■◇■僕が食べた旨いもの Vol.7     マンゴスチン

    

 かつてロイヤル・ホストのメニューにフローズン・マンゴスチンがあった。期間限

定で「果物の女王ついに登場!」などと書かれていたので、新しもの好きな僕はさっ

そく注文した。果物の女王だからよっぽど旨いのだろうと期待したのだが、ただ甘い

だけのつまらない味だった。「どこが女王だ!」と思った。しかし、それから数年の

ち、たしかにマンゴスチンは果物の女王であることを思い知らされる。

      

 去年三月バリに行った。旅行をコーディネートしてくれた関さんが往きの飛行機の

なかで「今なら生のマンゴスチンが食べられるよ」と言う。あまり興味を持たなかっ

たが「絶対いくつも食べたくなるよ」と言うので「冷凍なら食べたことあるけど、た

いして美味しくなかった」と答えた。

 すると関さんは「生を食べたら絶対日本に持って帰りたくなる」。

 まさかと思った。

    

 バリに着き、露店の果物屋で生のマンゴスチンを買った。濃い紫の外皮にへたは緑

だ。外皮の紫の部分はズブズブと指が入る程度の柔らかさの繊維質。紫の繊維質をミ

カンの皮のようにはがすと中から白い実が現れる。実はプルメリアの花びらのように

並んでいる。しっとりと水分を含み、甘い香りが漂う。実はとても柔らかい。唇や舌

のような柔らかさだ。それを口に含むと舌の上に甘さが広がる。鼻腔には花のような

香りが抜けていく。冷凍のマンゴスチンには唇や舌のような柔らかさはなかったし、

花の香りもなかった。マンゴスチンを口に含んだ感覚には感動せざるを得なかった。

たしかに果物の女王と呼ばれても不思議ではない。唇のような柔らかさと花の香りは、

気品高く妖艶な「女王」と形容されるのがぴったりだ。マンゴスチンの官能的なうま

さは「王様」と表現してはならない。

     

 想像して欲しい。白い実を口に含むとその実はまるで恋人の唇を含んだような感触

を口の中にもたらす。口の中で弄ぶと恋人の舌が口の中を回っていくようだ。そして

実を噛むと甘い汁と花の香りが口に広がり、香りは鼻に抜けていく。快感以外のなに

ものでもない。

     

 僕はマンゴスチンの虜になった。それ以降、バリでは果物屋を見つける度にマンゴ

スチンを買い求めた。そして叫ぶ、「日本に持って帰りたーい」。しかしそれは叶わ

ぬ夢。マンゴスチンはデリケートで、すぐにいたんでしまうのだ。この繊細さ、女心

と同じ、かな?

僕が食べた旨いもの

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