Silvan Note 1 涙を流す木

 

幹に手をあててみる。

ひんやりした感触が掌にゆったりと移ってくる。

樹皮のデコボコが、皮膚になじんできた。あれ、この感触? 

奥の方にひっこんでいた脳細胞のひとつがパチンと頭の中ではじけた。

タクラマカン砂漠に涙をながす木がある。

胡楊と呼ばれるその木はアルカリ性の岩砂漠の土壌にも、

しっかりと根づくらしい。

数年で、かなり成長する上に、地面のアルカリ分を吸収し、

土を中和する効果もあるという。

涙を流す木

そのためアルカリの成分が、樹皮からこぼれ出す。

人びとは、その樹皮を集めて乾かし、石鹸のかわりに使う。

砂漠にしっかと立つその木に出会った時、

知らず知らずのうちに幹を撫でていた。

なんだか、とてもいとおしかった。

人びとが、その樹液を「涙」と表現するのが、わかるような気がした。

 

あの時の感触が蘇った。木の呼吸や鼓動が

そのまま掌に伝わってくる感じだ。

森にくると、どういうわけか、五感が鋭敏になるらしい。

これから森の中に身をおき、自然と対面し、

自分の中に眠っている感覚を呼び起こす旅をはじめてみようと思う。

 


Silvan
's Monologue

連載初回のコラム。第六感まで入れて、六回でひと区切りになっています。今回のテーマは「触覚」。この「涙を流す木」を表題にして、中国では小説が数年前に書かれたそうです。内容は、文革のことが書かれているらしいけれど。中国の友人に頼んであるのですが、まだ送られてきていないので、現物はみていません。日本語訳はないと思います。なんとなくいい感じのイメージが触発されるモチーフですね。砂漠と町の間に植えられて、防砂林の役割もしているようです。


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