エープリル・フールズ

 ひさしぶりに昔録音したカセットテープを聞いた。
 僕が中学生の頃に録音したものだ。
 懐かしい曲が何曲も部屋に流れた。
 そのなかに「エイプリル・フールズ」という曲があった。
 昔、「幸せはパリで」という映画の主題歌になった曲だ。
 映画の主演はジャック・レモンとカトリーヌ・ドヌーブ。
 作曲は確かバート・バカラックだ。
 その曲を聴いて僕はひとりの少女を思いだした。
 
 僕は中学2年の頃、放送委員長をしていた。
 だから校内放送のすべては僕が仕切っていた。
 給食時になると放送室に行き、当番の放送委員と一緒にお昼の放送を流す。
 ある日「エイプリル・フールズ」をお昼の放送に流した。
 放送の合間をぬって食事をとるので、
「エイプリール・フールズ」がかかっているあいだに放送室から手を洗いに手洗い場へと出た。
 すると手洗い場の脇をひとりの女性が通る。顔は見覚えあった、なにしろ美人である。
 しかし、名前もクラスも知らない。1つ学年が上であることが上履きの色でわかった。
 彼女は「エイプリール・フールズ」を廊下に流れている旋律にあわせて鼻で歌っている。
 その女性、今から考えると中3の少女が、僕に向かって唐突に
「この曲大好き」
 と話しかけて去っていった。
 うわ・・・。
「美人だな」「何で僕に話しかけるの?」「格好良いな」「僕も何か返事がしたかったな」・・・・
 こんな思いがいっぺんに出てきて、なんと言って良いかわからない感情を抱いた。
 
 それからどのくらいたったのだろう。
 ある日曜日の朝、中学の校庭のそばを自転車で通りかかった。
 すると彼女が、ブラジャーがはっきり見えてしまうほどスケスケの服を着て、
 男の人とサッカーボールで遊んでいた。
 それを遠くから見て、ちょっと悔しかった。
 そして思った。
「若いっていいなぁ」
 僕の方がひとつ年下なのだが・・・。
 
 あのひとはどうしているんだろう。
 僕の記憶のなかでは永遠に少女の彼女は。

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