
    たのは…
    「先生!」
     紀田がそこにいた。
     紀田は戦っていた。紀田の身体からは、何ものにも汚
    されることのない、純白の気がほとばしっている。そし
    て、部屋の反対側に紀田と向き合って、深く冷たいブル
    ーの波動を発しているのは…平井!
    「あれは持ってきたか!」
     紀田の叫びに応じて、魔書をすぐに取り出そうとした
    石見を、知場が止めた。
    「待て!これも罠かもしれん」
     そう言って、知場はとぼけた。
    「あれって、なんのことかな?」
    「決まってるだろう!四つのアイテムだ!」
     平井がニヤリと笑った。
    「ほう、お前たち、あれを持って来たのか。どうだ、わ
    しと取り引きをせんか?その四つの品をわしに渡せば、
    紀田を生き返らせてやろうではないか」
     平井の言葉に、亜梨沙の心は激しく揺れた。
     だが…!
     亜梨沙が叫ぶ前に、石見が叫んだ。
    「バカを言え!紀田先生がそんな取り引きを望むはずは
    ない!」
     断定口調でそう言い切ってから、ちょっと考えるよう
    な顔をして、石見は急に自信をなくしたように、紀田に
    聞いた。
    「…望みませんよねぇ?」
     紀田の身体がグラッと揺れた。
    「…当たり前の事を聞くな、このばかもん!」
     石見はニヤリと笑った。
    「…本物なら、そう答えてくれると思いましたよ」
     知場が付け加える。
    「それに第一、平井、貴様の言葉なんぞ信用できん!」
    「何故だ?わしは嘘は言わん。騙したりもせん。西荒川
    大の学生たちも、みんなわしを信じて散って行ったのだ」
     知場がムキになって言った。
    「いいや、貴様は嘘つきだ!」
    「何を根拠にそんな事を言うのだ?」
    「…えーと…?…えーい、問答無用!とにかく貴様は嘘
    つきなんだ!」
     知場は論理性に破綻をきたした。が、その時、亜梨沙
    が叫んだ。
    「あたしはあなたに騙された事があるのよ!駿河飛鳥の
    名前を、忘れたなんて言わせないわ!」
     平井の表情に困惑が走った。同時に、紀田の顔にも一
    瞬戸惑いの色が見えたが、やがてそれは、全て解ったと
    いう表情に変わった。
    「とにかく、そのアイテムをこっちへ投げてくれ!」
     四人はためらった。目の前では、紀田と平井、二人の
    発する精神エネルギーの波動が、文字通り火花を散らし
    ているのだ。そんな中に、四つのアイテムを放り出して
    いいものかどうか…?
     紀田もそれを察したらしく、言った。
    「じゃあ、急いでこっちへ来い!」
     紀田に駆け寄ろうとする四人目掛けて、平井の青の波
    動が走る。アンディが脚を撃ち抜かれて倒れた!が、倒
    れながらもアンディは、持っていたテープを放り投げ、
    テープは無事に紀田の手に渡る。
    「アンディ!」
    「No problem! ソレヨリ早ク、平井ヲ倒スネ!」
    「早く、残りのアイテムを!」
     石見はいったん魔書を渡そうとして、もう一度聞いた。
    「…ほんっとうに、本物の先生でしょうね?」
     紀田の身体が再び、グラッと揺れた。
    「…そういうことをいつまでも言ってると、単位やらん
    ぞ!」
    「あ、こりゃ本物だ」
     四つのアイテムを揃えると、紀田は言った。
    「私は今から、これを使って武器を作る。テープの中身
    の催眠呪文を空白の魔書に転写し、そのエネルギーをイ
    ノチグサの実に込めてフルートで撃ち出すんだ。現は夢、
    夢こそ現…眠りの世界での眠りは、反転して現実世界へ
    の目覚めとなる。だが、これを『起動』するには時間が
    かかる。すまんが、お前たちの力でその時間をかせいで
    くれ!」
     四人は頷き、決死の覚悟で平井の方へ向き直った。
    「愚かな…貴様らごときの力で、たとえ一瞬たりとわし
    の力を食い止めることなど出来るものか。死ぬがよい!」
     平井の十本の指先から、十本の青い波動の矢がほとば
    しった。
     石見は剣で、知場は一升ビンで、それぞれ青い波動の
    矢を打ち払う。だが、数が多すぎて防ぎ切れない!
     石見と知場は死を覚悟で、青い波動の矢を身を挺して
    受け止めようとした。
     その時!
     亜梨沙の身体の中心から、暖かいものが流れ出した。
    その流れは亜梨沙の全身に拡がり、身体のすみずみまで
    満たしていく。
     そこに生まれた 新たな生命 から、新鮮なエネル
    ギーが送られてきたのだ。
     全ての愛と祈りを込めて、亜梨沙は念じる。
