『講談・坂本龍馬 六 MASSAGE   

FOR HORIEMON』       







朝日新聞・産経新聞の記事


一.


江戸時代もいよいよ終わりに近づきました 

慶応三年。日本中が勤皇と佐幕に分かれなが 

ら微妙な平和のバランスを保っておりました 

時代。薩摩と長州、二大雄藩の間を坂本龍馬 

が密かにとりもちまして倒幕の機運いよいよ 

たかまって参りましたが、その龍馬は開国以 

来大いににぎわいを見せる長崎の地に海運組 

織・亀山社中は窮地に陥っておりました。  

自分たちで買った船は遭難で沈み、任され 

ていた船は各藩に返し、いまや自分たちで動 

かせる船は一艘もなくなってしまったのでご 

ざいます。                

当時亀山社中には土佐脱藩の藩士を中心に 

各藩からの浪人もの、下働きの水夫などを含 

めて五十名ほどの者が集まっておりました。 

それをまとめるのが坂本龍馬、今でいえば五 

十人の中小企業の社長といったところでしょ 

うか。                  

亀山社中は身分どころか役職による差別も 

なく、みな一様に「三両二分」という給金を 

貰うことになっておりました。今でいえばま 

あ月給十万ちょっとというカツカツの収入で 

しょうか。しかし、それすらも船がなく仕事 

がないため滞りがちで、社中のものは仕方な 

く、長崎の港で日雇い労働に出てその日暮ら 

しをしておりました。           




社中の本部は長崎の港から少し入った小高 

い山の上にあります。そこからは遥か西の水 

平線までが見渡せ、港にくる外国船を一番に 

見つけられるはずだったのですが、日雇いの 

仕事を終わってここに戻るのに長い坂を昇る 

のは並大抵ではございません。       

その坂が夕日に染まる頃おい、坂の険しさ 

にヒイコラいいながら愚痴りながらのぼって 

参りましたのは、沢村惣之丞とスガノ覚兵衛。

沢「へーへー」               

菅「はーはー」               

沢「スガノ、ちと、休もう。膝が笑うとる」  

菅「おう。おー、長崎の港に真っ赤な日が沈む、

キレイだな」               

沢「ノウ、スガノ」             

菅「なんだ」                

沢「わしら、勤皇の志士じゃろう?」     

菅「ああ、立派な勤皇の志士だ」       

沢「それが、毎日毎日、港で日雇いの仕事ばっ 

かりしてて、ええのか?」         

菅「まったくだ。早く幕府を倒して憎い土佐の 

上士どもに一泡吹かせたいな」       

沢「そうよ、武市さんはじめ、土佐勤皇党の連 

中の仇を取りたいのう」          

菅「さあ、もう一息。へーへー」       

沢「ハーハー」               

やっとのことで社中にたどり着きますと、 

まだガランとした三部屋ほどの中に坂本龍馬 

ともう一人、紀州浪人の陸奥陽之助がなにや 

ら話し込んでおりました。         

龍「おう、ご苦労さん。今日の仕事はどうだっ 

た」                   

菅「ダメですよ坂本さん。外国貿易でどこも景 

気はいいはずなのに、わしら日雇いのものに 

はぜんぜん賃金を出さん。誰がため込んでる 

か知りませんけど、やっと今日のメシ食う分 

しかくれやしません。これなら仕事に出ずに 

剣術の稽古でもしていた方がよかった」   

龍「またそんなことを。これからの戦は剣だの 

ヤリだの使うようなもんじゃない。鉄砲でも 

もう古い。大砲や軍艦がなくちゃ話にもなら 

ん。そのためには金じゃ。金を稼がにゃ世の 

中動かせんぞ」              

すると沢村が、この男は坂本とは土佐脱藩 

以来の最も古株の同志なのですが、     

沢「坂本さん。そりゃわかっちゃいるけど、倒 

幕の戦はいつ始まるんです。わしら毎日日雇 

い仕事ばっかりで近頃は白袴より西洋もんぺ 

の作業服の方が似合うようになった。これじ 

ゃ勤皇の志士じゃなくて昨日の志士ですよ」 

龍「まあまあ、そういわんと、オランダ渡りの 

ワイーンでも飲んじゃり…と、いうてももう 

半分ほどしかないが」と、なけなしのワイン 

の瓶を取り出すとお猪口をふたつ用意します。

沢「ワイーンですか。そりゃありがたい」   

龍「あ、まてまて、お猪口の使い方が違う」  

沢「え?」                 

龍「オランダじゃこうやって飲むのが粋なんじ 

ゃ…乾杯!」               

沢「これ、難しいですね」          

まさか本気にはしませんが反論する元気も 

ないのでそのままチビリチビリやっておりま 

すと、社中のものたちが続々と日雇い仕事か 

ら戻って参りました。           




二.


