Silvan Note 2 声の距離

 

音がない。鳥のさえずりは聞こえないし、

風は凪いでいるため、葉と葉が擦り合う音もしない。

近くに小川もないらしい。森の中にポツンと取り残された感じだ。


「三声先じゃよ」


サハラ砂漠の真ん中で、ラクダ使いの老人に、

次の水場までどれくらいあるか尋ねたことがある。

人間の一声が届くところが、距離の基準になっているのだ。

一体、人間の声はどれくらい遠くまで聞こえるのだろうか。

結局あの時は、次のオアシスまで、三キロ以上はあった。

声の距離

「ウォーッ!」
 

腹から声を出してみたが、まだ照れがある。

砂漠にくらべて森の中は吸収する障害物がたくさんあるから、

これじゃ、自分のひと声の単位は、ほんのちょっぴりだ。

もう一度、思いっきり声を出す。

「オリャー!」
 

一瞬のうちに、森に吸い込まれていく。

「キキキキ・・・・、キキキキ・・・・」

突然、森全体を包むような周波数の高い音がこだました。

鳥ではなさそうだ。

もしかしたら、森が笑ったのかもしれない。

 


Silvan
's Monologue

今回のテーマは「聴覚」。大声コンテストなんていうのもありますが、砂漠では、その声が距離の単位になっているのです。そういえば、距離の単位は、なんとなく身体で覚えているものではありませんか。歩いている時は特に。何の目印もない地平線の遥か彼方まで砂が続いている大地で、声が距離の単位になっているのは頷ける感じがしますね。


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