     亜梨沙の十本の指先の全てに、ヨーヨーが出現した。
     次の瞬間、十個のヨーヨーは、悪の思念の塊目掛け、
    うなりを上げて襲いかかる。
     それはまさしく、この地上で最も狂暴で、最も優しく、
    そして最も強い獣の姿であった…『母』という名の。
     ヨーヨーは残る八つの波動の矢を打ち払い、さらに平
    井の両腕を縛り上げた。
     身動きならなくなった平井に、紀田はフルートの銃口
    を向けた。その瞳には、涙が光っている。紀田は言った。
    「先生…残念です」
     平井は、意外なほど落ち着いた様子で紀田を見つめた。
    「生と死、夢と現を逆転させる破鏡法か。わしを現実に
    送り返そうと言うのじゃな。…順一、お前は本当に愚か
    な奴じゃ。昔からそうだった。それを自分に向けて撃ち
    さえすれば、お前は生き返れるものを…」
     紀田は答えた。
    「愚かです。愚かでもいいです。
     ぼくはもう孤独じゃあないんだ。」
     銃声。
     フルートから、一条の真っ白な光の矢が、スローモー
    ションのように飛び出していく。
     それは、平井の身体を撃ち抜き、その背後にあった月
    の形の窓を撃ち抜き…そして、その後には何も残らなか
    った。
     研究室の風景も消え、やがてそこは、いつも石見たち
    が紀田の講義を受けた教室だった。
     石見たちは席に座り、教壇には紀田が立っている。紀
    田はしばらく、みんなの顔を眺めていたが、やがて口を
    開いた。
    「…石見。お前は、自分の能力が偏っていることを気に
    しているな。特に、精神力が低いのは気に入らないらし
    い。だが、これだけは覚えておけ。
     『偏っている者こそ真に強いのだ』
    精神力が低い分は、私に匹敵するほどの知識と運で補っ
    て余りあるじゃないか。要はお前自身が、自分の長所を
    活かす事が出来るかどうかだぞ。
     それから知場。お前は確かに精神力が高い。だが私の
    見た所、その精神力だけに頼りすぎるきらいがある。精
    神力は両刃の剣だ。無限の可能性を秘めているが、裏を
    返せば無限の危険性をも秘めている。忘れるな。
     『人間の一番の武器は、耳と耳の間にあるものだ』。  
    お前が自分の精神力を活かして使うも無駄に使うも、お
    前の頭次第だぞ。
     アンディ。お前は野球部のピッチャーだったな。ピッ
    チャーの戦いと言うのは、確かに孤独なものだろう。と
    もすれば、一人で試合をやっている気になるかもしれな
    い。だが、それは違う。野球にしろ何にしろ、一人で出
    来るものじゃない。いつかお前にも解るだろう。
     『人と人との和こそが無限の力の源だ』
    一人の力は微々たるものだ。大勢の人たちの協力がある
    からこそ、人は大きな事を成し遂げることが出来るもの
    なんだ」
     やがて教室の風景が薄れ、四人のバスターと紀田は、
    例のピラミッドを作っていた人々の元に立っていた。
     紀田は言った。
    「…彼らを生き返らせることは出来ないが、私は、安息
    の園が死の国にもあるのを知っている。私は、そこへ彼
    らを導いて行く」
     それだけ言うと、紀田は言葉を切った。
     亜梨沙を見る。
     亜梨沙は必死に、何かに耐えているようだった。
     紀田は亜梨沙に歩みより、そっとその身体を抱きしめ、
    耳元で囁いた。
    …子供を頼む
     そして紀田は、亜梨沙を離すと、四人に微笑んだ。
    「別に、これでもう逢えなくなるわけじゃない。夢の世
    界の中で、私はこれからも戦い続けるつもりだ。また逢
    うこともあるだろう。
     君たちは、これで一人前のナイトメア・バスターにな
    ったんだ。
     いつか…いつか全ての悪夢(ナイトメア)が夢(ドリ
    ーム)に変わる日が来るかもしれない。いや、そう信じ
    よう。その日まで」
     紀田は四人に背を向けた。
     その姿が、一羽の白鳥(スワン)に変わる。
     白鳥は飛び立った。人々を導くために。
     去って行く人々の中に、土田がいた。知場が水をあげ
    た少年もいた。武田明宏たち、死んだ五人の闇バスター
    もいた。
     そして、飛鳥の姿もそこにあった。
     やがて、四人の心に、紀田の声が沁みわたるように響
    いた。
    『これで、私の全ての講義を終わる』
     その時、それまで必死に何かを耐えていた亜梨沙が、
    とうとう耐え切れなくなって駆け出した。
     一歩、二歩。
     だが、立ち止まる。
     追っては、いけない。
     亜梨沙は、全ての想いを込めて叫んだ。
     