三部屋ほどしかない小さな建物ですから五 

十人ほどの人間でいつしか一杯になる。寝泊 

まりするには別の宿舎もあるのですが、とり 

あえず、毎晩ここに集まる決まりになってお 

ります。                 

無尽灯という南蛮渡りのランプが灯されて 

部屋が明るくなる。行灯の明かりよりも現在 

の蛍光灯に近いほどですがその明るさに照ら 

された顔はどれもこれも疲れ切っております。

社長である龍馬が奥に座る、沢村やスガノ 

たち古株の連中がその横へ並ぶ、毎晩の訓示 

でもあるのかと思われた時にやおら立ち上が 

りましたのは、紀州藩浪人の陸奥陽之助、歳 

はまだ若いが頭のキレは抜群。それもそのは 

ず、やがて明治の名外務大臣、カミソリの陸 

奥宗光となる男でございますから。     

陸「おのおの方に申し上げる。只今より、社中 

代表の坂本さんから新しいご提案がある」  

菅野や沢村たちは「何も聞いてないぞ」と 

顔を見合せましたが、龍馬はその場に立ち上 

がり、                  

龍「まず、日々日雇いの職につき、人語に尽き 

ぬ苦労で糊口をしのがれておること忍びない。

まずは某より感謝の意を申し上げることとい 

たす」                  

普段なら何か冗談から始まる龍馬の訓示。 

今日はギャグを思いつかなかったのか、珍し 

く真面目な口調にみな神妙に聞き入ります。 

龍「わが亀山社中は存亡の危機に瀕しておる。 

仕事をするにも船がない今一向に立ち行かん。

一度は解散をも考慮するに至りしがおのおの 

が主君を捨て故郷を捨て馳せ参じてくれたこ 

の社中を一時の不振にて捨つるはあまりに無 

念。そこで、ここにいる陸奥陽之助君の提言 

によりかくの如き窮地を脱せんと、脱せんと 

……」                  

「坂本さん、似合わん演説で口が回っとら  

ん」皆がドッと笑います。         

龍「要するにじゃの。この亀山社中をじゃ、名 

実ともにコンパニーにするということじゃ」 

「コンパニーとは何ですかの」       

龍「そうじゃな…ええと、まあ、株仲間会社ち 

ゅうか、株で仕切る会社、株仕切り会社、っ 

ちゅうことかの」             

えー、講釈師がどのへんまでウソをついて 

いいかどうかは毎回悩むところなんですが、 

「株式会社」という訳語を龍馬が作ったとい 

う歴史的事実はさすがにありません。ただ、 

寺子屋を落第したほどのハナタレ小僧の龍馬 

が成人してから大変な勉強をしていたという 

のはホントの話で、たとえば有名な     

「世に生を受けたるは事を成すにあり」   

という龍馬の言葉は日米友好通商条約の「オ 

ン・ビジネス」を「事を成す」を訳したと知 

っていて使ったという説もあります。つまり 

「事」とは「仕事」「ビジネス」であるとい 

うことであります。            

「坂本さん、コンパニーちゅうのは何をする 

ですか?」                

「毎晩毎晩、丸山遊廓のお姉ちゃんとコンパ 

をするということですか」         

龍「いや、まだコンパというコトバは日本語に 

はないがの。じつはそのコンパももとはコン 

パニーからきとるんじゃ。コン、ちゅうのは 

一緒に、という意味、パニーとは、パンのこ 

と。つまり、<共にパンを食らう>すなわち 

<同じ釜のメシを食う仲間>ということじ  

ゃ」                   

この時、社中一同のものが一斉に「ヘエー、

ヘエー」とやったので無尽灯のランプが満ヘ 

エになって明るくなったとかならないとか。 

龍「即ちコンパニーとは、共に同じ釜のメシを 

喰らい、共に日々の稼業に立ち向かう運命共 

同体じゃ。そもそも世界最初のコンパニーの 

由来は、はるか昔、徳川幕府開闢の頃、地球 

の裏側なるオーランダの国が東洋の黒胡椒を 

求めんと見遥かす大西洋に乗りい出したり時 

のものなりパンパン」           

「へー、黒コショウですか。ドラゴンクエス 

トにもありましたね」           

龍「<今日の客層はわかった>されどその折り 

喜望峰を回る航路上には世界一を誇りしスペ 

インの無敵艦隊あり。その進路妨害をかいく 

ぐりて船を東インドまで進めん為には巨大帆 

船を購入する必要あり。その出資者を募らん 

と立ち上がったる兵の心を持ちたる九人の商 

人が発端となり世界初のコンパニーを設立し 

たり、こを東インド会社と称するなり」   

「なんかシラバでごまかしてませんか?」  

「うるさい。とにかく、コンパニーとは広い 

海に乗り出すために作られた集まりというこ 

とじゃ。そこで今後は社中を本格的にコンパ 

ニーとする。社中の長のわしゃ<社長>とい 

うことになるかの。今後は多いに出資者をつ 

のり、社中をどんどん大きゅうする。給料は 

いままで通り三両二分じゃが働きのええもん 

には俸給をこれに与える。頑張っておうせ」 

龍馬としてはみなが「頑張るぞ」と発奮す 

ることを期待していたのですが、一同には事 

態が呑み込めず、ポカンと口をあけるばかり 

でした。                 

それでも沢村惣之丞が話の内容を頭の中で 

整理して                 

沢「えーと、それはつまり、長州や薩摩の後ろ 

楯はアテにならんから、新たに金を出す旦那 

衆をつのる、ということですか?」     

龍「まあ、そんなところじゃ」        

沢「しかし、船まで買うてくれる旦那となると、

相当な金持ちでないといけませんが」    

龍「まあ、そうじゃな」           

沢「そんなアテがありますか?」       

龍「ああ、もちろんじゃ。わが亀山社中は日本 

で唯一、ほぼ全員が黒船の操船技術を持っと 

る専門家集団じゃ。その気になりゃあ欲しが 

る者は引く手あまたじゃ」         

沢「そんなら、わしらまた、一緒の船で働ける 

がですね?」               

龍「もちろんじゃ、日本中、いや、世界中を自 

分の船で駆け回り、世間をアッといわせてや 

ろうじゃないか!」            

みな事態はよく呑み込めませんが、とにか 

くみじめな日雇いに出なくて済むことになり 

そうだ、という喜びに声をあげ、社中のコン 

パニー化に賛成したのでございます。    




三.


