兄貴の夏休みの宿題

 昔、親父は編集者で、谷崎潤一郎を担当していた。
 書棚を整理していたら谷崎潤一郎のサイン入りの本が
 何冊か出てきた。
 そこには親父が大事にしていた本をしまってあったらしいのだが、
 一冊だけペラペラで変なノートが出てきた。
 「なつやすみのとも」と書かれている。
 兄貴の小学一年生のときの夏休みの宿題だった。
 みかんの数をかぞえろとか、絵日記を書けとか、
 動物の名前を書けとか、小学一年生向けの問題に
 恐らく兄貴が書いたつたない文字が並び、
 赤い丸やばってんがついていた。
 谷崎潤一郎のサイン本と同じくらい大切だったのか
 と思ったらうれしかった。

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