■◇■僕が食べた旨いもの Vol.14     焼き立てのさくらアンパン

 桜が満開だ。桜色に染まる木々を見ていると、それだけで気分が浮き立つ。気分を

浮き立たせてしまう罪作りな桜を食べたいと思うのは人間の性なのか。桜の花の塩漬

けが売られている。しかし、桜の花の塩漬けは、そんなに特別美味しい物ではない。

組み合わせの妙で美味しくするのが良い。たとえば赤飯に桜の塩漬け、これは良く合

う。吸物に入れるのも良い。しかし、一番のベストマッチングはやはりアンパンとの

組み合わせ、「さくらアンパン」ではないだろうか。

 アンパンのへその部分に桜の塩漬けが乗せられるのである。あんこと桜の香りがこ

れまた良く合う。桜の花は茎の部分が噛み応えがあるのだが、パンと一緒に噛むとき

にはあの噛み応えがパンの柔らかさの中に吸収されていくので気持ちいい。

 さくらアンパンはどのようにして生まれたかご存じだろうか。明治の頃、アンパン

が流行り、時の明治天皇が召し上がることになり、銀座中村屋のアンパンが献上され

るのだが、普通のアンパンでは申し訳ないと、特別にへその部分に桜の塩漬けを乗せ

たのが起源だとか。その後またたくまにさくらアンパンも流行ってしまった。

 小学生の頃、新潟の叔父のところへ遊びにいった。叔父は製パン工場で働いていた。

朝早く起こされ、その製パン工場に連れていってもらったことがある。そこで何種類

かの菓子パンを食べさせてもらった。できたてでとても美味しかった。できたてのパ

ンは糀のような匂いがする。焼き立てのパンも美味しいが、やはり作りたてのパンに

はかなわない。何種類かのできたてのパンのなかにさくらアンパンもあった。

 熱いからハフハフしながら食べていく。持っているのも難しい。蒸かしたての中華

饅のように右手で持ったり、左手で持ったりしながらちびっとカジる。なかの餡も熱

くて舌があっちっち。しばらく冷ましてやっと食べることができた。味がわかるよう

になると糀のような香りがする。イースト菌の匂いだろうか? そして餡の甘さが口

に広がる。糀の香りと餡の甘さがもう最高! そしてそこに桜の花の香りと塩味がほ

のかにミックスされ、僕の顔はデレデレ状態だったでしょう、きっと。

 以来、さくらアンパンを食べたり、桜を愛でたりすると、新潟のあのあっちっちの

さくらアンパンを思い出すのです。

僕が食べた旨いもの

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