AI着色は昭和時代の夢を見るか


ちょっと前のPhotoshopのバージョンアップで搭載された、AIカラー化のニューロフィルターのプラグイン。少なくともAdobeがオフィシャルで出してきて、適用データは商業利用可能というのだから、相当に自信があるのだろう。いろいろ試してみると、最も使用されることが多いと思われる、旅行やイベントで撮った人物の入った記念写真を大量に食わせて学習し、そこに最適化したカラー化のアルゴリズムを持っているようだ。これがわかるとウマくカラー化できそうな鉄道写真というのがわかってくる。はっきりとした景色があって、そこに人物がいたりすると俄然らしくなる。ということで、比較的カラー化がウマく行ったカットをご紹介します。こういう場合にカラー化のアルゴリズムがウマく働くというその「成果」を示すべく、吐き出したデータはそのままで、ポストプロのレタッチはしていないことを申し添えておきます。



このAIの特徴の一つとして、人間とか花とか目玉になっている被写体、バックの山や森といった自然の景色はけっこう強く色付けしてくるが、その他の部分は彩度をかなり落とした表現にしてくる点が目立つ。であるならば、元から彩度が低く地味なカットはけっこう良い線行くのではないかと考えた。そこで工業地帯を走るSLの代表として、高島線の鶴見川橋梁を渡るD51のカットを食わせてみた。趣味誌にもよく使われたカットだが、最低限の色味でも感じは出ている。同じ黒でも、機関車と貨車の色調を変えてきているところは、中々よく学習しているといえるだろう。機関車は最末期に八王子から新鶴見に転属したD51207号機。70年5月の撮影。


人物は相当学習しているらしく、服装まで含めてかなり強い。ということで、人物が多い写真を試してみた。これまたおなじみの栗野駅頭での女子高生と吉松のC57151号機のカット。人物はかなり彩度が強く出ている。顔の肌の色などかなり濃く発色している。さらに遠景に見える2人の和服婦人は、帯の色を変えてきているという手の入れよう。これ、明らかに「和服の帯」ということを認識しているな。中々日本向けに学習させている。また古い写真では和服姿も多いので、力を入れたのかもしれない。一方ホーム上屋のような建築物は色の特定が難しいこともあってか、極めて彩度を落として塗装が雨風で劣化したような表現になっている。ズルいといえばズルいが、「当たらずとも遠からじ」な結果を出すべく人間が「入れ知恵」したものと思われる。71年12月撮影。


今度は列車がアップになっているカットではどうなるかを確かめてみた。列車以外の人工物が極力少なく、バックが比較的得意な森になっているものを選んでテスト。全体としては多少人着っぽさが気になるが、林や茂みはかなり良い線行ってる。ベタ塗りではなく、微妙なトーンの違いをうまく使っていて、レイアウトでのフォーリッジやグラスの使い方として見ても悪くない。もっと下手なレイアウトはいくらでもある。前のカットもそうだが、機関車や貨車は元のモノクロの黒を活かして、ちょうどウェザリングのように色を載っけて色調を作っていることがわかる。客車がぶどう色2号なのは、古い写真のカラー化に備えて「日本の旧型客車はぶどう色2号」と学習しているのだろう。それはニセコの写真を食わせたらぶどう色2号に塗ってきたのでわかった。筑前垣生付近のC5557号機。70年8月撮影。


さて、ちょっと難しそうなのも試してみた。雨の中に霞む今はなき球磨川第二橋梁を渡るC579号機牽引の旅客列車。AIが教え込まれた「低彩度でごまかす」テクと、実際に雨でモヤっている感じがウマくバランスして、一応は絵になっているのは大したもの。実はこのカットは同時にカラーで撮っているのだが、大体感じは似ている。それよりこのカットで一番驚いたのは、橋梁自体を実際に近い「ローズピンク」で塗ってきたことだ。ご存知のように九州の橋梁はこの色が多いのだが、国鉄時代からトラス橋は緑色系や灰色系で塗られていたものもけっこう多かった。その中で色を当てているからこそ、一発で球磨川第二橋梁の写真だとわかる仕上がりになっている。これは天晴だ。余談ながら、この時はここが一番メインの撮影場所だったので、「9号機、来い!」と念じたら本当に来たラッキーなカット。そういう機番のめぐり合わせはあんまり引きが強くないんだよね。71年12月撮影。


