Silvan Note 17  森の芸術家

 

凍てついた空気が、皮膚をこれでもかと突き刺す。

この張りつめた冷気は、

神秘的な造形美をひっそりと生み出していた。

霧の滴が氷となって森を飾っているのだ。

 

そんな氷点下の大気が創り出す芸術に、

ネパールのランタンという村でも遭遇したことがある。

標高三五〇〇Mの山間にあるその村の片隅に

テントを張らせてもらっていると、雪が降り出した。

すでに村には根雪があったので、

新雪は音もたてずに静かに積もりだした。

みるみるうちに、くすんだ白い大地は、

生まれたての白さに変化していった。

 

ふと手袋に目をやると、

雪のひとひらが付着している。

その大粒の雪をよく見ると、六角形をしていた。

繊細な幾何学模様。

結晶がはっきり肉眼でみえるのだ。

次々と掌に舞い降りては消える雪を、

もう一度、じっくり見る。

どれもこれもが、

さまざまな結晶の花を咲かせては散っていった。

私は、凍える大気の中で、

しばし立ちすくんでいた。

 

霧氷の森からは気迫が伝わっくる。

氷のひと粒ひと粒が主張しているのだ。

 

身体中が凛となるのを感じた。

 

自然の芸術家は何を語りたいのだろうか。

 


Silvan
's Monologue

「きれいだ」「すごい」とか思う度合いが想像の域を超えるのは、自然の力が創り出すものが多いと思いませんか。長野県の出身なんで、子供の頃から雪には親しんできたんですが、ベタ雪のせいか、結晶の形のまま雪が降ってくるのを見たことがなかったのです。だから、ネパールで雪が結晶のまま落ちてくる姿を見たときの感動はすごいものがありました。顕微鏡の世界だと思っていた結晶が肉眼で見えるのですから。そうすると、新雪の上を歩けなくなるんですよね。結晶を踏みつぶしてしまうような気持ちがして。日本でも、東北や北海道では、この現象が見えることがあるそうです。自然は、不思議です。


  BACK      NEXT 
Silvan Note Index