産業ロック推薦図書



少年を殺して臀肉を抉る

萬朝報
第三千六十一號 - 第三千六十四號
(明35.3.29 - 明35.4.1)

 以前「日ポン地」という雑誌を紹介したときに明治の猟奇事件「臀肉切り取り事件」を紹介したが、その際、筆者が事件について参照した本がかなり雑な内容のもので信頼性に欠けるものだったので、当時の新聞を調べてみることにした。とりあえず、萬朝報の記事が手には入ったので紹介しておく。
 まず、句読点などを足し、新仮名遣いに直した記事を掲げ、原文を次に載せることにする。


新仮名遣い

萬朝報 第3061号(明35.3.29)3面


●少年を殺して臀肉(でんにく)をえぐる

 一昨夜12時40分ごろ、麹町区下二番町29番地 差配人遠藤盤方[の]湯殿の軒下に同町59番地中島新吾[の]長男中島惣助(11)といえる少年が殺され居たる旨、同町59番地人力車宿 藤井為三郎方の輓子(ひきこ)中村金次郎という者、顔色変えてふるえふるえ麹町署へ訴え出でたるにぞ、直ちに判検事、警官、医師等[が]現場に臨検したるところ、

被害者惣助は三尺足らずの狭き軒下に、鼻血を流してうつむききに倒れふし、肛門を中心として直径二寸くらい睾丸へかけて臀肉二斤程をえぐり取られ、前額部に皮下傷2ヶ所、左の咽喉部に一寸弱の突き傷ありて、見るも惨酷(むごたら)しき有様なりとて、警視庁へもこの旨 急報し、犯人の探偵に従事し、なお当夜の模様を取調べたるに、被害者惣助の父新吾は京橋区西紺屋町秀英舎の職工(日給五十銭)にして九年前に迎えし妻阿菊(おきく 31))長女阿鈴(おすず 4つ)阿菊の母阿粂(おくめ)及び惣助の五人暮らしなるが、

この惣助というは目下四谷区左門町四谷小学校の生徒にして、さる24日尋常三年生となり、性質柔順にして継母阿菊とも格別争いたる事もなき由にて、一昨夜の如きも阿菊と共に八時ごろ同町35番地の湯屋早崎岩次郎方へ入浴に赴(おもむ)き、その帰途阿菊は二銭銅貨を与え麹町6丁目の遠州屋へ砂糖を買いにやり、そのまま自分は帰宅したるが、九時ごろ夫新吾も帰り来たり、

惣助が帰りのあまり遅きを心配して同人を捜しに出かけ、下二番町23番地 亀澤横丁まで至りたるところ、路傍の溝の中に見覚えある惣助の下駄一個落ちて居たるにぞ、おおいに怪み、なお捜し歩きたるに、同町25番地安藤庄次郎方の窓下に、また惣助の下駄一個ありたるよりいよいよ怪しみ、近所の人々にも話して諸所捜索し遂に前記遠藤方の軒下に倒れ居たるを発見したり。

なお、新吾の語る所に依れば、同人が九時頃秀英舎よりの帰途、前記下二番町25番地さきに来掛りし折、二重まわしを着たる一人の男は、倒れ居たる少年の上にまたがり、しっかりりしろ、しっかりしろ、とて何やら介抱して居る様子を見かけたるが、今より思いあわすれば、その少年はせがれ惣助なりしやも知るべからず、と。

また、兇行の目的も、場所も、加害者も不明にして何らの手がかりもなけれど、あるいは人肉を食すれば不治の病症の治るという迷信より右の兇行に出しものか、との臆説をさえ出したり。とにかく、惣助の咽喉を圧して窒息せしめ、その絶命したる上(で)臀肉をえぐり取り、前記遠藤方の湯殿の軒下にかつぎ行きて捨てたるものの如し。

しかれども、この遠藤方の湯殿の軒下は往来より よほど引込み居りて曲がりくねりたる露路内の事なれば、何故かかる所に捨てたるか、いかにしてかかる場所に死体を捜し当てたるか、おおいに研究すべき点なりとす。なお被害者惣助の一家は一昨年中まで四谷区信濃町の内田活版所に同居し居たるものなり。