その夜のこと。多くのものがザコ寝をして 

いる亀山社中を夜中に抜け出し、馴染みの花 

月楼の小さい座敷でひっそりと酒を飲む二人 

は、坂本龍馬と陸奥陽之助でございました。 

龍「陸奥よ。みな食うものも食えんというのに、

わしらだけこんなところへ来ていいのか?」 

陸「仕方ないでしょう。あそこで話をしたらみ 

んなに聞かれてしまうんだから。それにこの 

店は私の顔でいくらでもツケが効きますから。

何、コンパニーが上手くいけばいつでも来ら 

れるようになりますよ」          

龍「で? やっぱり、大坂の豪商・村上屋に出 

資してもらうのは無理になったのかのう」  

陸「そうですね。もともとはこのコンパニー計 

画は村上屋と小栗上野介の兵庫商社が進めて 

いたものですからね…。それに村上屋は最近、

長崎より大阪の相撲部屋<虎神部屋>の旦那 

になるのにご執心なんですよ。虎に神様の神 

で虎神部屋。虎神部屋自体は人気があるんで 

すけど、もともと親方衆の評判が悪くて、虎 

神の名前とそろいのタテジマの浴衣さえ残し 

てくれりゃあ別に村上屋が買おうが誰が買お 

うがかまわないってことらしいですよ」   

龍「うーん、タイガース買収問題そのままじゃ 

な。え? まさか、今ので村上屋の出番は終 

わり?」                 

陸「それがどうかしましたか? ちゃんとチラ 

シにも<あらすじは大幅に変わることがある 

>って書いてあるでしょう」        

龍「そうか。そうなると、もう、出資者はあそ 

こしかないのか…」            

陸「そうです、あそこしかありません。坂本さ 

んが脱藩したふるさと、土佐藩です」    

江戸時代には、もちろん士農工商という身 

分がありますが、土佐藩では武士の中でも  

「上士」と「郷士」という身分にはっきり別 

れておりました。「郷士」とは「郷土の侍」 

と書きまして、もともと土着の土佐の侍のと 

ころへ、家康から任命されて城主になった山 

ノ内の一族が入ってきた。つまり、地元の会 

社を吸収合併した大企業が、社長や役員を派 

遣して、元からの社員をイジメにイジメ抜い 

たといったところでしょうか。       

龍馬が土佐を脱藩した五年前、土佐には、 

その身分の低い郷士たち、龍馬の幼なじみの 

武市半平太、岡田以蔵など百人以上の郷士た 

ちで作られた「土佐勤皇党」という集団があ 

り龍馬たち自身もその一員でした。     

日本中で勤皇派が勢力をもった時には京都 

の土佐藩邸に派遣され権勢を誇りましたが、 

禁門の変が起こり佐幕派が勢力を盛り返すと 

土佐藩はその流れに遅れまいと勤皇党を弾圧 

し、次々と冷酷に処刑してゆきました。つま 

り佐幕派勢力への人身御供という訳でござい 

ます。処刑されたものはほとんどが「郷士」 

と呼ばれる身分の低い武士たちで、弾圧した 

のは土佐の特権階級である上士たちでした  

その郷士大弾圧の指揮をとっていたのが、 

龍「こんど長崎の土佐商会の会長に就任した後 

藤象二郎というワケじゃ」         

陸「坂本さん。これはビジーネスです。昔の恨 

みは忘れてください。せっかく向こうはこっ 

ちの特殊技術を買ってくれてるんだ。船だっ 

て買ってくれますよ。だいたい亀山社中は土 

佐藩だけのものじゃありません。このままじ 

ゃ他藩出身の私や水夫たちはどうなるんです 

か。日雇いに甘んじながらも社中を去らない 

のは坂本社長を信じてるからですよ」    

龍「いや…しかしなあ…。土佐だけは、後藤象 

二郎だけは…。沢村もスガノも、みな武市さ 

んの仇は後藤だと思っとる。もし、社中の出 

資者が土佐の、しかも後藤と知ったら…それ 

にのう。わしゃ天下にコワイものなど一人も 

ないつもりじゃが、一人だけ…。武市さんや 

以蔵さんと親しかった乙女ねえちゃんに知ら 

れたら…それを思うと」          

陸「えっ!」                

龍「なんじゃ? 陸奥、何を驚いてる」    

陸「実は今日は、坂本さんを励まそうと思って 

特別にお招きした人がいるんです」     

龍「え?」                 

陸「いや…まさか、坂本さんがコワイ人だなん 

て。いつも手紙を書いてるから、てっきり一 

番会いたい人だとばかり」         

龍「アホぬかせ。手紙を書かないと矢のような 

催促が来るから仕方なくじゃ。え? まさか、

この展開は」               

ズシン、ズシン。            

龍「まさか、そんな史実を無視した」     

ダーダン、ダーダン。ダダダダダダダダ、 

ガラッ                 

乙「リョーマー、来たぞー」         

龍「わっ。南海キャンディーズのしずちゃん! 

じゃなくてお、乙女ねえちゃん!」    

乙「はるばる土佐の高知から、おまんと親しい 

薩摩藩の西郷どんの船に載せてもろうて、会 

いにきたぞー。懐かしいのうリョーマー」  

龍「く、く、苦しい」            

これが龍馬の姉、身の丈六尺の当時として 

は大きな女性。坂本家の「お仁王さまと」と 

言えば知らぬ人はない龍馬の育ての親ともい 

える、坂本乙女でございました。      

乙女は龍馬に抱きついたかと思うといきな 

りその場に平伏し、            

乙「かねて手紙で伝えし通り、われ天下の大事 

業に参加したく、女の身でありながら遥々尋 

ね参りました。つきましてはどうぞ社中の一 

員にお加えくだされ……なーんてな。入れん 

というたら、どうなるか分かってるじゃろう 

のう」グリグリ              

龍「あっ、グリグリやめて。グリグリやめて」 

乙「まあよいわ。まずはおまんの嫁女が見たい、

ここへ連れてこい」            

龍「少々、まって、乙女ねえちゃん、少々まっ 

て…陸奥、ちょっと」           

陸「はい?」                

二人廊下に出た途端、           

パカッ!                

