行ってみたい場所  

地球の姿

 一九六九年七月、アポロ十一号が月面に着陸した。当時僕は七歳。いつか宇宙に行ってみたいと思っていた。それはその頃の多くの子供たちの夢だったと思う。そんな夢もいつしか忘れ、いつのまにか歳だけ取ってしまった。時には夜空を見上げるものの、宇宙への夢は遠くかすみ、六等星以下となり、自分の視力ではとうてい見えないほどになってしまった。

 ところが最近、気になるコマーシャルがある。そう、ペプシコーラの「二00一年宇宙の旅」というコマーシャルである。はがきに極めて簡単なクイズの解答を書き送れば、抽選で五名が宇宙の旅に行けるという。二分半という短い時間ながら無重力状態も体験できるとのこと。しかし、このツアーを確実にものにするにはいったい何枚のはがきを書けばいいのだろう。現実的に考えれば、僕の夢はまだ五等星くらいでしかない。しかし、このツアーを主催するゼグラム エクスペリションという会社に頼めば九万八千ドルで大気圏を越え、宇宙飛行士高度と言われる地上100キロ以上の高度へと往復二時間半の旅ができるのだそうだ。一千万か。お金がちょっと足りないけど、僕の夢は二等星くらいになった。

 最近僕は子供教育の権威、七田 眞さんと共著で「胎内記憶」という本を書かせてもらった。母親の胎内にいた頃と誕生時の記憶が人の性格形成に大きな影響を与えているということを書いた本だ。この本を書くにあたり調べたことのひとつにホロトロピック・ブレスワークというものがある。呼吸を激しくし続けることによって記憶が活性化され、胎内の頃の記憶をよみがえらせるというものだ。脳が過酸化状態になることによって記憶が呼び起こされるのであろう。

 僕の勝手な解釈だが、人間は胎内にいた頃に近い状態になるとその頃の記憶をよみがえらせるのではないかと思う。自分の視線を低くすることによって子供の頃の記憶を呼び起こすようにだ。胎内にいたとき胎児は羊水のなかで逆さまである。すると脳に血液が集中することになる。ホロトロピック・ブレスワークではその状態を作っているのではないかと思うのだ。

 宇宙空間に出て、無重力状態が続くと、脳に血液が集まり始める。なんでも六度傾けたベッドの低い側に頭を置いて長時間寝る状態になるそうだ。しかも羊水に浮いているプカプカ状態も無重力で一緒に体験する。そのとき人は様々な記憶をよみがえらせたり、それまでは忘れていた感覚をよみがえらせたりするのではないだろうか。実際、宇宙飛行士の多くが地球に帰還してから農業を始めたり、牧師になったり、神秘家になったりしている。宇宙空間から見る地球の姿は、きっと地球上で見る地球の写真以上に美しく、神秘的なものなのだろう。

 だから僕も、宇宙空間から、地球の姿を見てみたい。

           小説現代1998年8月号掲載

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