▲犯人は誰ぞ

 事はなはだ奇怪にして、その筋にても探偵に念には念を入れつつあれば、わが社もここに容易に断案を下すべくもあらず。警視庁の武東警部は自ら出馬して、初めは新吾夫婦に嫌疑をかけ、麹町警察署へ召還して取調べたれどもついにその要領を得ず。果ては他のある者に向かって嫌疑の目を向くるに至りたり。

或者とは誰ぞ、

 この辺は、夜分いたって寂しき辺なれば、折々夫人を脅かす馬鹿者などの出没する事なきにも非ず。さる5日の夜の如き、今回の発見者の宿藤井為三郎の妻阿佐和(おさわ 二十四)も、そのすぐそばなる薬師横町を通行の際、怪しき男につけられし事あり。

爾来、薄氣味悪しとて夜分は外出せざるほどなるが、その男も二十まわしを着たる年齢二十前後の書生体にして、新吾の目撃せし男と符合するところあるより、武東警部は麹町署長と合議の末犯人は彼是同一人と見なし、鶏姦の目的を遂げし後、その犯跡をくらまさんとしてかかる無惨の所業に出でたるものなり、と断案し、昨夜よりその方針にて探偵に着手したるが、その筋の見込みにては犯人は無論、麹町区内に住する者なりと。

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萬朝報 第3062号(明35.3.30)3面

●臀肉(でんにく)えぐり少年殺しの続聞

 麹町区下二番町59番地 中島新吾長男惣助(11)が何者にか惨殺されたる上に臀肉を切り取られたる椿事は昨紙に詳記せし所なるが、その加害者は昨日も未だに縛につかず、その筋にては目下厳探中なるが、これにつき我社は次の如き事実を聞込みたり。

その兇行の当夜8時10分頃なりし。同町31番地、元陸軍大佐大生定孝(おおみ さだたか)方の下女吉澤阿静(20)といえるが、郵便切手購求に外出したる帰途同町23番地亀澤横町の暗がりにさしかかりたるに、年頃23,4の鳥打帽子をかぶり、袴を着したる書生体の男が突然阿静の後より、「姉さん黙っていろ」と言うより早く阿静の口を押さえ、なお猥褻の所業に及ばんとしたるにぞ、阿静はびっくり仰天し、一生懸命になりてその手を払いのけ、一目散に逃げながら後方を振りかえり見たるに、その男がなおも追跡し来たるより急ぎ主家に逃込み、この旨を物語たりたるより、

雇人の一人が表へ出見たるにその男が門の扉にもたれて居たるにぞ誰何(すいか)せしところ、無言のまま逃げ去りたりと。また同夜7時頃同町59番地車夫藤井為三郎の妻阿佐禰(おさね 二十四)も同番地角にて前記同様なる風体の男に出あい頭と肩を打れたりといえり(久しく夜分外出せざりしが、同夜はふと出懸けしなりと)。

その筋の見込みは、しばらく聞くを得ざれど以上の話の模様より考うるに、あるいは犯人が前記の男には非ざるか。されど怪しむべきは兇行の現場と認められたる亀澤横町に一滴の血痕もなく、かつ同町29番地遠藤方の軒下に絶命し居たる惣助の傷所より出血せし量の甚だ少きを見れば、絶命後、よほどの時間を経てより臀肉をえぐりたるものらしく、どこか家の中にて圧殺し、その後、前記の軒下に捨てたるものならん、との推測はいささか信を措くに足ると思わる。

さて惣助の死体は昨朝6時大学病院へ送り、9時頃より片山医学博士[が]主任となり、解剖の結果、死因は窒息の為にして鶏姦の形跡は見えず。なお臀部は、よほど鋭利なる兇器を以てえぐり取りしものなりと断定したり。また午後1時ごろ麹町警察署にては一人の嫌疑者を拘引したるが、その者は刀一口と他の兇器一個を所持せしにかかわらず、午後5時ごろ嫌疑は晴れて放還されたり