陸「な、何するんですか、坂本さん」     

龍「何で乙女ねえちゃんがおるんじゃ?」   

陸「いやだから。坂本さんの姉上は先年嫁ぎ先 

から離縁されてご実家にも居づらく、手塩に 

かけた弟の活躍に我慢できなくなって長崎へ 

出てきたいと手紙でおっしゃってたでしょう。

それに坂本さんも<時が来たら必ず>と返事 

してたじゃないですか」          

龍「そんなもの、社交辞令に決まっとろうが。 

わしが脱藩したそもそもの理由はなんだと思 

っとるンじゃ」              

陸「え?」                 

龍「土佐におったらわしゃ、一生乙女姉のドレ 

イじゃ、郷士より何より、あの姉が怖くて怖 

くて…」                 

陸「そうだったんですか。そりゃまた。じゃあ、

私が薩摩藩に手配して長崎に呼んだのは藪蛇 

でしたか」                

龍「藪蛇藪蛇。藪キングコブラじゃ」     

陸「坂本さん、震えてますよ」        

龍「おまんは乙女ねえちゃんのグリグリを知ら 

んからじゃ。あれにくらべりゃ新撰組の土方 

歳三の拷問なんか子供の遊びじゃ」     

乙「リョーマー、どうしたー、嫁女を連れてこ 

い」                   

龍「こ、困ったノウ。お龍は例によって月琴の 

修行といって二三日勝手に家を開けとる。そ 

んな事話したら、嫁の躾けが悪いのなんのと 

大騒ぎになる。わしゃ殺されるー。ああ、も 

う、乙女ねえちゃん殺してわしも死ぬ」   

陸「落ち着いてください」          

龍「と、とにかく、お龍の代わりを誰かつれて 

こんと」                 

陸「そんなことしたって、後ですぐバレます  

よ」                   

龍「ええちゃええちゃ、それまでに酒飲まして 

顔が覚えられんくらいベロベロにしておくき 

に。誰ぞ心当たりはないか」        

陸「そうですね。そういう芝居ゴコロのありそ 

うな芸者っていえば…吉川屋のひな奴ぐらい 

ですかね」                

龍「なんか名前が気になるが…。ええから地味 

な着物着せて連れてこいっ!」       

乙「リョーマー。どないしたー」       

龍「は、ハイッハイッ!」          

さてさて、話は意外な方向に向っておりま 

す。この後が大変なことになりますが、あと 

は次回…って次回なんかありませんね。続け 

ます。                  




座敷に戻って参りました龍馬。      

龍「ええ、今、妻のお龍を呼びにやりました」 

乙「そうかぁ。手紙で読むとずいぶん身勝手な 

女子のようじゃの。よし、あてがみっちり坂 

本家の嫁のあり方を教育しちゃるからな」  

龍「そりゃありがたい。長旅でお疲れでしたろ 

う、さあ、一杯」             

乙「どれどれ。あ、お銚子ごと飲んでしもた。 

ガガガガ」                

龍「あいかわらずええのみっぷりじゃ。さあ、 

もう一本」                

乙「ガガガガ」               

えー…坂本乙女さんの霊に申し上げます。 

私はちゃんと高知の永福寺の墓地にも参らせ 

ていただきました。どうか今夜だけはお見逃 

し願いたく存じ申し上げたてまつります。  

その間に陸奥陽之助は人を介して馴染みの 

芸者、ひな奴を呼びにやる。お座敷衣装では 

なく武家風のキチっとした身形をしてこいと 

伝えてありますので、ほどなくひな奴がやっ 

て参りましす。歳の頃なら二十歳そこそこ、 

口数が少ないので売れっ子とはいえませんが、

憂いをおびた面立ちは丸山界隈でも評判の美 

人芸者。                 

ひ「陸奥さまこの着物でよかったですか」   

陸「うむ、ちゃんと武家の嫁女に見えるぞ。実 

はこれこれこういうわけで、今、坂本さんが 

困っておられる。姉上殿も相当きこしめされ 

て正体がなくなってるから、適当に話をあわ 

せてくれ」                

ひ「わかりました」             

陸「はいはい。えー坂本さん、姉上さま、ひな、

じゃない、お龍さんがお着きですよ」    

ひ「お龍です」               

すでに一升、いや、二升は腹の中に入って 

いる乙女の顔はサルボボのように真っ赤です 

乙「ん? 龍馬、これがおまんの嫁女か?」  

龍「はははい、そうです。(お龍よりべっぴん 

じゃな)おおお、お龍です」        

ひ「いつもお噂は聞いております。さかも…龍 

馬さまご自慢の姉上だと」         

乙「自慢なんて。まあ、あんたよりちいっと見 

た目がええかも知れんがな」        

龍「しずちゃん…じゃない、乙女ねえちゃん」 

乙「坂本家の女は芸事、武術、なんでも通じて 

ないといかんのじゃ。あんた何ができる」  

ひ「はい…お三味なら弾けます」       

乙「そうか。さすがええ料亭には床の間に三味 

があるな。ほな、ちっと弾いてみ」     

ひ「はい」                 

乙「ほな、あんたの三味にあわせてな、あては、

火に怯える犀をやるわ。どどどと」     

龍「しずちゃん。じゃない、姉上」      

乙「野生動物にとってどんなに火がこわいか  

…」バターン、くかー。          

龍「ほっ。やっと酔いつぶれた」       

陸「すごい姉上ですね」           

龍「せっかくじゃ、のみ直そう。あ、ええええ、

そこらにほっときゃ、朝まで目が覚めん」  




四.


