人工内耳リハビリテーション(成人)

虎ノ門病院
講師:氏田 直子先生


この講演は人工内耳友の会「東京」第1回総会において行われました。
今回はリハビリのうち、「マップ調整」について、講演していただきま
したので、「マップ調整」の勉強していただきたいと思います。


目 標

人工内耳を活用して装用者の生活の質(Quality Of Life)を高める。

参加者

装用者本人、家族、友人や同僚、ST、医師。

期 間

人工内耳埋め込み術の術前から開始し、手術後は人工内耳を使用している限り、原則的には永久に続く。

頻 度

装用者の条件(装用者の環境、失聴の時期、手術の状況、内耳の状態など)や、病院の体制によっても異なるが、特にはじめの1年間は定期的なリハビリが大切。

内 容

@ スピーチプロセッサーやヘッドセットの操作方法の理解

A マップの調整(マッピング)

B 補助機器や補助システムの理解

C 医学的管理(傷口、中耳、内耳や電極の状態)

D 聴き取り練習

E コミュニケーション能力の向上

F 人工内耳の受容(きこえの特徴や限界)


<マップの調整(マッピング)>

 内耳に埋め込まれた電極の、どこにどのくらいの電気を流すかを設定するものが、マップ。

マップは装用者一人ひとりに専用のものを作る。体調や人工内耳に慣れることによって内耳の状態は変化する。それに伴ってマップも細かい修正を行う必要がある。

 

<マップの概要の説明>

 

<マッピングの流れ>

1.問診

 きこえの状態や問題点、調整への要望などをリハビリ担当者と話し合う。

具体例)

(例えば、大きすぎてビンビンひびく、甲高くてキンキンする、こもった感じ)

 

2.TレベルとCレベルの測定

 TレベルとCレベルをチャンネルごとに測る。

Tレベル…かすかにきこえ始めるとき

  1. 指を音にあわせて動かし、それが検査音と同じリズムになっているかどうかで調 べる
  2. ノブを使った連続した音ではなく、キーボードを使った限定された数の音で調べる
  3. 一度音を大きくして、どんな音が聞こえるはずかを覚えてから、もう一度音を小さくして聞こえないところから調べる
  4. 一度音を大きくしてから、それを少しずつ小さくしていき、音が聞こえなくなったら、その少し前の値をTレベルとする

Cレベル…大きい音だが不快ではないとき

  1.  「ちょうどよい大きさ」や「大きい」のときに、検査音を少し長く聴いてみて、不快感(痛み、振動など)がないかどうか調べる。不快感が起こらないところをCレベルにする
  2. 音の変化に注意する。Cレベルを超えると「音が割れる」「音が響く」「音の質がきれいでなくなる」などの変化がある。

 

3.SWEEP(音の大きさのバランス調整)

 全てのチャンネル(使用電極対)について、Tレベル、Cレベル、50%(TとCの中間)の「音の大きさ」をそろえる。音の質は内耳のどこに電極があるかで、すでに決まっている。ここで調節できるのは音の大きさ(電極に流す電気量)だけ。

 「2番目が<少し>小さい」「4番目が<かなり>大きい」などと具体的に伝える。

人工内耳に慣れていないうちは、「だいたい同じ位の大きさ」になればよい。

慣れてきたら、なるべく細かく、納得できるまで調整したほうが音のバランスが良くなる。

5つすべてがきちんと聞こえるようにする。自信のない時はもう一度聞く。

5つすべてを同じ音にするのではなく、「同じ大きさ(強さ)」にする。

ちょうどいい大きさよりもやや小さめの大きさにそろえる。

 

4.試聴

 マップを作成して試す。いろいろな音や言葉、声を聴いて、マップの問題点を探す。問題がなければ、そのマップを登録して、マップ調整は終了。

 

5.微調整

 試聴の結果をもとに、マップの細かい修正をする。その後でまた新しいマップを作成し、試聴する。

 

 

 マップの調整の頻度は、音入れ直後は頻繁に行う方が良いが、その後は非常に個人差がある。一般には、あまり頻繁にマップを変えると、いつまでもそのマップの音に慣れることができなくなるので、2ヶ月以上は同じマップを使う。きこえが良好ならば、同じマップを何年も使用する場合もある。しかし、装用者本人が気づかないところできこえが悪くなっていたり、問題がおきていることもあるので、半年から1年に一度は検査の意味でも診察とマップ調整を受ける方が安全。マップ調整をして、大きな変化がなければ、調整前のマップを引き続き使用することも可能。

「自分のきこえは自分が作る」という意欲と責任感を持ち、リハビリ担当者と協力することで、より聴きやすいマップを作っていけると思う。

 


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