観覧車から眺める景色

 私は「第三の男」を見たことがない。
 もちろん、オーソン・ウェルズが主演していた映画だ。
 にもかかわらず、なぜか観覧車を見上げると、
 「第三の男」のテーマ曲を思い出す。
 観覧車に乗るときには必ず「第三の男」のテーマが
 頭の中で鳴り始める。
         
 観覧車に乗ると次第に見える景色の範囲が
 大きくなっていくのがうれしいが、
 他のゴンドラが見えるのが気になる。
 いちゃいちゃしているカップルが見えたりする。
 つまり、相手からもこちらが見えている。
 なのでなんかつい小心者の私はおすまし顔でゴンドラに乗る。
 ところが一瞬だけ誰からも見られない瞬間が来る。
 てっぺんだ。

 この広い景色を
 まるで独り占めしたような気分になれるその一瞬。
 その喜びを表現してみたいのだが、
 バンザイするのはみっともないし、
 長年のパートナーにキスするってのも恥ずかしいし、
 叫ぶとまわりのゴンドラに聞こえるだろうし、
 せいぜい写真を撮るくらいで終わってしまうのが悔しい。
      
 あれ、気持ちいいものを書くはずだったのに・・・。
 まあ、たまにはいいか。

 

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