     
     
    『責任とれーっ!!』  
     
     
    第五話 スワン・ソング  完
     
     
     
    『ナイトメア・バスターズ』
     
    紀田・サーガ
     
    『ピタゴラス』


  • はみ出しリプレイ漫談

    『ないとめあ・ばすたあず』

    第5回(最終回)  すわん・そんぐ



    キャラクターズ・プレイヤー紹介
     
  • 富永 明子(とみなが・あきこ)
    「あの…『紀田先生を生き返らすためなら何でもやって
    やるぞっ!』と広言していた私ですが…いや、今でもそ
    う思ってますが、でも…だぁーっ、負けたよマスター、
    あんたの勝ちっ!!」
     
  • 小川 敏明(おがわ・としあき)
    「何だ何だ、この雰囲気は!許さん!私は、私はシリア
    スなど、絶対に認めんぞっ!!」
     
  • 的場 良平(まとば・りょうへい)
    「…おいおい、これだけかよ!…まあ、何もせんかった
    しなあ。」
     
  • 河村 克彦(かわむら・かつひこ)
    「別にいーんです、あたしゃおいしいセリフさえ言えれ
    ば、満足ですから」
     
     
    ゲーム・マスター
     
  • 武田 明宏(たけだ・あきひろ)
    「最後に一つだけ言っておく。プレイヤーが恥かしいの
    はわかる。だが、わかってくれ。マスターはもっと恥か
    しいんだ!!」
    (注)全:ふう〜ん…
     
     
     
     
     
     
     
     
     


     
     
     
     
     
     
    富:しかし、あの事件の報道ってどーゆーもんなんだろ
    う?どこまで本当の事を言うのか、どう説明をつけるの
    か…。
    知:人の噂も八十八夜。…おや?
    富:殺人、傷害、建築物破損etc.…。
    河:ハデにやったからなー。
    マ:悪い夢をみたということで。
     
     
    富:そっかー、前回はいきなり平井の家に行けば、この
    書き置きから計画の事が判ったんだな。
     
    富:落ちこぼれって、あんたねー。仮にも自分の教え子
    でしょーが、紀田先生は。
    マ:悪の首領の決まり文句ですから。
    知:その落ちこぼれに全滅させられてりゃあ世話ないわ。
     
     
     
     
     
     
    富:ホント何もできんかったな。前回の戦いではほとん
    ど傷ついてなかったのにな…ねぇ亜梨沙?
    亜:………。
     
     
     
     
    恵:あ〜あ、長い状況説明だった。
     
     
     
     
     
     
    富:さすが雑学教師、んなこともやってたのかー。どー
    りで図書館に行くと変な目で見られるワケだ。
    マ:ちゃんと『ピグマリオ』の中で紀田先生が言ってた
    はずだけど…。
    恵:「短くていいから早く書け」なんて急がせるから、
    抜かしちゃったんですよ。
    富:でも先生、岐阜に来た時すでにここまで覚悟しとっ
    たのか…なぁ、亜梨沙。
    亜:………。
     
     
     
    マ:はい、これ。
    全:でぇーっ! 全員の分、手紙つくってきたんですか
    ぁー!?
    河:しかも、この場にいない平岡と舞の分まである!
    マ:フッフッフ。
     
    富:のっけからこーゆー書き方するしー。だから紀田先
    生って好きさ。ね、亜梨沙。
    亜:あたしは、泣かなかったよ。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:それで、そのままでよかったんですよ。生きてさえ
    いてくれれば。
     
     
     
    石:やはり…。
     
     
     
     
     
