ベズレイのホテル、夜の食堂
4人は向かい合って席を取った。マルセラン夫人は黒のうすい毛織りのワンピースを纏、胸もとにヒスイのブローチをつけている。
「お城はいかがでした?」と一鬼はマルセラン夫人に訊ねた。
「ああ、あの売り家でございますか」
「さあ、どういたしましょう。あのお化け屋敷」
「誰でも、あそこを買って、あそこに住みましたら、みんなお化けになってしまいますわ。ーーーーお化けになるのも、また悪くはありませんけど」
「ーーーおんなの人があそこに住まないと面白くございませんわーーーー実は主人に買ってもらえたらと思ったくらい、私は気に入りましたの」
「朝と晩、お隣の教会の鐘が鳴りましょう。その鐘を合図に、わたくし、家の中を散歩いたします。あとは、2階の北側の自分の部屋に閉じこもっております」
「編み物でしょうか。でなかったらトランプ占いーーーーー (6章)
一鬼はチュイルリー公園で編み物をしていた彼女の姿を眼に浮かべていた。