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ブックレット韓国語版



ブックレット韓国語訳出版へ
2008年10月、韓国・ソウルの出版社「戦略と文化」社から、当研究所が企画編集しているユーラシア・ブックレットの4点を翻訳して、一冊の本とした「復活する資源大国ロシア」が翻訳出版された。

韓国語版への序文
この度、日本の民間研究機関ユーラシア研究所のユーラシア・ブックレットの中から4冊が合本され、『復活するロシアの資源外交』として韓国で出版されることになった。

ユーラシア・ブックレットは、2000年の刊行開始以来すでに120冊を超え、その内容は、文化、芸術、歴史、政治、経済、社会など多方面に及ぶ。その目的は、ユーラシア諸国の多面的な情報を提供することにある。長所短所を含めて互いの事情をよく知ることが共生の条件を生み出すというのが、ユーラシア研究所の基本理念だからである。

 

 本書の元になったブックレットに共通する特徴は、基礎的なデータを踏まえて冷静に議論を進めている点にある。これは、単にユーラシア研究所の基本理念に沿っているというばかりではない。略歴からもわかるように、筆者らは、ビジネスの現場に近い民間の研究機関・報道機関に勤務した経験を持つ、あるいは勤務している研究者である。だからこそ、筆者らは、イデオロギーにとらわれず、リアルに現実を認識し、建設的妥協の可能性を探るという視点を堅持している。
 
エネルギーは、どの国でも何からの形で国家が関与している分野であり、国際的にも各国の利害が錯綜し、消費国と生産国の利害が対立する場面が多いだけに、こうした冷静な分析はとりわけ重要である。

 こうした共通性をもつ
4冊を合本して翻訳出版することを提案されたのは、「戦略と文化社」の趙眞九社長の卓見である。

 

 読者への道案内として、本書の概要を示しておくことにしよう。


 小森吾一著『ロシアの石油・天然ガス』は、世界トップ・レベルの資源大国ロシアの石油・天然ガス産業の再編と、その結果生まれた垂直統合石油企業やガスプロムの現状について、全体像を分かりやすく解説してくれる。これによって、読者は、ロシアのエネルギー産業について基礎的な知識を得ることができる。
 
さらに、現在の主力生産地である西シベリアで生産を維持しつつ、東シベリア・極東地域で新規開発にとり組まなければならないこと、起こりうる原油価格低迷と垂直統合石油企業の生き残りをかけた再編の可能性、ガスプロムの新規事業への参入など、今後注視すべき重要なポイントが指摘されている。
 

 

酒井明司著『ガスプロム-ロシア資源外交の背景』は、天然ガス輸出を一手に引き受ける独占企業ガスプロムに焦点を当てることによって、ロシアの資源外交の実情を炙り出している。

 「強い国家」を目指すプーチン政権の外交とガスプロムの関連が指摘されているが、筆者は、ガスプロムをロシア政府の意を体現した単なる国策企業とみる俗説とは一線を画している。
 たとえば、支払い能力を欠く
CIS諸国、EUの対ロシア依存への懸念と交渉経過、米国の声高な批判、ロシア迂回パイプラインルート、アジアにとってのロシア資源の重要性など、エネルギーをめぐるロシアの対外関係が、バランスよく概観されている。また、政府からの過大な要請への対応、無秩序な異業種参入の見直しと組織再編、性急な対外進出等と関連して、ガスプロムが経営問題に直面していることが明らかにされている。

中澤孝之著『現代ロシア政治を動かす50人』は、「現代ロシアの政治に影響を与える人物事典」である。エリツィン時代のオリガルヒ(政商)に代わって、プーチン政権を特徴づけるのがシロヴィキである。

 シロヴィキとは、ロシア語で実力を行使するという意味であるが、旧ソ連国家保安委員会(
KGB)出身者を中心とした連邦保安局がその中核をなす。プーチン大統領自身、KGB出身である。プーチンは、メディア財閥を債務不履行などの理由で捜査し、ベレゾフスキーらを国外居住に追い込んだ。その後、ユコス社長のホドルコフスキーが詐欺と脱税の容疑で逮捕され、ユコス資産は競売にかけられ、その大半をロスネフチが落札した。

 こうしてロシアの民主化後退に対する懸念が高まったのだが、実際のプーチン政権は、シロヴィキだけではなく、様々な諸勢力のバランスの上に成り立っていた。

 筆者は、サンクトペテルブルグ派の有力シロヴィキから地方政治家や暗殺された記者ポリトコフスカヤに至るまで、様々な形でプーチン政権を特徴づけ、そしてメドヴェージェフ政権の行方を考える上でも見落とすことのできない人物群を素描している。

 