     
    富:なんでまた、そんなに平井を尊敬しとるんだ?この
    先生は…。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    《紀田順一の無用の雑学知識》
    第5回 スワン・ソングとは
     
    スワン・ソング:白鳥は死ぬ寸前に、最も美しい声で鳴
    くという。転じて、芸術家が遺す最後の傑作のことを言
    う。    (紀田順一助教授の講義ノートより抜粋)
     
     
     
     
     
     
    富:なーんかしおらしいんだよなー。もっとこう、憎た
    らしいまんまでいてほしかったなー。
    マ:この優しさが、彼の本当だったのさ。
    亜:そのくらいの事はわかってましたけど…でもね…。
     
     
     
     
     
    亜:………?
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:必然でしょ?マースター?
     
     
     
     
     
     
    富:…いきなりサラッと当てちゃうんだもんなぁ、アン
    ディとゆーか、小川さんはー。
    知:全く、前回といい今回といい。
     
     
     
     
     
     
     
    マ:紀田先生のテキストにこんな一節があるよ。『要は
    証拠の存在を、相手が信じてさえいれば良い。即ち、物
    を隠す最良の方法とは、破棄してしまう事である』。
     
     
     
     
     
     
    富:ウソウソ、みんな別に何も言わなかったよー。それ
    に、紀田先生の弱味をにぎる絶好のチャンスじゃん。
     
     
     
     
    マ:ちょっとキツ目に設定はしたけど、出るまでこんな
    に苦労するとは。
    河:日記の中身は気になるとこだけどね。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:………!
     
     
     
     
     
     
     
    石:変なこと…?治ってたのに?
     
    富:ほぉーっ。だってさ、亜梨沙。
    亜:………。
     
     
     
     
     
     
    石:名前は?
    マ:ゲーッ、三つも名前作るのかぁー。
     
     
     
     
    知:明日は我が身か…。
    石:縁起でもない事言うんじゃないっ!!
    ア:アアアヤダヤダ、しりあすニハ耐エラレナイッ!!
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    知:これが最強技、『五分だけ眠り』だ!!
    富:手でも突っ込んでみれば何か判ったのかな。
     
     
    河:ニワトリじゃないか?(注:現実の三四郎池には、
    野性化したニワトリが棲みついている)
    的:…な訳ゃないでしょ!ニワトリがこんな真っ暗なと
    こウロウロしてますか!?
     
    知:いやー、正解だった。
    マ:しまったぁ〜。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:こんなとこでかけあい慢才始めんなーっ!
     
    富:バカかコイツは。何で私らに情報もらすんだよ。
    マ:ギクッ。
     
    富:ホントにー?ホントは忘れたフリしたかったんでし
    ょ、石見くん?石見くんの友人でしたよねえぇ、確か?
     
     
     
     
     
     
    富:危ない危ない。ほんとーにそーするとこだったぜ。
    いきなり平井とご対面てのはいただけないもんね。
     
    富:よくそんな事をする事を思いつくなー。さすが知場
    &的場くん。
     
    的:これは古い表現である。実にほほえましいと思うの
    は私だけだろうか。にしても、よく死んどらんな。
    知:手加減はした。
     
     
    【キャラクター・データ・ファイル】
    No.20  諸尾 託也
    性別:♂   年齢:21才
    筋 力: 6  体 格: 6
    知 識:17  魅 力: 6
    敏捷性: 6   運 : 6
    器用さ:14  精神力: 9
    体力ポイント:12 精神エネルギー:18
    技能
    フィギュア製作:2 セル塗り:5 絵画:1 ビデオ操作:10
    声優聞分け:10 コスプレ:1 カメラ操作:5 おしゃべり:5
    アニソンイントロ当て:10 情報収集:5 罠作り:5
    戦闘系才能は全くなし。
     


     
     
     
     
     
    富:平井なんて、見た事ないぞ。
    マ:写真くらいは見たと思うよ。
    亜:紀田先生…!あははは、何かかわいいー。
     
     
     
     
     
     
    富:おおおおお。確かにこりゃ情けねーや。
    的:『もう一度点検せよ』。(C)宇宙戦艦○マト。
    富:マスター、これはこーゆーことをして欲しいという
    プッシュですね?
    マ:いや、賭けです。
    富:ふ〜ん…けど、名前の方で呼び合うってのもいーわ
    ね。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:しょーがねーボーヤだな。これじゃ平井先生も、苦
    労が絶えんかったろう。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:こいつはなぁぁぁ、ここでよりによって「ありがと
    う平井先生」なんてぬかしやがったんだぞぉーっっ!
    亜:まあ、いいですよ、紀田先生が無事なら。
     