こんどは現在連載中(今回は休みだが)の大沼駅・大沼公園駅周辺でのカット。ラッキーにもやってきた、D52の重連をお立ち台から撮ったもの。モノクロ版は、<大沼・小沼をめぐって -函館本線 大沼駅・大沼公園駅周辺 1972年7月18日(その4)->の中で発表しています。こりゃまた不思議なトーンで上がってきましたね。なんか開拓使時代の人着写真みたいな感じ。結局北海道の自然の植生ってそうなんでしょうか。これは同時に撮ったカラー写真とはずいぶん違う感じですね。煙にわずかに色味を付けてきているのも、全体の沈んだトーンの中ではけっこう引き立っています。蒸気機関車と煙というのは、被写体として認識した上で学習内容を活用しているようですね。72年7月撮影。


蒸気機関車を蒸気機関車として認識している以上、バッタ撮りのような機関車のドアップはけっこうイケるのではないかということで、これも試してみることに。結果としてはかなりOK。ナンバープレートや給水加熱器の飾り帯の表現もなかなかよろしい。ランボード端の白帯も映えてます。それにしても、モノクロの黒ベタをウェザリングと細部の色挿しでここまでらしく仕上げるというのは、模型のフィニッシュワークとしても充分評価できるかなりのもの。モデラーであれば仕上げの参考にするというのもありでしょう。生のスペクトラムな汚れではなく、これは部分的な色付けなので、ずっとやりやすいはずです。バックの山や空も、機関車が主役と考えれば良いバランスです。でも煙が出てないし、ジオラマで撮った模型の写真っぽくもありますね。筑前山家駅にて70年8月撮影。


上のD60重連と同時に撮ったC5553号機牽引の上り旅客列車。これも列車は手堅くまとめています。これで頑張っているのは駅名標。単なる白で抜いてしまうのではなく、ウェザリングの効いた、ちょっとアイボリーがかった色を載っけてきています。駅名標は旅行の記念に写真に入れて撮っているひともけっこういましたから、これもデータとして学習しているのでしょうね。これで惜しいのは、左側の専用側線のところ。人工物は苦手というのがモロに出て、全部グレーで抜いてきちゃってますが、貨車移動機の黄色、サイロに書かれた「味えさ」の文字の赤が出てくれれば、及第点だったのですが。まあ、実際に使うときはレタッチでその色を入れてしまえばいいし、そういう素材を作らせるのもAIの活用法ではありますが。同じく70年8月撮影。


逆に思い切って景色主体にして、列車を点景にした構図はどうなるのかと思って試したのが油須原のこのカット。列車は列車で認識しているし、森もきちんと森として認識しているので、一応絵にはなっていますね。植生もいろいろ変えているし。と、この木の葉の色見覚えがあります。これ、ウッドランドシーニック(カトーブランドでも売っている)のフォーリッジの3色そのものじゃないですか。そう思って岩場の色を見ると、らしいけど日本の地面じゃなくてアメリカっぽいですね。生えている木は確かに日本の植生ですが、色の組み合わせだけを見るとアメリカのロッキーナローみたいな感じもします。思わずアメリカ仕込の記憶がよみがえったのでしょうか。73年4月撮影。


最後は個人的に気に入っているカットで試します。修学旅行の最中の自由行動時間に、高校の鉄研仲間で日豊本線で蒸気機関車の牽く列車に乗車した時に撮影したものです。乗り合わせた地元の女性にモデルになってもらい、インカーブ側に電柱や支障物がない青井岳から門石へのアプローチのところで、仲間に下半身を抱えてもらった状態で腰から上を全部窓から外に乗り出して、実際の稜線と窓に映った稜線が繋がる瞬間を狙って撮影したものです。我ながら良く意図通り撮れたと思いますが、通いなれた門石信号場だからこそできたワザでしょう。AI君がよくご存知のぶどう色2号の客車が中心で、あとはこれまた得意な人物と森という組み合わせなので、ほぼカラー写真としても通用する出来に仕上がっています。女性の存在感や表情も、モノクロより引き立っているので成功ではないでしょうか。牽引する機関車はC57109号機。73年5月撮影。





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