■◇■僕が食べた旨いもの Vol.2 海老尽くし

 僕がまだ電通の新入社員だった頃、山口放送のラジオ担当営業の方がなぜか僕を山

口の放送局へ視察旅行に誘ってくれた。新入社員なのでなんのことか意味が分からず、

「部長には私から説明しますから」と言われたが、はぁと気のない返事しかできなか

った。そして山口へと連れていってもらった。いろんなところへ連れていってもらっ

たが、一番印象に残っているのが海老尽くしだ。

 海岸沿いの古ぼけた民家にあがる。本当に普通の民家だ。ところが居間に座ると、

塩茹でした車海老がやってくる。殻がパリッとして、身がプルプル。それをつまみに

ビールを飲むと、これが最高。旨さに唸っていると次は伊勢エビの刺身が来る。甘エ

ビなら生で食べるが、伊勢エビの刺身ははじめてだった。これがプリプリとして甘い。

コリコリとして歯ごたえが良い。こりゃすごいわぁと盛り上がっていると伊勢エビの

塩焼きが来る。やっぱ伊勢エビは塩焼きでしょうなどと言いながら、もう刺身の素晴

らしさは忘れるほど塩焼きが旨い。熱くてハフハフ言わされるのが、旨さを倍増させ

ている。次は伊勢エビのフライ。ころもがサクサクで身が甘い。ころもが唇やけど

寸前のあっちっちで、噛むとエビの甘さと汁がじわっと出る。それが塩焼きの甘さで

も刺身の甘さでもなく、フライの甘さなのだ。身のしまり具合も塩焼きとは違う。ど

ちらも違ってどちらも旨いのだ。金子みすずになってしまいそうだ。さらに次には伊

勢エビの網焼き。縦に半分に切ったエビを網の上でただ焼く。調味料は醤油のみ。

くぅー、これにもやられたって感じ。最後に伊勢エビでだしをとった味噌汁とご飯と

お新香。どれも見事に旨い海老だったし、調理方法が変わるとこんなにも味が変わる

のかと、飽きることがまったくなかった。海老が好きな僕は舞い上がってしまった。

 しかし、その旅行から帰ると僕はFM局の専任になった。なんか山口放送の人には

悪かったなぁ。

僕が食べた旨いもの

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