Chim↑Pom『オーマイ・ゴッド!』展

桜井圭介

 小さなギャラリーに入るとすぐ目の前にはティファニーの1点もの宝飾品が飾られるようなガラスケース。その中には「リアル・ピカチュー」! つぶらな瞳(でも真っ赤っか)、黄色い地毛に茶色いカミナリ模様のメッシュ、もちろんシッポもカミナリ状。後ろ足で立って小躍りするようなポーズ、かわいい。不覚にも「萌え」てしまった。後から入って来た何人かの若い女子も口を揃えて「キャー、カワイイ!」。でもこれ、実は「ドブネズミ」なんですよね、ほら、股間には大きな金玉。センター街で捕まえて来て、プリーチして、剥製にしたんです。俺はそう聞いて完全に惚れた。「!‥‥‥」と女子。不潔で不逞な忌み嫌われるドブネズミの死骸、にもかかわらず目の前のそれのカワイさは歴然としてある。頭のなかでイメージと事実が股裂きになりさらにそれが混交・合体するのだった。
 20代のアート集団chim↑pomによるこの作品『スーパー☆ラット』、昨年末の展覧会後もいまだに方々で話題沸騰中だが、それにしても「センター街のドブネズミをピカチューに仕立てる!」って、まるでガキのイタズラ!じゃん(だいたいタイトルだって村上隆ネタのダジャレだし)。たしかに「アート」と呼ばれているもののなかには、もともと美しい昆虫で高貴な作品を作るとか、もとは可愛い動物を輪切りにしてグロい作品に仕立てるとかあるけど、それってただのフェチに過ぎないんじゃないの、それに対して「最低」の素材で「高級」というか「高好感度」なブツを作るこっちのほうが断然「アート=批評」性が高い、と思う。「資本主義社会の光と影」をクールに批評する的なシミュレーショニズム・アート? もちろん「ピカチュー=ネズミ」というコンセプト自体は単なる記号操作で、ぬくぬくと炬燵に入ってダベってる時にでも出てきた「思いつき」(ピカチューってさー、要はネズミだよね。)かもしれないが、実際問題、真冬の深夜にゴミの中を必死になって追いかけ回して捕獲して、冷凍保存、剥製作業をしないことには作品=イタズラに辿り着かなかったわけで、その汗と涙と愛情あふれる(?)「アクション」の記録ビデオを展示に組み込むことで、シニカルな記号の戯れからはみ出るリアルな剰余がもたらされたのだ。
 先頃、彼らは広島市現代美術館の公募展「Re-Act」で見事グランプリを獲得した。受賞作『サンキューセレブ、アイム・ボカン』はヴィトン(村上隆仕様)のバッグ&財布などセレブ用品とセレブの(?)等身大石膏像を爆破した残骸によるインスタレーションだが、これも、もとはセレブって素敵!というカワイイ一言に端を発し、セレブと言えばチャリティ、ボランティアね→カンボジアで地雷撤去とか?→除去した地雷ってきちんと処理しないと暴発するらしいよ→やっぱセレブは自己犠牲でしょ、というオチに達したわけだ(以上、会話を推測)。ここでも、素敵なセレブと悲惨な戦争を結びつけることを思いついたばっかりに、実際にカンボジア入りして押し掛けボランティアで地雷除去作業に携わり、地雷オタクのチームリーダーや地雷被害で手足のない子供たちとの心温まる交流までなしとげてしまう、それが彼らだ。
 さて、今回の個展は、マジ犯罪スレスレのイタズラ(「逆オレオレ詐欺」即ちネズミ(!)小僧)あり、ダジャレ的作品(「ヴェネチア・ビエンナーレ@TDS」って一体…)あり、「エロへの欲望をエネルギー変換して役立てるマシン、その名もエロキテル(特許出願中)」ありの「オー・マイ・ゴッド!」(絶句)てんこ盛りだが、目玉となるのは自殺の名所、富士山の「樹海」をテーマにした作品だ。当然、一度迷ったら出て来れないという森の奥深くへ分け入りキャンプを張った。死ぬほど美しかったというその森で見たものは!? そして奇跡的に生還した彼らが持ち帰ったものは?! 比較的明るい小ネタ(とはいえ、自殺現場の横で延々と木をくり抜いたのね!)もあるが、もっとディープでダークな衝撃の何かが待ち構えているのだった。恐いよ〜。

(初出:Studio Voice 2007年7月号)

copyright (C) by Keisuke Sakurai


Chim↑Pom[オーマイゴッド」
2007年7月4日(水)〜8月11日(土)
無人島プロダクション

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