読者と関係を作る

 本を書く人は、そのテーマについて熟知していなければなりません。もし熟知していなければ、本を書く資格がないのです。ところが Web で表現するには、そのテーマに関して熟知している必要はありません。熟知するにいたる過程が表現されればよいのです。しかも、熟知していないことに関しては、読者に尋ねることもできます。これこそがクールな文章ということになるでしょう。そしてこのとき読者との関係が生まれます。

 デリック・ドゥ・ケルコフの「ポストメディア論」にはこんなことが書かれています。

 なにもかもをどこかの誰かが知っており、代価を払えば即座に情報が手に入るようになると、人は「在庫を持たない」で十分だという心境になる。いつでもアクセス可能なら、わざわざ学習して苦労することはないというわけだ。また、むしろ知らないことのほうに価値を見出し、発見の中身より発見の過程が有益で面白いと考えるようになる。急速に学習する洗練されたニューラル・ネットワークを採用した本物のエキスパートシステムが実現すれば、人は専門家にならなくてもいい。あなたの最良の資質は、あなた自身の無知ということになる。非専門家ならではの独特の角度から必要なことだけを学ぶようにし、無知でいることに専念するのだ。自分の能力の限界や欠落部分を公言し、正確に認識することは、自分らしさを肯定し、誇りを持つことにつながる。

 今、私たちの価値体系全体は、階層的、競争的、好戦的な優劣基準から、協力して支え合う相互作用的なものに変わりつつある。こうした新しい文脈では、学習ではなく、経験に基づいた的確な判断力が以前に増して必要となる。判断力は直感に似ており、理解することと感じることの相互作用、すなわち心と身体の協働から生まれる。

   「ポストメディア論」 デリック・ドゥ・ケルコフ著

                NTT出版刊

 文章がクールであれば、その文章だけで読者との関係ができあがります。また、文章のやりとり(掲示板やメーリングリスト)から生まれる関係もあるし、Webを離れて築く(イベントやパーティー)関係もあります。それらを組み合わせて、自分と読者たちとの関係を良い状態に育て上げましょう。

Next

menu

tsunabuchi.com