キヨズ・キッチンで2001年9月13日に食べたもの

鮭と大根のオープン春巻

 祖父が漁師だったせいか、親父は三平汁が大好きだった。魚は塩鮭を使い、具にはたくさんの大根を使った。鮭の濃厚な香りと、それをたっぷり含んだ大根がとても美味しかった。

「鮭と大根のオープン春巻」はまさに、懐かしい三平汁の組み合わせである。もちろん味は三平汁のそれに近いものを想像していた。ボイルした鮭にたまねぎのみじん切りを合わせフレーク状にし、塩もみをした大根をタラゴンビネガーにつけ細切りにしたものと一緒に、菜っぱと生春巻の皮に包んで食べる。アクセントにチャンツァイが載っている。

 そのすべてをクルッと巻いてたれにつけて食べる。

「ん?」

 なんか違った。期待した味ではない。見事に裏切られた。鮭の香りとタラゴンの香り、大根にほのかに含まれる塩、チャンツァイ、これらが混ざると柔らかいゴルゴンゾーラの香りに感じられた。もちろんじっくり味わえばゴルゴンゾーラと味が違うのはよくわかる。しかし、口に入れて何度か噛んだ後に最初に思い出したのはゴルゴンゾーラだった。

 しっとりとした生春巻の皮と、パリパリの青菜と、シャクシャクの大根の歯触りの間に、どこかゴルゴンゾーラの幽霊を感じるのである。幽霊であるから実体はどこにもない。僕に感じられるだけで、普通の人には見えないかもしれない。まさに幽霊だ。

 この幽霊、中身をひとつずつ別々に食べても現れてこない。組み合わせの妙を感じてしまった。

           

米茄子とトマト、豆腐のオーブン焼き 白味噌山椒ソース

 豆腐、白味噌、山椒を使った料理だと言えば、絶対日本料理だと思うのが人情だろう。ところが出てきた料理は写真の通りイタリアンな風情である。いやいやキヨズのことだ、見た目はイタリアンで味は和風なんてことがあるかもしれない。フォークとナイフで切り分けて、トマト、豆腐、カリカリに焼いたパンの層を口に運ぶ。

 思わずうなってしまった。味は確かにイタリアンなのだが、ずっとさっぱりしていて旨い。あいだにはさまっているのが豆腐というのが味噌だろう。いや、豆腐は豆腐で味噌は白味噌だ。何を言ってんだか。まあ、いい。味としてはうまくはまっていて、豆腐が豆腐に思えない。うすあじのモッツァレラチーズかと思った。しかし、それにしてはビヨーンと伸びたりしない。料理の名前を先に聞いてなかったら豆腐だと思えたかどうだか。

 だいたい白味噌と山椒が合わさってイタリアンな風味になるなんて、どういうことだ。そりゃ確かにパルメザンは載っているけどさ。

 上にちらっと載っている葉っぱはチャンツァイだと思ったが、さにあらず、チャービルというのだそうだ。

「チャービルってなに ?」

と聞いたら、「これ」と言われて「あっそ」と答えてしまう僕が情けない。

               

野菜と豆腐の中華風どんぶり

 大食らいの僕が唯一キヨズで困るのは、一皿の量が足りないと言うことだ。なにしろオプティマル・ヒューマン・ダイエットだから食べ過ぎは好ましくない。しかし、普段食べ過ぎで生きてきた僕には、食べ過ぎるなと言われても食べ過ぎてしまう。帰りがけにラーメン屋に寄ったりしたら、なんのためにキヨズに行っているのかよくわからなくなってしまうが、そのよくわからなくなってしまう行動を誘う僕のからだがある。その行動は僕自身が起こすのではなく、からだが起こすのだ。いけないのはからだだ。僕じゃない。などと訳の分からないことをムニャムニャ言いながら誘惑に負けてしまうのは幸せなことか不幸なことか。いやぁ、僕には幸せに思えてしまうのですけどね。

 ところがこの中華風どんぶり、そんな僕のおなかをしっかり満たしてくれました。もうおなかいっぱいでもうほかのものは食べられません。デザート以外は。

 写真の通りお肉のそぼろのようにも見えるのですが、これが豆腐中心の具でした。ほかには茄子としいたけと・・・。

「ここにはなんの野菜が入っているの ?」

と聞くと、ゆきちゃん*は

「今日は〜、茄子と〜、しいたけと〜、えっと、何だっけなぁ、日によってちょっとずつ違うのよねぇ」

「へぇ、中華どんぶりは毎日違うの」

「ううん、わりとどの料理もみんなそうよ。作る人によっても違うし、天気や気分によっても違うし、なんとなく同じに思えて美味しければいいでしょ」

 ううむ、キヨズ・マジックの一端をかいま見た気がした。

*ゆきちゃん(チェックの服)と、しほちゃん(無地の服)
キヨズの調理担当。
鮭と大根のオープン春巻はしほちゃんの発案だそうです。

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