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萬朝報 第3063号(明35.3.31)3面

●臀肉えぐり少年殺しの續聞  五里霧中に封じられつつある番町少年殺しの犯人は、いまだ手がかりなく、単にその殺害の場所、兇行の目的等につき諸説紛々たるが、そのうちの被害者惣助が両手の甲に泥の附着し居たると、両足のすねに擦過傷ありしとを見れば、全く兇行の場所は死体のありしところにはあらざるべく、必ず引ずり来たりしものなるべしとの一説。片山博士の解剖の結果は圧殺致死は疑いなきも鶏姦遂行の点は更に見当らず、あるいは欧米国に例ある色情狂者の所為にはあらざるやとの一説。警察医小倉知己の医学上人肉の薬剤となるべき例を聞かず、ただ医学の進歩に伴い種々の考えを起こすものの那辺に生ずるやも知れざればうんぬんとの一説。人体死後の切り取りは普通のナイフなどにてかく見事に切るるものにあらざれば凶器も用意せしならんとの説。鶏姦未遂とすれば強いて臀部の肉を切り取るの必要もなかるべしとの一説等にして帰するところは、何ものか肉取りの目的にて家屋内にて殺害したるならんとの考説多く、事件はますます奇怪の底に沈みたり。右につき警視庁なる武東警部の如きは非常の熱心をもって犯人の捜索に従事し昨日は赤坂、四谷、牛込の三警察署を歴巡し各署長の大なる尽力を要求したり。なお、昨夜九時ごろ武東警部の手にて一人の嫌疑者[が]麹町署へ拘引せられ被害者の両親と対審なさしめ居たりしは午後11時過なりし

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萬朝報 第3064号(明35.4.1)3面


●臀肉えぐり少年殺しの続聞

 諸説紛々、いまだ要領を得ず。警視庁も本犯者を検挙するに苦しむ有様より、付近警察署へ応援を求め麹町署は署長以下寝食を忘れて探偵に従事せり。一昨夜は嫌疑者として一名の男を引致したるも、ほどなくこれを放還するに至り、目下、その筋の探偵方針は鶏姦うんぬんはすでに消え去りて、肉剥の点につきて考究しつつあるもののごとく、果たして人肉を剥で用いんとする者ありとせば近世の大怪事なるより、麹町番町付近は人心穏かならず。午後6時以後は通路寂寞として入浴者も見あわせる有様なるが、殺害現場すら判然せざる事件とて昨今の浮説いたるところに紛々とし、この時を利用し悪者の続出せん事のなしとも知らずとて警戒すこぶる厳重なり


旧仮名遣い

第三千六十一號(明35.3.29)


