■◇■僕が食べた旨いもの Vol.3     パパイヤの朝食

 カウアイ島に行ったとき、現地で電話帳を調べて B&B に泊まった。日本で言う

民宿のようなものだ。部屋は広いし芝生の庭はあるし、とっても快適だった。朝にな

ると何十種類もの鳥が鳴き、その声で目が覚めた。

 そこでの朝食が絶品だった。半分に切ったパパイヤにレモンを添えたもの。トース

ト、シリアル、コーヒー。たったこれだけだったが、とても旨かった。まず第一にハ

ワイで食べるパパイヤは文句なく旨い。日本で食べるパパイヤには独特の臭みがある

が、それがほとんどない。パパイヤは嫌いという人がたまにいるが、そういう人はハ

ワイに行ってパパイヤを食べてから嫌いだと言って欲しい。日本のパパイヤでパパイ

ヤを嫌いになっては、パパイヤがかわいそうだ。しかもハワイのパパイヤはとても甘

い。レモンをかけて食べると口の中には一瞬酸っぱみが走るが、その後にほんわかと

甘みが広がり花のような香りが鼻腔を刺激する。お汁粉に塩をひとつまみ入れると甘

みが増すように、パパイヤにはレモンをひと絞りすることによって甘みと香りが増す。

 トーストにはバターとジャムをぬり、カリカリという歯ごたえとともに食べる。そ

してコーヒー。ハワイのコーヒーはなぜか旨い。水のせいか、コナコーヒーという豆

のせいか。もしかすると乾いた空気のせいかもしれない。パパイヤ、トースト、コー

ヒーとこの三種類を順番にぐるぐると食べると口の中で三和音が奏でられ、そこに

ジャムやらバターの7th、9thのコードが響く。

 うまいパパイヤは皮と実の境が微妙に読みとりにくい。うまいパパイヤの場合はつ

い実を多く削り取り、皮まで食べてしまいかねない。皮がうすくなりすぎて穴のあい

た皮を残すのはとても恥ずかしいので注意して実をこそぎ取るのだが、おいしいパパ

イヤはどうしても皮に穴があいてしまう。皮に穴があくぎりぎり手前で止めたいのだ

が、いやまだ平気、もうちょっと平気、あと少しなら平気だろう、うーんあと1ミリ、

とか言っている間に穴があいてしまう。

 穴のあいたパパイヤの皮をわきに置き、次にとりかかるのはシリアルだ。二泊した

が、一泊はハニーポン、一泊はシュガーフロストだった。一泊毎にシリアルが違うと

いうこの細やかな心遣いも気に入った。さきほどまでパパイヤ、トースト、コーヒー

で奏でられた三和音はここでスルッと転調する。トースト、コーヒー、シリアルだ。

ただ、この三品だけの朝食だと「たいしたことない」と思ってしまう私だが、パパイ

ヤの余韻の後でこのハーモニーはまた絶品なのだ。パパイヤの味が口に残っていると

ころに、シリアルのミルクが混ざるとこれがまたいい。この三品で最後におなかの底

からジワジワッと満足感がこみあげてくると、その満足感にはパパイヤの黄色くて香

り高い思い出がセットになっている。和音の調和の余韻の残り香が口元に残っている

しばらくは、朝の日差しで照らされた芝生の庭を見つめながらニヤついてるしかない

私でした。

僕が食べた旨いもの

tsunabuchi.com