さて、お話変わりまして、花月楼が大騒ぎ 

になっていた丁度その頃。         

山の上にある亀山社中。主に土佐藩の連中 

が寝泊まりしておりますところへ忍び寄るひ 

とつの影。満月の明かりの中に近づいてまい 

ります。姿は町人ふうですが、スキのない身 

のこなし。                

谷「沢村さん、沢村さんはおられますか」   

沢「ああ? ……むにゃ。誰じゃ?」     

谷「谷助でござる」             

沢「おお、谷助どの。何か御用か」      

谷「実は、かねてより頼まれていた調べごと、 

はっきりわかり申したゆえ、お知らせにまい 

った」                  

この声にガバッと跳ね起きました沢村惣之 

丞。                   

沢「誠でござるか。おい、スガノ、長岡、起き 

ろ。一大事じゃ」と仲間を起こす。社中本部 

で寝泊まりをしているのはほとんどが土佐藩 

以来の仲間です。             

その場にぬかずきました谷助は、     

谷「かねて頼まれおりました、土佐藩家老格、 

後藤象二郎、ついに動き出しました。この長 

崎にて商売に参じ、土佐商会なる組織をもっ 

て黒船の買いつけを行う様子。すでに土佐藩 

長崎屋敷に着いております」        

沢「ついにきた。ついに、武市さんの仇を討つ 

時がきた。野根山の河原で首を切られた二十 

三人の、そして郷士の二百年の恨み。後藤に 

ぶつけてやろう!」            

「そうじゃ、そうじゃ」と皆が応える。   

谷「…ところが、妙なことを耳にしたのです」 

沢「何じゃ?」               

谷「どうも、その土佐商会が出資をする相手と 

いうのが、この亀山社中だというのです」  

沢「そんなバカな!」            

そりゃあそうでしょう。自分たちの故郷の 

仲間、幼なじみをことごとく弾圧し、斬首し 

たはずの土佐の上士が今、土佐郷士の集う亀 

山社中に出資するなんて考えられることでは 

ございません。              

沢「そんなことある訳がない。間違いじゃ。永 

田議員じゃ。メール疑惑じゃ」       

谷「いや、確からしいので。なんでも、今日も 

花月楼でその打合せをしていると。中心にな 

っているのは代表の坂本さまと、側近の陸奥 

陽之助さま…」              

「ほ、ほんとじゃ。二人がおらん、布団も冷 

たいぞ」                 

沢「なんかの間違いじゃとは思う。思うが、と 

にかく確かめにャならん。かたじけない谷助、

恩にきる」                

谷「いえいえ。あっしはとにかく、みなさんの 

勤皇の志のお役に立ちたいだけで」     

沢「おい、みんなおきろ、花月楼に乗り込む  

ぞ」と土佐脱藩士十数人が頭に血をのぼらせ 

亀山の月を背景に急ぎ足で下り花月楼へと向 

います。                 

もし、ここで、沢村の便利屋になっていた 

谷助をつけていくものがいれば気がついたで 

しょう。長崎の繁華街をぐるぐる回って、あ 

たりを気にしながらヒョイっと入りこみまし 

たのは、なんと…土佐藩長崎屋敷でございま 

した。                  

後「おう、谷助、戻ったか」         

谷「は、ただいま」             

後「指示通り、伝えたろうな」        

谷「もちろん。今、みな頭に血をのぼらせて花 

月楼にむかっております」         

後「そうか。これで血の雨が振るな。龍馬か、 

あるいは沢村か、何人か切り合って片づいて 

くれると都合がよい。だいたい郷士なんぞ十 

何人も必要ない。黒船の操船技術なんかどう 

でもいい。長崎貿易の新規参入のために、亀 

山社中の名義が欲しいだけじゃ。一人か二人 

生き残ればよいだけだ」          

谷「しかし、坂本ならともかく、沢村が生き残 

ったら、こっちの言うことを聞きますかね? 

後藤さま」                

後「そん時はおまえか、誰ぞ商人が間に入って 

こっちは後から動かせばいい」       

谷「直にはお会いにならないので?」     

後「無礼なことをいうな。たかが郷士が。あい 

つらなんぞ皆使い捨てじゃ」        

谷「さすが後藤さまですな」         

谷助の名字はもちろん三木でございますが、

このことは本筋とは何の関係ございません。 




五.