●少年を殺して臀肉を抉る  一昨夜十二時四十分頃麹町區下二番町二十九番地差配人遠藤盤方湯殿の軒下に同町五十九番地中島新吾長男中島惣助(十一)と云へる少年が殺され居たる旨同町五十九番地人力車宿藤井爲三郎方の輓子中村金次郎と云ふ者面色かへてふるへふるへ麹町署へ訴出でたるにぞ直ちに判檢事警官醫師等現塲に臨檢したる所被害者惣助は三尺足ずの狭き軒下に鼻血を流して俯向きに倒伏し肛門を中心として直徑二寸位ゐ睾丸へかけて臀肉二斤程を抉り取られ前額部に皮下傷二個所、左の咽喉部に一寸弱の突傷ありて見るも慘酷しき有様なりとて警視廳へも此旨急報し犯人の探偵に從事し尚當夜の模様を取調べたるに被害者惣助の父新吾は京橋區西紺屋町秀英舎の職工(日給五十銭)にして九年前に迎へし妻阿菊(三十一)長女阿鈴(四つ)阿菊の母阿粂及び惣助の五人暮なるが此惣助と云ふは目下四谷區左門町四谷小學校の生徒にして去る二十四日尋常三年生となり性質柔順にして継母阿菊とも格別争ひたる事もなき由にて一昨夜の如きも阿菊と共に八時頃同町三十五番地の湯屋早崎岩次郎方へ入浴に赴き其歸途阿菊は二銭銅貨を與へ麹町六丁目の遠州屋へ砂糖を買に遣り其儘自分は歸宅したるが九時頃夫新吾も歸來り惣助が歸りの餘り遅きを心配して同人を捜しに出かけ下二番町二十三番地龜澤横丁迄至りたる所路傍の溝の中に見覺ある惣助の下駄一個落ちて居たるにぞ大に怪み尚捜し歩きたるに同町二十五番地安藤庄次郎方の窓下に又惣助の下駄一個ありたるより愈よ怪み近所の人人にも話して諸所捜索し遂に前期遠藤方の軒下に倒れ居たるを發見したり尚新吾の語る所に依れば同人が九時頃秀英舎よりの歸途前期下二番町二十五番地先に來掛りし折二重廻しを着たる一人の男は倒れ居たる少年の上に跨り確りしろ確りしろとて何やら介抱して居る様子を見かけたるが今より思合すれば其少年は倅惣助なりしやも知るべからずと又兇行の目的も場所も加害者も不明にして何等の手懸もなけれど或は人肉を食すれば不治の病症の癒ると云ふ迷信より右の兇行に出しものかとの臆説をさへ出したり兎に角惣助の咽喉を壓して窒息せしめ其絶命したる上臀肉を抉取り前期遠藤方の湯殿の軒下に擔行て棄たるものの如し然れども此遠藤方の湯殿の軒下は往來より餘程引込み居りて迂餘曲折りたる露路内の事なれば何故此る所に棄たるか如何にして此る場所に死体を捜し當たるか大に研究すべき點なりとす尚被害者惣助の一家は一昨年中まで四谷區信濃町の内田活版所に同居し居たるものなり
▲犯人は誰ぞ 事甚だ奇怪にして其筋にても探偵に念には念を入れつつあればわが社もここに用意に斷案を下すべくもあらず、警視廳の武東警部は自ら出馬して初めは新吾夫婦に嫌疑をかけ麹町警察署へ召還して取調べたれども終に其要領を得ず果ては他の或者に向かつて嫌疑の目を向くるに至りたり
或者とは誰ぞ、此邊は夜分至つて寂しき邊なれば折々夫人を脅かす馬鹿者などの出没する事なきにも非ず去五日の夜の如き今回の發見者の宿藤井爲三郎の妻阿佐和(二十四)もその直側なる藥師横町を通行の際怪しき男に跟けられし事あり爾來薄氣味惡すとて夜分は外出せざる程なるが其男も二十廻しを着たる年齢二十前後の書生体にして新吾の目撃せし男と符合する處あるより武東警部は麹町署長と合議の末犯人は彼是同一人と見做し鷄姦の目的を遂げし後その犯迹を晦まさんとしてかかる無慘の所業に出でたるものなりと斷案し昨夜より其方針にて探偵に着手したるが其筋の見込にては犯人は無論麹町区内に住する者なりと

第三千六十二號(明35.3.30)