     
     
     
     
    知:だったら最初っから来るな!
    石:わざわざこんなとこ来てから弁舌かますってのもな
    ー。
    富:平井って、実はもともと性格よくないんじゃないの?
    この言いぐさ…。
    マ:でも、これで紀田の本当が解って来るでしょ。
    富:まったく、紀田先生も熱血とゆーか何とゆーか。こ
    ーゆー性格とは思いもよらなかったなぁ…いや、若いっ
    ていいなー。
     
    富:ここでも、ここでも紀田くんは「平井先生ありがと
    う」なんて言いやがったんだぞ…!!殴ったろかと思っ
    たわい。
    亜:あははは…紀田先生が平井を尊敬してる一因って、
    実はあたしたちが作ったんだったりして。
    マ:当然。
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:だぁーっ!もう、しょうがない子だね。平井先生尊
    敬してる割には、全然言う事聞かないじゃない。知場も
    真っ青の突撃やろうだな、まったく。
     
     
     
    富:命名、小川敏明。
     
     
     
     
     
     
    富:ほーんとイヤそーだったぞ、小川さん。
     
     
     
     
    【キャラクター・データ・ファイル】
    No.21  平井 太郎
    性別:♂   年齢:45才
    筋 力: 7  体 格:14
    知 識:25  魅 力:11
    敏捷性:14   運 :15
    器用さ:15  精神力:20
    体力ポイント:16 精神エネルギー:60
    技能
    知識関係のスキルは全て高レベルとする。
    その他:声態模写、ステッキ戦闘、吹き矢
     
    富:そして、『知識』が『世界』に変わってしまったわ
    けね。
    マ:違うよ。『世界』は『知識』の為の手段にすぎない
    んだよ。
    亜:……え?潰れる!?んなバカな…
    富:どーした?
    亜:いやその別に…。
     
     
     
     
     
     
     
     


     
     
     
     
     
    マ:はい、河村と的場と小川はサイコロ振る。
    富:え?私はいいの?
    マ:フッフッフ。それはね…
     
     
     
    富:おっとー!
    亜:げげ!!
     
     
     
     
     
     
    富:う〜ん、こーゆー展開をかまされたかー。読めんか
    った。未熟。
     
    亜:あは、あは、あははは………
    富:ん、どーしたんだ亜梨沙?
     
    知:オレたちゃオマケか?
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:ムリよ!だってあたしが、紀田先生を…ダメ、絶対
    ムリだわ。
     
     
     
     
     
     
     
     
    的:なぜだっ!
    富:不思議不思議。
     
     
     
     
     
     
    富:こら亜梨沙っ!私にまで隠すとは何事!?
    マ:RPGでは、キャラクターがプレイヤーを押しのけ
    て入れ替わるのはよくある話でね…。
     
     
     
     
    亜:そんな勇気、持たなくてけっこーです!そんなこと
    なら、先生の前で笑わなきゃよかった…
     
     
     
    富:まーすっかりしおらしくなっちゃって、亜梨沙ちゃ
    んも。
    亜:恋をすると、人格まで変わっちゃうのね。
    富:こら、さえぎるんじゃーない!今いいトコなんだか
    ら。
    石:いや、亜梨沙ちゃんの言いたい事は解るから…それ
    に、辛そうだし…
    河:石見も不器用なりに気を使ってるんだ。解ってやっ
    てよ。
    知:栄養をもらう代わりに知識を与えてるとか?
    石:お前の場合、知識じゃなくて突撃を与えてたりして。
    知:…どーやって!?
    富:想像を絶する苦労だなーこりゃ、つきつめて考えて
    みると。
     
     
    【キャラクター・データ・ファイル】
    No.22  紀田 順一
    性別:♂   年齢:22才
    筋 力:11  体 格: 9
    知 識:16  魅 力:14
    敏捷性: 8   運 :18
    器用さ:12  精神力:13
    体力ポイント: 9 精神エネルギー: 1
    技能
    心理学:5 情報収集:5 医学:5
    単位操作:1 雑学:5 スライド使用:1
    乗物一般:1 チョーク投げ:5
     孤独癖、いじけ癖が少々有り。
     