さてまんまとあやつられているとは知らな 

い沢村、スガノたちはコウコウと照らす月明 

かりの下、山を下り、長崎の街を抜けて花月 

楼へ。                  

こちらは龍馬。イビキをかいている乙女を 

よそにひな奴の酌で陸奥とともに酒を飲んで 

いる。                  

ドカドカドカ。             

「困ります、困ります」          

沢「ええい、どけ」             

ガラッと入ってまいりましたのは、土佐脱 

藩士総勢十数名。             

沢「坂本さん!」              

龍「おお! どこで聞いてきた。すまんすまん、

抜け駆けする気はなかっんじゃ。おまんらも 

一杯やれや」               

沢「? あ? なんで? 坂本のお仁王さまが 

ここに」                 

乙「ガー、ガー。だれがカバやねん」     

沢「そんなことはどうでもいい。坂本さん!」 

龍「ん? どうした沢村、こわい顔して」   

沢「正直に答えてください。コンパニーに、わ 

れわれに今度金を出すのは、土佐藩だという 

のは本当ですか」             

菅「それも、あ、あの、後藤が責任者だという 

のはほんまですか」            

真っ赤な顔をして詰めよって参ります土佐 

脱藩の仲間、龍馬は止めた盃を再び口に運ぶ 

龍「…なんじゃ。何を熱うなっとるんじゃ。そ 

うじゃ。こんど社中につく旦那は土佐藩じ  

ゃ」                   

菅「後藤は、武市さんや勤皇党の仇ぜよ!」  

龍「けど、わしらを高う買ってくれるそうじゃ。

の? また船が手に入る。したらまた一緒に 

働ける。一緒に儲けられるぜよ」      

沢「もうええ!」              

ついに沢村が刀を抜きはなちました。   

沢「坂本さん。わしら五年前、一緒に脱藩しま 

したの。檮原(ゆすはら)村から、韮ケ峠の 

険しい山道を越えて。何日も飲まず食わずで。

それは何のためじゃ。わしらを郷士と蔑んで 

差別した上士ども、そしてそれを支えとる幕 

府を倒し、新しい世を作るために、親兄弟を 

捨てて脱藩したんじゃなかったんですか」  

龍「親兄弟を捨てて、って。捨ててもついて来 

ちょるもんもおろう」           

乙「クカー、クカー。だれがヒヒやねん」   

沢「…おいといて…。武市先生も、岡田以蔵も、

野根山で立ち上がりお裁きもなく河原で首を 

切られた二十三人の郷士も、仲間はみんな揃 

って、あの後藤に殺された。その仇を討つの 

が武士として当然じゃないんですか」    

龍「武士武士いうなや。武士がなんじゃ。戦国 

の世ならいざ知らず、ここ何百年何もせんと 

百姓町人の上前はねてきたただの録泥棒じゃ 

ないか」                 

沢「ぶぶぶ、武士を泥棒とは何です! 仲間の 

仇と手を組んでまで金儲けをするというなら 

武士の風上にもおけません。もしそれが本心 

なら、坂本さんを切って後藤も切ります」  

龍「おお、切ってみい。大小は刀かけにある。 

今日は懐に六連発も持っちゃおらんぞ。さ  

あ!」                  

十数人はすでに血眼になっている。陸奥や 

ひな奴はあっけに取られている。乙女はイビ 

キをかいている。龍馬はたった一人です。  

龍「おまんら、ここで後藤一人を切ってどうす 

る。人を切って切って、切りまくって、それ 

で幕府が倒れるか? それだけで新しい世が 

くるか? 戦国の世に逆戻りじゃ」     

沢「坂本さんみたいに、金がすべての世の中よ 

りはマシです」              

龍「そんなことはない。切り合いがすべての世 

の中よりずっとええ。それに、金は公平じゃ。

頑張ったもんに平等に降ってくる。生まれつ 

いての身分にあぐらかいてるヤツが阿呆でも 

エバリ腐っとるより、頑張ったもんが、汗水 