坂口泉・蓮見雄著『エネルギー安全保障-ロシアとEUの対話』は、ロシアとウクライナのガス紛争を契機として浮上したエネルギー安全保障問題について、いたずらに騒ぎ立てず、基礎的な経済データを踏まえてビジネスライクに対応するべきだ、と主張している。こうした立場から、石油・天然ガスの供給側のロシアとその需要側のEUとのエネルギー事情・政策の比較が行われている。

 一方で、
EU内では各国のエネルギー事情の違いを背景としてエネルギー政策、特に対ロシア政策について意見の相違がある。他方で、ロシアにはアドホックなエネルギー戦術はあっても、エネルギー戦略はない。

 外交手段としてエネルギーを利用しようとする国家の意図はあるが、個別利益を追求する肥大化したエネルギー産業間の対立が至るところで生じている。ところが、国家はその調整役を果たしておらず、政策の一貫性を欠き、企業の設備投資意欲を削いている。結果として、資源大国であるはずのロシアが、十分な供給をできなくなるという懸念が生じている。

  

以上から明らかなように、本書は、エネルギーを梃子に復活してきたロシアの今後を考える上で、基礎的な情報を提供している。近い将来、エネルギーの最大の輸入地域になるのは、域内生産が減少するヨーロッパと高成長を続けるアジアであり、両者はともに資源大国ロシアと現実的な協力のあり方を考えなければならない。これはまさに、メドヴェージェフ政権をどのように理解し、どのような協力関係を構築すべきか、という課題と関連している。
 

ここで思い出しておかなければならないことは、ロシアが既に市場経済の国だということである。

 プーチン政権は、シロヴィキとリベラル派経済官僚のある種のバランスの上に立脚し、その環境の下でロシア的な市場経済が形成されてきた。たとえば、リベラル派の元大統領経済顧問イラリオーノフは、後にユコス事件を批判し
G8代表のポストを外されたとはいえ、一期目のプーチンは、土地売買の自由化や13%という低率のフラットな所得税など、リベラル(新自由主義的)な政策を実施している。

 二期目に資源産業で再国有化の動きが目立ったものの、市場経済の基本的な枠組みは維持されている。そして、プーチンは、
KGB出身ではなくリベラル派と目されるメドヴェージェフを次期大統領候補として支援したのである。プーチンは、新政権下で首相となり、同時に政権与党「統一ロシア」の党首として、政府に対する影響力を確保している。この背景には、特にプーチン政権二期目に強大化したシロヴィキが、大統領府長官セーチン派、反セーチン派などに分かれて内部抗争を始め、政治的安定性に疑念が生じているという事情がある。

 

90年代のロシアの大混乱を考えれば、政治的安定は、ロシアが諸外国から信頼されるエネルギー供給国であり続けるためにも、さらに将来的にエネルギー依存を脱却するためにも、不可欠な条件である。メドヴェージェフ=プーチンの2頭体制は、新たな状況下でバランスを保ち、経済発展のための政治的安定を目指すものだと評価できよう。もちろん、この体制そのものが、二重権力状態を招く対立の火種を孕み、シロヴィキの抗争を調整しうるかも未知数である。

 

こうした事情を考えれば、メドヴェージェフ政権下で、ロシアの資源外交が急変するとは考えにくい。しかし、ロシアの資源外交は、これまでの強面の姿勢から現実的な政策へと徐々に転換していくかもしれない。


 1に、ペレストロイカ期に青年期を過ごしたメドヴェージェフは、エリート支配と利権を容認しながらも、法の支配や市場経済の価値観を受け入れている世代であり、企業の国有化には否定的である。第2に、ガス紛争の経験を通じて、消費国側への配慮を欠いた強引な手法が国際世論の反発を招き、かえって目的達成を妨げることをロシアのエリート達は学んでおり、経済支援、説得、水面下の圧力など硬軟織り交ぜた対応をとるようになっている。第3に、ロシアの資源産業は設備近代化や経営能力問題に直面しており、少なくともリベラル派は、外資との技術的な協力が欠かせないことを理解している。

 

しかし、国内要因ばかりでなく、エネルギー価格という外的要因にも左右されるロシアの資源外交の行方を予測することは難しい。だからこそ、ロシアの事情を冷静に観察し、情報不足や先入観による判断ミスを避け、現実的な協力の可能性を探ることが求められている。これは、東アジアの地域協力を考える上でも重要な点であろう。

 各国に様々な意見の相違があるとしても、ロシアは共通の隣人であり、豊富な資源を持つ国である。そして、疑いもなく、韓日協力は、対ロシア交渉力を高め、ロシアのエネルギーの有効利用を可能にするだろう。

 本書が、東アジアにおけるエネルギー協力について、ともに考え始めるきっかけになれば幸いである。

 

著者を代表して 蓮見 雄





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