     
    富:ここでだまって見てるのも面白かったな。
    亜:冗談はイラストだけにしてちょーだい!!
    富:いや、真面目にタイム・パラドックスの問題として
    だね…
    亜:いいシーンなんだからだまっててっ!
    マ:実はこのシーン、プレイヤーのノリだけに賭けて、
    なーんも準備してなかった。
     
    亜:そう。あたしが悲しいの。それだけ。
     
    富:実際、上のセリフも、やっとこさっとこしぼり出し
    たんだから。
     
    知:よく見つからんかったものだ。
    富:わかりました。石見くんの説得の技に、賭けましょ
    う。
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:えい、しかし私が言葉をさしはさむ余地もないぞ。
    河:へっへっへ、こーゆーおいしいセリフのチャンスを
    あたしが逃がすとでもお思いですかい?
    マ:亜梨沙のセリフだと思って聞いてりゃ、泣ける場面
    なんだけど、う〜む。
     
     
     
     
     
    亜:今日は、ですか…とりあえず、よしとしましょう。
     
     
     
     
    知:こんなこともあろうかと開発しておいたんだな?
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:二重に不安なのよね。何が起こるかわかんないし
    (十年前の世界で死んじまって終わりじゃシャレにもな
    らん)、もしも一ヶ月後、消えなかったとしたら、今後
    十年間人面疽付きで飛鳥として生きてくんだもんなー。
     
    富:ここはいわゆる、プレイ中で「それから二人は幸せ
    に暮らしましたメデタシメデタシ」とすっとばされた部
    分だな。
    亜:そしてココが本筋よ!
     
    亜:そーなの。ついつい紀田せんせいって、呼んじゃう
    のよね。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:いやーよかった、紀田先生が結構ノリやすい性格で。
    マ:いや、もともとそーゆー風に描写してたハズだけど?
     
     
     
     
     
    マ:…にしても、この部分はサラッと軽く流したハズな
    んだが、この描写のねちっこさはどーしたの?リプレイ
    ライターさん。
    恵:だぁってぇ、マスターが照れちゃって、プレイ中に
    ラブシーンやらないんだもん。つい筆が走っちゃいます
    よ。
    マ:フフフフフ…フハハハハハ!!
    全:な、何だこの不気味な笑いは!?
    マ:待て最終章!!!
     
    富:ああっ、とうとうそこまでいっちゃうのかー。
    亜:できれば、紀田先生と、亜梨沙で、ってのが理想だ
    ったんだけどなー。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    河:なんだ、もう終わりか?つまらん。
    知:もっといろいろあったんだがなー。
    石:恵紋の奴、テレちゃって詳しく書いてねーでやんの。
    俺、もっといろいろ言ったんだぜ、亜梨沙ちゃんの(ピ
    ー)に紀田先生の(ピー)が(ピー)て(ピー)ったと
    か。
    知:そうそう、で紀田先生が(ピー)を(ピー)て亜梨
    沙に(ピー)…
    紀・亜:てめーら、えーかげんにせんかいっ!
      (どごっ)
    マ:16トンチョークはダメージ30ダイス。…あ、も
    う死んでるか。
    富:どーやら言語規制があるみたいだから、イラストで
    表現してみる…
      (どごっ)
    マ:ああああ、イラストレーターまで殺してしまって…。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    知:黄色いバラか?
     
     
     
     
     
     
    【キャラクター・データ・ファイル】
    No.23  紀田 順一
    性別:♂   年齢:22才
    筋 力:11  体 格: 9
    知 識:16  魅 力:14
    敏捷性: 8   運 :18
    器用さ:12  精神力:17
    体力ポイント:17 精神エネルギー:51
    技能
    心理学:5 情報収集:5 医学:5
    単位操作:1 雑学:5 スライド使用:1
    乗物一般:1 チョーク投げ:5
     飛鳥=亜梨沙に励まされ、回復。
     
     
     
     
     
     
    亜:悩みました!つまり問題は、どちらがより紀田先生
    を傷つけるかって事。断わるのと、一度承諾しといて消
    えるのと…。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    マ:(30−日数)個のダイスを振って6以下なら外出
    可能だよ……あー結局最後の日だね。
    富:過ぎちゃう前にもっといろいろ遊んどけばよかった
    ナ。過去の自分に手紙を書くとか、競馬で一発当てると
    か。
    亜:身体がいうこときかないのに、ンなことやってられ
    ますか!
    富:亜梨沙もだいぶ元気出てきたじゃない、さっきまで
    はイヤに暗かったけど。
     
    知:慕って…?
    ア:違ッタノデスカ?
     