流したもんがそのを汗を認められる、その方 

がいい世の中とは思わんか?」       

沢「思いません。損得なんか忘れて死を恐れな 

いのが武士の生き方です」         

龍「そして長次郎のように死ぬのか?」    

長次郎、とは近藤長次郎。龍馬が京で薩長 

同盟のために東奔西走している時に長崎で切 

腹した土佐からの仲間です。        

龍「武士が金を卑しむのは自分らが百姓町人か 

ら巻き上げるだけの役立たずと知っとるから 

じゃ。おまんら、金の力をみくびりすぎじゃ。

金の恐ろしさから目をそむけとる。だから、 

急に金が入ってくるようになると皆おかしく 

なる。武市さんらもそうじゃ。勤皇党の志は 

本物じゃった。しかし、京で力をつけると、 

勤皇派の各藩から莫大な資金が流れ込んだ。 

本物だった志はたちまち闇まとわりつかれた。

力をのばすためには謀略も、暗殺も、ありと 

あらゆる不正を平気でやるようになった。長 

次郎もそうじゃ。子供の時から苦学して、や 

っと認められた。けど、報奨金がどっと入る 

にいたり、欲にとらわれ、仲間に隠れて運用 

するようになった。その結果が、仲間につめ 

よれらて、たった一人で、苦しみながら介錯 

もなしに切腹していった。みんなそうじゃ。 

金が動くと心がおかしゅうなる。結果だけを 

を焦るようになる。金を使うつもりが金に使 

われるようになるんじゃ。焦るな。焦っちゃ 

いかん。目先のことよりもっと高みを見よう、

もっと遠くを目指そう。わしらのコンパニー 

は金だけじゃない、はるか未来へ行くための 

船なんじゃ。ここはわしを信じて任せてく  

れ」                   

他のものたちは刀を引いた。ところが龍馬 

は、長次郎に切腹を迫ったのがこの沢村であ 

ることを忘れておりました。        

沢「あの時、わしは、長次郎を一人きりにした。

それは逃げてほしいという意味でした。それ 

がまさか本当に切腹するとは…長次郎に切腹 

を迫ったわしを責めるなら、あん時長崎にい 

なかった坂本さんも同じじゃ、同罪じゃー」 

と逆上して切りかかってまいりました。  

龍馬は刀をおびておりません、沢村の鋭い 

切っ先にあわや! と思った時、沢村の後ろ 

から背中に切りつけたものがありました。  

「アッ!」と沢村が背中を押さえて倒れる、 

なんと切りつけたのは、懐剣を持ったひな奴 

でした。                 

ひ「…あん人は、わたしのええ人だったばい。 

マジメで、学問が好きで、一生懸命で、ただ 

広い世界が見たかった。それで金が欲しかっ 

た。そん人が切腹したち、仲間にムリヤリ切 

腹されたち。それ聞いて、いつかきっと、仇 

を討とう思ってたと。さっきから聞いてりゃ 

なんね。世の中を変えるの変えんのと。わた 

しら物心ついた時から貧しゅうて、それが黒 

船が来てからどんどんひどうなって…ふた親 

に捨てられ、苦界に身を沈めて、生まれてか 

ら一度も自分で道を選ぶことはできんかった。

世の中が右に行くか左に行くかなんか知らん。

そんなことはどうでもええ。ただ、好きな人 

と一緒にいたい、その人の夢をかなえてあげ 

たい。そう思うのが精一杯。それを心の支え 

にせんと毎日がつろうてたまらん。その支え 

を奪ったもんは、たとえサムライだろうと殿 

さまだろうと、きっと仇をうってやろうと誓 

ってたとよ。あんたら世直しでもなんでも勝 

手にしたらよか。うちはあん人を死なせた者 

が許せん。それだけばい」         

あっという間の出来事に、龍馬も、他の土 

佐郷士たちも固唾をのんで見ている、やがて 

ひな奴を目を閉じて「もうこんな世の中に未 

練はなかと」懐剣を自分の喉に突きたてよう 

といたします。              

「あっ! 待て!」と龍馬が届かぬ手をのば 

そうとした時、              

突如大きな影がひな奴の懐に飛び込むと、 