●臀肉抉り少年殺しの續聞  麹町区下二番町五十九番地中島新吾長男惣助(十一)が何者にか慘殺されたる上に臀肉を切り取られたる椿事のの昨紙に詳記せし所なるが其加害者は昨日も未だに縛に就ず其筋にては目下嚴探中なるが之につき我社の次の如き事實を聞込みたり其の兇行の當夜八時十分頃なりし同町三十一番地元陸軍大佐大生定孝方の下女吉澤阿静(二十)といへるが郵便切手購求に外出したる歸途同町二十三番地龜澤横町の暗裡に差掛りたるに年頃二十三四の鳥打帽子を被り袴を着したる書生体の男が突然阿静の後より姉さん黙つてゐろと云より早く阿静の口を押へ尚ほ猥褻の所業に及ばんとしたるにぞ阿静は吃驚仰天し一生懸命になりて其手を拂のけ一目散に逃げながら後方を振返り見たるに其男が尚も追跡し來るより急ぎ主家に逃込み此旨を物語りたるより雇人の一人が表へ出見たるにその男が門の扉に凭れて居たるにぞ誰何せし所無言の儘逃去りたりと又同夜七時頃同町五十九番地車夫藤井爲三郎の妻阿佐禰(二十四)も同番地角にて前期同様なる風体の男に出遇ひ頭と肩を打れたりと云へり(久しく夜分外出せざりしが同夜は不圖出懸けしなりと)其筋の見込は姑く聞くを得ざれど以上の話の模様より考ふるに或は犯人が前記の男には非ざるかされど怪しむべきは兇行の現塲と認められたる龜澤横町に一滴の血痕もなく且同町二十九番地遠藤方の軒下に絶命しゐたる惣助の傷所より出血せし量の甚だ少きを見れば絶命後餘程の時間を經てより臀肉を抉りたる者らしく何所か家の中にて壓殺し其後前記の軒下に棄たるものならんとの推測は聊か信を措くに足ると思はるさて惣助の死体は昨朝六時大學病院へ送り九時頃より片山醫學博士主任となり解剖の結果死因は窒息の爲にして鷄姦の形迹は見えず尚ほ臀部は餘程鋭利なる兇器を以て抉り取りしものなりと斷定したり、又午後一時頃麹町警察署にては一人の嫌疑者を拘引したるが其者は刀一口と他の兇器一個を所持せしに拘らず午後五時頃嫌疑は晴れて放還されたり

第三千六十三號(明35.3.31)

●臀肉抉り少年殺しの續聞  五里霧中に封じられつつある番町少年殺しの犯人は未だ手懸りなく單に其殺害の塲所、兇行の目的等につき諸説紛々たるが其中の被害者惣助が両手の甲に泥の附着し居たると兩足の脛に擦過傷ありしとを見れば全く兇行の塲所は死体のありし處にはあらざるべく必ず引摺り來りしものなるべしとの一説、片山博士の解剖の結果は壓殺致死は疑いなきも鷄姦遂行の點は更に見當らず或は歐米國に例ある色情狂者の所爲にはあらざるやとの一説警察醫小倉知己の醫學上人肉の藥劑となるべき例を聞かず但醫學の進歩に伴ひ種々の考へを起こすものの那邊に生ずるやも知れざれば云々との一説、人体死後の切り取りは普通の洋刀などにて斯く美事に切るるものにあらざれば凶器も用意せしならんとの説、鷄姦未遂とすれば強て臀部の肉を切り取るの必要もなかるべしとの一説等にして歸する處は、何ものか肉取りの目的にて家屋内にて殺害したるならんとの考説多く事件は益す奇怪の底に沈みたり、右につき警視廳なる武東警部の如きは非常の熱心を以て犯人の捜索に從事し昨日は赤坂、四谷、牛込の三警察署を歴巡し各署長の大なる盡力を要求したり尚昨夜九時頃武東警部の手にて一人の嫌疑者麹町署へ拘引せられ被害者の兩親と對審なさしめ居たりしは午後十一時過なりし

第三千六十四號(明35.4.1)

●臀肉抉り少年殺しの續聞  諸説紛々未だ要領を得ず警視廳も本犯者を檢擧するに苦しむ有様より附近警察署へ應援を求め麹町署は署長以下寝食を忘れて探偵に從事せり一昨夜は嫌疑者として一名の男を引致したるも程なく之を放還するに至り目下其筋の探偵方針は鷄姦云々は巳に消え去りて肉剥の點につきて考究しつつあるものの若く果して人肉を剥で用ひんとする者ありとせば近世の大怪事なるより麹町番町附近は人心穏かならず午後六時以後は通路寂寞として入浴者も見合せる有様なるが殺害現塲すら判然せざる事件とて昨今の浮説到る處に紛々としこの時を利用し惡者の續出せん事のなしとも知らずとて警戒頗る嚴重なり



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