    富:この文面は即興で書いたからなー。
    亜:言いたい事はたくさんあったんだけどね。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    ア:ココハすてーつ(米国の事)ダッタラ、「じゅんい
    ちー」トカ言イナガラ手ヲ振ッテ駆ケ寄ルトコデスネ。
    富:「順一さん」くらいにしといた方がよかったか?
    亜:やっぱりあたしは、「紀田さん」と呼びたいなー。
     
     
     
     
     
     
    富:亜梨沙、ごめん!!プロポーズに浮かれすぎて、罠
    の可能性をまったく考えてなかった…。
    マ:あんまりうまく行きすぎて、こっちが驚いたくらい
    だよ。
     
     
     
     
    亜:別に、失敗ってわけじゃないですよ。あの手紙は、
    紀田先生を悲しませないためだけに書いたんだもの。き
    っと、失敗じゃなかった。
    富:しかし、『逆衛星』はまずかったなー。平井に暗示
    を与えちゃったよーなもんだよこりゃ。
    マ:ラッキー!!
    富:しかし、人面疽には気づかれんかったのか?少なく
    とも生きてる間はひっついてたと思うんだけど。
     


     
     
     
     
    亜:その前にあたしのヨーヨーでタコ殴りにさせて!!
    マ:ちなみに、平井の体は魔に喰われて、口に出せない
    ほどおぞましい状態になってるよ。
    知:構わん、撃て!
    富:私は石膏流し込んで型を取りたいなぁ。
     
     
     
     
     
     
     
     
    富:石見って、ホントいろんなとこに知人がいるなー。
     
     
     
     
     
    【キャラクター・データ・ファイル】
    No.24  平井 太郎
    性別:♂   年齢:55才
    筋 力: 5  体 格:13
    知 識:30  魅 力:12
    敏捷性:13   運 :14
    器用さ:14  精神力:25
    体力ポイント:15 精神エネルギー:75
    技能
    知識関係のスキルは全て高レベルとする。
    その他:声態模写、ステッキ戦闘、吹き矢
     
     
     
     
     
     
    富:ありがち。
    マ:ありがち。
     
     
     
     
    知:ピラミッドを爆破するッ!
     
     
     
     
    富:おお、珍しく亜梨沙が説得役かぁ。こいつもその気
    になれば平気でウソ八百並べられるからなー。
    亜:本質的には真実だから、いいの。それに、誰も平井
    先生とは言ってないもんねーだ。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    マ:5ダイスで運以下ね。
    富:13以下か、キツいな…でも成功!
    亜:いや、それほど真剣に説得したわけじゃないんだけ
    どね。ただ、かわいそうだったから…。
    恵:あ〜あ、黙ってりゃカッコいいのに…。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:流れ星…。
    富:うっひゃー、いよいよサーガらしくなってきたなー。
    マ:東の色は青、西の色は白なんだな。
    河:夢の中の方角って、どーやって見分けるんです?
    知:磁石作ります!
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:見てないの、あたしだけかぁ…あたしはテスト、受
    けてないもんね。
     
     
    富:お待たー!
    亜:ちょっと寄り道してまして、ね。
     
     
     
     
     
     
     
     
    石:『懐かしの』講義口調だな。
    知:くどくて長い。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    知:なんでアルファベットで考えねーんだよ、このエセ
    米国人め!
    ア:ワタシ、日本語ワカリマセーン。
    全:?????
     
     
    マ:あー解いてもらえてよかった。
     
     
     
    【キャラクター・データ・ファイル】
    No.25  紀田 順一
    性別:♂   年齢:32才
    筋 力:10  体 格: 9
    知 識:18  魅 力:12
    敏捷性: 7   運 :18
    器用さ:13  精神力:18
    体力ポイント:16 精神エネルギー:54
    技能(54)
    心理学:5 情報収集:5 医学:5
    雑学:10 チョーク投げ:7 単位操作:8
    威圧:5 スライド使用:1 乗物一般:4
    じつはそこにいた:2 じつはきいていた:2
     
     
     
     
    富:うたぐりたくもなるよなー、一度あーゆー目に遭え
    ば。
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:ちょっと、あたしにも何か言わせてよ。うまい事た
    ぶらかしてやり方だけ聞いといてから、みんなでフクロ
    にしちゃえばいいんだから!
     
