オータン教会の博物館にて
オータン教会のすぐ横手の小さい博物館風の建物があり、そこにもいろいろの浮き彫り彫刻があった。
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マルセラン夫人は、少女が悪戯でも思いついた時しそうな表情で、あのイブが一番好きと言った。
どこに、はめ込まれてあったのか、横に長い石の浮き彫りが台の上の置かれてた。
一糸まとわぬイブが、水中でも泳いでいるような姿態で、横向けに掘られており、リンゴの実をつかんで、それを、ちぎろうか、ちぎるまいか、思案しているところがあった。
「マルセラン夫人が、このイブのいかなるところが好きか、もちろん一鬼には判らなかったがーーー娘たちは、このイブのように、明るくリンゴの実をむしればいいのだーーーーー
「妻を亡くしたあと、何かの女たちと、その時々の交渉を持ったが、いつも、あとには後悔しかなかった。
自己嫌悪と、汚れと、得体の知れぬ罪の意識!なぜ自分は、明るく、たのしく、リンゴをもぎ取ることができなかったか。
------しかし、もう、すべては遅いのだ。
突然、同伴者が言葉をかけてきた。
-------もう、お前にはリンゴをちぎる機会は与えられないのだ。
お前は老い、蝕まれ、疲れているーーー (7章)