頭の上からヌーッと手が伸びてそれを止めま 

した。                  

「もう、十分やろ」            

懐剣を取り上げるとそのままじっとひな奴 

を見つめ                 

乙「あんたはようやった。女の手でよくぞ大小 

さした仇に一矢むくいた。それで十分じゃ。 

長次郎さんは優しい人やった、まさか仲間を 

殺すことまでは望んでないやろ。あんたはま 

だ若い。なんぼでもやり直せる。これからも 

世の中は変わる。まだまだ変わる、いや、この

子らがきっと変えてみせる。今日はこのくらい

にしておき」               

懐剣を取り上げると、張りつめた糸が切れ 

るようにひな奴はその場に崩れ落ちました。 

続いて乙女は、倒れこんでいる沢村の背中 

に触って、                

乙「いつまで転げとる。上の方の皮が二三枚切 

れてるだけじゃ。元、医者の女房のあてが言 

うんや、間違いない。ほれ、大げさに痛がっ 

てんと。こんなもツバでもつけときゃ治る」 

沢「あたた、お仁王さま、ひどい」      

乙「それに龍馬」              

龍「あっ、グリグリくる?」         

乙「お前は以蔵さんが、ほかの同志たちが、ど 

んなに苦しんだか知ってるか。グリグリどこ 

ろやない。くる日もくる日も締め木の拷問で 

痛めつけられて、それが一年も続いて結局首 

切られた。それを知ってるか。それを知った 

上でも、後藤と手を組むちゅうんか。それほ 

ど大事なことなんか」           

龍「その苦しみに報いるためにも、わしら道半 

ばにしてヘタバル訳にいかん。草かんで、石 

かんでも続けなきゃいかんのじゃ。そのため 

にこそ、土佐二十四万石の力を利用するんじ 

ゃ。わしは武市さんのようにはならん、長次 

郎のようにもならん。ここはわしに任せてく 

れ」                   

乙女は皆の方に向き直ると、その場にひざ 

まづき、畳みに頭をこすりつけ、      

乙「な、土佐のみなさん。もういっぺんだけ、 

もういっぺんだけ、このハナたれのこと信じ 

てやっててくれんかの。この通り、この通り 

じゃ。坂本乙女一生の頼み」        

「お、お仁王さん。じゃない、乙女さん」  

乙「もし、龍馬がええかげんなこと言うちょっ 

たら、あてがほおっておかんき。の? わか 

ってくれるか…。ありがとう。ありがとう。 

龍馬、もしもの時にはグリグリ」      

龍「ア、ア、ヤメテ、ヤメテ!」       

乙「ふう…それにしても、後藤なんかと組む亀 

山社中にはあての居場所はないな。土佐に帰 

るわ。みな、龍馬のことはよろしゅうにな。 

ん? 返事は?」             

一同「ハイ! お仁王さま」          




そして、慶応三年一月十二日、長崎市中の 

清風亭にて、宿敵後藤象二郎と坂本龍馬の会 

見なる。                 

後「おう、来たか、郷士ばらの才谷屋。脱藩浪 

人がずいぶん幅を効かしてるようじゃな」  

龍「土佐藩参政、後藤象二郎どの、此度はわが 

亀山社中に土佐藩よりご出資いただくとのこ 

と。恐悦至極に候。社を代表して厚く御礼を 

申し上げ候」               

その龍馬の心のうち           

龍「武市さん、以蔵、長次郎、みんな、見てお 

れよ。これからじゃ。これから、本当の戦い 

が始まるぜよ」              

やがて龍馬は見事に後藤の心を動かし仲間 

に引き入れ、亀山社中を土佐二十四万石の後 

ろ楯をもつ「海援隊」へと発展させ、後藤の 

口を通じて土佐藩・山ノ内容堂を動かし、歴 

史上何人もなし得なかった無血革命、大政奉 

還から明治維新へと歴史を急転させてゆくの 

ですが、その話はまた次回といたしまして、 

本日は、「坂本龍馬 第六席、龍馬株式会社 

を設立、メッセージ・フォー・ホリエモン」 

の一席。