     
     
    亜:ナイスなつっこみだ…。
    富:はい、紀田先生の精神エネルギー、マイナス1Dね。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    知:何かあったはずだが、既に忘れた。
    石:鳥頭なヤツ。
    亜:今に始まったこっちゃないでしょーに。今さら論理
    性にこだわるんですか?
     
    富:忘れてたりして。十年前の事だもんなー、こいつ老
    人だし。
    マ:いや、平井は自分の『研究』については忘れないよ。
    富:こっ、これだけであのフクザツな事情が全てわかる
    んですか、紀田先生…?
    マ:紀田先生は、彼が解りたいと思った事情は解ったん
    だよ。
    亜:全ては、わかってないんだろうなー、人面疽の事と
    か…。
    マ:当然。
     
     
     
    マ:おお、アンディがめずらしくけなげじゃないか。
    小:しまった!つい。
     
     
     
    マ:疑り深いプレイヤーだ。なんでそんなに性格がひね
    くれたんだ?
    プレイヤー全員:誰のせいだ、誰の!?
     
    亜:ああ!そのセリフが聞きたかったんです。ほんとに
    先生らしい、なつかしいセリフ…。
    富:当事者じゃないから『なつかしい』とか言えるんだ
    よなー。単位が足りないのが、どんなに恐ろしくて悲し
    いか解らんから。(注:富永さんは単位が足りなくて降
    年したという、とても悲しくて楽しい思い出がある。)
     
     
    富:これって、実はものすごくムチャな頼みなのよねー、
    平井と彼らの『格』の差を考えると。
     
     
    知:一発や二発で死ぬ私ではない!
     
     
     
     
     
    亜:ちょっと待って、あたしはまだヨーヨー投げてな…
    …え!?
     
     
    亜・石・知・ア: キャ〜〜〜〜〜〜〜!
    富・河・的・小: キャ〜〜〜〜〜〜〜!
    亜:し、知らなかった…
    河:おいおい、弁解の余地がないよーなコトしといて、
    それは無責任ってもんじゃ… (ごきっ)
    石:おい、俺たちソノ時、亜梨沙の背中で何やってたん
    だ? (ごきっ)
    知:先を越された… (ごきっ)
    富:まるで武田のフルートだな、紀田くんも。
    全:?????
    富:一発必中… (ごきっ)
    マ:しまった、自分でネタ振っといて、そのギャグだけ
    は思いつかなかった。よし、何かあげやう。うーんと、
    よし、じゃあ白紙のキャラクター・シートだ。特別にサ
    イコロ使わずに能力値決めていいから、できるだけかた
    よった子に育ててね。
     
    亜:そーですね、たしかに。昔から。
    ………え!?
    わーっ、紀田先生、ちょっとたんま!!
    富:ヨーヨーでしばりあげてる今なら、フルート使わん
    でも倒せるんじゃないか?
    紀:それで倒せる相手ならば、私一人でやっている。
     
     
     
     
     
     
    亜:あたしは、まだ、受けてないのー。いつか、受ける
    つもりだったのに………
     
     
    マ:プレイヤー心得の条その1。
     
     
     
     
     
     
    マ:その2。
     
     
     
    知:鼻ですか?
    紀:そ…それも一つだ。
     
    マ:その3。
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:ちょっと!あたしにはアドバイスなしぃ?ずるいっ
    っ。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    亜:へっ!?まさか……ほんとのほんとに、あたしって
    現実世界でも…?
    富:『頼む』なんてかるがるしく言うんじゃねーーーー
    っ!!!まだ高校生なんだぞ亜梨沙はっっ。
     
    【キャラクター・データ・ファイル】
    No.
    性別:    年齢:  才
    筋 力:    体 格:  
    知 識:    魅 力:  
    敏捷性:     運 :  
    器用さ:    精神力:  
    体力ポイント:   精神エネルギー:  
    技能(  )
     
     
    亜:…紀田先生、浮気したら10本ヨーヨーでタコ殴り
    ですからねっ。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
    石:…最後の最後でギャグにするんだもんなー、このマ
    スター…
    マ:バカを言うな、誰がギャグなんぞやっとるか!私は
    真剣だ!
    全:なおさら悪いわ、大バカものっ!
    亜:マスターと紀田先生には今後きーっちり責任とって
    もらいますからね。

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