グローバル・ブレイン 〜 情報ネットワーク社会と人間の課題

   ピーター・ラッセル著

   吉福 伸逸・つる田栄作・菅 靖彦訳

   工作舎刊

「何をいまさら」と言われそうである。なにしろこの本、出版されたのはもう15年も前のことだ。日本語訳の出たのが1985年、こちらは12年前だ。そんな昔の本、どうしていまさら紹介するのか、などと言うなかれ。この本の内容は読んだ人ならご存じのように現代にも充分通用する。いや、やっと今、多くの人に認められる話になってきたと言える。

 たまに地球環境についての講演を頼まれるのだが、そのとき必ずこの本からの話題を使わせてもらっている。内容を要約すると、人間の意識はメディアによって統合され、私たちが知覚し得ない地球の意識を生み出す。その意識は未来にわたり進化し続け、地球という器からこぼれ、宇宙までにも広がって行くだろう、というものだ。

 ここで地球の意識というものがどのようなものであるかを理解するのがこの本でのポイントとなる。

 4年ほど前、ケニアへ行った。私はそこで見た白蟻の巣に感激した。人の身長よりずっと高い構築物をほんの数ミリの白蟻たちが作り上げているのだ。煙突のように細長く、煙突と同様中心がくり貫かれている。そして内側の壁には無数の穴が空き、ラジエターのように巣の中の温度を一定に保つように作られている。こんな構築物を作るにはそれなりの知性が必要と思われるが、白蟻一匹にどの程度の知性が潜んでいるのだろうか? さらに聞いた話だが、白蟻の巣は二度三度壊されてもすぐに作りなおされるそうだが、何度か壊されると、あるとき一斉に巣を作る方向を変えて地下にもぐるそうだ。何万匹の白蟻が一斉に行動を変えるのである。いったい彼らはどうやって全員の意図をまとめるのだろう? しかも生まれてこのかた作ったことのない形状の巣を数日のあいだに作り上げてしまうのだ。

 白蟻一匹の知性は人間がはかることができないほどわずかな知性だと推測される。しかし、そのわずかな知性が群をなし、なにかの衝動に従って活動することによってまったく説明不可能なあらたな創作物を彼らは生み出す。一匹の白蟻は恐らく自分がどのように新たな巣を作り上げようとしているのか理解していないだろう。しかし、彼らは群として活動することによってそれを作り上げてしまう。

 それと同様、私たちひとりひとりは弱い存在かもしれないが、人間を地球上に散在している生命の種ととらえたとき、その種は地球に対して大きな影響力を行使している。その種は環境を変え、自らの形態さえも変化させながら地球全体に大きな構築物を生み出しているのだ。

 その種は電話、ファックス、コンピューター通信、ラジオ、テレビなどあらゆるメディアを使いコミュニケーションを取り、いままで地球上に存在しなかった様々なものたちを次々と生み出している。そしてその生み出した構築物によって地球から離れ、宇宙にもその影響力を拡大しているのである。

 人間という種は、確実に助け合うことに対して積極的になってきている。かつて第二次世界大戦以前の助け合いは同じ民族内、同じ国家内に限定されていたと言える。ところが大戦後メディアが発達し、他国の様子が詳細にわかるようになってきた。するとそれぞれの国民たちは国境を越えて共感し始めたのである。以前は他国の人を会ったこともない違う人種だというふうに捉えていたが、今では同じように感動し生きて

いる人間なんだと言う捉え方へと変化したのである。ダイアナ妃とマザー・テレサが亡くなった。彼女らの世界に対する貢献も、メディアの発達がなければ伝わらなかった。

 パラダイムの変化は私たちに思いも寄らない果実をくれる。メディアの発達ははじめ好奇心からはじまった。しかしそれは国境を越えた共感や愛情をもたらすものとなった。さらにメディアが発達し、世界中がさらに共感し合うようになったとき、いまの私たちには思いも寄らない果実がきっと現れてくるだろう。

「グローバル・ブレイン」は、その果実の匂いを私たちにかがせてくれる。

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